注射剤のカートリッジとは?プレフィルドシリンジと何が違うのか

注射剤のカートリッジペン型インジェクターなどに装填する円筒容器。複数回投与や特定デバイスとの組合せで選ばれる。詳しく →とは、薬液を入れたガラスの筒の両端をゴムでふさいだ容器で、ペン型の注入器などに入れて使います。注入器が筒の中のゴム栓を押し、設定した量の薬液を針から出します。
ただし、カートリッジは形の違うプレフィルドシリンジあらかじめ薬液を充填した注射器そのものを製品にする容器形式。自己注射やオートインジェクターに用いる。詳しく →ではありません。自分では押し出す部品を持たず、注入器と組み合わせて初めて注射できるため、容器の品質に加えて、注入器と合わせた動きも確かめる必要があります。
この記事では、カートリッジの構造、バイアルやプレフィルドシリンジとの違い、求められる品質、容器の選び方を順に説明します。
- プレフィルドシリンジと何が違うのか:カートリッジは押し出す部品を持たず、注入器が栓を押して薬液を出します。
- なぜカートリッジを使うのか:患者が自分で量を合わせ、1本を何回にも分けて注射できるようにするためです。
- 品質は、容器だけを確かめれば足りるのか:足りません。注入器と組み合わせた状態でも確かめます。
1. 注射剤のカートリッジは、どんな部品でできているのか
カートリッジは、ガラスの筒(バレル)、針を刺す側のセプタムとキャップ、反対側のプランジャーの3つの部品でできています。
カートリッジの筒は、注射器と違って両端が開いた円筒です。片方の口はゴムの円板でふさいでアルミのキャップでかしめ、もう片方の口には、筒の中を滑るゴムの栓を差し込みます。
- バレル(ガラスの筒):薬液を入れる部分で、ペン型注入器用のガラスの筒は ISO 13926-1 に設計・材質・試験法が定められています。
- セプタムとクリンプキャップ:セプタムは針を刺し通すゴムの円板で、アルミのクリンプキャップで口に固定します。ISO 13926-3 がこのシールを扱っています。
- プランジャー(プランジャーストッパー):筒の中を滑って薬液を押し出すゴムの栓で、ISO 13926-2 が材質と性能の要求を定めています。

使うときは、両側が尖った針を注入器の先に付けます。針の内側の端がセプタムを貫いて薬液に届き、注入器の押し棒(ピストンロッド)がプランジャーを押した分だけ、薬液が外側の端から出ます。
米国食品医薬品局(FDA)の容器施栓系製剤を収める容器と、栓やキャップなど封をする部材の組み合わせです。製品を守る性能として、漏れがないこと(完全性)や、成分の溶け出し・吸着が少ないことを評価します。詳しく →のガイダンス(1999年)は、カートリッジや注射器、バイアルは通常 I 型か II 型のガラスかポリプロピレンでできており、その栓やセプタムは通常エラストマー(ゴム状の材料)でできているとしています。
2. プレフィルドシリンジやバイアルとは、何が違うのか
違いは、薬液を押し出す部品を容器が持つかどうかと、1本で何回打つかです。プレフィルドシリンジは、薬液を詰めた注射器で、押し子(プランジャーロッド)を押せばそのまま注射できます。バイアルは、ゴム栓をした瓶で、使う人が別の注射器で必要な量を吸い取ります。カートリッジはその間にあり、押す部品を注入器の側に任せています。
| 容器 | 押し出す部品 | 1本で打つ回数 | 主な使い方 |
|---|---|---|---|
| バイアル | 別の注射器 | 1回または複数回 | 医療者が必要な量を吸い取る |
| プレフィルドシリンジ | 容器に付いた押し子 | 1回 | 1回分をそのまま注射する |
| カートリッジ | 注入器の押し棒 | 1回または複数回 | 注入器に入れ、設定した量を注射する |
FDA のペン型・ジェット型注入器のガイダンス(2013年)も、こうした注入器を、カートリッジやリザーバー、シリンジに入った薬を針などを通して注射する機器として扱っています。カートリッジは、注入器が無ければ注射に使えない容器です。
3. 注入器に入れて使うことで、何ができるようになるのか
患者が自分で量を合わせ、1本の薬液を何回にも分けて注射できるようになります。
インスリンのように、毎日注射し、1回の量を食事や血糖値に合わせて変える薬では、バイアルから毎回吸い取るのは患者の負担が大きく、量の誤りも起きやすくなります。ペン型注入器にカートリッジを入れておけば、ダイヤルで量を合わせ、針を付け替えて注射を繰り返せます。
- 量を合わせる:注入器のダイヤルで設定した分だけ押し棒が進むため、目盛りを読んで吸い取る作業が要りません。
- 何回にも分ける:1本のカートリッジから、決められた回数や期間のあいだ注射を繰り返せます。
- 使い捨てか交換か:カートリッジを組み込んだ使い捨てのペンと、空になったカートリッジを入れ替えて注入器を使い続けるペンがあります。
1本を何回にも使う場合は、針を刺すたびにセプタムを通って微生物が入るおそれがあります。そのため、多回投与のカートリッジ製剤には、フェノールやメタクレゾールのような保存剤を加えたものが多くあります。
4. 容器としてだけでなく、注入器の部品として何が求められるのか
薬液を守る容器の性能に加えて、注入器が押したとおりに薬液が出るという、動きの確かさが求められます。
FDA の容器施栓系のガイダンスは、容器が適していることを、保護、適合性、安全性、そして機能を持つ容器ではその機能で示すべきとしています。カートリッジでは、4つ目の機能の比重が大きくなります。
- 漏れない(容器・栓の完全性):有効期間医薬品が規定の品質を保てると保証される期間。安定性データの経時変化から設定する。詳しく →の終わりまで、微生物や気体の侵入を防げることを確かめます。手法の選び方は容器・栓の完全性(CCI)の記事で説明しています。
- 溶け出さない:ゴムやガラスから薬液へ移る物質を評価します。同じガイダンスは、ゴムの部品は USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく → の注射剤用ゴム栓の試験(〈381〉)に合えば通常は安全性の根拠になるとし、抽出は可能なら製剤そのもので行うべきとしています。
- 滑らかに動く:プランジャーが動き出す力(ブレークルース力)と動き続ける力(グライド力)がばらつくと、押した量と出る量がずれるおそれがあります。滑りをよくするために筒の内面に塗るシリコーンオイル注射針やプランジャーの滑りを確保する潤滑剤。タンパク質の吸着核となり微粒子・凝集を誘発しうる。詳しく →は、微粒子として数えられ、タンパク質の凝集とも関わるため、量と塗り方を管理します。
FDA のペン型注入器のガイダンスは、安定性と有効期間の試験を、カートリッジの中の薬だけでなく、周りの注入器の材料と包装を含めたシステム全体で行うべきとしています。 同じガイダンスは、注入器に入れたあとも中の薬液を目で見て確かめられる設計にすべきともしています。つまり、カートリッジ単独のデータだけでは、製品としての品質を示しきれないことがあります。
注入器と組み合わせる容器の設計の確かめ方は、国際規格 ISO 11608-3 が扱っています。この規格は、針を使う注射システムに使う容器と一体の流路を対象とし、例にカートリッジとシリンジを挙げています。
5. どの容器を選ぶかは、何で決まるのか
誰が打つか、1回の量が決まっているか、何回に分けて打つかで決まります。
選ぶときに見る条件は、投与の場面から決まります。容器の性能の比較は、そのあとです。
- 医療者が打ち、量が体重などで変わる:必要な量をその場で吸い取れるバイアルが合います。
- 患者が自分で打ち、1回の量が決まっている:そのまま押せるプレフィルドシリンジや、それを収めたオートインジェクターボタン操作などで自動的に薬液を注入する自己注射デバイス。容量や押し力に制約がある。詳しく →が合います。
- 患者が自分で打ち、量を合わせて何回も打つ:カートリッジとペン型注入器の組み合わせが合います。
では、量が決まっている薬にカートリッジは使えないのでしょうか。使えます。決まった量を1回ずつ出すペンや、カートリッジを収めた1回使い切りのデバイスもあり、選ぶ理由は、注入器の側の仕組みと患者の使いやすさにも左右されます。粘度の高い薬液では、針の太さと押し出しに要る力も条件に入ります。力の考え方はプレフィルドシリンジの押し出し力の記事で説明しています。
6. カートリッジを検討するとき、最初に何を確かめるのか
最初に、どんな投与をさせたいかを決め、そのうえで、組み合わせる注入器と、確かめる試験の範囲を決めます。
カートリッジは注入器と組み合わせて初めて製品になるため、容器だけを先に決めると、あとで寸法や動きが合わないことがあります。次の3つを確かめます。
- 投与の設計は決まったか:1回の量、量を変えるか、1本で何回打つか、誰が打つかを決め、カートリッジが合う投与かを確かめます。
- 注入器と合うか:組み合わせる注入器の押し棒の動きと、カートリッジの寸法、プランジャーの動き出す力と動き続ける力が合うかを確かめます。
- 試験の範囲を決めたか:容器・栓の完全性、溶け出す物質、注入器を含めたシステム全体の安定性を、どの段階で、誰が確かめるかを決めます。
まず投与の場面を書き出し、カートリッジとペン型注入器の組み合わせが合うかを、バイアルやプレフィルドシリンジと並べて比べます。 紹介したのは一つの考え方で、最適な容器は薬液の性質と患者の使い方によって変わります。
参考文献
- FDA, Technical Considerations for Pen, Jet, and Related Injectors Intended for Use with Drugs and Biological Products, Guidance for Industry and FDA Staff(2013年6月。注入器の範囲、薬液を目で確かめられる設計、システム全体での安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。詳しく →)
- FDA, Container Closure Systems for Packaging Human Drugs and Biologics, Guidance for Industry(1999年。III.B 容器が適していることの4つの観点、III.E 注射剤の容器の材質とゴムの部品の評価)
- ISO 13926-1:2018 Pen systems — Part 1: Glass cylinders for pen-injectors for medical use、ISO 13926-2:2017 Part 2: Plunger stoppers for pen-injectors for medical use、ISO 13926-3 Part 3: Seals for pen-injectors for medical use(カートリッジのガラスの筒、プランジャー、シール)
- ISO 11608-3:2022 Needle-based injection systems for medical use — Requirements and test methods — Part 3: Containers and integrated fluid paths(針を使う注射システムに使う容器と流路の設計の確かめ方)
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