GEN の記事によれば、散乱フリー吸収分光(SFA:Scatter-Free Absorption spectroscopy)により、濁ったLNP(脂質ナノ粒子)試料の中のRNAとリガンドを15秒で、正確かつ再現性よく定量できるという。
mRNA-LNPの工程で、含量をどう測るかは古くからの課題である。この手法は、その測りにくさの原因そのものに手を入れる考え方をとる。
濁りが吸光度測定を壊す仕組み
核酸の定量は、260 nmの吸光度から求めるのが基本である。ところがLNPの懸濁液では、この前提が崩れる。
分光光度計が測っているのは、正確には「吸収された光」ではなく 「検出器に届かなかった光」である。透明な溶液なら、届かなかった分=吸収された分と見なせる。
しかし粒子が入っていると、光は散乱によっても検出器から逸れる。装置はそれを吸収と区別できず、見かけの吸光度が実際より高く出る。しかも散乱の強さは粒子径や濃度で変わるため、補正も一律にはいかない。
このため実務では、
- 界面活性剤で粒子を壊してから測る
- RiboGreenのような蛍光試薬を使う
といった回避策が取られてきた。RiboGreenによる封入率測定が広く使われているのは、この事情による。
積分球で「逸れた光」を拾い戻す
SFAの考え方は単純である。散乱で逸れた光を捨てずに回収する。
試料を入れたキュベットを、内壁が高反射率の球体(積分球)の中心に置く。散乱した光は内壁で反射を繰り返し、最終的に検出器へ届く。逸れた光が戻ってくるため、検出器に届かなかった光=本当に吸収された光という関係が回復する。
得られるのは、散乱の影響を取り除いた吸収スペクトルである。ここから260 nmの吸光度を読めば、粒子が濁っていてもRNA濃度が求まる。RNAだけでなく、脂質など他の吸収成分のスペクトルも同時に得られる。
原著(Nano Letters/Analytical Chemistry に掲載)では、併行精度は約1.5%、正確さは約5%と報告されている。
「壊さずに測れる」ことの意味
この手法の実務的な利点は、速さより非破壊であることにあるかもしれない。
界面活性剤で壊す方法では、測定に使った試料はそこで失われる。SFAでは粒子が無傷のまま残るため、同じ試料を続けて別の測定に回せる。
- 粒子径・多分散度(DLS)
- 封入率
- ゼータ電位
を同じ試料で順に測れれば、検体量の少ない開発初期や、少量しか作れない工程開発の段階で効いてくる。
工程管理へ持っていけるか
短時間で測れることは、工程内での測定への道を開く。
LNPの製造では、混合の条件が粒子の性質を決める。含量や封入率を後から測るのではなく、その場で確認できれば、条件の調整が速くなる。PATと連続生産の枠組みに乗せられる可能性がある、という位置づけになる。
ただし、工程管理や出荷判定に使うには別の作業が待っている。
- 分析法バリデーション:直線性、精度、正確さ、特異性を示す
- 既存法との橋渡し:RiboGreen法など従来法との相関を取り、規格をどちらの値で設定するか決める
- 施設間の移管:積分球の構成が装置間で揃うか
新しい測定法が便利であることと、規格試験として使えることの間には、いつもこの距離がある。とはいえ測りにくさの原因(散乱)に正面から対処している点で、回避策を重ねる従来の方向とは筋の違う解といえる。
※ 本ページは公開情報(GEN の記事および関連する査読論文)をもとにしたProglenth編集部による整理です。測定条件・適用範囲・装置構成の詳細は一次情報をご確認ください。