カールフィッシャー滴定の容量法と電量法をどう選ぶか
凍結乾燥した原薬のロットで、規格の上限に近い残留水分凍結乾燥した注射剤などが適切な状態かを確かめる試験で、残った水分量や、使う前に溶かし直したときの溶けやすさ(再溶解性)などを調べます。詳しく →が出ます。装置を選び直そうとカタログを並べると、真っ先に目に入るのが測定範囲です。Hanonの T931は0.001%から100%までを1台でうたい、Metrohmの852 Titrandoも0.001%から100%という広い範囲を掲げています。数字だけ見れば、範囲の広い機種を選べば済みそうに見えます。

しかし実際に選定を左右するのは、この範囲の広さではありません。効いてくるのは2つです。ヨウ素をどう作るかという滴定の原理と、サンプルをどうセルへ運ぶかという導入の方式です。前者は標準溶液を滴下する容量法か、電気分解でヨウ素を生成する電量法かで、扱える水分の桁とロットごとの校正の手間が変わります。後者はサンプルを直接溶かして滴定するか、加熱してから気体で運ぶかで、凍結乾燥製剤から水分を抜いて乾燥させ、長期安定性を高めた剤形。使用時に溶かして戻す。詳しく →ケーキ凍結乾燥後に残る固形物のこと。崩れると外観や再溶解性が悪くなるため、形状の確保が重要になる。詳しく →のような固体を測れるかどうかが決まります。測定範囲の広さは、この2つを決めたあとに読む数字にすぎません。
本稿では、容量法と電量法が水分をどう検出するかから、それぞれの実機の数値、気化と直接滴定という導入方式の違い、そして薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →が求める方法の対応関係まで、順に整理します。最後に、決める順番を並べます。
- 測定範囲の広さより、容量法か電量法かという滴定原理と、気化か直接滴定かという導入方式の2つが実際の選定を左右します。
- 電量法はヨウ素を電気的に生成する絶対法で、1 ppmから5%程度の微量域に向きます。
- 気化(オーブン)方式なら、凍結乾燥ケーキや反応性のある原薬でも副反応を避けて水分を測れます。
容量法と電量法 ― ヨウ素をどう用意するか
カールフィッシャー滴定試薬と水の反応を利用して微量の水分量を定量する滴定法。原薬の水分管理などに用いる。詳しく →は、水がヨウ素と二酸化硫黄を消費する反応を利用します。
容量法は、あらかじめ濃度の分かったカールフィッシャーカールフィッシャー試薬と水の反応を利用して、試料に含まれる微量の水分量を精密に測定する装置です。詳しく →試薬をビュレットで滴下し、消費した体積から水分を逆算します。試薬の力価は既知量の水で定期的に校正しておく必要があります。この校正を怠ると、値そのものがずれます。Mettler-ToledoのCompact V30Sはこの方式で、mgから%のオーダーの水分を高速に定量します。MetrohmのEco KF Titratorはマグネチックスターラとタッチパネルを一体化したルーチン専用機です。プリセットメソッドを使えば、すぐ立ち上がります。京都電子工業のMKV-710シリーズは、最大4台の滴定装置と接続でき、複数ロットを並行して測れます。
電量法は違います。ヨウ化物を含む電解液の中で、電気分解によってヨウ素をその場で生成します。生成したヨウ素の量は、流した電気量から計算できます。標準溶液の濃度を決める作業そのものが要りません。Metrohmの899 Coulometerは、この性質を「絶対法のため力価決定が不要」とうたいます。推奨測定範囲は10 µgから200 mgの絶対水分です。設置面積はA4用紙より小さく、独立した電源で動きます。同社の851 Titrandoも同じ範囲をモジュール型で実現し、液体・固体・気体のどれにも対応します。
電量法が効くのは、微量域
電量法の強みが出るのは、水分が少ない試料です。
Mettler-ToledoのC30SX電量法KFクーロメータは、1 ppm抗体1mgあたりの不純物量(ng)のように、100万分の1の比で微量成分の割合を表す単位。詳しく →から5%までの微量水分を高精度に定量します。隔膜レスセルに対応しているので、凍結乾燥した原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →や有機溶媒の測定に向いています。SI AnalyticsのTitroLine 7500 KF traceも同じく1 ppmから5%の範囲で、自動ドリフト測定と補正を備えています。京都電子工業のMKC-710シリーズは、独自技術で最大電解速度2.6 mg H₂O/minを実現し、予備滴定と本滴定にかかる時間を短くしています。
一方で、電量法にも限界があります。電解でヨウ素を作る速さには上限があります。水分の多いサンプルを測ろうとすると、滴定に時間がかかります。HanonのT931は0.001%から100%までを謳います。ただし0.1 µgという分解能の細かさは、高濃度側の速度を保証するものではありません。凍結乾燥後の製品のように、1%から3%程度を狙って管理する試料では、電量法の得意な領域にちょうど収まります。電量法の広い測定範囲は下限の細かさを表す数字であって、上限側の速さまでは保証しません。
気化と直接滴定 ― サンプルをどう運ぶか
もう1つの軸が、サンプルをどうやってセルへ運ぶかです。
直接滴定は、試料を溶媒に溶かしてそのままセルへ投入します。反応が速く、測定時間は短くて済みます。ただし試料が溶媒に溶けにくい場合には使えません。ケトンや金属酸化物のように、滴定試薬と副反応を起こす官能基を持つ場合も同じです。凍結乾燥ケーキや、水に触れると反応してしまう原薬は、この方式では測れません。
気化法は、加熱したオーブンでサンプルから水分だけを追い出し、乾燥した気体でセルへ運びます。加熱管の温度は60℃から300℃の範囲で選べます。試料を直接セルに入れません。副反応を起こす成分があっても、水分だけを分離して測れます。Mettler-ToledoのCompact V30Sは、InMotion KFオーブンと組み合わせることで、固体や難溶解サンプルの気化測定に対応します。平沼産業のAQV-2200Aも気化装置併用で難溶解固体を測れます。日東精工アナリテックのCA-310は、固体気化とオートサンプラーの組み合わせで、凍結乾燥品のような試料に向いた構成です。
温度の選び方には代償があります。加熱温度を上げすぎると試料そのものが分解し、見かけの水分値が実際より高く出ます。逆に低すぎると、水分は出きりません。値は実際より低く出ます。この温度を試料ごとに見極める作業こそが、気化法を使ううえでの実務です。
薬局方がどの方法を求めているか
USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →〈921〉は、水分測定を3つの方法に分けています。
Method Iaは容量法による滴定です。Method Ibは過剰のカールフィッシャー試薬を加えてから逆滴定する残余滴定、Method Icは電量法です。Method Icは、水分1%未満の試料や、試料量が限られる場合に向くとされます。試験に使う試料は0.5 mgから5 mgの水分を含む量が目安です。欧州薬局方欧州医薬品品質局(EDQM)が発行する、医薬品の品質基準を定めた公定書で、署名国・加盟国の規制に法的効力を持つ。詳しく →でも同じ構図があります。容量法にあたる半微量水分定量が2.5.12、電量法にあたる滴定が2.5.32という別の項です。
規格書に「カールフィッシャー法」とだけ書かれていても、薬局方の中では方法が枝分かれしています。GMPの基礎に立ち返れば、どの方法で試験するかはバリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →の前提そのものです。装置を選ぶ前に、どのMethodで進めるかを規格側から先に決めておく必要があります。
メーカーに聞くべきこと
装置選びで聞くべきは、測定範囲の広さではありません。
メーカーに聞くべきは「測定範囲は何ppmから何%か」ではなく、「自社の凍結乾燥ケーキや原薬ロットを実際に気化・滴定したとき、回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →とばらつきはどれだけか」です。カタログの測定範囲は、装置が原理上検出できる限界を示す数字であって、その試料で規制当局に説明できる精度を保証する数字ではありません。カタログの下限値を「測れる」と読むか「検出はできるが精度は別」と読むかで、その後の適格性確認の設計が変わります。
容量法と電量法のどちらが正しいという話ではありません。原薬ロットのように水分が多く、頻度も高い試験ならmgから%のオーダーで速い容量法が向きます。凍結乾燥ケーキのように1%から3%の狭い範囲を精密に追いたいなら、電量法のほうが分解能で有利です。どちらの失敗が自社の規格に重いかで、選ぶべき原理が変わります。
決める順番
最後に、選定の順番を整理します。
まず、自社の試料で想定される含水量の域を数えます。原薬ロットのように水分が多いのか、凍結乾燥ケーキのように1%から3%の狭い域を追うのかで、容量法か電量法かの候補が絞られます。次に、その試料が溶媒に直接溶けるか、副反応を起こす官能基を持つかを確認し、直接滴定か気化法かを決めます。気化法を選ぶなら、分解が起きない範囲で水分を出し切れる加熱温度を、実測で決めます。
そのうえで、USP〈921〉のどのMethodに対応する運用にするか、あるいはPh. Eur. 2.5.12か2.5.32のどちらに整合させるかを、品質保証の側とすり合わせます。最後に、その組み合わせで回収率とばらつきを実測し、適格性を確認します。測定範囲の表を最初に見ないことが、この順番のいちばんの要点です。
参考文献
- USP General Chapter 〈921〉 Water Determination(Method Ia/Ib/Ic の区分と試料量の目安)
- Ph. Eur. 2.5.12. Water: Semi-Micro Determination(容量法の適合性試験)の公式告知ページ
- Metrohm, 899 Coulometer 製品情報(測定範囲と絶対法の原理)
- Mettler-Toledo, C30S / C30SX Compact KF Coulometer データシート(微量水分の測定範囲)
- 京都電子工業(KEM), MKC-710シリーズ 製品情報(最大電解速度と測定時間)
- Pharmaceutical Technology, Residual Moisture Determination in Lyophilized Drug Product原薬を投与できる薬の形に整えたもの。無菌充填や凍結乾燥などを経て完成する最終製品。詳しく →s(凍結乾燥製品の残留水分の目安)
次に読む
共通この分野の解説記事を、まとめて見る(85本)この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを月数回お届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。