A260/A280とは?吸光度で核酸・タンパク質を定量する原理と落とし穴
A260・A280波長280nm付近の紫外線吸収を利用してタンパク質濃度を推定する測定法。芳香族アミノ酸などが光を吸う性質を使う。とは、それぞれ波長260 nm・280 nmにおける吸光度のことです。核酸は260 nm付近に、タンパク質は280 nm付近に吸収の極大を持つため、この2波長が定量と純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →確認の標準的な指標として使われてきました。
原理は単純で、測定も数十秒で終わります。それでも実務では、思ったより信用できない値が出ることがあります。この記事では、何を見ていて、どこで狂うのかを整理します。

- 核酸の260 nmは塩基、タンパク質の280 nmは芳香族アミノ酸の吸収に由来します。
- A260/A280比は「純度」ではなく、混ざり方の傾向を示す目安にすぎません。
- 濁った試料では散乱が吸光度として計上され、値が実際より高く出ます。
何が光を吸っているのか
260 nmの吸収は、核酸の塩基(プリン・ピリミジン)によるものです。糖やリン酸はこの領域をほとんど吸いません。
280 nmの吸収は、タンパク質のうちトリプトファン、チロシン、(少量ながら)シスチンという芳香族側鎖に由来します。ここが重要な帰結を生みます——これらのアミノ酸を含まないタンパク質は、280 nmでほとんど吸収を示しません。ペプチド複数のアミノ酸がペプチド結合でつながった中分子化合物で、タンパク質より鎖が短いものを指す。や、芳香族残基の乏しいタンパク質では、この方法が使えないことになります。
Lambert-Beer則と吸光係数
濃度を求める式は次の形をとります。
A = ε × c × l
Aが吸光度、εが吸光係数物質が特定波長の光をどれだけ吸うかを表す係数。A280からタンパク質濃度を計算する際に分子ごとの値を用いる。、cが濃度、lが光路長(通常1 cm)です。
核酸では、慣用的な換算係数が広く使われます。1 cm光路でA260 = 1のとき、二本鎖DNAで約50 µg/mL、一本鎖RNAで約40 µg/mL、一本鎖DNA二重らせん構造をとらず一本の鎖で存在するDNAで、AAVベクターのゲノムはこの形態でカプシド内に封入されている。で約33 µg/mL——といった値です。
ここで注意が要ります。これらは平均的な塩基組成を仮定した近似値です。配列によって塩基組成が偏れば、実際の吸光係数はずれます。オリゴ核酸DNAやRNAの短い鎖を化学合成でつないだ分子で、核酸医薬原薬の多くを占める。のように短く配列が確定しているものでは、配列から吸光係数を計算して使うほうが正確です。
タンパク質では、配列が分かっていればトリプトファンとチロシンの数から吸光係数を計算できます。同じ1 mg/mLでもタンパク質ごとにA280は違うため、換算係数を使い回すことはできません。
A260/A280比の意味と限界
核酸試料の「純度」の目安として、この比がよく参照されます。おおまかに、
- DNAで約1.8
- RNAで約2.0
が目安とされ、これより低ければタンパク質やフェノールの混入が疑われる、という使われ方です。
ただし、この比の解釈には限界があります。
- 感度が非対称:核酸は280 nmもそれなりに吸うため、少量のタンパク質混入では比があまり動きません。逆に、少量の核酸混入はタンパク質側の測定を大きく狂わせます
- pHと塩濃度で動く:緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。の条件が変われば比も変わります。水で希釈すると値がぶれやすいのはこのためです
- 「純度」ではない:核酸の分解物(短い断片)も260 nmを吸います。分解していても比は正常に見えることがあります
つまりこの比は、混入の傾向を見るスクリーニングであって、規格として使うには弱い指標です。230 nmの吸収(A260/A230)を併せて見れば、有機溶媒やカオトロープタンパク質の立体構造を崩して変性させる試薬で、封入体の可溶化や巻き戻し前の展開などに使われます。詳しく →の残留に気づけることがあります。
濁りが値を狂わせる仕組み
実務で最も厄介なのが、試料が濁っている場合です。
分光光度計が測っているのは、正確には「吸収された光」ではなく、検出器に届かなかった光です。透明な溶液であれば、届かなかった分=吸収された分と見なせます。
しかし粒子が入っていると、光は散乱によっても検出器から逸れます。装置はこれを吸収と区別できないため、見かけの吸光度が実際より高く出ます。
この影響は、LNP(脂質ナノ粒子)のように粒子そのものが製品である場合に深刻です。散乱の強さは粒子径mRNAなどを包む脂質ナノ粒子(LNP)の大きさと、有効成分を内包できた割合です。品質や効果に関わる指標です。詳しく →と濃度で変わるため、一律の補正も効きません。
従来の対処は次のいずれかでした。
- 粒子を壊してから測る:界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →で可溶化大腸菌内で不溶性の塊(封入体)になったタンパク質を可溶化し、正しい立体構造へ巻き戻して活性を回復させる操作です。詳しく →する。試料は失われます
- 散乱を差し引く:320 nmなど核酸が吸収しない波長の値を引く。近似にすぎません
- 蛍光法に切り替える:RiboGreenなどの色素を使う
近年は、積分球で散乱光を回収して吸収成分だけを取り出す手法(散乱フリー吸収分光)も報告されています。散乱そのものを打ち消す方向の解といえます。
蛍光法との使い分け
核酸定量では、吸光法と蛍光色素法が並立しています。
| 吸光法(A260) | 蛍光色素法 | |
|---|---|---|
| 測る対象 | すべての核酸と、260 nmを吸うもの全部 | 色素が結合したもの(dsDNA特異など) |
| 選択性目的物と不純物を、溶出位置をどれだけ離して分けられるかの度合い。分離の分解能を左右する。 | 低い。ヌクレオチド核酸を構成する単量体単位で、塩基・糖・リン酸から成り、DNAやRNAの最小構成要素。や分解物も拾う | 高い。二本鎖のみを見る等の選択が可能 |
| 感度 | 低い(µg/mLの領域) | 高い(ng/mLの領域) |
| 手間 | 希釈して測るだけ | 標準曲線既知濃度の標準物質を段階希釈して得た濃度とシグナルの関係曲線で、未知試料の濃度を逆算するために用いる。と試薬が要る |
用途が違います。総量を素早く知りたいなら吸光法、特定の形態を選択的に測りたいなら蛍光法という切り分けになります。LNPの封入率を求めるときに、界面活性剤の有無で2回測る蛍光法が使われるのは、この選択性を利用しているからです。
測定時に押さえること
最後に、値を信用できるものにするための実務です。
- 直線範囲分析法において、濃度と応答値の間に直線的な比例関係が成立する濃度域のこと。に入れる:吸光度がおおむね0.1〜1.0の範囲に収まるよう希釈します。高すぎると迷光の影響で頭打ちになり、低すぎるとノイズに埋もれます
- ブランクを揃える:測定に使った緩衝液そのものでゼロ点を取ります。水で取ると緩衝液成分の吸収が乗ります
- キュベットを確認する:紫外域を透過する石英を使います。プラスチックの多くは260 nmを吸います
- 微量測定の癖を知る:滴下型の装置は光路長が短く、表面張力や気泡で光路長が揺らぎます。繰り返し測って確認します
- 希釈の誤差:高濃度試料を大きく希釈すると、希釈操作の誤差が支配的になります
原理が単純なぶん、測定条件のずれがそのまま値のずれになるのがこの手法の性格です。工程管理や出荷判定に使うのであれば、どの条件をどこまで固定するかを手順に落とし込んでおく必要があります。
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを月数回お届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。