デプスフィルターの選び方:珪藻土の有無と荷電の強さ

デプスフィルターのカタログに「0.2 µm」と書いてあっても、除菌フィルター0.2µm前後の細かい孔で液を通し、細菌などの微生物を捕らえて無菌のろ液を得るための除菌用フィルターです。詳しく →の0.2 µmとは意味が違います。膜は主にサイズで粒子を止めます。デプスフィルターは、ろ材の厚みの中で、ふるい分けと吸着の両方を使って粒子を捕捉するからです。
そのため、グレード表に並ぶ保持粒子径を比べるだけでは選べません。決め手は2つ。ろ材に珪藻土(珪藻の殻が堆積した無機の粉体)などの無機成分が入っているかと、ろ材が荷電を持っているかです。前者は抽出物やエンドトキシン試験微生物そのものでなく、グラム陰性菌由来の発熱性物質エンドトキシンの量を測る試験。詳しく →の解釈に、後者は宿主細胞タンパク質(HCP)や DNA をどこまで同時に除去できるかに関わります。
培養液の清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →(細胞と細胞破砕物を除き、後段のカラムを保護する工程)を組むプロセス開発の担当者にも、見積もりを比べる購買担当者にも、グレードの数字より先にメーカーへ確かめておきたいことがあります。
デプスフィルターの保持粒子径は、ふるい分けと吸着のどちらで決まるのか?
両方です。公称の保持粒子径は、ふるい分けと吸着の2つを合わせた実測の捕捉率から決めた目安なので、ろ材の欄とセットで読みます。
デプスフィルターは清澄化で、遠心分離の後段か、遠心分離の代わりに置きます。役割は、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく → カラムや除菌フィルターの目詰まり微粒子や凝集体、タンパク層が膜の孔を塞いでろ過が落ちる現象。プレフィルターでの前段保護が効く。詳しく →を防ぐ前処理です。捕捉の仕組みは2つあります。
| 捕捉の仕組み | 何が起きるか |
|---|---|
| ふるい分け | 繊維の隙間より大きい粒子が通れずに止まる |
| 吸着 | 隙間より小さい粒子が、ろ材の表面に吸着する |
同じ公称値でも、ろ材が違えば挙動が変わるのはこのためです。
珪藻土の有無で、4つのろ材は抽出物とエンドトキシン試験への影響がどう変わるのか?
珪藻土は吸着容量を上げますが、無機の抽出物とロット間のばらつきも持ち込みます。何を避けたいかで、ろ材を選びます。
珪藻土をセルロース繊維に配合すると、表面積が増えて吸着容量が上がります。Merck の Millistak+ HC は、セルロースに珪藻土を配合し、レジンバインダーで荷電を与えた構成。この分野の基準になってきた製品です。
一方で、珪藻土やセルロースを避けたい理由もあります。
- 珪藻土:天然の鉱物なのでロット間のばらつきがあり、金属イオンなどの無機の抽出物が出る。
- セルロース:エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →試験のライセート試薬に干渉するβ-グルカンの由来になりうる。
エンドトキシン試験で説明のつかない値が出たとき、上流のデプスフィルターが疑われる場面があります。
| ろ材 | 例 | 狙い | 先に確かめること |
|---|---|---|---|
| 珪藻土入り | Merck Millistak+ HC | 吸着容量を稼ぐ | 無機の抽出物とロット間のばらつき |
| 高純度セルロース | Pall Seitz Bio、Eaton BECOPAD | 無機成分を入れない | セルロース由来のβ-グルカンの影響 |
| 全合成 | Merck Millistak+ HC Pro | 珪藻土もセルロースも使わない | 処理容量の主張を自社の液で確かめる |
| ポリプロピレン単体 | Merck Clarisolve 60HX | 材質を1つに絞る | 前処理で粒子を大きくする設計 |
各社の資料に書かれた構成は次のとおりです。
- Pall Seitz Bio:高度に精製した天然・改質セルロース繊維だけで作り、珪藻土、パーライト、ガラス繊維を含まない。
- Eaton BECOPAD:無機成分を加えず、0.2〜5.0 µm を13グレードに分けている。
- Merck Millistak+ HC Pro:珪藻土もセルロースも使わない。ただしシリカ系のろ過助剤は入るので、無機成分がゼロというわけではない。
- Merck Clarisolve 60HX:セルロースも無機のろ過助剤も使わない、ポリプロピレン単体のろ材。
Millistak+ HC Pro について、メーカーは2017年の発表で、全合成のろ材は珪藻土系の製品に比べて最大2倍のろ過容量があり、使用前のフラッシュの推奨量も50%減ると説明しました。β-グルカンの干渉もなくせるとしています。いずれもメーカーの主張で、自社の培養液での確認が要ります。Pod のハードウェアは従来の HC と共通なので、既設の装置のまま、ろ材だけを切り替えられます。
- 無機の抽出物だけを避けたいなら、高純度セルロースで足ります。
- β-グルカンの干渉や材質の評価まで軽くしたいなら、全合成かポリプロピレンを検討します。
重要:正荷電のデプスフィルターで、HCP・DNA の除去と工程条件はどう変わるのか?
正荷電は、ふるい分けでは止まらない HCP や DNA まで吸着させます。その代わり、目的物の等電点や工程の pH・導電率液のイオン強度の目安となる電気の通りやすさ。バッファ調製やクロマト制御で監視する。詳しく →という条件が増えます。
哺乳類細胞の培養液では、細胞破砕物、DNA、HCP の多くが負に帯電しています。ろ材に正の荷電を持たせると、これらが静電相互作用で吸着され、ふるい分けでは止まらない大きさのものまで同時に捕捉されます。
Zeta Plus は、この考え方で荷電を段階に分けた製品です。
| シリーズ | 構成(メーカーの資料) | 用途 |
|---|---|---|
| SP | 高表面積の無機粒子に、セルロースと正荷電の架橋ポリマーを組み合わせた6グレード | 清澄化 |
| ZB | SP より荷電が強く孔径が小さい5段 | 二次清澄化と、後段の除菌フィルターの保護 |
Zeta Plus は、3M から Solventum を経て、2025年9月2日の精製・ろ過事業の買収完了で Thermo Fisher Scientific の製品になりました。製品名が同じでも、供給元や品質契約の窓口は確かめ直す場面があります。
荷電を持たせない設計もあります。Clarisolve 60HX と BECOPAD は荷電なしです。荷電は不純物を引き寄せますが、等電点によっては目的物まで吸着させます。回収率を優先する場面や、pH と導電率を振る工程では、荷電が変数を1つ増やします。

荷電を強めていくと、どこかでデプスフィルターとは呼べなくなります。3M 由来の Emphaze AEX Hybrid Purifier は、四級アミンのハイドロゲルを極細繊維の不織布に担持し、下流側に非対称ポリアミド膜を置いた構成です。メーカーの資料では、珪藻土を使わずに DNA、HCP、エンドトキシンを除去するとされています。後段の陰イオン交換のフロースルーで除去するはずだった不純物を、清澄化の段階で先に減らす考え方です。
- 荷電は、清澄化の段階で不純物を除く手段になります。
- その分、吸着容量を使い切ったあとの挙動まで管理する必要があり、清澄化の管理項目はクロマトグラフィーに近づきます。
二層構造のデプスフィルターは、前処理に合わせて一次・二次清澄化にどう割り当てるのか?
一次・二次清澄化にどのグレードを割り当てるかは、前処理で粒子をどこまで大きくしたかで決まります。
多くのデプスフィルターは、粗い層と細かい層を重ねた二層構造です。Sartorius の Sartoclear DL は、この関係が分かりやすい例です。
| グレード | 1層目/2層目 | 位置づけ |
|---|---|---|
| DL90 | 15 µm/2 µm | 最も粗い。遠心分離比重差を利用して固形分を沈降・分離する操作。清澄化では大きな細胞塊や固形分の粗取りに使う。詳しく →の代わりに一次清澄化を担う |
| DL60 | 8 µm/0.8 µm | 一次にも二次にも使える |
| DL20 | 0.8 µm/0.4 µm | 二次清澄化の専用 |
前段に何を置くかで、割り当ては変わります。酸沈殿や凝集剤で粒子を大きくしてから通液するなら、粗いグレードで受けて二次清澄化を省ける場合があります。Merck の Clarisolve 20MS は酸沈殿で 20 µm まで大きくした粒子、40MS は従来型の凝集剤で 40 µm という前提です。中和や沈殿で前処理するかどうかが、そのままグレードの選択に関わります。
面積の刻みも、開発期間に影響します。Millistak+ の検討用 μPod は 23 cm²、製造用の Pod は 0.11、0.55、1.1 m² で、最小と最大で面積は約500倍違います。小スケールで決めたグレードを、同じ系列の大きな筐体へそのままスケールアップできるかを確かめます。
よくある失敗
いちばん多いのは、保持粒子径の表だけで比べる失敗です。 公称の0.2 µmは膜の0.2 µmとは違うので、ろ材の種類と荷電の有無を並べて見ないと、候補は絞れません。
| 失敗 | 何が起きるか |
|---|---|
| ろ材を替えたのに、評価を引き継ぐ | Pod の筐体が共通でも、ろ材が変われば、抽出物、使用前のフラッシュ量、エンドトキシン試験、HCP の除去率は再評価になる |
| 荷電のあるろ材を、目的物の等電点と工程の pH を見ずに選ぶ | 不純物と同時に目的物も吸着され、回収率が下がる |
| 前処理を変えたのに、グレードをそのままにする | 酸沈殿や凝集剤の条件で粒子の大きさが変わり、粗いグレードで受ける前提が崩れて二次清澄化の負荷が増える |
小型のカプセルでグレードを絞り込み、決まったものを同じ系列の大きな筐体へスケールアップします。系列をまたいで移すとろ材が変わるので、実測のやり直しになります。
明日から確かめられること
メーカーへの仕様確認や見積依頼に、次の項目を使えます。
- ろ材の構成:珪藻土、パーライト、セルロースの有無。抽出物とエンドトキシン試験への影響の資料
- 荷電:有無と強さ。目的物の等電点と、工程の pH、導電率との関係
- 前処理:遠心分離、酸沈殿、凝集剤のどれか。それに合う粒子径の前提
- スケールアップの道筋:小スケールの検討品と、製造用の筐体が同じ系列でつながるか。面積の刻み
- フラッシュ:使用前の条件と、使うバッファの量
- 供給と契約:供給元と品質契約。事業の譲渡や変更の連絡が届く窓口
候補の製品は、デプスフィルター、前段のプレフィルター、カプセルフィルター、後ろの除菌フィルターの製品ページで比べられます。清澄化全体の面積と濁度の決め方はハーベスト・清澄化とは?で、膜まで含めた選び方はバイオプロセスのろ過膜の選び方で読めます。落とした不純物の管理はHCPの管理と残存DNAで続きます。
参考文献
- Merck, Millistak+ HC Pro Filters 製品情報(全合成ろ材の構成と処理容量)。MilliporeSigma 2017年の製品発表(全合成ろ材は珪藻土系の最大2倍の容量、フラッシュ推奨量50%減、β-グルカンの排除)
- Merck, Clarisolve Depth Filters 製品情報(前処理を前提としたグレードと通液速度)
- Pall, Seitz Bio シリーズ 製品情報(精製セルロースのみ、珪藻土・パーライト・ガラス繊維を含まないろ材)
- Sartorius, Sartoclear DL 製品情報(DL90/DL60/DL20 の二層構造と保持粒子径)
- 3M / Solventum, Zeta Plus ZB / SP シリーズ 製品情報(荷電の強さと公称保持粒子径)
- 3M / Solventum, Emphaze AEX Hybrid Purifier 製品情報(Qアニオン交換ハイドロゲルの構成)
- Eaton, BECOPAD 製品情報(高純度セルロース13グレードと BECOPAD P)
- Thermo Fisher Scientific, Thermo Fisher Scientific Completes Acquisition of Solventum's Purification & Filtration Business(2025年9月2日)
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