Protein Aレジンの溶出pHはどう選ぶか:リガンドで決まる理由と、酸に弱い分子の場合

同じ抗体を同じ酸性条件に置いても、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →のカラムを通したあとのほうが凝集が速く進むことがあります。IgG4抗体を使った2015年の研究では、Protein Aの溶出液と、カラムを通さずに同じ低pHにさらしただけの液を比べると、前者の凝集がはっきり速く進みました。酸に弱い抗体では、溶出pHは結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →の数字より先に見る項目だという実例です。
では、溶出pHは運転条件で調整できるのか。ほとんど動かせません。溶出pHはバッファの工夫ではなく、レジンクロマトグラフィーで目的物や不純物を結合させる粒子状の充填材。精製モードごとに使い分ける。詳しく →に固定したリガンド(抗体と結合するProtein A)の設計でほぼ決まるからです。「もう少し高いpHで溶出したい」なら、実際にはレジンを替える話になります。
レジンを替えれば、洗浄条件も、後工程のウイルス不活化の組み方も変わります。工程を組む人にも、レジンを提案する営業や選定する購買にも、溶出pHは価格表に載らないのに、あとから効いてくる項目です。アルカリ耐性樹脂やリガンドが、CIPで使う水酸化ナトリウムなどの強アルカリ条件に繰り返し耐えられる性質。詳しく →との関係はProtein Aレジンのアルカリ耐性と溶出pHをどう選ぶかにあり、この記事は溶出pHの選び方に絞ります。
- 溶出pHは運転で動かせるのか:ほとんど動かせない。リガンドの設計で決まり、変えるならレジンを替える。
- マイルド溶出型は何と引き換えか:洗浄に使えるNaOH濃度の上限。
- 酸への耐性はどこで測るのか:バイアル中の抗体ではなく、Protein Aの溶出液で測る。
1. 溶出pHは、Fcとリガンドの結合でなぜ動かせないのか?
溶出pHは運転条件ではなく、レジンを選んだ時点で決まります。
Protein Aは抗体のFc領域に結合し、酸性にすると抗体が溶出します。結合は中性付近で起こります。pHを下げると、結合界面にあるアミノ酸(ヒスチジン弱酸性域で電荷が変わるアミノ酸。タンパク質の中では pH が下がると結合の仕方を変える要になり、製剤では弱酸性域の緩衝剤として抗体の安定化に使われる。詳しく →など)の電荷が変わり、相互作用が崩れて抗体が解離します。
どのpHで崩れるかは、リガンドのアミノ酸配列で決まります。そのため、バッファの工夫で動かせる幅は小さい。溶出pHを変えたいなら、実際にはレジンごと替える話です。
2. 標準型とマイルド溶出型:溶出pHを上げると、何と引き換えになるのか?
溶出pHを高くできるレジンは、洗浄の自由度と引き換えです。
一般的なレジンは、酸性のバッファで抗体を溶出します。酸に弱い分子のために、より高いpHで溶出できるよう作られたのがマイルド溶出型です。違いは次のとおりです。
| 項目 | 標準型 | マイルド溶出型(Praesto Jetted A50 HipH) |
|---|---|---|
| 溶出pH | pH 3〜4ほど | pH 4.5前後の穏やかな酸性で溶出できるとされる |
| 洗浄に使えるNaOH強アルカリの洗浄剤。タンパク質や核酸を分解する力が強く、Protein A樹脂のCIP・消毒に使われます。詳しく → | 例:MabSelect SuRe は0.1〜0.5 Mで洗浄できる(メーカー公表値) | 0.1 Mまでとされる(メーカー公表値) |
Purolite(Ecolab)の比較試験では、4種類のレジンのうち3種がpH 4前後かそれ以下で抗体を溶出したのに対し、HipHだけがはっきり高いpHで溶出しました。これはメーカーのデータです。替えるなら、洗浄手順とその効果の確認から組み直しになります。洗浄の組み方は再生・CIPの設計にまとめました。
標準型のなかにも差はあります。溶出pHはレジンごとにメーカー資料に載っていますが、測定に使った抗体や条件が違います。並べて比べるなら、自社の分子で測り直す前提です。
溶出pHを上げて得るもの(酸に弱い分子を高いpHで溶出できること)と、差し出すもの(洗浄に使えるNaOH濃度)は、同じ表に並べて判断します。
3. 重要:酸に弱い分子は溶出後も凝集が進む。凝集体はどこで実測するのか?
酸への耐性は、バイアル中の抗体ではなく、Protein Aの溶出液で測ります。
気をつけたいのは溶出の瞬間だけではありません。溶出液は酸性のまま保持されます。中和までの時間も、次の低pHウイルス不活化精製の途中で液を一定時間低いpHにさらし、混入しうるエンベロープウイルスを不活化するウイルス安全対策です。詳しく →の保持時間も、抗体は酸にさらされ続けます。冒頭の研究が示したのは、この間の凝集がProtein Aの溶出液では速く進むという事実でした。
そのため、バイアルに入れた抗体を酸性液に置く試験だけでは足りません。実際のProtein Aの溶出液を使い、次の条件を振ってサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →で凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →を測ります。
- 溶出pH
- 保持時間
- 中和のタイミング
凝集体は後工程のポリッシングで除去できます。ただし、そのぶん収率が下がり、負荷も増えます。
二重特異性抗体やFc融合タンパク目的タンパク質に抗体Fcを融合し、半減期などを付与した分子。詳しく →質には、酸に弱い例があります(二重特異性抗体の製造)。酸への耐性の測り方は強制劣化試験、凝集の背景は抗体の凝集で読めます。
開発の早い段階でpHと時間を振った実測を取っておけば、レジンの候補を絞る根拠に使えます。
4. 低pHウイルス不活化:溶出pHを上げると、後工程はどう組み直すのか?
溶出pHの選択は、キャプチャー工程だけでなく、ウイルス不活化の組み方まで同時に決めます。
定番の流れでは、pH 3〜4の溶出液に少し酸を添加してpH 3.5前後に合わせ、30〜60分ほど保持してウイルスを不活化ウイルスの感染性を失わせること。低pH保持や溶媒/界面活性剤処理で、エンベロープウイルスに効きやすい。詳しく →します(低pHウイルス不活化)。溶出液がもともと酸性なので、添加の手間が小さいからです。
溶出がpH 4.5付近だと、この前提が崩れます。
- 改めて酸を添加する:酸を避けるためにレジンを替えた意味が薄れる。
- 別の手段に組み替える:界面活性剤を使う不活化などの選択肢もある。
メーカーは、pH 4.5付近で溶出してもProtein A工程でモデルウイルスが減ることを示した資料を出しています。ただし、酸で不活化した結果ではなく、メーカーのデータです。自社の分子と、自社のウイルス試験で確かめます。
不活化の条件を変えると、ウイルスクリアランス試験規制当局への申請を支えるために、製造工程の各工程でウイルス除去・不活化能力を定量的に評価・文書化する一連の試験。詳しく →の組み直しが必要です。承認後なら、当局への変更手続きも絡みます。ウイルス安全性の全体の設計はウイルスクリアランスで、酸で不活化したあとの中和と析出物のろ過は低pH不活化の後工程で読めます。
5. レジン選定の順番は分子の弱点から。よくある失敗はどこか?
選ぶ順番は、結合容量の表からではなく、分子の弱点からです。
| 順番 | やること | 見るもの |
|---|---|---|
| ① | 自社の分子がどのpHで、どれだけの時間で凝集するかを実測する | 凝集体(SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。詳しく →) |
| ② | その条件に収まる溶出pHのレジンを並べる | メーカー資料の溶出pH |
| ③ | 洗浄条件が自社の設備で回せるかを見る | 洗浄に使えるNaOH濃度 |
| ④ | 残った候補を、自社の滞留時間で測り直して比べる | 動的結合容量(DBC)、ウイルス不活化との整合 |
起こりがちな失敗は、次のとおりです。
- 結合容量の大きい順に決める:溶出で凝集体が増え、後工程のポリッシング捕捉工程の後、電荷や疎水性の違いを使って残った副産物を削り純度を上げる磨き上げ精製。詳しく →で除去する負担を背負う。
- 溶出pHをバッファの工夫で動かせると考える:動かせる幅は小さく、実際にはレジンを替える話になる。
- マイルド溶出型を導入してから、洗浄に使えるアルカリが0.1 Mまでと気づく
- メーカーの試験に使われた抗体の結果を、自社の分子に当てはめる:酸への強さは分子ごとに違う。
- ウイルス不活化の組み直しを、レジンを決めたあとで考える
6. まとめ:溶出pHは、容量より先に分子の弱点から選ぶ
自社の工程と、検討しているレジンについて、次の点を確かめます。
- 凝集体のデータ:自社の分子で、pHと酸にさらす時間を振ったデータがあるか
- 溶出液での実測:その実験を、Protein Aの溶出液で行ったか
- 溶出pHの出どころ:候補のレジンの溶出pHは、どの抗体で測った値か
- 洗浄の上限:洗浄に使える水酸化ナトリウムの上限と、いまの洗浄手順との差
- 自社条件のDBC実際に液を流しながら測る、担体が破過するまでに結合できるタンパク質量。樹脂の使い切りの指標。詳しく →:自社の滞留時間で測ったDBC
- 中和までの時間:溶出から中和までの時間と、溶出液の凝集体の量
- ウイルス不活化:酸のまま続けるか、別の手段にするか。その試験データがあるか
メーカーには、「溶出pHは何の抗体で測った値ですか」「その条件で、酸に弱い分子の回収率と凝集体はどうなりますか」「洗浄に使える水酸化ナトリウムの上限はいくつですか」と聞くと、話が進みます。
候補はProtein Aレジンで比べられ、小スケールのカラムでの比較にはプレパックカラムが使えます。マイルド溶出型の発表の経緯は関連ニュースにあります。洗浄の設計はProtein Aレジンの再生・CIP、交換の判断はProtein Aレジンの寿命、リガンド漏出樹脂からリガンド(Protein A)が離れて溶出液に混じること。後工程で除去・管理する不純物です。詳しく →の管理はリガンド漏出で続けて読めます。
参考文献
- Mazzer AR, Perraud X, Halley J, O'Hara J, Bracewell DG. Protein A chromatography increases monoclonal antibody aggregation rate during subsequent low pH virus inactivation hold. J Chromatogr A. 2015;1415:83-90. doi:10.1016/j.chroma.2015.08.068(IgG4抗体で、Protein A通過後は低pH保持の凝集が速い)
- Purolite(Ecolab), pH Elution Properties of Purolite Affinity Resins(Praesto Jetted A50 HipH と他のレジンの溶出pHの比較。メーカーのデータ)
- Purolite(Ecolab), Praesto Jetted A50 HipH 製品情報(溶出pHの幅とNaOH耐性の上限、メーカー公表値)
- Purolite(Ecolab), Removing impurities via mild pH elution(アプリケーションノート。pH 4.5付近で溶出した場合のProtein A工程でのウイルス低減。メーカーのデータ)
- Cytiva, MabSelect SuRe 製品情報(標準型の例。CIP に0.1〜0.5 M NaOH を使える、メーカー公表値)
- ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく →, Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin(Step 4、2023年11月1日。ウイルス不活化・除去工程の評価)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/protein-a-elution-ph-ligand-design