条件付き承認の再生医療等製品は、なぜ赤字になりやすいのか?薬価の決め方と少ない患者数

条件及び期限付承認は、再生医療等製品の有効性を推定した段階で、期限と条件を付けて販売を認める承認です。この期間の製品は、原価から値段を決めるときに乗せる利益が平均の半分に抑えられ、使う患者も当面は少ないため、採算が合いにくくなっています。
ただし、薬価は国の算定の結果であり、製造に実際にかかっている費用を示す数字ではありません。値段は本承認のときに見直され、製造の基準はこの期間も軽くなりません。
この記事では、値段の決まり方、使われる患者の数、赤字になりやすい理由、製造の基準を順に説明し、受託製造(CDMO医薬品の開発・製造を他社から受託する企業。設備投資を負わずに専門能力を使える。詳しく →)や原料の供給者が置く前提を手順にまとめます。
- 値段はどう決まるのか:似た薬が無いときは、費用を積み上げる原価計算方式で決まります。この期間は営業利益率に平均の0.5倍を使い、有用性系加算は本承認のときに判断します。
- なぜ赤字になりやすいのか:利益の上乗せが小さく、使う患者も少ないからです。ピーク時の予測でも、投与する患者はアムシェプリで年に133人、アクーゴで39人です。
- 受託や供給の側は何を前提にするのか:少ない量、本承認で見直される値段、期限の内側では変えにくい製法と原料の3つです。
1. 条件付き承認の製品の値段は、どう決まるのか
似た薬が無い製品は、作って売るまでの費用を積み上げて値段を決め、この期間は上に乗せる利益を平均の半分に抑えます。
保険診療で使う医薬品や再生医療等製品には、国が決める公定価格があり、これを薬価と呼びます。新しい製品の薬価は、専門家の会議(薬価算定組織)が案を作り、中央社会保険医療協議会(中医協)の了承を経て決まります。
決め方の原則は、効き目の似た既存の薬の値段に合わせる類似薬効比較方式です。似た薬が無いときは、製品を作って売るまでの費用に、営業利益、流通経費、消費税を足して値段を決めます。この決め方を原価計算方式と呼びます。
条件及び期限付承認の製品については、2026年1月14日の中医協が、次の運用を了解しています。
- 利益の上乗せ:原価計算方式で乗せる営業利益の割合(営業利益率)には、平均的な営業利益率に0.5を掛けた値を使います。
- 優れていることへの上乗せ:既存の治療より優れている度合いに応じて値段に足す画期性加算や有用性加算を、有用性系加算と呼びます。有効性が確認ではなく推定の段階のため、算定のときには判断しません。
- それ以外の上乗せ:希少疾病向けの市場性加算や先駆加算などは、推定の段階であることを踏まえたうえで、算定のときに判断します。
- 本承認のとき:営業利益率の係数と、加算を付けるか差し引くかを薬価算定組織で検討し、中医協の了承を経て決め直します。
この運用で値段が決まったのが、iPS細胞体細胞を初期化して作る多能性幹細胞。同一株から繰り返し分化・製造でき均質性を高めやすい。詳しく →から作るアムシェプリ(住友ファーマ)と、間葉系幹細胞から作るアクーゴ(サンバイオ)です。2026年5月13日の中医協の資料では、アムシェプリは18瓶1組で5,530万6,737円、アクーゴは1回分で7,271万6,528円と算定されました。
どちらも原価計算方式で、営業利益は流通経費を除く価格の7.8%です。加算は、希少疾病向けの市場性加算(Ⅰ)と先駆加算が10%ずつ付きました。先駆加算の幅は10〜20%で、資料はアムシェプリについて、有効性を示すデータが限られることから限定的に評価したとしています。

つまり、条件付きの期間の薬価は、費用に小さな利益を乗せた値段で、本承認のときに見直される前提です。では、この値段で、どれくらいの患者に使われるのでしょうか。
2. どれくらいの患者に使われるのか
当面は使える施設が絞られ、会社によるピーク時の予測でも、投与する患者はアムシェプリで年に133人、アクーゴで39人です。
アムシェプリは当面、製造販売後臨床試験(承認のあとに行う臨床試験)に協力する医療機関にだけ供給されます。住友ファーマは、条件及び期限付承認であることと、最適使用推進ガイドライン(使う施設や患者の要件を示す国の指針)を踏まえた扱いだとしています。
報道によると、まず7施設で18〜65歳の30人に移植し、そのあと65歳を超える5人へ広げる計画です。
アクーゴは、治験をした5つの医療機関を中心に投与を始め、将来は100施設ほどに広げる考えだと報じられています。
2026年5月13日の中医協には、会社によるピーク時の予測も示されました。投与する患者はアムシェプリで年に133人、アクーゴで39人、販売金額は74億円と28億円で、どちらもピークは収載から10年度目に置かれています。
この10年度目は、承認から7年の期限より先にあります。そのため、この予測は、本承認を得て販売を続けることを前提にした数字として読む必要があります。
使える期間も、収載の時期で変わります。アクーゴは2024年7月に承認されましたが、薬価基準への収載は2026年5月20日でした。
中医協の資料は、この間に生産体制の整備と、条件付きの製品の算定方法の検討があったと注記しています。期限は承認から数えるため、期限の内側で保険で使える期間は、そのぶん短くなります。
このように、1人分の値段は5,000万円を超えても、使う患者の数は年に数十人から百数十人の規模にとどまる予測です。では、なぜこの組み合わせが赤字につながりやすいのでしょうか。
3. なぜ赤字になりやすいのか
値段に乗る利益が小さいうえに、使う患者が少ないため、費用を回収するだけの量が出にくいからです。
赤字になりやすさは、次の2つが重なることで生まれます。
- 量が少ない:患者が少なくても、製造所と品質試験の体制は保つ必要があり、その費用は少ない投与の数で賄うしかありません。当面は供給先も絞られています。
- 上乗せが付きにくい:営業利益率は平均の0.5倍で、2品目の営業利益は流通経費を除く価格の7.8%でした。有用性系加算は本承認まで判断されず、先駆加算も幅の下限の10%でした。

会社の側も、採算が合っていないと説明しています。住友ファーマの木村徹社長は、2026年5月13日の決算説明会で「現状のコスト構造からすると明らかに赤字だ。もう少し高い薬価をお願いしていたので、少し残念」と述べたと報じられています。
先行する製品にも、同じ経過がありました。ステミラック注は、ニプロが脊髄損傷に向けて作る細胞の製品で、2026年10月に、条件付きから初めて本承認が部会で了承されました。日本経済新聞は、この製品も患者数が伸び悩んで赤字が続いていたと報じ、ニプロは2029年ごろまでの黒字化を目指すとしています。
中医協の資料には、算定に使った製品総原価も載っています(アムシェプリ 4,282万163円、アクーゴ 5,036万3,585円)。これは算定に使われた額で、会社が実際に負う費用と同じとは限りません。
つまり、条件付きの期間は、小さな利益の上乗せを、少ない患者数で回収する形になっています。では、費用を左右する製造の基準は、この期間に軽くなるのでしょうか。
4. 条件付きでも、製造の基準は軽くならないのか
軽くなりません。条件付きの承認で緩むのは、有効性などを確認ではなく推定で判断してよい点で、製造所の基準は通常の承認と同じです。
医薬品医療機器等法(薬機法)の第23条の25第2項は、承認を与えない場合を並べています。第23条の26は、そのうち有効性と有害な作用の判断(第3号イ・ロ)について、推定の段階でも承認できるとしています。製造所の製造管理と品質管理原料・資材・中間体・製品を規格に照らして試験し、使ってよいか、出荷してよいかの合否を決める仕事です。GMPでは製造部門から独立させます。詳しく →が基準に合うこと(第4号)は、この規定の対象に入っていません。
その基準が、再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(GCTP再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準。日本で細胞培養加工施設での製造に適用される省令。詳しく →省令、平成26年厚生労働省令第93号)です。製造所は、承認を受けるときとその後も定期的に、基準に合うかの書面または実地の調査を受けます(第23条の25第6項)。
原料の基準も、通常の承認と変わりません。培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →の添加物のように、ヒトや動物に由来する成分を含む原料は、生物由来原料基準(平成15年厚生労働省告示第210号)に合わせる必要があります。
供給者の側には、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の再生医療等製品材料適格性相談があります。PMDAの資料によると、培地のように最終製品の成分にならない材料について、生物由来原料基準に合うかを1材料ずつ相談できます。適格と確認されると、供給業者に確認書が出ます(供給者管理と受入試験)。
条件付きの期間に原料や製法を替えると、変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →の手続きの中で、変える前と後の製品の同等性変更前後が完全に同一でなくても、品質・安全性・有効性で高い類似性を保ち差異が悪影響しないと言える状態。詳しく →・同質性を説明するよう求められることがあります(変更管理とは)。アクーゴは、申請のあとに製法を変えたため、同等性・同質性を評価して一部変更承認を得るまで出荷しないという条件が付きました(アクーゴの出荷制限と申請後の製法変更)。
本承認の評価には、条件付きの期間に使った患者のデータを使います。途中で製品が変わると、変える前と後のデータをつなぐ説明が要ります。
このように、条件付きの期間は、基準を下げずに少ない量を作り続ける期間です。では、受託や供給の側は、何を前提に組めばよいのでしょうか。
5. 受託や原料の供給の側は、何を前提に、何から確かめるのか
少ない量、本承認で見直される値段、期限の内側で変えにくい製法と原料の3つを前提に、次の順で確かめます。
受託の側には、少ない量のまま原価を下げる相談が来ると考えられます。値段に乗る利益が小さく、ピーク時の予測でも患者が少ないうえに、住友ファーマの社長が赤字の理由をコスト構造に置いているためです。
- 期限と本承認の計画:製品の期限の日付と、本承認でどんな比較をする計画かを、製造販売業者に確かめます。本承認に届かずに販売を終えた製品もあるため(条件付き承認の8品目のその後)、そのときの契約の扱いも決めておきます。
- 当面の量とピークの予測:当面は供給先が絞られ、ピーク時の予測は会社の見込みで、承認の期限より先にあります。製造の回数と枠は当面の量から組み、量を増やす段取りは別に決めます(製造枠を押さえる長期契約)。
- 値段が見直される時点:本承認のとき、営業利益率の係数と加算が見直され、加算は付くことも差し引かれることもあります。原価を下げる計画は、収載の時点と本承認の時点の2つに分けて考えます。
- 期限の内側で替えない原料と資材:替えると同等性の説明が要ることがあるため、供給者には、続けて供給する期間と、変更を知らせる期間を契約で求めます。ヒトや動物に由来する材料は、材料適格性相談の確認書があるかも確かめます。
- 第二の製造所を持つか:サンバイオは2025年1月、供給の安定と製造の複線化のため、JCRファーマとも製造の委受託契約を結んだと報じられています。2か所で作るなら、両方の製品の同等性をどう示すかも先に決めます(製造の委託先は何を比べて選ぶのか)。
どの項目も、承認の期限と本承認の時点から逆算して決めるものです。
参考文献
- e-Gov法令検索, 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(昭和35年法律第145号)(第23条の25第2項第3号・第4号、第6項、第23条の26第1項。条件及び期限付承認が外すのは第2項第3号イ・ロに係る部分であること)
- 厚生労働省, 条件及び期限付き承認を受けた再生医療等製品に対する対応について(概要)(令和8年1月14日 中央社会保険医療協議会了解。中医協 総-5参考、2026年5月13日)(類似薬効比較方式が原則で類似薬が無ければ原価計算方式、営業利益率の係数は平均の0.5倍、有用性系加算は算定時に判断しない、改めて承認を受けた際に係数と補正加算の適用又は控除を検討)
- 厚生労働省, 新再生医療等製品一覧表(令和8年5月20日収載予定)(中医協 総-5、2026年5月13日)(2品目の算定薬価、原価計算方式、製品総原価と営業利益7.8%、市場性加算(Ⅰ)と先駆加算各10%、先駆加算の評価の理由、ピーク時10年度の予測投与患者数と販売金額、アクーゴの収載の時期についての注記)
- 薬事のこと, [2026年1月から]条件及び期限付き承認を受けた再生医療等製品の価格算定(2026年1月15日)(1月14日の中医協の運用の要約)
- AnswersNews, 再生医療等製品「アムシェプリ」「アクーゴ」など20日薬価収載…造影剤「アムベルビスト」など4新薬も(2026年5月13日)(薬価、算定方式、ピーク時の投与患者数)
- 産経新聞(ITmedia NEWS), iPS医療製品、年内にも実用化 アムシェプリ開発の住友ファーマが挑むコスト回収の壁(2026年5月14日)(木村社長の5月13日の決算説明会での発言、7施設で30人のあと65歳超の5人)
- 住友ファーマ, アムシェプリの薬価収載に関するご案内(2026年6月26日)(当面、製造販売後臨床試験に協力する医療機関にだけ供給すること)
- AnswersNews, サンバイオ「アクーゴ」発売目前、製造・供給への自信アピール…委託先の施設公開(2025年6月23日)(5施設から始め100施設ほどに広げる考え、JCRファーマとの製造委受託契約)
- 日本経済新聞, ニプロの再生医療製品、条件付きから初の本承認へ 29年めど黒字化(2026年10月16日)(ステミラック注の赤字と2029年ごろの黒字化の目標)
- AnswersNews, サンバイオの「アクーゴ」審査報告書で明らかになった「異例の承認遅れ」の背景(2024年9月24日)(申請後の製法変更と、同等性・同質性を評価して一部変更承認を得るまで出荷しない条件)
- 再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(平成26年厚生労働省令第93号)
- 生物由来原料基準(平成15年厚生労働省告示第210号)
- PMDA 再生医療製品等審査部, 再生医療等製品のMFの課題と相談状況について(2022年12月13日)(再生医療等製品材料適格性相談の対象、確認書の発行と使い方)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/regenerative-medicine-conditional-approval-pricing-supply