抗体医薬基礎知識・製造工程

Protein A樹脂の溶出pHはリガンドで決まる

Protein A 樹脂を選ぶとき、まず並べるのは動的結合容量(DBC)実際の流速で溶液を流したときに樹脂が現実に捕まえられる目的物の量。負荷量設計の基準になります。です。滞留時間8分で 100 g/L、5分で 65 g/L、平均 42 mg/mL。カタログの数字を表にして、単価で割って、樹脂あたりの処理量を比べる。よく見る進め方ですし、単一のモノクローナル抗体単一のクローンに由来し、同じ標的部位を認識する均一な抗体。詳しく →ならそれで足ります。

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Protein A樹脂の溶出pHはリガンドで決まる

ところが、二重特異性抗体や抗体フラグメント全長抗体から抗原認識に必要な部分だけを取り出した分子。Fcを持たず小さく、微生物でも作れる。詳しく →、あるいは酸性条件で凝集しやすい分子を扱っていると、この表が途中で意味を失います。⁠溶出の pH が 4.3 の樹脂と 6.2 の樹脂では、同じ分子を通しても回収できる形が違うからです。⁠容量が2倍あっても、溶出で凝集体が増えるなら、後段の研磨で取り返すことになります。そして溶出 pH は運転条件ではなく、リガンド担体ビーズ表面に結合させた官能基やタンパク質で、目的物や不純物と相互作用して分離を担う部分。詳しく →の設計で決まっています。緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →を変えても、動かせる幅はごくわずかです。

リガンドを替えれば pH は動きますが、そのとき何かを差し出すことになります。本稿では、Protein A抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく → の溶出がなぜ低 pH になるのかという仕組みから、実際の樹脂で公表されている溶出 pH の幅、マイルド溶出型が容量とアルカリ耐性で差し出しているもの、低 pH ウイルス不活化精製の途中で液を一定時間低いpHにさらし、混入しうるエンベロープウイルスを不活化するウイルス安全対策です。詳しく →との噛み合い、そして基材とリガンドのどちらで選ぶかまで、順に整理します。

この記事の要点
  • 溶出pHは運転条件ではなくリガンドの設計で決まり、公表値は 4.3 から 6.2 まで開いています。
  • マイルド溶出型は容量を 70 g/L から 60 g/L へ落とし、アルカリ耐性の上限も下げて pH を買っています。
  • 低pHウイルス不活化を後ろに置く工程では、溶出pHを上げると不活化の条件を別に作る必要が出ます。

なぜ低いpHでしか外れないのか ― Fcとリガンドの結合

Protein A は、抗体の Fc 領域に結合します。

結合そのものは中性付近で起こり、pH を下げると外れます。理由は、界面にあるヒスチジン弱酸性域で緩衝能を持ちつつ抗体の安定化にも寄与し、抗体製剤で広く使われるアミノ酸。詳しく →残基などがプロトン化して電荷が変わり、結合に必要なかみ合わせが崩れるからです。どの pH で崩れるかは、リガンド側のアミノ酸配列で決まります。

だから溶出 pH は、緩衝液を工夫して動かせる範囲が限られます。「もう少し高い pH で溶出したい」という要望に対して、運転条件の側にできることは多くありません。⁠リガンドが違う樹脂へ替えるのが、実際の解になります。

公表されている溶出pHの幅 ― 4.3から6.2まで

実際の値を並べると、幅の広さが見えてきます。

Tosoh の Toyopearl AF-rProtein A強アルカリでも壊れにくいよう改変したProtein Aリガンド。高濃度NaOHでのCIPを繰り返せます。詳しく → HC-650F は溶出 pH が 4.3 と低めです。JSR の Amsphere A3 は 4.8。Purolite(Ecolab)の Praesto Jetted A50 HipH は、溶出を pH 4.6 以上でできるようリガンドを設計した版として出ています。そして Merck の Eshmuno A は 6.2 で、比較された中では最も高い側にあります。

4.3 と 6.2 のあいだには約2桁の水素イオン濃度差があります。酸性条件で凝集しやすい分子にとって、この差は小さくありません。抗体の凝集は溶出プールの滞留時間抗体が標的に結合し続ける時間。解離の遅さ(小さいkd)で長くなり、効き続けやすさに関わる。詳しく →にも依存するので、pH が高いほど中和低pH条件で溶出されたサンプルに緩衝液を加えてpHを中性付近に戻し、製品へのダメージを防ぐ操作。詳しく →までの猶予が生まれます。

HC-650F は容量の面では強い樹脂です。滞留時間5分で 65 g/L培養液1リットルあたり何グラム産生できるかという上流の生産性。上がるほど下流の負荷も増す。詳しく → 超、2分まで縮めても 50 g/L 超と、短い滞留でも容量が落ちにくい。仕込みの濃さが 1.0 から 10.0 g/L のどこでもこの値が出ます。それでも、低 pH に弱い分子では溶出側で不利になります。

捕捉の入口で稼いだ容量は、出口の pH で相殺されることがあります。

POINT
DBC の表と溶出 pH の表は、別々に作って突き合わせます。容量の上位3つと、溶出 pH の上位3つが重ならないのは珍しくありません。どちらを優先するかは樹脂ではなく分子が決めます。

マイルド溶出型が差し出しているもの ― 容量とアルカリ耐性

pH を上げた樹脂は、その代わりに何かを失います。

Praesto Jetted A50 と、そのマイルド溶出版である HipH を並べると、それがはっきり見えます。標準の A50 は滞留時間10分で 70 g/L まで結合し、0.5 M の水酸化ナトリウムに浸けても30時間以上もちます。0.1 M なら100時間以上です。

HipH は溶出 pH 4.6 以上を実現するかわりに、容量を 60 g/L まで落としています。さらにアルカリ耐性樹脂やリガンドが、CIPで使う水酸化ナトリウムなどの強アルカリ条件に繰り返し耐えられる性質。詳しく →の設計が変わり、⁠上限が 0.1 M になりました。⁠0.1 M に120時間さらしても容量は落ちませんが、標準の A50 が 0.5 M まで耐えるのとは別の設計です。

これは洗浄の手順に直接響きます。Protein A の洗浄と再生で 0.5 M を前提に組んでいた工程は、HipH に替えるなら手順ごと作り直すことになります。バイオバーデン工程中に存在する微生物の量。長時間の連続運転では管理の時間軸がバッチより長くなる。詳しく →の管理を 0.5 M の頻度で担保していたなら、その担保も取り直しです。

溶出 pH を 0.3 上げるために、容量を 10 g/L と洗浄の濃度を差し出す。これがマイルド溶出型の取引です。

洗浄条件と寿命は、溶出pHとは別軸で動く

ここで注意したいのは、アルカリ耐性の数字が樹脂ごとにばらばらの条件で書かれている点です。

Cytiva の MabSelect PrismA は、0.5 M の水酸化ナトリウムを毎サイクル15分かけて150サイクル回せるとしています。0.5 M に72時間浸けても容量がほとんど動かず、下がり始めるのは 1.0 M に48時間浸けたあたり。メーカーは 0.1 M では繰り返し洗浄に足りないと明言しています。

Tosoh の HC-650F は、0.1 M なら200サイクルまで、0.5 M だと40サイクルで初期容量の80%という書き方です。JSR の Amsphere A3 は 0.5 M・毎サイクル15分を100サイクル回して容量91%。加えて、毎サイクル 0.1 M にして10サイクルごとだけ 0.5 M という回し方でも100サイクルは性能が保たれる、という条件も出しています。

サイクル数樹脂を負荷から洗浄・溶出・再生まで1回使うごとに数える回数。寿命管理の基本単位になる。詳しく →と浸漬時間と濃度が、製品ごとに違う組み合わせで公表されています。「アルカリ耐性」という1つの欄に並べて比べられる数字ではありません。⁠自社の1サイクルの定義に置き換えてから比べる必要があります。樹脂の寿命は、この換算を通した後でしか見積もれません。

低pHウイルス不活化との噛み合い

溶出 pH を上げると、後ろの工程に影響が出ます。

抗体のプロセスでは、Protein A の溶出プールをそのまま 低 pH ウイルス不活化に流すのが定型です。溶出が pH 3.5 前後まで下がるなら、追加の酸を入れずに不活化ウイルスの感染性を失わせること。低pH保持や溶媒/界面活性剤処理で、エンベロープウイルスに効きやすい。詳しく →の条件へ入れます。

溶出が pH 4.6 や 6.2 なら、その前提は崩れます。不活化のために別途 pH を下げるか、あるいは不活化の手段そのものを変えることになります。低 pH に弱いから高い pH で溶出させた分子に、後から酸を入れるのでは本末転倒です。

つまり、溶出 pH の選択は捕捉工程だけの話ではありません。ウイルスクリアランス製造工程がウイルスをどれだけ除去・不活化できるかを評価し、製品の安全性を確保する取り組みです。各工程の低減能力を対数の値で示します。詳しく →の組み立て全体に波及します。ウイルスクリアランスを、ろ過とクロマトのどこで何 log 稼ぐかという設計に戻って考え直す場面が出てきます。

溶出 pH を選ぶことは、その下流のウイルス不活化をどう組むかを同時に選ぶことです。

基材で選ぶか、リガンドで選ぶか

最後に、選定の軸をもう一段整理します。

基材は挙動の土台です。Cytiva の MabSelect 系は高架橋アガロース(粒子径mRNAなどを包む脂質ナノ粒子(LNP)の大きさと、有効成分を内包できた割合です。品質や効果に関わる指標です。詳しく → 85 µm)、Tosoh の HC-650F はメタクリル酸系ポリマー(45 µm)、Merck の Eshmuno A は架橋ポリビニルエーテル(50 µm)、Thermo Fisher の POROS MabCapture A Select はポリスチレン-ジビニルベンゼンです。POROS は剛直な粒子に大きな貫通孔を持たせているので、流速を上げても容量が落ちにくく、平均 DBC実際に液を流しながら測る、担体が破過するまでに結合できるタンパク質量。樹脂の使い切りの指標。詳しく → は 42 mg/mL とされています。

Purolite の Praesto Jetted A50 は、アガロースを連続のジェット法で作ることで粒径のばらつきを小さくしています。粒径が揃えばカラムの圧力損失が読みやすくなり、カラム充填の再現性も上がります。

リガンドの側で分子そのものを狙う設計もあります。Cytiva の MabSelect VH3 は VH3 ドメインに選択的に結合し、VHH(ナノボディ)由来の三重特異性抗体1つの抗体分子が3つの異なる標的抗原に同時に結合できるよう人工的に設計された抗体の総称。詳しく →のように従来の Protein A では捕まえにくい分子を対象にします。

POINT
選定の順番は、分子の弱点から入ります。低 pH で凝集するならリガンドから、圧力損失や流速が制約ならば基材から。容量は最後に、残った候補の中で比べます。

実務での決め方

確かめる順に並べると、こうなります。

まず自社の分子について、pH をどこまで下げると凝集や断片化主鎖が切れて分子が分かれる劣化。低分子量体(LMW)として現れ、酸性側などで進みやすい。詳しく →が起きるかを実測します。強制劣化試験で得た pH 依存性が、そのまま溶出 pH の下限になります。

次に、その下限を満たす樹脂を並べ、洗浄条件を自社の設備で回せるかを見ます。0.5 M の水酸化ナトリウムが前提の樹脂と、上限が 0.1 M の樹脂では、手順も廃液も変わります。

そのうえで、実際の滞留時間で DBC を測り直します。カタログ値の滞留時間は8分だったり5分だったり10分だったりして揃っていません。最後に、低 pH ウイルス不活化との噛み合いを確かめ、必要ならクリアランス薬が血中から取り除かれる速さ。ADCでは薬物が多く付いた高DAR種ほど速まりやすい。詳しく →の配分をやり直します。

参考文献

  • Cytiva, MabSelect PrismA protein A chromatography resin 製品情報
  • Tosoh Bioscience, TOYOPEARL AF-rProtein A HC-650F 製品情報(滞留時間別 DBC と NaOH強アルカリの洗浄剤。タンパク質や核酸を分解する力が強く、Protein A樹脂のCIP・消毒に使われます。詳しく → サイクル数)
  • JSR Life Sciences, Amsphere A3 製品情報(溶出 pH と洗浄条件別のサイクル特性)
  • Purolite(Ecolab), Praesto Jetted A50 / A50 HipH 製品情報(溶出 pH と結合容量担体が結合できる目的物の量。大きな粒子は樹脂ビーズの細孔に入りにくく、結合容量を稼ぎにくい。詳しく →・アルカリ耐性の違い)
  • ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく →: Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products(規格設定の枠組み)

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。