LNPの混合方式は量産まで再現できるか
処方検討の段階では、手元のマイクロ流体ミキサーで条件を振り、粒子径と封入率が整った組み合わせを見つける。多くの現場がそうやってmRNA-LNP試験管内転写(IVT)でmRNAを作り、脂質ナノ粒子(LNP)に封入して製剤化する一連の工程です。詳しく →の処方を詰めていきます。ところが同じ処方のまま量産用の設備に移した途端、数字が動く。原因を混合以外の工程に探して、時間を使ってしまうことも少なくありません。

BethianaらがNature Communications誌に2026年に発表した論文は、この揺れの正体を扱っています。処方を一切変えず、手動のピペット混合からラボの代表的なマイクロ流体ミキサー、量産で使う乱流(タービュレント)ミキサーまで、ミキサーだけを10種類変えてmRNA-LNPを作り分けたところ、粒子径・PDI・封入率mRNAなどを包む脂質ナノ粒子(LNP)の大きさと、有効成分を内包できた割合です。品質や効果に関わる指標です。詳しく →・内部構造までもが混合方式によって大きく異なった、というのが核心です。
本稿では、この論文が何を比べ、何を見つけたかを追います。そのうえで実在するミキサー製品に沿って、ラボと量産の間にある混合方式の違いを5分でたどります。
- 処方を完全に固定しても、10種類のミキサーで作ったmRNA-LNPは粒子径・PDI・封入率が大きく異なりました。
- 手作業のピペット混合で得られる粒子は、量産で使う乱流ミキサーの粒子とは似ていないと報告されています。
- どのミキサーで処方検討をしたかという情報自体が、スケールアップ後に数字が再現するかどうかを左右します。
この論文が言っていること
論文の実験デザインは単純です。脂質とmRNAの組成、濃度、流量比といった処方条件はすべて固定し、混合の方式だけを10種類変える(原著タイトルでは、1台のミキサーを2通りの流し方で使った分を数え「11の手法」としています)。その中には手動のピペット混合、ラボでよく使われるマイクロ流体ミキサー、そして商用生産で使われる乱流ミキサーが含まれます。
結果として出てきたLNPは、同じ処方から作ったとは思えないほど性質が違いました。粒子径やPDI粒子径分布の広がりを表す指標。DLSで会合や凝集の傾向を早期に捉えるのに使う。詳しく →(多分散指数)、封入率、さらには粒子内部の構造までもが、混合方式ごとに異なるプロファイルを描いたと報告されています。数値でも粒子径と封入率の間に負の相関が見られました。相関係数はr=-0.53、順位相関のρ=-0.51で、粒子が小さいミキサーほど封入率が高い傾向が一貫していたとされています。とりわけ目を引くのは、研究段階でよく使われる手動のピペット混合や、代表的なベンチ用マイクロ流体ミキサーで作った粒子が、量産で使う乱流ミキサーの粒子とは似ていなかったという指摘です。生物学的な性能でも、乱流ミキサーで作ったLNPmRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。が優位だったとされています。
「同じ処方なら同じLNPができる」という前提が、混合方式をまたぐと崩れることを、この論文は実測で示しています。
混合方式の違いを実在の技術で追う
抽象的な「マイクロ流体か乱流か」という分類を、実在する製品に置き換えると、論文が示す差の正体がつかめます。
ラボでの処方検討によく使われるのが、Cytiva(旧Precision NanoSystems)のNanoAssemblrです。Ignite/Ignite+では、トロイダル型の混合構造を内蔵した使い捨てカートリッジペン型インジェクターなどに装填する円筒容器。複数回投与や特定デバイスとの組合せで選ばれる。詳しく →(NxGen)を使い、少量のmRNAで再現性の高い混合を行います。同じ発想の別系統がヘリンボーン型のチップで、Darwin Microfluidicsが扱うHerringbone Mixerチップは、溝の形状でカオス混合を誘起する1枚3ユニットの消耗品です。低容量スクリーニングに特化した製品もあり、Inside TherapeuticsのTAMARAは、バッフル型とヘリンボーン型の2つの混合設計を1枚に統合したリバーシブルチップとして展開されています。同社が公開している技術資料によれば、700µLという少量条件でTAMARAとトロイダル型ミキサーを比べると、粒子内に入った核酸の割合そのもの(封入率、EE%)はほぼ同程度である一方、実際に無駄なく回収できた量の割合(封入収率、EY%)ではTAMARAが90%台を安定して出し、トロイダル型は最適化しても75%程度にとどまったとされています。これは論文本体の数字ではなく、あくまでメーカー自身の技術資料からの数字ですが、混合方式によって性能の出方が変わるという論文の主張と同じ方向を指しています。
量産側に近い技術としては、KNAUERのIJM Mixer(インピンジメントジェットミキサー)があります。脂質相とmRNA相を衝突噴流で急速に混合する方式で、IJM SingleCore/DuoCore NanoProducerのような高流速・連続生産培養から精製までを区切らず流れとしてつなぐ生産方式。ICH Q13が承認の道筋を示す。詳しく →向けの装置に組み込まれます。ラボのチップ混合とは流れの性質そのものが違い、ここが論文の言う「乱流ミキサー」に近い領域です。
確認すべきは、どのミキサーの数値が高いかではありません。自分が処方検討に使っているミキサーが、チップ内の層流でカオス混合を起こす方式なのか、衝突噴流のような乱流に近い方式なのかです。量産機がどちらに属するかを先に確認しておくと、スケールアップ後に数字がどちらへ動きうるかの見当がつきます。
この論文だけでは決まらないこと
どのミキサーを選ぶべきかは、この論文からは出てきません。論文が示すのは、混合方式が粒子の性質を左右するという実測結果までで、自社の処方でどの方式ならどの数値が出るかは、実際に測るしかありません。
mRNA-LNPの製造工程全体の中で、混合(LNP化)がどこに位置し、前後の工程とどうつながるかは、mRNA-LNPの製造工程で整理しています。また、この論文が指標のひとつとして扱う封入率(EE%)を実務でどう測り、どう規格化するかは、LNPの封入率(EE%)測定で扱っているRiboGreenDNAやRNAに結合して蛍光を出す色素です。核酸の量を高感度で測ったり、電気泳動で見えるようにするために使います。詳しく →アッセイの考え方が土台です。混合方式の違いが数字にどう出るかを突き止めるには、この測定の物差しが要ります。
論文は、混合方式が粒子の性質を左右することを示します。自社のミキサーでどう出るかを決めるのは、実測と規格化された測定法です。
参考文献
- Bethiana, T., Aljabbari, A., Li, Y., et al. "Effects of different mixing techniques on mRNA lipid nanoparticleイオン化脂質などでRNAを封入し細胞へ届ける脂質ナノ粒子。in vivo型の投与分子として使われる。詳しく → physicochemistry and biological performance." Nature Communications 17, 5890 (2026). DOI: 10.1038/s41467-026-72499-1
- Inside Therapeutics, Streamlining mRNA-LNP screening with TAMARA(Application Note)
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