抗体医薬基礎知識・製造工程

デプスフィルターの珪藻土と荷電をどう選ぶか

培養液の清澄化を組むとき、デプスフィルターろ材の厚み全体で不純物を捕らえる深層ろ過フィルターで、細胞培養液の清澄化など、細胞残渣や粒子を多く含む液の一次ろ過に使います。詳しく →のグレード表を前にして止まることがあります。同じメーカーの中に6グレードも13グレードもあり、保持粒子径mRNAなどを包む脂質ナノ粒子(LNP)の大きさと、有効成分を内包できた割合です。品質や効果に関わる指標です。詳しく →だけが並んでいる。1系列で 0.1 µm から 60 µm まで広がる製品もあります。ところが実際に選定を左右するのは、その数字ではありません。

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デプスフィルターの珪藻土と荷電をどう選ぶか

効いてくるのは2つです。ろ材に無機成分(珪藻土やパーライト)が入っているかどうかと、ろ材が荷電を持っているかどうか。前者は抽出物とエンドトキシンの評価に響き、後者は宿主細胞タンパク質(HCP)抗体を作る宿主細胞に由来し製品に残るタンパク質。代表的な工程由来不純物でELISA等で管理する。詳しく →や DNA をどれだけ一緒に持っていけるかを決めます。ロット間のばらつきも、この2つに紐づいて出てきます。保持粒子径は、そのうえで段を割り振るための目盛りにすぎません。公称 0.2 µm と書いてあっても、膜の 0.2 µm とは意味が違います。

どちらを重く見るかで、候補はグレード表を開く前に半分まで絞り込めます。本稿では、デプスフィルターが担っている2つの仕事から、珪藻土珪藻土などの粒子や凝集剤を加えてろ過層をつくり、目詰まりしにくくして固形分の分離を助ける補助材です。詳しく →が入る理由と抜く理由、珪藻土を使わない3つの道、荷電の強さが効く場面、荷電をクロマトまで振り切った製品、そして二層構造とどの段に置くかまで、工程の流れに沿って整理します。

この記事の要点
  • デプスフィルターはふるいと吸着の2つで粒子を捕らえるので、保持粒子径だけでは選べません。
  • 珪藻土を抜く道は3つあり、高純度セルロース単独、全合成、ポリプロピレン単体でそれぞれ狙いが違います。
  • 荷電はHCPとDNAを一緒に落とすかわりに、目的物の回収率と後段の負荷にも影響します。

2つの仕事を1枚でこなしている ― ふるいと吸着

デプスフィルターは、膜のように表面で止めるのではなく、厚みの中で捕まえます。

そのため捕捉の仕組みが2つあります。1つは物理的なふるいで、繊維の隙間より大きい粒子が通れずに止まります。もう1つは吸着で、隙間より小さい粒子でも、ろ材との相互作用で表面に張り付きます。

ここが膜との決定的な違いです。膜の 0.2 µm は「0.2 µm より大きいものを通さない」という意味ですが、デプスフィルターの公称 0.2 µm はそこまで厳密ではありません。メーカーが公称値として出しているのは、ふるいと吸着を合わせた実測の捕捉率から決めた目安です。

だから、同じ公称値でもろ材が違えば挙動が変わります。⁠保持粒子径を横並びで比べる表は、ろ材の欄とセットで見ないと意味を持ちません。

珪藻土が入る理由と、抜く理由 ― 吸着容量と抽出物のトレードオフ

珪藻土は、珪藻の殻が堆積してできた多孔質の無機粉体です。

これをセルロースの繊維構造に抱かせると、単位体積あたりの表面積が跳ね上がります。表面積が増えれば吸着の容量が増え、同じ厚みでより多くの夾雑物を抱え込めます。Merck の Millistak+ HC は、セルロースに珪藻土を抱かせ、樹脂バインダーで荷電を与えた構成で、この分野の事実上の基準になってきました。公称の保持粒子径は系列全体で 0.1 µm から 60 µm まで広がります。

抜きたい理由も、同じ無機成分から来ます。珪藻土は天然の鉱物なのでロット間のばらつきがあり、金属イオンをはじめとする無機の抽出物が出ます。加えてセルロース系のろ材は、エンドトキシン試験微生物そのものでなく、グラム陰性菌由来の発熱性物質エンドトキシンの量を測る試験。詳しく →で使うライセート細胞を壊してリボソームやtRNA、翻訳酵素群などの翻訳機構を取り出した液。無細胞合成の反応の中心になる。詳しく →試薬に干渉する β-グルカンの供給源になり得ます。一般に、エンドトキシン試験で説明のつかない値が出たとき、上流のデプスフィルターが疑われる場面があります。

POINT
珪藻土は吸着容量を稼ぐために入っています。抜けば抽出物は減りますが、同じ容量を別の手で作り直す必要があります。全合成のろ材が「同じ保持性能で処理容量が最大2倍」とうたうのは、抜いたぶんを設計で取り返したという主張です。

珪藻土を使わない3つの道 ― 高純度セルロース・全合成・単一樹脂

無機成分を抜く方法は、実際には3通りに分かれます。

1つ目は、高純度のセルロース繊維だけで作る道です。Pall の Seitz Bio シリーズは、高度に精製した天然・改質セルロース繊維だけで作り、珪藻土・パーライト・ガラス繊維を一切入れていません。Eaton の BECOPAD も無機成分を足さず、高純度セルロース繊維だけで 0.2〜5.0 µm を13グレードに分けています。鉱物成分なしで微生物の除去までこなす点を売りにしていて、低エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →の BECOPAD P も用意されています。

2つ目は、セルロースごと捨てて全合成にする道です。Merck の Millistak+ HC Pro は珪藻土もセルロースも使わず、すべて合成のろ材にしています。抽出物のばらつきが減るうえ、同じ保持性能で処理容量が珪藻土系の最大2倍になるとしています。Pod のハードウェアは従来の HC と共通なので、既設の装置のまま中身だけ入れ替えられます。

3つ目は、単一材質に絞る道です。Merck の Clarisolve 60HX はポリプロピレン単体で、セルロースも無機ろ過助剤も入っていません。スマートポリマーで 60 µm まで大きくした粒子を受ける前提の設計で、抽出物を嫌う工程で選ばれます。

抜き方が3通りあるということは、何を嫌って抜くのかが3通りある、ということです。⁠無機の抽出物だけが問題なら1つ目で足り、ロット間のばらつきまで嫌うなら2つ目、材質の評価そのものを軽くしたいなら3つ目になります。

荷電の強さは、どこで効くか ― 負に帯電した不純物の行き先

もう1つの軸が荷電です。

哺乳類細胞の培養液では、細胞の破片、DNA、宿主細胞タンパク質医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →(HCP)の多くが負に帯電しています。ろ材に正の荷電を持たせると、これらが静電的に引き寄せられ、ふるいでは止まらない大きさのものまで一緒に捕まります。

Solventum(旧3M)の Zeta Plus は、この考え方を段階で持っています。SP シリーズは高表面積の無機粒子にセルロースと正荷電の架橋ポリマーを合わせた6グレード。ZB シリーズはそれより荷電が強く孔径が小さく、公称の保持粒子径は 0.1・0.5・1・2・4 µm の5段です。ZB は哺乳類細胞の培養液を回収したあとの二次清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →と、後ろの除菌フィルターを守る用途に置かれます。

一方で、荷電を持たせない設計もあります。Merck の Clarisolve 60HX と Eaton の BECOPAD は荷電なしです。荷電は不純物を引き寄せますが、等電点抗体全体の正味電荷がゼロになるpH。電荷の性質を表す指標で、会合や粘度に関わる。詳しく →によっては目的物そのものも引き寄せます。回収率を優先する場面や、pH と導電率液のイオン強度の目安となる電気の通りやすさ。バッファ調製やクロマト制御で監視する。詳しく →を振る工程では、荷電が変数を1つ増やします。

荷電は不純物を落とす手であると同時に、工程条件に縛りを増やす手でもあります。

荷電をクロマトまで振り切った製品

荷電を強めていくと、どこかでデプスフィルターではなくなります。

Solventum の Emphaze AEX Hybrid Purifier は、四級アミンのハイドロゲル多量の水を含むゲル状材料。柔らかい組織向けの足場やバイオインクの担体に使う。詳しく →を極細繊維の不織布に担持し、その下に非対称ポリアミド膜を置いた構成です。珪藻土を使わないので抽出物が少なく、DNA・HCP・エンドトキシンを落とします。

これは清澄化の段で陰イオン交換のフロースルーを一段先取りしているのと同じことです。後段のフロースルークロマトグラフィーで担体に結合せず素通りして流れ出る画分。不純物を通過させて除く場合などに利用する。詳しく →研磨で落とすはずだった不純物を、ここで削る。残存DNAHCPの管理を前倒しできれば、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく → のあとの負荷が下がります。

ただし、前倒しにも代償があります。清澄化の段で不純物を吸着させるということは、その容量を使い切ったあとの挙動を管理しなければならないということです。破過フィルターの保持能力の限界を超え、除去対象の微生物や粒子がろ液側に通り抜けてしまう現象。詳しく →が起きれば、後段の設計が前提にしていた負荷が崩れます。⁠清澄化にクロマトの機能を持たせるなら、清澄化の管理項目品質に影響しうる要素を、規格や手順で規定し・実行し・記録し・検証する対象として管理するもの。GMPでは原材料から出荷判定まで多岐にわたります。詳しく →もクロマトに近づきます。

二層構造と、どの段に置くか

多くのデプスフィルターは、粗い層と細かい層を重ねた二層構造をとります。

Sartorius の Sartoclear DL シリーズは、この関係が読みやすい例です。DL90 は1層目 15 µm・2層目 2 µm で最も粗く、遠心分離の代わりに一次の粗取りを担います。DL60 は 8 µm と 0.8 µm で、一次でも二次でも使え、AAV のように一段で済ませて除菌フィルター0.2µm前後の細かい孔で液を通し、細菌などの微生物を捕らえて無菌のろ液を得るための除菌用フィルターです。詳しく →へ渡す組み方もできます。DL20 は 0.8 µm と 0.4 µm で最も細かく、二次清澄化専用です。

段の割り振りは、前段に何を置くかで変わります。凝集剤や酸沈殿で粒子を大きくしてから通すなら、Merck の Clarisolve のように粗い側で受けて二次清澄化を省ける場合があります。20MS は酸沈殿で 20 µm まで大きくした粒子、40MS は従来型の凝集剤で 40 µm という前提です。中和や凝集で前処理するかどうかが、そのままデプスフィルターのグレードを決めます。

面積の刻みも見ておきます。Millistak+ の Pod は 0.11/0.55/1.1 m² で、検討用の μPod が 23 cm²。Zeta Plus ZB は EXT のスケールアップ小型培養で確立した条件を、より大きなバイオリアクターへ拡大する取り組みです。酸素供給の指標kLaなどを揃え、性能を再現します。詳しく →版が 170/340/1,020 cm²、カプセルが 0.23 m² と 2.5 m² です。⁠小型で決めたグレードを、そのまま商用の面積へ持ち上げられる系列かどうかは、開発の日数に直接効きます。

POINT
グレードの絞り込みは小型のカプセルで行い、決まったものを同じ系列の大きい筐体へ持ち上げます。Pall の Supracap 100 のように、この用途に特化した小型品を用意している系列もあります。系列をまたいでグレードを移すと、ろ材が変わるので実測をやり直すことになります。

選定の順番

最後に、決める順序を整理します。

先に決めるのは材質です。無機の抽出物を許容できるか、β-グルカンの干渉を避けたいか、材質評価をどこまで軽くしたいか。ここで珪藻土の有無が決まり、候補が半分になります。

次に荷電です。HCP と DNA をここで削りたいなら荷電の強い側へ、目的物の回収率添加した既知量の標準物質に対して試験で実際に測定された値の割合を示す指標で、試験の正確さを表す。詳しく →を優先するなら弱い側か荷電なしへ。等電点と工程 pH の関係を見て決めます。

そのうえでグレードを、前段の処理(遠心・凝集・酸沈殿・灌流)と後段の除菌フィルターのあいだで割り振ります。最後に、小型で実測してから面積を積み上げます。保持粒子径の表を最初に見ないのが、この順番のいちばんの要点です。

デプスフィルターは、粒子を止める道具であると同時に、不純物を抱え込む道具です。どちらを主に使うかを先に決めれば、グレード表は最後に1回見るだけで済みます。

参考文献

  • Merck, Millistak+ HC Pro Filters 製品情報(全合成ろ材の構成と処理容量)
  • Merck, Clarisolve Depth Filters 製品情報(前処理細胞移植の前に患者へ行う処置。生着の場を空けるために既存の骨髄細胞を減らす目的で実施される。詳しく →を前提としたグレードと通液速度)
  • Sartorius, Sartoclear DL 製品情報(DL90/DL60/DL20 の二層構造と保持粒子径)
  • Solventum(旧3M), Zeta Plus ZB / SP シリーズ 製品情報(荷電の強さと公称保持粒子径)
  • Solventum(旧3M), Emphaze AEX正の電荷を帯びたクロマト担体で、負に帯電した分子を静電的に吸着して分離します。タンパク質精製や、DNA・不純物の除去に使われます。詳しく → Hybrid Purifier 製品情報(Qアニオン交換ハイドロゲルの構成)
  • Eaton, BECOPAD 製品情報(高純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →セルロース13グレードと BECOPAD P)

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。