Spiber(山形県鶴岡市)は10月2日、微生物の発酵でタンパク質をつくる技術を他社に開く受託事業「SPIBER BIOFOUNDRY」を始めると発表しました。自社の構造タンパク質素材「Brewed Protein」を量産するために約20年かけて築いた、遺伝子配列の設計から発酵・精製までの基盤を、菌株開発とプロセス開発・受託製造の2つのサービスとして提供します。初めて披露する場には、10月7〜9日のBioJapan 2026(パシフィコ横浜)を選びました。生産に使う宿主の微生物の種類は明らかにしておらず、目安の価格と納期はサービス概要の資料で示すとしています。
1Lから100kL超までの受託製造
プロセス開発・受託製造では、1 Lの卓上の培養槽から、鶴岡の研究開発拠点にある2,000 Lの槽、タイ・ラヨーンの工場にある100 kLを超える商業生産設備までを使い分けます。ラボでの評価1回だけ、といった段階ごとの依頼もできます。対象は研究用試薬、産業用酵素、診断薬の原料、食品素材などで、タンパク質のほか、発酵でつくる物質や菌体そのものも含みます。
微生物の発酵では、ラボで出た収量が大きな槽で再現しないことがよくあります。槽が大きくなるほど、酸素と熱、混ざり方の条件が変わるためです。同社は、パイロットから商業規模の受託発酵の枠は世界的に足りず、遺伝子組換え微生物をラボから商業量まで引き受ける受託先が見つからない企業もある、と説明しています。同社によれば、自社の商業生産設備では、自社タンパク質の生産濃度が50 g/Lに達しました。同社は「試験管の中で得られたチャンピオンデータではなく、実機での製造における値」だとしています。
配列の設計で変わる収量
菌株開発では、目的タンパク質の遺伝子配列を最適化し、同社独自の宿主株に入れて発現を評価します。同じアミノ酸を指定するコドンの選び方で、発現量が変わるためです。同社の事例では、iPS細胞などの培養に使う増殖因子であるヒトFGF-2で5通りの配列を設計し、市販の遺伝子合成サービスが最適化した配列と比べました。5通りすべてが上回り、収量は5.9〜9.4倍でした。ヒトIFN-γでは1.1〜2.6倍にとどまり、効果の大きさはタンパク質によって違います。
一方で、対象に医薬品の原薬は挙げておらず、GMPに沿った製造にも触れていません。医薬品の製造工程で使う原料をここでつくるなら、品質の管理体制を別に確かめる必要があります。
川名麻耶CEOは、量産の壁について「Spiber自身もまた、その壁を前に、歩みを止めかけた当事者です」と述べています。素材の事業と並べて、量産までの基盤そのものを売り物にする事業です。
ラボで出た収量を商業規模で再現するところに、時間と費用がもっとも積み上がります。今回の受託事業は、自社の素材でその壁を越えた設備と菌株の技術を、他社のタンパク質に貸し出す試みです。
※ 本ページは2026年10月2日のSpiberの発表をもとにした紹介です。詳細・数値は一次情報もあわせてご確認ください。