遺伝子治療応用・製造工程

レンチウイルス、灌流で連続回収

CAR-T細胞や遺伝子治療に使うレンチウイルスベクター宿主ゲノムに組み込まれる遺伝子導入ウイルス。長期発現できるが挿入変異のリスクが伴う。詳しく →を作っていると、力価の数字、つまり1 mLあたり何個の粒子が入っているかに目が行きます。ところがレンチウイルス分裂していない細胞にも遺伝子を組み込めるレトロウイルスベクター。CAR-Tで広く使われる。詳しく →は熱に弱く、37℃の培養槽の中では数時間のうちに感染力を失っていきます。だから、産生した量と、実際に細胞へ遺伝子を運べる量とは、同じではありません。槽の中で待たせた分だけ、使える量は減ります。ここをどう設計するかが、ベクター製造では収率を左右します。

#遺伝子治療#ベクター製造#灌流培養#細胞保持装置
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レンチウイルス、灌流で連続回収

Michelle Yen TranとAmine A. Kamenが2022年にFrontiers in Bioengineering and Biotechnology誌へ発表した論文は、この壁に灌流培養で向き合いました。カナダ国立研究機構(NRC)が作った安定生産細胞株Clone 92を、3 Lのバイオリアクター細胞やウイルスの培養を制御された環境下で大規模に行うための培養槽で、商業規模の製造に用いられる。詳しく →で浮遊のまま灌流培養し、細胞保持装置灌流培養で使用済みの培地を入れ替えつつ、細胞は培養槽に残すための装置です。中空糸膜などで細胞と液をより分けます。詳しく →にTFDF(タンジェンシャルフロー・デプスろ過厚みのあるフィルター層で細胞や微粒子を段階的に捕捉する清澄化のろ過方式。詳しく →)を使っています。得られた累積の機能力価実際に細胞へ遺伝子を届けられた粒子を数える力価。効き目に最も近く、TUやVCN、陽性率から求める。詳しく →は、4日間で3.9×10¹¹ TU、6日間で3.3×10¹¹ TUに達しました。同じ3 Lスケールで音響式音響定在波で細胞を凝集・分離する、フィルタレスの細胞保持方式のこと。詳しく →フィルターを使った先行研究より、1.5倍高い値です。

本稿では、灌流培養培養液を連続的に入れ替えながら細胞を高密度に保ち、長期間生産を続ける培養方式です。細胞を装置で保持し、老廃物を除きつつ栄養を補給します。詳しく →がなぜ機能力価を押し上げるのか、細胞保持装置で何が変わるのかを、実在する製品に照らして解説します。

この記事の要点
  • Tran・Kamenは、安定生産細胞株Clone 92を3 Lのバイオリアクターで灌流培養し、細胞保持装置にTFDFを使って、累積の機能力価を4日間で3.9×10¹¹ TU、6日間で3.3×10¹¹ TUまで積み上げたと報告しました。
  • 同じ3 Lスケールで音響式フィルターを使った先行研究と比べ、TFDFの運転は累積の機能力価が1.5倍に伸びました。細胞株もスケールも同じで、変えたのは保持装置だけです。
  • TFDFのろ材は実効孔径2〜5 µmで、20〜200 nmのレンチウイルスは透過側へ抜け、細胞と大半のデブリは槽に戻ります。産生したそばから回収するため、37℃にとどまる時間を短くできます。

この論文が言っていること

レンチウイルスは、作った量と使える量が大きくずれる相手です。

題材はClone 92という細胞株です。NRCが作った第3世代の自己不活化型レンチウイルスで、GFPを運びます。浮遊で育ち、キュメートとドキシサイクリンの二つで誘導をかけるとベクターを出します。この細胞株は、最適化なしでも1 mLあたり10⁶ TU台のレンチウイルスを出すことが、先行研究で分かっていました。論文はこの細胞株を3 Lのバイオリアクターへ移し、浮遊のまま灌流培養にかけています。20 mLの振とうフラスコ振とう機の上で揺らして培養液を撹拌・通気し、細胞や微生物を小規模に培養するためのフラスコです。詳しく →から3 Lまで、同じ細胞で素直にスケールが上がりました。

結果として、累積の機能力価は4日間で3.9×10¹¹ TU、6日間で3.3×10¹¹ TUに達しました。前者は培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →を16 L、後者は16.3 L流しています。いずれも、産生期を通してベクターを流し続けて回収した合計の値です。瞬間の濃度ではありません。

この論文が数字にしたのは量そのものではなく、産生したレンチウイルスをどれだけ機能を保ったまま回収できたか、です。

灌流培養が効く仕組み ― 37℃で減るレンチウイルスの感染力

理由は、レンチウイルスが熱に弱いことにあります。

ウイルス粒子は37℃で放っておくと感染力を失います。レトロウイルス系の報告では、その半減期は3〜9時間ほどです。流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →では、産生されたベクターが収穫まで槽の中に居続けます。待つあいだに、使える粒子は目減りしていきます。一方、灌流培養では培地を絶えず入れ替えます。出てきたベクターを産生したそばから槽の外へ運び出せるため、温かい環境にとどまる時間が短くなります。

物理的な粒子の数を測っても、そのうち実際に細胞へ入れる粒子はごく一部です。だから効いてくるのは、瞬間の濃度ではなく、機能を保ったまま回収できた累積の量です。灌流はこの累積を押し上げます。

灌流が効くのは密度を上げるからだけではなく、壊れやすいベクターを産生直後に温かい槽から運び出せるからです。

細胞保持装置で変わること ― TFDFと音響フィルターの違い

灌流では、細胞を槽に残してベクターだけを抜く装置が要ります。

TFDFは、筒状のデプスフィルターろ材の厚み全体で不純物を捕らえる深層ろ過フィルターで、細胞培養液の清澄化など、細胞残渣や粒子を多く含む液の一次ろ過に使います。詳しく →に培養液を接線方向で流す方式です。内径4.6 mm・肉厚5.0 mmの管の中を液が通り、濃縮側は槽へ戻り、透過側は壁をくぐって出ていきます。ろ材の実効孔径は2〜5 µmです。20〜200 nmのレンチウイルスは壁を抜けて透過側へ回収され、細胞と大半のデブリ破砕で生じる細胞の破片。過度な破砕で微細化すると後段の遠心・ろ過を妨げる。詳しく →は槽に残ります。回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →は9割を超え、流束は5 Lでも50 Lでも700〜750 L/m²ほどと報告されています。

音響式フィルターは膜を使いません。超音波の定在波で細胞を寄せ集め、沈めて槽に残します。膜がないので目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。詳しく →やせん断流れの中で分子にかかる物理的な力。強すぎると抗体の凝集や微粒子発生を招く。詳しく →の心配は減ります。ただし、ベクターの抜け方や回収の速さは膜を持つTFDFとは違います。この論文では、同じ細胞株・同じ3 Lで保持装置だけを音響式からTFDFに替え、累積の機能力価が1.5倍に増えました。

代償もあります。2〜5 µmのデプスフィルターは、細胞はよく残しますが、細かいデブリや宿主DNAは透過側へ一緒に抜けます。槽はきれいに保てても、下流での清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →と核酸除去の負担はその分だけ増えます。

同じ細胞株・同じ3 Lでも、保持装置を音響式からTFDFに替えただけで累積の機能力価は1.5倍に伸びました。

実在する製品での位置づけ ― KrosFlo TFDFと周辺の選択肢

この論文のTFDFは、実在する製品で追えます。

Repligenが出しているKrosFlo TFDFが、この接線流デプスろ過の装置です。同じRepligenの中空糸細い管状の膜を束ねたろ過モジュール。接線流ろ過の膜面として細胞保持に使う。詳しく →を使う灌流装置に、XCell ATFがあります。ただしATFは膜で細胞もベクターも槽側へ戻しやすく、ベクターを透過側へ抜いて回収したいレンチウイルスの用途とは向きが違います。音響式は別系統の装置で、膜を持ちません。どれも灌流の保持装置ですが、ベクターを「透過側へ抜く」のか「槽に残す」のかで性格が分かれます。

この規模の浮遊灌流は、CytivaのWAVEやXcellerex、SartoriusのBiostat STRのような使い捨てバイオリアクター使い捨ての樹脂製バッグを培養容器に用い、洗浄・滅菌の手間を省いて交叉汚染のリスクを下げる培養装置です。詳しく →でも組めます。灌流と安定生産細胞株の使い分けはレンチウイルスの一過性と安定生産で、保持方式の違いはATFとTFFの灌流比較でそれぞれ整理しています。

ここで一つ、カタログの数字の読み方を正しておきます。発表やデータシートが出す「◯◯ TU/mLベクターが実際に細胞へ入り遺伝子を発現させられる、機能を持つ粒子の数を測る指標。ゲノム力価との比が質の目安になる。詳しく →」は、いつの・どの画分の値かが書かれていないと、比べる材料として使えません。連続した工程では、瞬間の濃度より、産生期を通した累積の機能力価のほうが実態に合います。

POINT

この論文から持ち帰るのは、「灌流にすれば力価が上がる」ではありません。レンチウイルスは熱に弱い相手です。効いたのは、産生したそばから温かい槽の外へ運び出したことです。見るべきは槽の中の濃度ではなく、機能を保ったまま回収できた累積の量と、その回収にかかる時間です。細胞保持装置は、この二つを左右します。

この論文だけでは決まらないこと

確かめたのは、GFPを運ぶモデルベクターの製造です。

治療用の遺伝子、たとえばCARを積んだベクターで同じ力価が出るかは、この論文だけでは分かりません。スケールも3 Lで、GMPの商用規模とは距離があります。透過側へ抜けた宿主DNAやVSV-G水疱性口内炎ウイルス由来の外被糖タンパク質。多くの細胞に感染でき、レンチウイルスのシュードタイプに広く使われる。詳しく →をどこまで落とせるかという下流の管理も、この論文の主眼ではありません。

メーカーや細胞株の提供元に聞くべきは、「TU/mLはいくつか」ではありません。機能力価と物理粒子の比はどれくらいか、どの回収の時間幅で9割の回収率が保てるのか、そこを聞くほうが設計に効きます。

灌流とTFDFで機能力価を積み上げられることは示されましたが、治療用遺伝子での再現と、商用規模での実装は、この論文の外にあります。

この論文を自分の工程に当てる順番 ― 力価より先に決めること

読んだあとに決める順番は、力価の大きさから入りません。

まず、自分が測っている力価が機能(TU)なのか物理粒子なのかをそろえます。次に、産生したベクターが収穫まで何時間37℃にとどまるかを見ます。そのうえで、細胞保持装置を選びます。ベクターを透過側へ抜いて回収するのか、槽に残すのかで、装置の向きが決まります。最後に、透過側へ一緒に抜けるデブリと宿主DNAを、下流のどの工程で落とすかを決めます。

どの装置が正しいという話ではありません。TFDF・ATF・音響式のどれを選ぶかは、自社の工程でいちばん重い失敗が、エンベロープ一部のウイルスが持つ脂質の外膜。レンチウイルスではVSV-Gなどをまとうが、温度・剪断・凍結融解に弱い。詳しく →へのせん断なのか、粒子の保持なのか、目詰まりなのかで決まります。

参考文献

※ 本ページは公開情報をもとにしたProglenth編集部による整理です。詳細・数値は一次情報もあわせてご確認ください。

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、遺伝子治療に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。