ウイルス除去フィルターPlanovaの選び方:グレードと運転の確かめ点

Planova は旭化成のウイルス除去フィルター細菌より小さいウイルスを膜の微細な孔でふるい分けて取り除き、製剤の安全性を高めるためのろ過フィルターです。詳しく →で、低pH処理などでは壊せないパルボウイルスエンベロープを持たない極めて頑健な小型ウイルス。化学処理に強く、除去はサイズ排除のろ過が有効。詳しく →のような小型のウイルスを、大きさの差で物理的に止めます。グレードは止めたいウイルスの大きさで選び、その中で膜の素材を、処理量と運転の頑健さの兼ね合いで選びます。
ただし、孔径フィルター膜に存在する細孔の公称上の大きさを示す値で、保持できる粒子・微生物の最小サイズの目安となる指標(ただし実際の保持性能はバクテリアチャレンジ試験で実証される)。詳しく →の数字だけでは除去の性能は決まりません。運転の圧、流れが止まったときの扱い、前段のろ過、使ったあとの確認までが、性能を左右します。
この記事では、小型ウイルスが難しい理由、グレードと膜の違い、圧力と中断の影響、前段ろ過と処理量、使用後の確認とバリデーション、よくある失敗を順に説明します。
1. 壊せないから、通さない ― 小型ウイルスが難所になる理由
ウイルス安全性は、ウイルスの性質に合わせて工程を割り当てて守ります。
脂質の膜(エンベロープ一部のウイルスが持つ脂質の外膜。レンチウイルスではVSV-Gなどをまとうが、温度・剪断・凍結融解に弱い。詳しく →)をまとったウイルスは、低pHウイルス不活化で壊せます。ところがパルボウイルスのような小型で膜のないウイルスは、低pH処理にも、溶媒や界面活性剤の処理にも強く、感染力を保ちます。そのため、ウイルスの大きさを使って物理的に止める除去が欠かせません。
難しいのは、目的の抗体とウイルスの大きさが近いことです。パルボウイルスの直径は18〜26 nmで、抗体(約10 nm)との差は2倍ほどしかありません。
抗体は通してウイルスは止めるという分離を、孔の大きさの差だけを頼りに、運転のたびに同じ結果で再現しなければなりません。この除去を担うのがウイルス除去フィルターで、抗体の製造で代表的な製品が旭化成の Planova です。
ウイルスの混入は実際に起きており、2009年にはGenzymeの工場で混入が見つかって生産が止まり、薬の供給にも影響が出ました。業界には混入事例を匿名で共有する組織(CAACB)があり、参加企業が共有した18件の事例の解析が、2020年に Nature Biotechnology に出ています。
混入をゼロにできる前提では工程を組めないため、万一入っても下流で止められるよう、複数の工程を重ねます。全体の考え方はウイルスクリアランス、膜の原理と一般的な運転はウイルスろ過とは?で解説しています。
不活化で壊せない小型ウイルスには、大きさで止める除去の工程を置き、その除去を運転のたびに同じように成り立たせる必要があります。
2. グレードと膜の違い ― 何を止め、何を通すか
Planovaは、中空糸(中心が空洞の、細い管状の膜)を束ねたフィルターです。液が膜の壁を通り抜けるあいだに、ウイルスだけが大きさで止まります。
| グレード | 膜の素材 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 15N | 再生セルロース | 孔径が最も小さい。小型のウイルスを狙う場合 |
| 20N | 再生セルロース | パルボウイルス級を止める代表的なグレード |
| 35N | 再生セルロース | 大きめのウイルス向け。2026年発表の卓上装置 VANTIJ SU-VFC Benchtop が対応する |
| BioEX | 親水化したPVDF | 処理量と通液性を重視。圧が変わっても挙動が安定したと報告されている |
| FG1 | 親水化改質PES除菌フィルターなどに広く使われる膜素材。親水化処理で濡れ性や低吸着を高めた製品もある。詳しく → | 新しいグレード。旭化成は、透過速度の向上と、工程の中断後もクリアランスを維持することをうたう |
15N、20N、35Nの数字は、公称の孔径(15 nm、19 nm、35 nm)の目安です。ただし孔径の数字は呼び名で、除去の性能そのものではありません。
パルボウイルスをどこまで止められるかは、膜の素材と構造、運転の条件でも変わります。この見方はウイルス除去フィルターは孔径とLRVだけ見て選んでいい?で、素材の3系統の比べ方は膜材質と層構造の違いで解説しています。
膜の壁は単純な1枚のふるいではなく、粗い層、緻密な層、粗い層と厚みがあるため、ウイルスが壁を通る間に何度も捕まる機会があります。
膜の内部を可視化した研究でも、緻密な層が主な保持を担いながら、厚み方向につながる孔がウイルスを繰り返しとらえる様子が示されています。1つの孔をすり抜けても次の層で捕まることが積み重なり、再現性の高い除去につながっています。

グレードは対象のウイルスの大きさで選び、その中で素材を、処理量と運転の頑健さの兼ね合いで選びます。
3. 圧力と中断 ― 運転で外しやすい所
除去の性能は、膜を選んだだけでは決まらず、運転の条件でも変わります。
公表データを整理した総説(Gröner、2024年)でも、運転圧などの条件が保持の性能に影響しうることが議論されています。とくに注意が払われるのは、ろ過の途中で圧が大きく変わることや、ポンプが止まって流れが途切れるといった中断です。
膜による違いも報告されています。Penn State の研究チームは、ウイルスと同じ大きさの粒子を使い、膜の中を顕微鏡で観察しました。
- BioEX:圧を約0.7〜3 bar(10〜45 psi)の範囲で変えても、粒子の捕まり方は圧に左右されませんでした。
- 20N:低い圧で捕まり方が変わり、処理を中断したあとに、捕まっていた粒子が動きました。
旭化成は、新しい FG1 について、工程を中断したあともクリアランスが維持されると説明しています(ニュース)。これはメーカーの説明であり、自社の液と運転で確かめる必要があります。
4. 前段ろ過と処理量 ― 詰まりが時間を決める
ウイルス除去フィルターは、フィードに凝集体や微粒子が多いと膜が詰まり、流れが落ちます。流れが落ちるとろ過の時間が延び、同じロットを流しきれなくなります。
そのため、前段にプレフィルターを置いて、詰まりの原因を先に取ります。置く場所も大切で、クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →で不純物が減ったあとの清澄な液がフィルターに向いています。フィルターは精製の終盤、ポリッシングのあとに置かれるのが一般的です。
処理量は、LRV(log reduction value、工程の前後でウイルスの量が何桁減ったかを示す値)と一緒に読みます。LRVの値は、膜1 m²あたり何Lまで流したところまでの結果かが分からなければ、比べられません。
高い処理量をうたうグレードでも、フィードの性状が悪ければ本来の通液性は出ません。濃さ、pH、凝集しやすさといったフィードの調整が、処理量を左右します。
5. 使用後の確認とバリデーション ― 完全性試験と縮小モデル
ウイルス除去の能力は、実機そのものではなく、縮小モデルにウイルスを加える試験で示します。この縮小モデルが実機を代表していることを示す設計が前提で、考え方はダウンストリームのスケールダウンに沿って組み立てます。試験の結果は、プロセスバリデーションの枠組みの中で文書にまとめます。
Planova の検証モデルの研究では、ウイルスを加える条件の質や濃さを変えても、除去の性能に差が出なかったと報告されています。
使ったあとの完全性試験(膜に欠陥がないことの確認)も欠かせません。試験の方法はグレードによって違い、金の粒子を使うものや、空気や水の漏れを測るものがあります。使うグレードの方法と判定の基準は、メーカーの資料で確かめます。
メーカーがバリデーションの資料を出していることと、自社の工程がバリデーション済みであることは別です。
6. よくある失敗
1つめは、孔径とLRVの数字だけで選ぶことです。同じ20 nm前後でも、素材と構造によって、中断や圧の変化に対する強さが違います。
2つめは、圧の変動や中断の扱いを手順にしないことです。現場では、ポンプの停止、交代、サンプリングで流れが途切れることが珍しくありません。
3つめは、プレフィルター本ろ過の手前に置き、粗い粒子をあらかじめ取り除いて後段フィルターの目詰まりを防ぎ、寿命を延ばすためのフィルターです。詳しく →の有無を揃えずに試験することです。縮小モデルの試験は、商用と同じ構成で組みます。
4つめは、開発用の小さなデバイスと、商用の大きなフィルターで膜が違うことに気づかないことです。膜の種類が変われば、試験をやり直す範囲が広がります。
5つめは、ウイルスろ過だけで安全を担保したと考えることです。サイズで止める除去は、大きさの近い物質や、溶けた不純物を分けるのは得意ではありません。低pH不活化精製の途中で液を一定時間低いpHにさらし、混入しうるエンベロープウイルスを不活化するウイルス安全対策です。詳しく →のように原理の違う工程と組み合わせ、合計で余裕を持たせます(工程ごとのLRVは足し算していい?)。
7. 明日から確かめられること
工程の設計、フィルターの発注、報告書の確認のどの立場でも、グレードを選ぶときや受託先の資料を読むときは、次の項目を確かめます。
グレードと運転については、次の4つを見ます。
- ウイルスの大きさ:止めたいウイルスが小型か大型かを確かめ、選んだグレードがその大きさに合っているかを見ます。
- LRVの条件:LRVが、どのウイルスで、膜1 m²あたり何Lまで流して測った値かを確かめます。
- 圧と中断の手順:圧の範囲と、中断が起きたときの手順が、手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →に固定されているかを見ます。
- 中断を含むデータ:中断や圧の変化を含む条件で、ウイルス除去を確かめたデータがあるかを見ます。
試験の構成と資料については、次の4つを見ます。
- プレフィルターの構成:前段のプレフィルターが、縮小モデルの試験でも商用と同じ構成かを確かめます。
- 膜の種類:開発用の小さなデバイスと商用のフィルターが、同じ膜かを確かめます。
- 完全性試験:使用後の完全性試験を、どの方法で、誰が、どの基準で行うかが決まっているかを見ます。
- バリデーションの資料:メーカーのバリデーション資料と、自社の工程のバリデーションを分けて見ているかを確かめます。
製品はウイルス除去フィルター、前段のプレフィルター、完全性試験除菌フィルターに欠陥がなく所定の孔径を保っているかを確認する試験。無菌ろ過の信頼性を裏づける。詳しく →の装置で比べられます。旭化成は2026年9月に、35Nに対応した卓上の自動装置を発表しています(ニュース)。使用前後の確認の基本はフィルター完全性試験とPUPSITとは?にあります。
参考文献
- Integration of Planova filters in manufacturing processes of biologicals improve the virus safety effectively: A review of publicly available data(Gröner。小型ウイルスへの除去性能、運転圧などの条件の影響)
- Microscopic visualization of virus removal by dedicated filters used in biopharmaceutical processing: Impact of membrane structure and localization of captured virus particles(膜の内部構造とウイルスの捕捉位置)
- New insights into the performance characteristics of the Planova-series hollow-fiber parvovirus filters using confocal and electron microscopy. Biotechnol Bioeng. 2019;116(8):2010-2017(BioEXと20Nの圧と中断の影響)
- BioProcess International, Robust small virus removal with Planova virus removal filters: no effect from varying virus spike quality and concentration in a validation model(ウイルスを加える条件の質と濃さを変えても除去の性能に差が出なかった検証モデルの研究)
- Pharma Focus Europe, Integrity testing of Planova BioEX virus removal filters used in the manufacture of biological products(Planova BioEX の完全性試験)
- Barone PW, et al. Viral contamination in biologic manufacture and implications for emerging therapies. Nat Biotechnol. 2020;38(5):563-572. doi:10.1038/s41587-020-0507-2(業界共有の18件のウイルス混入事例の解析)
- MIT News, Study analyzes contamination in drug manufacturing plants(2020年4月27日)(CAACBによる18件のウイルス混入事例の解析の紹介)
- BioPharm International, Genzyme Detects Virus Contamination in Bioreactor, Halts Production(2009年。Allston工場でのウイルス混入と生産停止)
- Asahi Kasei Bioprocess, Planova BioEX
- Asahi Kasei Bioprocess, Planova FG1
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