微粒子計数、光遮蔽とFIで食い違う
注射剤の不溶性微粒子を担当していると、光遮蔽法で10µm以上と25µm以上の粒子を数え、USP 〈788〉やタンパク質医薬向けの 〈787〉に適合させて出荷判定を通す、という日々が続きます。公的な規格には適合している。けれど、同じバイアルをフローイメージング流路を通る粒子を一粒ずつ撮影し、大きさ・個数に加え形状まで得る測定法。粒子の由来を仕分けられる。詳しく →にかけると、まったく違う個数が返ってくることがあります。どちらの数字が検体の「本当」の粒子数なのか、測る前には分かりません。

Shibataらが2022年にJournal of Pharmaceutical Sciences誌に発表した論文は、この食い違いを市販の治療用タンパク質注射剤で実測しています。国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)のグループが、複数の市販品を光遮蔽法光をさえぎる粒子を検出して注射剤の不溶性微粒子を数える方法。詳しく →(LO)とフローイメージング(FI、Flow Imaging)の両方で測り、個数と粒子の形態を同じ検体で突き合わせました。核心は一点に絞れます。報告される微粒子数は、製剤製剤。原薬を処方・充填して、最終的な投与形態に仕上げた製品。詳しく →に含まれる粒子の量だけでなく、どちらの原理で数えたかに強く依存します。
本稿では、この論文が何を測って何を見つけたかを追い、光遮蔽粒子が光を遮る量から微粒子を計数する方法。注射剤の不溶性微粒子試験に用いる。詳しく →とFIの違いを実在する装置に置き換えて整理します。最後に、この論文だけでは決まらないことをまとめます。
- 国立医薬品食品衛生研究所のグループが、市販の治療用タンパク質注射剤を光遮蔽法とフローイメージングの両方で測り、同じ検体で個数と形態を突き合わせた論文です。
- フローイメージングの個数は光遮蔽法より大きく、ある製品では10µm以上の粒子数が薬局方の判定値(1容器あたり6,000個)を上回りました。
- 透明で細長い粒子やシリコーンオイル液滴は光遮蔽法で数え落とされやすく、どちらの数字を規格に使うかは製品ごとに決まります。
この論文が言っていること
この論文は、新しい装置や新しい指標を提案したものではありません。すでに市場に出ている治療用タンパク質注射剤を、二つの数え方で測り比べた報告です。
同じ検体を光遮蔽法とフローイメージングで測ると、FIの個数のほうが大きく出ました。差の大きさは製品や粒子の性質によって変わります。差を生んだ正体も論文は具体的に示しています。ある製品には、透明で細長い粒子が多く含まれていました。光遮蔽法は「粒子が光をどれだけ遮ったか」で大きさと個数を決めるので、屈折率が水に近い透明な粒子はほとんど影を落とさず、小さく見積もられるか数え落とされます。画像で一粒ずつ撮るFIは、この帯の粒子を輪郭から拾えます。
プレフィルドシリンジあらかじめ薬液を充填した注射器そのものを製品にする容器形式。自己注射やオートインジェクターに用いる。ではもう一つの食い違いが出ました。シリンジ内面の潤滑に使うシリコーンオイル注射針やプランジャーの滑りを確保する潤滑剤。タンパク質の吸着核となり微粒子・凝集を誘発しうる。詳しく →が液滴として検体に混じります。この液滴も屈折率が水に近い。光遮蔽法は液滴のサイズも個数も小さく見積もり、FIは真円の液滴としてはっきり拾うため、数も大きさも大きく出たと報告されています。
そして判定に直接響く結果が一つあります。ある製品では、FIで数えた10µm以上の粒子が、光遮蔽法を前提に定められた薬局方の判定値、1容器あたり6,000個を上回りました。薬局方の不溶性微粒子溶液中に浮遊するサブミクロン〜数百マイクロメートルサイズの粒子で、品質規格上の管理対象となる異物。詳しく →試験は光遮蔽法を一次選択としているので、この製品が公的な規格試験に不適合だという話ではありません。ただ、同じ検体でも数え方を変えると、判定値をまたぐほど像が変わる、という例です。
論文が示すのは、微粒子数という一つの数字が、測定原理によって別の顔を見せるという事実です。
光遮蔽とFIの差を実在の装置で追う
「光遮蔽法」「フローイメージング」という言葉の羅列のままでは、食い違いの実感がつかめません。実在する装置に置き換えると、なぜ数が合わないのかが見えてきます。
光遮蔽法の代表機種は、Beckman CoulterのHIAC 9703+です。レーザーダイオードの光を細い流路に流れる粒子に当て、粒子が落とす影の大きさから直径を、影の回数から個数を割り出します。速くて再現性が高く、ISOとUSPが一次選択として位置づける手法です。弱点は原理から来ます。屈折率が水に近い透明なタンパク質性粒子やシリコーンオイル液滴シリンジ潤滑用のシリコーンオイルが液滴化したもの。光遮蔽法ではタンパク質粒子と区別しにくい。は、光をあまり遮らないので、小さく出るか拾えません。
フローイメージング側には複数の実在装置があります。ProteinSimple(Bio-Techne)のMFI(Micro-Flow Imaging流れる粒子を撮像して数や形態を評価する粒子計数法。タンパク質医薬の微粒子評価を補う。詳しく →)は、流路を通る粒子を高速カメラで撮り、サイズと個数に加えて円形度や透明度まで返します。横河電機のFlowCam 8000は2µmから1mmまでを扱い、40以上の形態パラメータを測ります。島津製作所のiSpect DIA-10は5〜100µmを対象に、テレセントリックレンズで視野のどこにある粒子でも倍率を一定に保ち、個数濃度まで取れる構成です。影ではなく像を撮るので、光遮蔽法が苦手な透明・低屈折率の粒子を輪郭で捉え、真円のシリコーン液滴といびつなタンパク質凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →を形で仕分けられます。
ただし代償があります。FIのスループット一定時間に処理できる検体数。自動パッチクランプはマニュアル法より桁違いに多くの化合物を測れる。詳しく →は光遮蔽法より低く、画像解析のしきい値や装置ごとの光学系の差が結果に効きます。速く均一に数える光遮蔽法と、遅いが正体まで見えるFIは、競合ではなく役割が違う手法です。
この論文を読んだあとに確認すべきは、個々の装置の型番ではありません。「規格として比べている判定値が、いま使っている測定原理で定められたものか」です。1容器あたり6,000個という値は光遮蔽法を前提に置かれています。FIで数えた個数をそのままこの値と突き合わせても、同じ土俵の比較にはなりません。
同じ「微粒子数」でも、影で数える装置と画像で数える装置では、拾っている母集団が違うということです。
ProgLoopで共有この論文を、ProgLoopで共有・議論する論文を引用して、現場での再現性や使いどころを他の研究者と議論できます。論文を見るこの論文だけでは決まらないこと
この論文が測って見せたのは、光遮蔽法が透明・細長い粒子とシリコーンオイル液滴を取りこぼす、という事実までです。では規格にどちらの数字を据えるのか、という問いは、この論文の外にあります。
薬局方の規格試験は、いまも光遮蔽法を一次選択としています。FIは、その死角を画像で補う直交法異なる原理の手法で同じ対象を測り、結果を突き合わせて検証し合う分析の組み方。詳しく →として位置づけられ、製品ごとの傾向把握や由来の同定に使う運用が定着しつつあります。両法をどう組み合わせ、2〜10µm帯のタンパク質性粒子をどこまで管理するかは、サブビジブル粒子の測定法で整理しています。粒子が可溶性凝集体からサブミクロン、サブビジブルへと途切れなく続くスペクトルであること、どのサイズをどの分析で見るかは、凝集体をどの分析で見るかの領域です。そして見えた粒子を減らす処方の考え方は、製剤設計が扱います。
もう一つ、FIの数字そのものにも注意が要ります。装置間の標準化はまだ発展途上で、MFIで出した個数とFlowCamで出した個数が、同じ検体でもそろうとは限りません。論文が示したのはLOとFIの差ですが、FI同士の差も別に存在します。どの装置の、どの条件で出した値かを添えないFIの個数は、比較の材料になりにくい。
論文は光遮蔽法の死角を測って見せましたが、どちらの数字を規格に据えるかは、自社の製品と免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →リスクから決めるものです。
参考文献
- Shibata H, Harazono A, Kiyoshi M, Ishii-Watabe A. "Quantitative Evaluation of Insoluble Particulate Matters in Therapeutic Protein Injections Using Light Obscuration and Flow Imaging Methods." J Pharm Sci. 2022;111(3):648-654. DOI: 10.1016/j.xphs.2021.09.047
- USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく → General Chapter 〈787〉 Subvisible Particulate Matter in Therapeutic Protein Injections. USP–NF.
- USP General Chapter 〈788〉 Particulate Matter in Injections. USP–NF.
- 第十八改正日本薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく → 一般試験法 6.07 注射剤の不溶性微粒子試験法
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