抗体医薬基礎知識・製造工程

ウイルス除去フィルターの膜材質と層構造

ウイルス除去フィルター細菌より小さいウイルスを膜の微細な孔でふるい分けて取り除き、製剤の安全性を高めるためのろ過フィルターです。詳しく →を選ぶとき、カタログで最初に目が行くのは孔径と LRV(対数除去工程の前後で不純物やウイルスが何桁減ったかを対数で表す指標。除去能を定量的に示す。詳しく →値)です。20 nm、パルボで 4 log 以上、レトロで 6 log 以上。数字は各社ほぼ同じ桁に並び、そこだけを見ていると差が見えません。

ウイルス除去フィルター#ウイルスクリアランス#精製#抗体医薬#工程内管理
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ウイルス除去フィルターの膜材質と層構造

同じ桁なのに製品が分かれているのは、止める性能ではないところで差が付いているからです。⁠膜の材質が再生セルロースTFF膜の素材の一種。タンパク吸着が低く洗浄性や苛性耐性に優れ、高い回収率につながる。詳しく →か PVDF か PES除菌フィルターなどに広く使われる膜素材。親水化処理で濡れ性や低吸着を高めた製品もある。詳しく → かで、タンパク質の吸着と回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →が変わります。⁠そして単層か非対称の二層かで、圧を抜いて掛け直したときに除去率が保たれるかどうかが変わります。製造では、ポンプが止まることもシフトが変わることもあり、そのたびに膜へ掛かる圧が抜けます。どちらも、カタログの LRV を見ているだけでは出てこない差です。そして後者は、バリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。詳しく →で必ず問われる条件でもあります。

呼び値の 20 nm という表示も、実測の平均孔径とそのまま一致するわけではありません。本稿では、膜材質の3系統がそれぞれ何を狙っているのかから、単層と二層の構造差が実際の運転で出る場面、中空糸と平膜の使い分け、LRV という数字の読み方、面積の刻みとスケールアップ小型培養で確立した条件を、より大きなバイオリアクターへ拡大する取り組みです。酸素供給の指標kLaなどを揃え、性能を再現します。詳しく →、そして選定の順番まで、工程の流れに沿って整理します。

この記事の要点
  • 膜材質は再生セルロース・PVDF・PESの3系統で、吸着の少なさと処理量のどちらを採るかが分かれます。
  • 単層と非対称二層では、圧を抜いて掛け直したときの除去率の保ち方が違います。
  • LRVは流量と処理量で動くので、どこまで流したときの値かを見ないと比較になりません。

膜材質の3系統 ― 再生セルロース・PVDF・PES

ウイルス除去フィルターの膜は、大きく3つに分かれます。

1つ目が再生セルロースです。旭化成メディカルの Planova 20N と 15N は、銅アンモニアグルタミンの代謝と化学分解で生じる代謝副産物。蓄積すると増殖・生存を落とし、糖鎖の質にも影響する。詳しく →法で再生したセルロースの中空糸細い管状の膜を束ねたろ過モジュール。接線流ろ過の膜面として細胞保持に使う。詳しく →を使います。膜そのものが親水性なので、タンパク質の吸着が少ない。血漿由来の免疫グロブリンや、340 kDa分子の質量を表す単位。水素原子1個ぶんの重さをおおよそ1とし、抗体は約15万ダルトンの大きな分子。詳しく → ある第VIII因子のような大きいタンパク質でも回収率を保てます。

2つ目が PVDF です。同じ旭化成メディカルの Planova BioEX は、セルロースをやめて親水化した PVDF にした版です。Pall/Cytiva の NOVASIP DV20 / DV50 も親水化 PVDF で、160 kDa までのタンパク質を95%以上通すとしています。

3つ目が PES です。Merck の Viresolve Pro、Sartorius の Virosart CPV商業生産が続く限り工程データを集め、管理状態が維持されているかを継続的に監視する活動です。詳しく → と HF、Pall/Cytiva の Pegasus Prime がここに入ります。PES は処理量を稼ぎやすい側で、Virosart HF は 2 bar で 340 LMH、1 m² あたり 7 kg 超という値を出しています。

材質の選択は、吸着の少なさを採るか、流れる量を採るかの選択に近い形になります。

単層と非対称二層 ― 圧を掛け直したときに差が出る

構造の側にも軸があります。

Planova の N シリーズは単層です。孔径フィルター膜に存在する細孔の公称上の大きさを示す値で、保持できる粒子・微生物の最小サイズの目安となる指標(ただし実際の保持性能はバクテリアチャレンジ試験で実証される)。詳しく →の違う層を重ねて段階的に捕まえるのではなく、1つの層で分けます。構造が単純なぶん挙動が読みやすく、完全性試験の解釈も素直になります。

これに対して Sartorius の Virosart CPV は、非対称の PES を二層にしています。孔を上から下へ細くしていく構造で、圧を変えても、途中で止めて掛け直しても除去率が落ちにくいとされます。Merck の Viresolve Pro も二層の PES です。

この差が効くのは、実際の製造で起きる中断です。ポンプが止まる、シフトが変わる、途中でサンプリングする。圧が抜けたあとに掛け直すと、いったん膜に捕まっていたウイルスが押し出される現象が知られています。ウイルスクリアランス試験では、この中断を含めた条件で確かめることが求められます。

POINT
中断と再加圧は、バリデーションで必ず問われる条件です。構造の説明が「圧を掛け直しても落ちにくい」と書いてあるなら、その主張を自社の条件で確かめる試験を組みます。書いていない製品は、書いていないという事実込みで評価します。

中空糸か平膜か ― 面積の作り方が違う

形式の違いは、面積をどう作るかの違いです。

中空糸は、細い管を束ねて面積を稼ぎます。Planova 20N は 0.001 m² の小型から 1.0 m² まで。Sartorius の Virosart HF は、試験用の 1.7 cm² と 5 cm² から、200 cm²・0.2 m²・0.8 m²・2.4 m²、製造用の 14.4 m² まで5桁ぶんそろっています。

平膜は、シートを重ねるかプリーツに折って面積を作ります。Merck の Viresolve Pro は小さいほうの Modus が 0.017/0.07/0.22 m²、大きいほうの Magnus が 0.51/1.53 m²。Virosart CPV は試験用の 0.0177 m² から 0.2・0.7・1.4・2.1 m² まで並びます。Pall/Cytiva の NOVASIP はカプセルにプリーツを収めた形で、公称ろ過面積は 0.07 m² です。

Viresolve Pro が「開発から製造まで同じ膜で上げられる」と書いているのは、そこを売りにしているからです。

中空糸か平膜かより、開発で使った膜と商用で使う膜が同じであることのほうが、後の日数に重く効きます。

LRVという数字の読み方 ― どこまで流したときの値か

LRV製造工程がウイルスをどれだけ除去・不活化できるかを評価し、製品の安全性を確保する取り組みです。各工程の低減能力を対数の値で示します。詳しく → は、フィルターの前後でウイルス量が何桁減ったかを示します。

ここで見落とされやすいのが、LRV が流量と処理量で動く点です。Pall/Cytiva の Pegasus Prime は、比較試験同一ロットの検体を移管元と移管先の両方で試験し、あらかじめ決めた許容差内かで同等性を判定する方式。詳しく →で 20 L/m² まで流しても LRV 4 を下回らなかったという書き方をしています。逆に言えば、⁠どこまで流したときの値かが書かれていない LRV は、比較の材料になりません。

処理量によらないという主張を前面に出す製品もあります。Planova 20N は、ブタパルボウイルス(PPV)の除去が処理量を増やしても 4.0 LRV を割らないとしています。IgG 溶液では 5.8〜7.3 LRV という報告もあります。Planova BioEX は、72時間連続で流してもブタパルボの LRV が 5.5 を超えたとしています。

小型ウイルスと大型ウイルスで桁が違うことにも注意が要ります。非エンベロープ脂質膜(エンベロープ)を持つウイルス。低pHや界面活性剤で不活化しやすく、持たないものは頑健。詳しく →の小型(パルボ・MVM、18〜26 nm)と、エンベロープ一部のウイルスが持つ脂質の外膜。レンチウイルスではVSV-Gなどをまとうが、温度・剪断・凍結融解に弱い。詳しく →を持つ大型(レトロ・MuLV、50 nm 以上)では、同じフィルターでも値が変わります。Virosart CPV はパルボで 4 log 超、レトロで 6 log 超。NOVASIP DV20 は 20 nm 級と 25 nm のファージ細菌に感染するウイルス。表面に抗体断片を提示させ、その設計図の遺伝子と一体で選抜に使う。詳しく → PP7 で 3 以上、50 nm 以上のウイルスと 53 nm の PR772 で 6 以上です。

LRV は製品の性能であると同時に、試験の条件です。条件を揃えないまま並べた表は、順位を作れません。

孔径15nmと20nmのあいだ

孔径をもう一段下げる選択もあります。

Planova 15N は1992年に、パルボウイルスエンベロープを持たない極めて頑健な小型ウイルス。化学処理に強く、除去はサイズ排除のろ過が有効。詳しく →B19(18〜26 nm)のような小さいウイルスを狙って平均孔径 15 nm で出されました。20N より通りにくいぶん、確実に止める側に振ってあります。孔径とウイルスの大きさが近いので、ブタパルボで 4.4 LRV という報告があります。

15N と 20N を合わせると、検証試験のおよそ半分でパルボが検出限界検出できる最小量。分析法の性能を示すバリデーション項目の一つ。詳しく →を下回り、検出された場合でも平均 LRV は 4 を超えています。ただし通りにくいということは、目的物の回収率と処理量が下がるということでもあります。

Planova 20N も、名前は 20N ですが実測の平均孔径は 19±2 nm です。呼び値は区分を示す名前であって、実測値そのものではありません。ウイルスろ過のグレードを比べるときは、この呼び値の性質を踏まえておく必要があります。

孔径を下げれば止まる相手は増えますが、通したい分子と処理量が同じだけ削られます。

選定の順番と、前段の設計

最後に、決める順序を整理します。

先に決めるのは、止めたいウイルスの大きさです。ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく → の枠組みで、どの工程で何 log 稼ぐかを配分し、そのうちウイルスろ過目の細かい膜で物理的にウイルスを除く精製工程。ウイルス安全性を担保する工程の一つ。詳しく →に割り当てる桁を決めます。ここで 20 nm 級か 50 nm 級かが決まります。

次に材質です。目的物が大きい、あるいは吸着しやすい分子なら、再生セルロースか親水化 PVDF の側へ寄せます。処理量を稼ぎたいなら PES 系が候補になります。

そのうえで、中断と再加圧を含む条件で除去率を確かめます。詰まりが出るなら前段を足す設計になります。Virosart HF は詰まるときに前段へ Virosart Max を足す構成、Viresolve Pro は Pro Shield を同じ面積でそろえています。

POINT
ウイルス除去フィルターは単回使用が基本ですが、例外もあります。Virosart CPV はメーカーが2サイクルまでの使い回しを認めています。NOVASIP は 125℃ の蒸気滅菌に1時間×3回かけられ、短時間なら 6.2 bar まで耐えます。使い方の前提が製品ごとに違うので、そこも仕様として拾います。

参考文献

  • ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q5A(R2): Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin
  • Asahi Kasei Bioprocess, Planova 15N / 20N / 35N Virus Removal Filters 製品情報
  • Asahi Kasei Bioprocess, Planova BioEX Virus Removal Filters 製品情報
  • Sartorius, Virosart CPV / Virosart HF 製品情報(膜構造と面積の刻み、流束と処理量)
  • Merck, Viresolve Pro Solution 製品情報(Modus / Magnus の面積と Pro Shield)
  • Pall(Cytiva), Pegasus Prime / NOVASIP DV20・DV50 製品情報(処理量と LRV の関係、耐圧・滅菌条件)

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。