ウイルスクリアランス試験は同時に2本回せるか
IND申請に向けてウイルスクリアランス試験規制当局への申請を支えるために、製造工程の各工程でウイルス除去・不活化能力を定量的に評価・文書化する一連の試験。詳しく →を組むと、まず日程表の厳しさに気づかされます。低pH不活化、ウイルスろ過、クロマトグラフィーそれぞれの工程で、レトロウイルス様粒子CHO細胞などが内在的に持ちうる、レトロウイルスに似た粒子。ウイルス安全性評価の主要な対象になる。詳しく →の代表としてXMuLV、パルボウイルスエンベロープを持たない極めて頑健な小型ウイルス。化学処理に強く、除去はサイズ排除のろ過が有効。詳しく →の代表としてMMVを別々にスパイク既知量の基準物質を試料に添加すること。質量分析のシグナルを濃度に結びつけてHCPを定量するために行う。詳しく →し、別々に流し、別々に測る。同じ工程を2回ずつ回すだけで、スケジュールも資材もほぼ倍に膨らみます。

Horneらが2026年にBiotechnology and Bioengineering誌に発表した論文は、この「別々に」をやめられないかを確かめました。XMuLVとMMVを同じロード液に同時にスパイクし、同じ工程に一度だけ流し、それぞれ専用のアッセイで別々に定量する二重スパイク法です。従来の単独スパイク試験既知量の不純物やウイルスをあえて加え、工程でどれだけ除去できるかを確かめる試験。詳しく →と同等のクリアランス結果を保ったまま、スパイク工程にかかる期間を50%、コストを28%、必要な資材を約30%削減したと報告しています。
本稿では、この二重スパイク法が何を変え、何を変えていないのかを確かめたうえで、実在するウイルス除去フィルター細菌より小さいウイルスを膜の微細な孔でふるい分けて取り除き、製剤の安全性を高めるためのろ過フィルターです。詳しく →や試験を請け負うCROの実務に沿って5分でたどります。
- XMuLVとMMVを同じロード液に同時にスパイクして1回の工程で流し、それぞれ専用のウイルス特異的アッセイで定量する二重スパイク法を、Horneらが2026年に報告しました。
- スパイク試験にかかる期間を50%、コストを28%、必要な資材量を約30%削減しながら、従来の単独スパイク試験と同等のクリアランス結果が得られています。
- 複数の精製工程で二重スパイクを試し、2種のウイルスが同時に存在しても互いの挙動に悪影響が出ないことを確認しています。
この論文が言っていること
早期段階のウイルスクリアランス製造工程がウイルスをどれだけ除去・不活化できるかを評価し、製品の安全性を確保する取り組みです。各工程の低減能力を対数の値で示します。詳しく →試験では、CHO細胞に内在するレトロウイルス様粒子の代表としてXMuLV、頑健な非エンベロープウイルス脂質膜(エンベロープ)を持つウイルス。低pHや界面活性剤で不活化しやすく、持たないものは頑健。詳しく →の代表としてMMVという2種が定番の組み合わせです。従来は、この2種を別々の実験系列としてスパイクし、それぞれ別のろ過・分析条件で流していました。
論文が確かめたのは、この2種を同じロード液に同時にスパイクし、同じ工程を一度だけ流したときに、単独スパイクと同じクリアランス結果が出るかという一点です。結果は同等でした。しかも複数の精製工程を横断して確かめてもなお、2種のウイルスが同時に存在することによる悪影響は見られなかったと報告しています。効果は数字にはっきり出ていて、スパイク試験にかかる期間が50%、コストが28%、必要な資材が約30%それぞれ削減されました。ただし、アッセイの設計はウイルスごとに変わります。たとえばProtein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →の溶出液クロマトグラフィーで担体に結合した目的物質を引きはがして回収するための緩衝液で、アフィニティ精製では低pHがよく使われます。詳しく →のような低pH条件では、XMuLVの感染性そのものが壊れてしまうため、感染価ベクターが実際に細胞へ入り遺伝子を発現させられる、機能を持つ粒子の数を測る指標。ゲノム力価との比が質の目安になる。詳しく →アッセイではなくRT-qPCRで検出する、という工程ごとの使い分けが要ります。
同じ液に2種類のウイルスを一緒に流しても、工程の除去能力そのものは変わらない。これがこの論文の核心です。
二重スパイクを実在の工程で追う
二重スパイク法が効く相手は、実際にウイルスの挙動を測る工程です。抗体精製でウイルス安全性を専用に受け持つのは、低pH保持によるエンベロープウイルスの不活化と、サイズで小型ウイルスまで物理的に除くウイルスろ過目の細かい膜で物理的にウイルスを除く精製工程。ウイルス安全性を担保する工程の一つ。詳しく →の2つです。後者の主なプレイヤーには、旭化成バイオプロセスのPlanova 20N/15N、MerckのViresolve Pro/NFP、SartoriusのVirosart HF/CPV商業生産が続く限り工程データを集め、管理状態が維持されているかを継続的に監視する活動です。詳しく →、PallのPegasus SV4/Primeが並びます。どのフィルターも、XMuLVのような大型のレトロウイルス様粒子とMMVのような小型のパルボウイルスとで、除去を担う孔径フィルター膜に存在する細孔の公称上の大きさを示す値で、保持できる粒子・微生物の最小サイズの目安となる指標(ただし実際の保持性能はバクテリアチャレンジ試験で実証される)。詳しく →の設計が変わる。二重スパイクは、この孔径ごとの違いをフィルターの前後で一度に確かめられる利点にもつながります。
試験そのものを請け負うのはCROです。論文の著者が所属するTexcell North America(ウイルスクリアランス専業)のほか、Charles River Laboratories、WuXi Biologics、MerckのBioReliance受託試験サービスなどが、スパイクからLRVの取得までを実務として引き受けています。
この論文を読んだあとに確認すべきは、「二重スパイクならどの工程でも自動的に速くなる」ということではありません。低pH保持のように条件自体がアッセイの感度に影響する工程では、ウイルスごとに検出手段を使い分ける必要が残ります。二重スパイクが縮めるのはスパイク作業と流す回数であって、工程ごとのアッセイ設計まで簡単にしてくれるわけではありません。
削れるのはスパイク工程の手間と資材であって、工程ごとのアッセイ設計はこれまでどおり要ります。
この論文だけでは決まらないこと
この論文が確かめたのは、XMuLVとMMVという2種の代表的なモデルウイルスを、早期段階の試験でまとめて流せるかという一点です。ライセンス取得に向けた本試験でいくつのウイルスをどう組み合わせるか、除去と不活化ウイルスの感染性を失わせること。低pH保持や溶媒/界面活性剤処理で、エンベロープウイルスに効きやすい。詳しく →のどちらの機序かを工程ごとに見極める必要があるか、LRVをどこまで積み上げれば十分と判断するか。ここは論文の射程の外で、ウイルスクリアランスとは?で扱っているICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく →の考え方が土台になります。
論文はスパイク試験を速くする工夫を示します。工程全体でどれだけのクリアランスを積み上げ、何をもって安全性を示すかを決めるのは、そこから先の規制対応です。
参考文献
- Horne HB, Lindsey TB, Wolfe LS, Chumbris S, Dickson M, Iheanacho A. Application of Dual Virus Spike Approach to Accelerate Early-Stage Viral Clearance Studies. Biotechnology and Bioengineering. 2026;123(1):186-195.
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q5A(R2). Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin. International Council for Harmonisation, 2023.
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