デッドボリュームとは?ピークが広がる原因と、装置・配管での抑え方
デッドボリューム容器やデバイスに残って投与に使われない液量。過充填量を決める際に考慮する。(dead volume/死容積)とは、流路の中で目的の分離に寄与しない容積を指します。クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。であれば、カラムの前後にある配管、インジェクター、検出セル、接続部の隙間——分離が起きるのはカラムの中だけですから、それ以外の場所にある液体はすべてこれにあたります。
分離そのものには関与しないため軽視されがちですが、実際にはクロマトグラムの見え方を大きく左右します。せっかくカラムで分けた成分が、カラムを出てから混ざり直す——デッドボリュームが引き起こすのはこの現象です。

- デッドボリュームはカラム外の容積で、分離した成分がそこで再び混ざりピークが広がります。
- 影響は配管の内径の4乗に効くため、太い配管への変更は見た目以上に分離を悪化させます。
- 装置やスケールを変えて分離が変わったとき、カラムより先に流路を疑う価値があります。
なぜピークが広がるのか
カラムの中で分離された成分は、狭い帯(バンド)として溶出してきます。この帯が検出器に届くまでに通る空間が広いほど、帯は前後に引き伸ばされます。
理由は流れの性質にあります。細い管の中を液体が流れるとき、管の中心では速く、壁ぎわでは遅く流れます。この速度差により、同じタイミングで入った分子でも出てくる時刻がばらつきます。加えて、分子は拡散によっても広がります。
結果として、カラムを出た時点では鋭かった帯が、検出されるころには鈍っている。これがカラム外容積によるピーク広がり(extra-column band broadening)です。
隣り合った二つのピークがどれだけ分かれて見えるか(分離度クロマトグラフィーにおいて、隣り合う二つのピークが互いにどれだけ明確に分かれているかを示す無次元数値。)は、ピーク間の距離とピークの幅で決まります。幅が広がれば分離度は下がる——カラムの性能を変えていなくても、流路が変われば分離は変わります。
配管の太さが効く度合い
流路の設計で最も効くのが配管の内径です。
管を流れる液体の速度分布による広がりへの寄与は、内径の4乗に比例することが知られています(Taylor-Aris 分散)。内径を2倍にすると、寄与は16倍になります。
| 変更 | 容積 | 広がりへの寄与 |
|---|---|---|
| 内径を2倍 | 4倍 | 16倍 |
| 長さを2倍 | 2倍 | 2倍 |
長さも効きますが、比例の程度が違います。まず内径、次に長さ——流路を詰めるときの優先順位はこの順になります。
一方で、内径を細くすれば圧力損失が増えます。分析用HPLCイオン対試薬を使い疎水性の差で分ける液体クロマト。一本鎖と二本鎖RNAの分離やdsRNA除去に使われます。では背圧の上限が、製造スケールでは送液の負荷が制約になります。分離を取るか圧力を取るかのバランスで決まる設計です。
「配管を少し太いものに替えた」「接続チューブを長いものに差し替えた」——こうした変更は記録に残りにくい一方で、分離への影響は大きくなりえます。分離が変わったときに真っ先に確認する価値があります。
接続部の段差と、目に見えない容積
配管そのものより見落とされやすいのが、接続部にできる隙間です。
継手にチューブを差し込むとき、突き当たりまで届いていないと、そこに小さな空間ができます。容積としてはわずかでも、流れが淀む場所になるため、帯の広がりに不釣り合いな影響を与えることがあります。異なる内径の配管をつないだ段差も同様です。
同じ理由で問題になるのが、衛生設計におけるデッドレグ配管などで液がよどむ袋小路。洗いにくく、洗浄バリデーションのワーストケース箇所になりやすい。です。本流から分岐した先が行き止まりになっている枝管では、液が滞留します。クロマトグラフィーでは分離への影響として、無菌医薬品の製造では洗浄や殺菌が届かない箇所として——同じ「淀み」が、文脈によって別の問題になります。
検出器のフローセル液体サンプルを一定の流れで流しながら光学的に撮像・計測するための、装置内部に組み込まれた薄い流路構造体。も容積を持ちます。UV検出では光路長が長いほど感度が上がりますが、セル容積も増えます。感度と分離のどちらを取るかという設計上の選択がここにあります。
勾配遅れ(ディレイボリューム)
デッドボリュームのうち、ポンプの混合部からカラム入口までの容積は特別な意味を持ちます。これをディレイボリューム(dwell volume/勾配遅れ容積)と呼びます。
グラジエント塩濃度やpHを段階的・連続的に変化させ、担体に結合したタンパク質を順に溶出させる操作。溶離では、設定した組成の変化がカラムに届くまでに、この容積の分だけ時間差が生じます。装置が違えばディレイボリュームも違うため、同じメソッドを別の装置で走らせると保持時間がずれるという現象が起こります。
これは分析法の技術移転で頻繁に問題になる点です。移管先で保持時間が合わないとき、カラムやバッファーの前に、装置のディレイボリュームの違いを確認する意味があります。USP <621> は、クロマトグラフィーのシステム適合性試験系がきちんと動いていることを確認するための基準や試験。判定の信頼性を支える。と、認められる調整の範囲を定めており、装置差への対応の枠組みを与えています。
スケールを変えたときに効いてくる
製造スケールでもデッドボリュームは無視できません。むしろ配管が長くなる分、影響は大きくなりえます。
クロマトグラフィーのスケールアップでは、カラム径を大きくしてベッド高クロマトグラフィーで担体を充填した層の高さ。分離は液が担体層を通る距離に依存するため、スケールをまたぐときに一定に保つ基本パラメータです。詳しく →さを保つのが基本の考え方です。このときカラム容積は大きくなりますが、装置側の配管容積が同じ比率で増えるとは限りません。小スケールで問題にならなかった流路の寄与が、大スケールでは相対的に小さくなる場合もあれば、配管の引き回しが長くなって逆に効いてくる場合もあります。
スケールダウンモデルを作るときも同じ論点があります。小型カラムではカラム容積に対する流路容積の比が大きくなりやすく、実機を再現しているつもりで分離が別物になっていることがあります。ロボカラムのような小容量の系では、この比が特に大きくなります。
送液経路にホールドタンクやインライン希釈濃縮ストックを運転時に水と一定比率で合流させ、規定濃度のバッファを作りながら流す方式。が入る場合は、バッファーのインライン調製で設定した組成が実際にカラムに届くまでの遅れも設計に含めることになります。
まとめ
デッドボリュームは、流路のうち分離に寄与しない容積です。カラムで分けた成分がそこで再び混ざるため、ピークが広がり分離度が下がります。
寄与の大きさは配管の内径に強く依存し、内径の4乗に比例します。内径を2倍にすれば寄与は16倍——長さの変更より効き方が大きいため、流路を詰めるときはまず内径を見ます。接続部の隙間や段差、行き止まりの枝管(デッドレグ)といった目立たない箇所も、流れの淀みとして効いてきます。
ポンプからカラムまでの容積は勾配遅れとして働き、装置が違えば保持時間がずれる原因になります。分析法の移管ある試験室の分析手順を、別の試験室でも同じ結果が出せることをデータで確かめて引き継ぐ作業。で保持時間が合わないとき、まず確認する価値がある要因です。
スケールを変えたときも、カラム容積と流路容積の比が変わることで分離の見え方が変わります。「カラムは同じなのに結果が違う」場面では、カラムより先に流路を疑うのが実務上の近道です。
参考文献
- USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。, General Chapter <621> Chromatography
- USP, <621> Chromatography(Stage 4 Harmonization Official Text)
- USP, FAQs: Chromatography
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。, Q2(R2): Validation of Analytical Procedures
- ICH, Q11: Development and Manufacture of Drug Substances
- European Commission, EudraLex Volume 4, Annex 1: Manufacture of Sterile Medicinal Products(衛生設計・デッドレグの考え方)
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