アポトーシスとは?ネクローシスと何が違い、なぜ培養で問題になるのか

アポトーシス細胞が遺伝的プログラムに従って自発的に死に至る過程で、壊死とは異なり膜の完全性が初期段階では保たれる。詳しく →とは、細胞が自分の中に備わった手順に従い、膜を保ったまま縮んで小さな断片に分かれて死ぬ仕組みです。この手順を進めるのは、カスパーゼと呼ばれるタンパク質分解酵素です。
しかし、抗体を作る培養の後半で生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →が下がったとき、その細胞がすべてアポトーシスで死んでいるとは限りません。膜が破れて死ぬネクローシスや、別の仕組みの死も混ざっています。
ネクローシスとの違いから始め、抗体を作る培養と細胞治療生きた細胞そのものを有効成分とする医薬。CAR-Tなどが代表。詳しく →製品でなぜ問題になるのか、どう抑え、何で測るのかへ進みます。
- ネクローシスと何が違うのか:アポトーシスは膜を保ったまま進み、ネクローシスは細胞が膨らんで膜が破れます。
- 培養の後半の生存率の低下は、すべてアポトーシスなのか:そうとは限らず、抑えても抗体が増えるとは限りません。
- 生存率の数字だけで足りるのか:膜が破れる前の死にかけた細胞は、生きている側に数えられます。
1. アポトーシスは、カスパーゼが順に働いて細胞を片づける死に方
アポトーシスは、細胞の中にもともとある酵素が順に活性化し、細胞が自分を小さな断片に分けて死ぬ仕組みです。
見た目の変化から追うと、細胞はまず縮み、核の中のクロマチン(DNAとタンパク質の複合体)が凝縮します。続いて細胞膜が泡のように突き出し、細胞は膜に包まれた小さな断片(アポトーシス小体)に分かれます。
体の中では、この断片をマクロファージなどの食細胞が取り込みます。中身が周りに漏れないため、炎症はほとんど起きません。
この変化を進める酵素がカスパーゼ(アスパラギン酸の後ろでタンパク質を切るプロテアーゼ)です。ふだんは働かない前駆体として細胞の中にあり、上流のカスパーゼが下流のカスパーゼを切って活性化する連鎖で働きます。
- 開始カスパーゼ:カスパーゼ8や9などで、死の合図を受けて最初に活性化し、下流のカスパーゼを切ります。
- 実行カスパーゼ:カスパーゼ3・6・7で、細胞の中のタンパク質を切り、DNAを断片化する酵素を働かせます。
合図の入り口は2つあります。外因性経路では、細胞の外の死のリガンドが細胞表面の受容体に結合し、カスパーゼ8が活性化します。
内因性経路では、増殖因子の欠乏や低酸素、DNAの損傷のような細胞の中のストレスで、ミトコンドリアからシトクロムcが出てカスパーゼ9が活性化します。この放出を抑える側に Bcl-2 や Bcl-xL、進める側に Bax や Bak がいて、まとめて Bcl-2 ファミリーと呼ばれます。

2. ネクローシスとの違いは、膜がいつ破れるか
ネクローシスは、細胞が膨らんで膜が破れ、中身が周りに漏れ出す死に方です。 アポトーシスが膜を保ったまま進むのに対し、ネクローシスでは最初に膜が壊れます。
| アポトーシス | ネクローシス | |
|---|---|---|
| 細胞の形 | 縮み、断片に分かれる | 膨らみ、破裂する |
| 細胞膜 | 最後まで保たれる | 早い段階で破れる |
| 起き方 | エネルギーを使って制御された手順で進む | 強い傷害やエネルギー不足で、制御されずに起きる |
| 周りへの影響 | 体内では炎症がほとんど起きない | 漏れた中身が炎症を起こす |
ただ、2つの死に方はきれいに分かれません。細胞の中のエネルギー(ATP)が足りなくなると、アポトーシスの途中からネクローシスのような死に方へ移ることがあると報告されています。
培養器の中では、もう1つ違いが出ます。断片を取り込む食細胞がいないため、アポトーシスに入った細胞も最後には膜が破れ、ネクローシスと同じように中身が漏れます。培養では、アポトーシスで死んだ細胞も、最後には中身を培養液に出します。
3. 抗体を作る培養で、細胞の死が品質まで変えるのはなぜか
抗体を作る CHO細胞抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく →(チャイニーズハムスターの卵巣に由来する細胞)のフェドバッチ(流加培養)では、培養が進むにつれて栄養が減り、乳酸やアンモニアグルタミンの代謝と化学分解で生じる代謝副産物。蓄積すると増殖・生存を落とし、糖鎖の質にも影響する。詳しく →が溜まり、浸透圧溶液中の溶質濃度で決まる、水を引き込む圧。培養では上昇が細胞ストレスになる管理項目。詳しく →が上がります。こうした変化はアポトーシスのきっかけになり、工業的に使われる細胞株は、主にアポトーシスで死ぬと考えられてきました。
生きた細胞が減れば、抗体を作る細胞も減ります。それに加えて、死んだ細胞から漏れた酵素が、培養液の中ですでに作られた抗体を変えてしまいます。
抗体を作るCHO細胞の培養上清を調べた報告では、宿主細胞タンパク質(HCP、製品以外に細胞が出すタンパク質)が、増殖の減衰期に急に増えました。著者らは、これを死んだ細胞から出たものとしています。
- タンパク質分解酵素:カテプシンDのような酵素が抗体を切り、断片を増やすと報告されています。
- 糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →を切る酵素:β-ガラクトシダーゼのような酵素が、抗体の糖鎖の末端のガラクトースを減らすと報告されています。
培養液に出たHCPは、後の精製で取り除く相手でもあります。生存率は、生産量だけでなく、抗体の品質と精製の負担にも関わる指標です(HCPとは)。
4. 培養の後半に生存率が下がる細胞は、すべてアポトーシスで死んでいるのか
そうとは限りません。 工業用の抗体産生CHO株を流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →した2024年の報告では、標準の条件で生存率が下がっても、活性化したカスパーゼ9・3の目印は検出されませんでした。
代わりに増えていたのは、別の仕組みの死の目印です。DNAの修復に関わる酵素が過剰に働いて起きるパータナトスの目印は生存率の低下に合わせて増え、鉄に依存した脂質の過酸化で起きるフェロトーシスの目印は培養の終わりに向けて増えていました。
一方、同じ株でも撹拌を強めた条件では、生存率が80%を下回った12日目以降にカスパーゼの活性化が見られました。どの死に方が起きるかは、細胞株と培養の条件で変わります。
では、アポトーシスを抑える工夫は意味がないのでしょうか。これまでの研究では、次の2つの方向が報告されています。
- 栄養と代謝を整える:流加で栄養の枯渇を防ぎ、代謝を調整する方法が、細胞の死を抑えるうえで現時点では最も効果的とされています。
- 細胞株に耐性を持たせる:Bcl-2やBcl-xLを多く発現させる、BaxとBakを働かなくするなどの改変が報告されています。ただし、Bcl-2では生細胞数が大きく増えても、抗体の生産量の伸びは小さいか、見られない例が多かったとされています。
アポトーシスを抑える改変は、全体として培養の成績を上げてきたとも報告されています。アポトーシスを抑えれば培養が延びるとは決めつけず、自分の工程でどの死に方が起きているかを先に確かめます。
5. 細胞治療製品では、生存率の数字に何が入っていないのか
細胞治療では、細胞そのものが製品です。米国食品医薬品局(FDA)の体細胞治療の CMC(製造と品質管理原料・資材・中間体・製品を規格に照らして試験し、使ってよいか、出荷してよいかの合否を決める仕事です。GMPでは製造部門から独立させます。詳しく →)に関するガイダンス(2008年)は IV.E.2 で、出荷時の生存率に最低限の基準を設けるべきとし、一般に70%に設定されるとしています。
70%に届かない場合は、死細胞や細胞片が安全な投与や治療効果に影響しないことを示すデータの提出を勧めています。
ただし、基準を満たしていても、膜が破れる前のアポトーシスの細胞は生きている側に数えられます。 生存率の多くは、トリパンブルーのような色素が膜の破れた細胞にだけ入ることを使って測るからです(細胞数・生存率の測定法)。
凍結した細胞では、このずれが大きくなります。細胞株を使った凍結保護剤凍結や融解のときの細胞損傷を抑えるために、凍結保存液へ加える保護用の薬剤。詳しく →の評価では、解凍直後は無傷に見えた細胞が約6時間後から死に始め、著者らは遅れて始まるアポトーシスによるものとしています。
同じ報告は、回収できた細胞だけで生存率を計算すると、凍結で失われた細胞が数に入らないことも指摘しています。解凍後の評価では、時間をおいた生存率と、回収できた細胞の数の両方を見ます(細胞治療の凍結保存と輸送)。
6. Annexin V・カスパーゼ活性・生存率は、死に向かう途中のどこを見ているのか
3つの指標は、アポトーシスが進む途中の、それぞれ別の時点を見ています。 早い段階を見るものほど、生存率の数字に表れる前の変化をとらえます。
- カスパーゼ活性:実行カスパーゼ3・7が切る配列を持つ基質を加え、切れて出る蛍光や発光で酵素の働きを測ります。細胞を溶かして測るため、どの細胞が死にかけているかは分かりません。
- Annexin V:ふだん膜の内側にあるホスファチジルセリン(PS)は、アポトーシスの早い段階で外側に出てきます。カルシウムの存在下でPSに結合するAnnexin Vを蛍光で標識し、フローサイトメトリー細胞を一つずつ測定し、表面マーカーや性質を調べる手法です。細胞の種類・純度・活性の確認に使います。詳しく →で測ります。
- 生存率:トリパンブルーやヨウ化プロピジウム(PI)は、膜が破れた細胞にだけ入ります。膜を保っている初期のアポトーシスの細胞は、生きている側に数えられます。
Annexin VとPIを組み合わせると、細胞を3つに分けられます。両方が陰性の細胞は生細胞、Annexin Vだけが陽性の細胞は初期のアポトーシス、両方が陽性の細胞は膜が破れた細胞です。

Annexin VとPIが両方陽性の細胞が多くても、ネクローシスと決めつけません。培養器の中ではアポトーシスの細胞も最後は膜が破れるため、後期のアポトーシスとネクローシスが同じ区画に入ります。
7. 自分の工程では、生存率が下がり始める時点で何を確かめるか
最初に確かめるのは、生存率が下がり始める時点で、どの死に方が起きているかです。 死に方が分かれば、栄養の与え方を変えるのか、細胞株を工夫するのかを選べます。
- 生存率が下がり始める日はいつか:生存率と生細胞密度の推移に、栄養・乳酸・アンモニア・浸透圧の変化を並べ、下がり始めた日の前後で何が変わったかを見ます。
- アポトーシスが主な死に方か:下がり始める前後で、Annexin Vとヨウ化プロピジウム(PI)の染色、カスパーゼ3・7の活性を測り、生存率の低下より先に動くかを確かめます。
- 品質に影響が出始めるのはいつか:生存率の違う時点の培養液で、宿主細胞タンパク質(HCP)の量、抗体の断片、糖鎖の末端のガラクトースを比べ、収穫の時期を決める材料にします。
細胞治療製品では、解凍してから時間をおいた生存率と、回収できた細胞の数も測ります。アポトーシスは、生存率の数字に表れる前から始まっています。生存率の低下を見つけたら、その手前で何が起きているかを、Annexin Vとカスパーゼ活性で確かめるところから始めます。
参考文献
- Elmore S. Apoptosis: A Review of Programmed Cell Death. Toxicol Pathol. 2007;35(4):495-516.(アポトーシスとネクローシスの形の違い、開始カスパーゼと実行カスパーゼ、外因性経路と内因性経路、Bcl-2ファミリー、Annexin Vの限界、培養での二次的なネクローシス、カスパーゼ活性の測定の限界)
- Krampe B, Al-Rubeai M. Cell death in mammalian cell culture: molecular mechanisms and cell line engineering strategies. Cytotechnology. 2010;62(3):175-188.(培養での細胞死のきっかけ、Bcl-2・Bcl-xL・Bax/Bakの改変の結果、栄養と代謝の調整が最も効果的とする結論)
- Mentlak DA, et al. Dissecting cell death pathways in fed-batch bioreactors. Biotechnol J. 2024;19(1):e2300257.(抗体産生CHO株の流加培養で、標準条件ではアポトーシスの目印が出ず、パータナトスとフェロトーシスの目印が増えたこと。撹拌を強めた条件でのカスパーゼの活性化)
- Park JH, et al. Proteomic Analysis of Host Cell Protein Dynamics in the Culture Supernatants of Antibody-Producing CHO Cells. Sci Rep. 2017;7:44246.(減衰期のHCPの増加、カテプシンDによる抗体の切断、β-ガラクトシダーゼとガラクトースの減少)
- FDA. Content and Review of Chemistry, Manufacturing, and Control (CMC) Information for Human Somatic Cell Therapy Investigational New Drug Applications (INDs). 2008.(IV.E.2 生存率の出荷基準)
- Vermes I, et al. A novel assay for apoptosis. Flow cytometric detection of phosphatidylserine expression on early apoptotic cells using fluorescein labelled Annexin V. J Immunol Methods. 1995;184(1):39-51.(Annexin VとPIによる生細胞・初期アポトーシス・膜が破れた細胞の区別)
- Murray KA, Gibson MI. Post-Thaw Culture and Measurement of Total Cell Recovery Is Crucial in the Evaluation of New Macromolecular Cryoprotectants. Biomacromolecules. 2020;21(7):2864-2873.(解凍後に遅れて始まる細胞死、回収数を含めた評価)
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