キラルHPLCカラムの被覆型と固定化型をどう選ぶか
低分子APIの開発で、鏡像異性体をどうしても分離できない化合物に当たります。ダイセルのCHIRALPAK AD-HやCHIRALCEL OD-Hを順番に試し、それでも分離しない化合物にぶつかると、次はカタログの粒子径を見て3 µm品に替えようとします。5 µmから3 µmに下げれば理論段数クロマトカラムがどれだけ鋭いピークを保てるかを表す指標で、値Nが大きいほど分離能が高い床を意味する。詳しく →が上がり、分離が良くなりそうに見えるからです。分離度クロマトグラフィーにおいて、隣り合う二つのピークが互いにどれだけ明確に分かれているかを示す無次元数値。詳しく →が足りないという相談の多くは、ここで足踏みします。

しかし、分離できない化合物を前にしたとき、実際に効くのはこの粒子径ではありません。効いてくるのは2つです。多糖の選択子がシリカに被覆されているか、化学結合で固定化されているかという構造の違いです。もう1つは選択子の骨格がセルロースかアミロースかという違いです。前者は使える溶媒の範囲を決めます。後者はどの化合物を分離できるかという選択性目的物と不純物を、溶出位置をどれだけ離して分けられるかの度合い。分離の分解能を左右する。詳しく →そのものを決めます。粒子径を5 µmから3 µmに下げても、選択子とその溶媒条件が合っていなければ、分離しない化合物は分離しません。
本稿では、被覆型と固定化型がなぜ生まれたのかから、溶媒に持ち込まれる制約、セルロース系とアミロース系で選択性が入れ替わる理由、そしてスクリーニングから分取までのスケール展開まで、順に整理します。最後に、選定の順番を並べます。
- 分離を左右するのは粒子径ではなく、被覆型か固定化型かという構造と、セルロース系かアミロース系かという選択性の違いです。
- 被覆型はTHF・ジクロロメタンなどの強溶媒を使うと選択子が溶け出し、固定化型はほぼ任意の溶媒を使えます。
- セルロース系とアミロース系は相補的な選択性を持ち、片方で分離しない化合物がもう片方で分離することがあります。
被覆型はコーティング、固定化型は化学結合
キラルHPLCカラムの主流は、多糖の誘導体をシリカ粒子の表面に持たせた多糖系CSP(キラル固定相鏡像異性体(右手と左手のように重ならない分子)を分けるための固定相を詰めたカラムで、多糖類を用いたものが代表的です。詳しく →)です。
被覆型は、多糖の誘導体をシリカに物理的にコーティングしただけの構造です。ダイセルのCHIRALPAK AD-Hは、アミロース tris(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)をシリカにコーティングした、最も汎用性の高い被覆型CSPです。粒径は5 µmです。CHIRALCEL OD-Hはセルロース版で、同じく5 µmの粒径を持ちます。医薬品のキラル純度目的のエナンチオマーと望まない鏡像体の存在比を表す品質特性。立体中心をもつ原薬の光学的な純度を示す。詳しく →管理で最も実績の多いカラムの1つとされています。
固定化型は、同じ選択子をシリカに化学的に結合させます。CHIRALPAK IAは、AD-Hと同じアミロース tris(3,5-ジメチルフェニルカルバメート)を、化学結合でシリカに固定化した製品です。選択子が溶け出す心配がありません。被覆型では使えない溶媒まで使えます。この違いは、単なる耐久性の差ではありません。分析の設計そのものを変えます。
溶媒がカラムを選ぶ ― 被覆型が壊れる条件
被覆型を使うときに最初に効くのが、溶媒の制約です。
被覆型のCHIRALPAK AD-Hや CHIRALCEL OD-Hは、ジクロロメタン、クロロホルム、THF、DMSO水に溶けにくい薬物やリンカーを溶かし込み、抗体との結合反応を進めるために少量加える有機溶媒です。詳しく →のような強い溶媒を使ってはいけません。これらの溶媒は多糖ポリマーを溶かします。希釈される過程で再析出し、カラムを詰まらせます。サンプルの希釈溶媒にTHFやジクロロメタンが微量に混ざっているだけでも、繰り返し使ううちにカラムの性能は落ちていきます。
固定化型のCHIRALPAK IA・IB・IC・IE・IF・IGは、この制約から解放されています。ヘキサンやアルコール類はもちろん使えます。メチレンクロリド、クロロホルム、THF、酢酸エチル、アセトン、酢酸メチル、MTBE、ジメチルホルムアミドといった強溶媒まで、選択子を傷めずに使えます。順相・極性有機・逆相・SFC超臨界状態の流体を移動相に使う分離法。キラル純度の測定などに用いられる。のどのモードでも同じカラムを使い回せるのは、この耐溶媒性があるからです。
セルロース系とアミロース系は相補的
多糖の骨格そのものにも違いがあります。
セルロース系とアミロース系は、同じフェニルカルバメート系の側鎖を持っていても、選択性が違います。CHIRALCEL OJ-Hは、セルロース tris(4-メチルベンゾエート)というOD-Hとは異なる側鎖を持ちます。ADやODで分離しなかった化合物のスクリーニング用に使われます。PhenomenexのLux Cellulose-2は、セルロース tris(3-クロロ-4-メチルフェニルカルバメート)という側鎖です。アミロース系とは異なる選択性を持ちます。
この相補性を系統立てたのが、固定化型のプライマリースクリーニングセットです。CHIRALPAK IAとIBはAD・ODと同じ選択子の固定化版です。ICはセルロース tris(3,5-ジクロロフェニルカルバメート)という電子求引性の選択子です。IGはアミロース tris(3-クロロ-5-メチルフェニルカルバメート)という難分離化合物向けの新しい選択子です。IA・IB・IC・IGの4本を並べると、多くの化合物をどれか1本でカバーできます。
YMCのCHIRAL ART Amylose-SAやCellulose-SCは、IA・ICと同等の選択子を専業ベンダーの立場で供給しています。同じ選択子でもメーカーが違えば、充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。詳しく →密度やロット間差が変わることがあります。選択子の化学構造が同じでも、供給元が違えば実測の分離度まで同じとは限りません。
粒子径とカラム寸法 ― スクリーニングから分取まで
粒子径は、分離の可否ではなく、分析の速さと分取の量を決める変数です。
ダイセルの3 µm品は、CHIRALPAK AD-3やCHIRALCEL OD-3のように、5 µm品と同じ選択子をより細かい粒子にした製品です。理論段数が上がります。同じ分離度を、より短いカラム長、より短い時間で達成できます。PhenomenexのLux 3 µm Amylose-1は250 x 4.6 mmのカラムとして供給されます。Lux 3 µm Cellulose-2は150 x 3.0 mmという小径の分析用サイズもそろいます。RegisTechnologiesのRegisPackも3 µm品を持ち、HPLCイオン対試薬を使い疎水性の差で分ける液体クロマト。一本鎖と二本鎖RNAの分離やdsRNA除去に使われます。詳しく →とSFCの両方に対応しながら、分析と分取の両方の用途で使われます。
分取側にもラインアップがあります。ダイセルのCHIRALPAK IGはIA・IB・ICと並ぶ4本セットの一角ですが、10 mmや20 mmの内径を持つ分取用グレードも用意されています。Nacalai TesqueのCOSMOSIL CHiRAL 5Aも、同じアミロース選択子で10 mmから20 mmのセミ分取から分取まで対応します。スクリーニングで見つけた選択子とほぼ同じ充填剤を、そのまま太いカラムへ持ち上げられます。条件を作り直す手間が省けます。
メーカーに聞くべきこと
カラムを選ぶときに聞くべきは、粒子径の細かさではありません。
メーカーに聞くべきは「粒子径は何µmか」ではなく、「その選択子で、自社が使いたい溶媒条件は保証されているか」です。被覆型か固定化型かを取り違えたまま強溶媒を流すと、1本のカラムを1回の実験で使えなくしてしまいます。ダイセルやPhenomenexは、化合物ごとの推奨スクリーニングセットを公表しています。自社の化合物クラスに近い実績があるかを先に確認するほうが効率的です。
固定化型と被覆型のどちらが優れているという話ではありません。強溶媒を使わない開発初期のスクリーニングなら、価格の安い被覆型で十分です。逆相と順相を行き来する条件検討や、強溶媒での分取を見込むなら、最初から固定化型を選ぶほうが手戻りが少なくなります。どちらの失敗が自社の開発日程に重いかで、選ぶべき型が変わります。
選定の順番
最後に、決める順序を整理します。
まず、化合物のクラスと想定する溶媒条件を書き出します。強溶媒を使う可能性があるなら、この時点で固定化型に候補を絞ります。次に、セルロース系とアミロース系の両方を含むスクリーニングセットで、実際に分離するかどうかを試します。IA・IB・IC・IGのような4本セットを使えば、1回の実験で系統立てて絞り込めます。
分離が確認できたら、そのうえで粒子径とカラム内径を、必要な分析時間と分取量に合わせて決めます。最後に、分取スケールへ持ち上げる予定があるなら、同じ選択子の太径グレードが用意されているメーカーを優先します。溶媒条件を最初に固めておくことが、この順番のいちばんの要点です。
参考文献
- Daicel Chiral Technologies, CHIRALPAK / CHIRALCEL 製品カタログ(被覆型・固定化型の選択子構成)
- Daicel Chiral Technologies, Solvents for Daicel Chiral Columns FAQ(被覆型・固定化型の溶媒制約)
- Daicel Chiral Technologies, USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく → List of HPLC Columns(USPコードと選択子の対応)
- Phenomenex, Lux Chiral LC Column 製品情報(Cellulose-2・Amylose-1の選択子構成)
- Regis Technologies, RegisPack / RegisCell 製品情報(アミロース系・セルロース系の相補的選択性)
- Nacalai Tesque, COSMOSIL CHiRAL シリーズ 製品情報(分析用・分取用グレードの展開)
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