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抗体医薬基礎知識・製造工程シリーズウイルス対策をどう示すか4/8基本

ウイルス除去フィルターの選び方:膜材質と層構造の違い

Proglenth 編集部公開 2026-09-22更新 2026-10-18約5分で読めます
ウイルス除去フィルターの選び方:膜材質と層構造の違い

ウイルス除去フィルター細菌より小さいウイルスを膜の微細な孔でふるい分けて取り除き、製剤の安全性を高めるためのろ過フィルターです。詳しく →は、孔径フィルター膜に存在する細孔の公称上の大きさを示す値で、保持できる粒子・微生物の最小サイズの目安となる指標(ただし実際の保持性能はバクテリアチャレンジ試験で実証される)。詳しく →やウイルスの除去率がメーカー間でほぼ同じでも、膜の材質と層の構造によって現場での結果が変わります。材質が左右するのは、目的のタンパク質をどれだけ取りこぼさずに通せるかと、流せる量。構造が左右するのは、ポンプが止まって圧力が抜けたあとも、捕まえたウイルスを下流へ逃がさずにいられるかです。

ただし、圧力が抜けたあとの保持は層の数だけでは決まらず、メーカーが示す除去率も、どのウイルスをどこまで流して測った値かが分からないと比べられません。

この記事では、ウイルス除去フィルターの役割、膜材質の3系統、圧力が抜けたときの層構造の違い、詰まりと前処理、LRVの読み方、仕様確認で聞く項目を順に説明します。

この記事の要点
  • 膜材質は再生セルロース・PVDF・PESの3系統です。目的物の取りこぼしの少なさを重く見るか、処理量を重く見るかで寄せ先が変わります。
  • 圧力が抜けたあとに除去率を保てるかは、フィルターごとに違います。層の数だけで決めず、中断を含めた試験データで確かめます。
  • LRVは、どのウイルスを、どこまで流したときに測った値かが分からないと比べられません。

1. 精製の終盤に置く膜:ウイルス除去フィルターは、何を止め、何を通すのか?

ウイルス除去フィルターは、精製の後半に置く孔径が数十 nm の膜です。ウイルスを大きさで物理的に止め、抗体などの目的タンパク質は通します。低pH処理のようなウイルス不活化が効きにくい小型のパルボウイルスエンベロープを持たない極めて頑健な小型ウイルス。化学処理に強く、除去はサイズ排除のろ過が有効。詳しく →(18〜26 nm)にも効くので、不活化ウイルスの感染性を失わせること。低pH保持や溶媒/界面活性剤処理で、エンベロープウイルスに効きやすい。詳しく →と組み合わせて使われます。

除去性能を表す LRV(対数除去工程の前後で不純物やウイルスが何桁減ったかを対数で表す指標。除去能を定量的に示す。詳しく →値)は、ウイルスが何桁減ったかを示す数字で、4 なら1万分の1に減ったことを示します。

2023年11月に最終合意された ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく → は、複数の工程でウイルスを減らし、全体で余裕を持たせる考え方を取ります。全体像はウイルスろ過とは?とウイルスクリアランス報告書の読み方:合計の桁より先に見る点で解説しています。

カタログを並べると、孔径は20 nm前後、パルボウイルスの除去は4 log以上。どのメーカーもほぼ同じ数字です。それでも製品が何種類も使われ続けているのは、なぜか。ウイルスを止める力そのものではなく、膜の材質と層の構造に差があるからです。

材質と構造の差は、回収率の低下なら収量に、詰まりなら工程の時間と追加のフィルターに、中断のときの挙動ならバリデーションと逸脱承認された手順や規格から外れた事象。GMPでは発見したら記録し、製品品質への影響を評価してロットの可否を判断します。詳しく →対応に影響します。

2. 取りこぼしの少なさか、処理量か:膜材質の3系統は、何で選ぶのか?

膜の材質は大きく3つに分かれます。選ぶ軸は、目的のタンパク質をどれだけ取りこぼさずに通せるかと、どれだけの量を流せるかです。

材質代表的な製品狙い選ぶ前に確かめること
再生セルロースPlanova 15N・20N(旭化成)膜が水になじみ、タンパク質が付きにくい自社の液での回収率と処理量
PVDFPlanova BioEX(旭化成)、Viresolve NFP(Merck)高濃度で詰まりやすい液にも向ける自社の液での処理量と圧力の範囲
PES除菌フィルターなどに広く使われる膜素材。親水化処理で濡れ性や低吸着を高めた製品もある。詳しく →Viresolve Pro(Merck)、Virosart CPV商業生産が続く限り工程データを集め、管理状態が維持されているかを継続的に監視する活動です。詳しく →・HF(Sartorius)流量と処理量を稼ぐ詰まる液でプレフィルター本ろ過の手前に置き、粗い粒子をあらかじめ取り除いて後段フィルターの目詰まりを防ぎ、寿命を延ばすためのフィルターです。詳しく →が要るか

再生セルロースの Planova 15N・20N は、銅アンモニア法で再生したセルロースの中空糸です。膜自体が水になじむ(親水性)ため、タンパク質が付きにくく、血漿由来の大きなタンパク質でも回収率を保ちやすいとされます。

名前の 20N は孔径の区分で、実測の平均孔径は約19 nm。孔径の数字は呼び名として読み、実測値とは分けて考えます。

PVDF の Planova BioEX は、セルロースの代わりに親水化した PVDF の中空糸を使います。PES は、Viresolve Pro や Virosart のように、各社が流量や処理量を前面に出している系統です。

材質の違いは、現場では収量と時間に出ます。高価な目的物なら、わずかな取りこぼしも収量の損失として積み上がる。処理量が足りなければ、同じロットを流しきるために、面積を増やすかフィルターを追加します。

材質の違いは優劣ではなく、取りこぼしの少なさと処理量のどちらを重く見るかの違いです。吸着しやすい大きな分子なら再生セルロースやPVDF、大量の液を流したいならPESを候補にして、最後は自社の液で回収率と処理量を並べて比べます。

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3. 重要:圧力が抜けたら、捕まえたウイルスは下流へ逃げるのか?

ウイルス除去フィルターは、運転中ずっと圧力をかけて液を押し込みます。ところが製造では、ポンプの停止、シフト交代、途中のサンプリング、アラームなどで、圧力が途中で抜けることが珍しくありません。

圧力が抜けると、膜の中に捕まっていたウイルスが拡散して大きな孔のほうへ移り、圧力を戻したときに下流へ抜けることがある、と報告されています。止めていた時間が長いほど抜けやすいという報告もあります。この現象に備えて設計されているのが、膜の構造です。

Merck の Viresolve Pro は、孔を上流から下流へ細くしていく非対称の PES を二層にした構造です。Sartorius の Virosart CPV も非対称の PES で、運転圧力や圧力の休止に左右されず高い保持を保つと、データシートでうたっています。

ウイルス除去フィルターの断面を横から見た概念図。上の段は運転中で、圧力をかけて液を左の上流から右の下流へ押し込む。上流の液には、凝集体などの大きな粒子、ウイルス、目的のタンパク質が混ざっている。最初にプレフィルターがあり、詰まりの原因になる凝集体などを先に取る。その次にウイルス除去フィルター本体があり、孔が上流側で太く下流側で細い非対称膜の例として描かれている。ウイルスは孔が細くなった所で止まり、目的のタンパク質は膜を通って下流へ出ていく。下の段は圧力が抜けたときで、膜の中を拡大した3コマ。1コマ目は圧力がかかっていて、ウイルスは孔が細くなった所で止まっている。2コマ目は圧力が抜け、止まっていたウイルスが拡散して大きな孔のほうへ移ることがある。3コマ目は圧力を戻すと、液が流れ出して、ウイルスが下流へ抜けることがある。止めていた時間が長いほど抜けやすいという報告もある。
液の流れの向きと、前段・ウイルス除去膜の位置、圧力が抜けたときのウイルスの動きの概念図
図をダウンロード(会員・無料)

では、層が多いほど安心なのか。層の数だけで優劣は決まりません。同じ旭化成の Planova でも、20N と BioEX では処理を中断したあとの挙動が違いました。Penn State の研究チームが、ウイルスと同じ大きさの粒子を使って膜の中を顕微鏡で観察しています。処理を中断したあと、20N では捕まっていた粒子が動き、BioEX では動きませんでした。

PDA の Technical Report No. 41 は2022年に改訂され、フィルターの選び方や、最悪の条件を含むバリデーションを扱っています。

POINT
メーカーが「圧力が抜けても保持できる」と説明しているなら、その主張を自社の液と運転条件で確かめる試験を組みます。説明がない製品は、中断を含むデータがあるかを、メーカーに聞きます。

層の数という呼び名より、中断のあとも保持できたことを示すデータがあるかが、判断の材料です。

4. 詰まりと前処理:流量が落ちたら、何が起きるのか?

ウイルス除去フィルターは、処理の途中で詰まることがあります。原因は、液に含まれる凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →や変性したタンパク質が孔をふさぐこと。詰まると流量が落ち、同じロットを流しきれません。時間が延びるか、フィルターを足さなければなりません。

対策は、前段にプレフィルターを置いて、詰まりの原因を先に取ることです。Merck は Viresolve Pro の前段に Pro Shield を、Pall は Pegasus Prime の前段に Pegasus Protect を、Sartorius は Virosart Max を用意しています。本体と組み合わせる前段の製品は、メーカーごとに決まっています。

プレフィルターを使うなら、スケールダウンの試験も商用と同じ構成で組む必要があります。開発の早い段階で前段の有無を決めておくと、手戻りが減ります。

開発から商用へ上げるときは、小型の評価デバイスと大型品が同じ膜かどうかも確かめます。膜の種類が変わると、試験をやり直す範囲が広がります。

5. LRVの読み方:どのウイルスを、どこまで流したときの値なのか?

LRV は製品の性能を示す値です。ただし、試験の条件によっても変わります。値が動くのは、次の3点です。

  1. 止める相手の大きさ⁠:小型の非エンベロープウイルス脂質膜(エンベロープ)を持つウイルス。低pHや界面活性剤で不活化しやすく、持たないものは頑健。詳しく →(脂質の膜を持たないパルボウイルスなど、約20 nm 級)と、エンベロープ一部のウイルスが持つ脂質の外膜。レンチウイルスではVSV-Gなどをまとうが、温度・剪断・凍結融解に弱い。詳しく →を持つ大型のレトロウイルス(50 nm 以上)では、同じフィルターでも LRV が違います。Sartorius は Virosart CPV を、この小型と大型の両方を対象にした製品として説明しています。
  2. どこまで流したか⁠:詰まりが進んだ終盤は、始めと同じ除去率とは限らないため、処理量が書かれていない LRV は比較の材料になりません。
  3. 誰の条件で測ったか⁠:メーカーの LRV はメーカーの条件で測った値なので、自社の液での除去率は、自社のウイルスクリアランス試験規制当局への申請を支えるために、製造工程の各工程でウイルス除去・不活化能力を定量的に評価・文書化する一連の試験。詳しく →で確かめます。

孔径を小さくすれば、止まる相手は増えます。その代わり、通したい分子の回収率と処理量が下がります。

LRV は「4以上」と書いてあるかではなく、どのウイルスで、どこまで流して、自社の液でも確かめられるかで見ます。

6. 孔径とLRVだけでは決まらない:仕様確認と見積依頼では、何を聞くのか?

購買が見積を比べるときも、品質保証が報告書を読むときも、孔径とLRVだけでは決められません。見積依頼や報告書の確認では、次の項目を確かめます。

  • 目的物と止めたいウイルス⁠:目的物が大きい分子か、膜に吸着しやすいかを確かめ、そうなら再生セルロースと PVDF から比べます。止めたいウイルスが小型か大型かと、LRV がそのウイルスで測った値かも確かめます。
  • LRV の測定条件⁠:LRV が、どの液で、どこまで流して測った値かを尋ねます。
  • 中断と詰まり⁠:圧力が抜けたあとの保持を示すデータがあるかを確かめ、自社のウイルスクリアランス製造工程がウイルスをどれだけ除去・不活化できるかを評価し、製品の安全性を確保する取り組みです。各工程の低減能力を対数の値で示します。詳しく →試験に中断を入れるかを決めます。詰まりそうな液でプレフィルターを使うなら、本体と同じ構成で試験しているかを確かめます。
  • デバイスと完全性試験⁠:開発で使う小型デバイスと商用の大型品が同じ膜かを確かめます。完全性試験を使用前後のどの方法で行い、メーカーの手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →があるかも尋ねます。
  • E&L製造材料から製品側へ移りうる微量成分を扱う評価。抽出物と溶出物の把握と安全性判断を行う。詳しく → とバリデーションの資料⁠:抽出物・溶出物(E&L)の資料が使う液の条件に合っているかを確かめます。メーカーのバリデーション資料と、自社工程のバリデーションを分けて見ているかも見ます。

メーカーが資料を出していることと、自社の工程がバリデーション済みであることは別です。

材質別の製品とメーカーはウイルス除去フィルター、前段の製品はプレフィルターで比べられます。次に読むなら、使用前後の確認はフィルター完全性試験とPUPSIT、選定の基本的な問いは孔径とLRVだけ見て選んでいい?、Planova の使いどころはウイルス除去フィルターで小型ウイルスを止めるです。

参考文献

  • ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q5A(R2): Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin(Step 4:2023年11月)
  • Nazem-Bokaee H, Chen D, O'Donnell SM, Zydney AL. New insights into the performance characteristics of the Planova-series hollow-fiber parvovirus filters using confocal and electron microscopy. Biotechnol Bioeng. 2019;116(8):2010-2017. DOI: 10.1002/bit.26991
  • PDA, Technical Report No. 41 (Revised 2022): Virus Retentive Filtration
  • Asahi Kasei Bioprocess, Planova 15N / 20N / 35N Virus Removal Filters 製品情報
  • Asahi Kasei Bioprocess, Planova BioEX Virus Removal Filters 製品情報
  • Sartorius, Virosart CPV Capsule データシート(非対称PES膜、20 nm 公称孔径)
  • Merck, Viresolve Pro Solution 製品情報(二層の非対称PES、Pro Shield)
  • Pall(Cytiva), Pegasus Prime / Pegasus Protect 製品情報
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シリーズウイルス対策をどう示すか4 / 8 本目
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  2. 2低pHウイルス不活化とは?酸に置く条件の幅が狭いのはなぜか
  3. 3ウイルスろ過とは?低pH処理のあと、なぜ膜でも止めるのか
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  5. 5ウイルス除去フィルターの孔径とLRVは何を表す?数字だけで選べない理由
  6. 6LRVは工程ごとに足していい?足せる行と外す行
  7. 7ウイルス除去フィルターPlanovaの選び方:グレードと運転の確かめ点
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この記事の目次
  1. 1. 精製の終盤に置く膜:ウイルス除去フィルターは、何を止め、何を通すのか?→
  2. 2. 取りこぼしの少なさか、処理量か:膜材質の3系統は、何で選ぶのか?→
  3. 3. 重要:圧力が抜けたら、捕まえたウイルスは下流へ逃げるのか?→
  4. 4. 詰まりと前処理:流量が落ちたら、何が起きるのか?→
  5. 5. LRVの読み方:どのウイルスを、どこまで流したときの値なのか?→
  6. 6. 孔径とLRVだけでは決まらない:仕様確認と見積依頼では、何を聞くのか?→
  7. 参考文献→
シリーズ4 / 8
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  1. 1ウイルスクリアランスとは?合計の桁だけで判断できないのはなぜか
  2. 2低pHウイルス不活化とは?酸に置く条件の幅が狭いのはなぜか
  3. 3ウイルスろ過とは?低pH処理のあと、なぜ膜でも止めるのか
  4. 4ウイルス除去フィルターの選び方:膜材質と層構造の違い
  5. 5ウイルス除去フィルターの孔径とLRVは何を表す?数字だけで選べない理由
  6. 6LRVは工程ごとに足していい?足せる行と外す行
  7. 7ウイルス除去フィルターPlanovaの選び方:グレードと運転の確かめ点
  8. 8ウイルスクリアランス試験は2種を同時に流せる?二重スパイク法の論文
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  5. 5. LRVの読み方:どのウイルスを、どこまで流したときの値なのか?→
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