bioRxiv に、微生物トランスグルタミナーゼ(mTG)が天然の抗体を修飾するとき、どの部位が選ばれるかを近接性が支配していると報告するプレプリントが公開された。査読前の報告である。
要旨で述べられている前提は次のとおりである。
- 部位特異的なタンパク質修飾は、構造と活性への影響を抑えつつ多様な機能を付与できる
- 天然のタンパク質を部位特異的に修飾する試みは、これまで相当な努力が払われてきた
なぜ「どこに付くか」がそこまで重要なのか
抗体薬物複合体(ADC)を例にとると分かりやすい。抗体に薬物を結合させるとき、結合の数(DAR)だけでなく位置が製品の性質を決める。
- 抗原結合部位の近くに付けば、標的への結合が落ちる
- Fc領域の機能部位に付けば、エフェクター機能が変わる
- 疎水性の高い場所に付けば、凝集しやすくなる
- 付く場所が定まらなければ、同じロットの中に別物が混ざる
従来の化学的な結合法——リジンのアミノ基やシステインのチオール基を使う方法——は、反応する残基が抗体上に多数あるため、位置も数も分布になる。平均としてのDARは合わせられても、中身は不均一なままである。
だから同等性の評価でも、分析法の特異性でも、この分布をどう記述するかが繰り返し論点になる。
酵素を使う方法と、その制約
トランスグルタミナーゼは、グルタミンとリジン(あるいはアミン類)の間に結合を作る酵素である。酵素が認識する配列と構造に反応が限られるため、化学法より位置が定まりやすい。
ただし従来は、この選択性を得るために抗体側を改変することが多かった。
- 認識配列(タグ)を挿入する
- 糖鎖を外して特定の残基を露出させる
いずれも抗体そのものに手を入れる。改変すれば、細胞株の構築からやり直しになり、免疫原性の懸念も新たに立つ。天然の抗体をそのまま使えるかが実務上の分かれ目になるのは、このためである。
「近接性が支配する」ことの意味
報告が「proximity(近接性)が部位選択性を方向づける」と述べているのは、選択性が配列の認識だけで決まっているわけではないという見方にあたる。
酵素と基質が結合したとき、たまたま反応点の近くに来た残基が反応する——という理解であれば、次のような含意が出てくる。
- 予測できる可能性がある:構造から距離を計算すれば、どこが反応するか見当がつく
- 条件で動く可能性がある:抗体の柔軟性や溶液条件が変われば、近接の関係も変わりうる
- 設計に使える:酵素側の形を変えれば、狙う位置を移せるかもしれない
二番目は製造の側では警戒すべき点になる。緩衝液の組成や温度が変われば結合の位置分布が動くのなら、それは重要工程パラメータである。工程特性解析で振っておくべき因子が1つ増えることを意味する。
査読前の報告であり、結論の評価はこれからである。とはいえ天然抗体に手を入れずに位置を制御するという方向は、ADCの製造で長く求められてきたものにあたる。位置の分布が狭まれば、規格を組む側の負担も変わってくる。
※ 本ページは公開情報(bioRxiv のプレプリント)をもとにしたProglenth編集部による整理です。査読前の報告であり、内容は今後変わりうる点にご注意ください。実験系・対象とした抗体・定量的な結果は一次情報をご確認ください。本文中の解説は抗体修飾一般の構造に関する説明であり、当該報告の主張を要約したものではありません。