忍容性とは?「忍容性は良好」は安全という意味なのか

忍容性とは、薬によって起きるはっきりした副作用に、患者や被験者がどの程度耐えられるかを表す言葉です。臨床試験の論文や開発のニュースで「忍容性は良好」と書かれるとき、その根拠には、副作用で投与をやめたり減らしたりした人の割合がよく使われます。
一方で、忍容性が良好なことは、安全性に問題が無いことと同じではありません。重い副作用がまれにしか起きない薬や、軽い副作用が何か月も続く薬では、2つの評価が食い違います。
安全性との違い、忍容性を表す数字、副作用が用量でどう変わるか(用量依存性)、最大耐量動物が耐えられる最大の投与量。近年は曝露マージンを踏まえ、機械的に最大耐量まで上げない考え方が重視される。詳しく →の決め方と限界、試験結果を読むときに確かめることを、臨床試験の流れに沿って説明します。
- 忍容性と安全性は同じか:違います。安全性は体への医学的なリスクを、忍容性ははっきり出る副作用に耐えられるかを見ます。
- 忍容性は何で測るのか:副作用による投与の中止・減量・休薬の割合や、予定どおり投与できた割合、患者自身の報告で見ます。
- 副作用は用量を上げるほど増えるのか:薬の作用が強く出すぎる副作用は用量とともに増えますが、用量とほとんど関係なく起きる副作用もあります。
1. 忍容性は、安全性とどこが違うのか
臨床試験の統計の国際ガイドライン ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → E9 は、安全性を「被験者にとっての医学的なリスク」、忍容性を「明らかな有害作用に被験者が耐えられる程度」として分けています。
安全性は、臨床検査値、血圧や脈拍などのバイタルサイン、有害事象(薬との関係を問わず、投与後に起きた好ましくない出来事)、心電図などで評価します。体に何が起きたかを、試験をする側が測って判断する見方です。
忍容性が問うのは、出た副作用を抱えたまま、患者がその薬を使い続けられるかです。同じ有害事象のデータを見ていても、問いが違うと答えが変わります。

有害事象の重さは、がんの臨床試験では米国国立がん研究所の基準(CTCAE)で、グレード1(軽い)からグレード5(死亡)までの段階で付けます。重さの段階が低い副作用は、安全性の面では大きな問題に見えません。
それでも、FDA は2024年のがんの用量の決め方のガイダンスで、グレード1〜2の下痢のように軽く記録される副作用でも、長く続けば患者が薬を続けられるかに大きく影響しうると書いています。長く使う薬では、重さが軽いことと、耐えて続けられることを別に確かめる必要があります。
2. 「忍容性は良好」は、何を数えて言っているのか
忍容性は、副作用によって投与を中止・減量・休薬した人の割合を中心に数えます。
ICH E9 は、重篤な有害事象と、有害事象による投与の中止を、とくに記録が大事なものとして挙げています。先の FDA のガイダンスは、用量を比べるときの忍容性の物差しとして、次のような項目を挙げています。
- 投与を続けられたか:投与期間と、予定した投与をすべて受けられた患者の割合を見ます。
- 用量を変えたか:副作用による休薬・減量・中止の割合、最初に用量を変えるまでの期間、休薬の長さを見ます。
- 患者がどう感じたか:症状と生活への影響を患者自身が答える患者報告アウトカム(PRO)を使い、忍容性の評価を補うことを検討するよう勧めています。
数字が並んでも、それだけで「良好」とは言えません。ICH E9 によれば、多くの試験は、比べる薬やプラセボ(有効成分を含まない偽薬)との間に、臨床的に受け入れられない差が無いことを確かめる設計で、副作用の評価は主に記述統計と信頼区間で行います。
副作用の起きる頻度は低いことが多く、検証的な試験でも決定的な結論が出るのは例外だと、同じガイドラインは書いています。
どこまでの副作用を受け入れるかは、病気と、ほかに治療の手段があるかでも変わります。FDA は、従来の抗がん剤では、有効な治療がほかに無かったことから、患者も医師も大きな毒性を受け入れてきたと説明しています。
3. 副作用は、用量を上げるほど強くなるのか
用量を増やすほど、反応の強さや起きる頻度が増える性質を、用量依存性と呼びます。副作用には、用量依存性のあるものと、用量とほとんど関係なく起きるものがあります。
副作用の分類として広く引かれる Edwards と Aronson の総説(Lancet、2000年)は、用量に関係する副作用をA型(Augmented、増強)、用量に関係しない副作用をB型(Bizarre、奇異)として分けています。
- A型(用量に関係する):薬の本来の作用が強く出すぎたもので、用量や血中濃度が上がるほど起きやすく、強くなります。
- B型(用量に関係しない):アレルギーのように、用量をわずかにしても起きることがあり、どの患者に起きるかを用量から予測できません。
この違いは、忍容性を保つ手立てに直結します。A型の副作用なら、減量や休薬で和らげられる可能性があり、2節の減量・休薬の割合はその手立てを使った記録でもあります。一方でB型の副作用は、用量を下げても避けにくいため、投与の中止を検討します。
似た言葉に用量比例性があります。こちらは、用量を2倍にしたとき血中の薬の量(AUC など)も2倍になるかという薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。詳しく →の性質で、反応の大きさを問う用量依存性とは別の問いです。詳しくは用量比例性とはで、用量と効き目の関係の描き方は用量反応曲線とはで説明しています。
4. 最大耐量(MTD)まで上げた用量が、いちばんよい用量なのか
副作用の多くが用量とともに増えるなら、どこまで用量を上げられるかを決める必要があります。その上限が最大耐量(MTD)です。
がんの薬の初期の試験では、少人数の患者に短い期間投与し、用量を段階的に上げていきます。用量を上げるのをやめる理由になる重い毒性を、あらかじめ用量制限毒性(DLT)として決めておき、DLT が決めた割合で出るところまで上げて MTD を決めてきました。
ただし、MTD は耐えられる上限であって、効き目と忍容性のつり合いが最もよい用量とは限りません。FDA の2024年のガイダンスは、MTD を探す方法は、用量とともに効果も毒性も急に増え、標的を選ばない従来の抗がん剤に合わせて作られたものだと説明しています。
特定の分子を狙うキナーゼ阻害薬や抗体では、MTD より低い用量で同じくらいの効果が出て副作用が少ないことや、MTD に達しないことがあるとされています。それでも MTD 付近の用量がそのまま承認時の用量になり、必要以上に高く、耐えにくい用量になる例があるため、同ガイダンスは複数の用量を比べて選ぶよう勧めています。
MTD を求めること自体が不要になったわけではありません。上限が分かっていれば、その下のどの用量を比べるかを決められます。比べるときは、効果と薬物動態に加えて、2節の中止・減量の割合や軽い副作用の続き方も合わせて見ます。
動物の毒性試験でも MTD は使われます。非臨床試験の国際ガイドライン ICH M3(R2)臨床試験を支える非臨床安全性試験の実施時期や内容の全体像を示すICHガイドライン。詳しく → は、毒性の性質を調べるには MTD までの用量で足りるとしつつ、どの試験でも MTD を示す必要はなく、一部の例外を除き、げっ歯類と非げっ歯類で1日1,000 mg/kg を上限の用量にしてよいとしています。動物のデータからヒトの最初の用量を決める流れは、無毒性量(NOAEL)から最大推奨初回投与量(MRSD)を決める記事で説明しています。
5. 試験結果や開発資料で、忍容性を読むときに確かめること
忍容性の判断は、比べる相手・投与の期間・投与のしかたによって変わるため、「良好」という言葉より、その前提を先に確かめます。
- 比べる相手:プラセボ、既存の薬、別の用量のどれと比べた結果かを確かめます。
- 中止・減量・休薬の割合:副作用による投与の変更が何割あったかを、重い事象だけでなく、軽い副作用が続いた例も含めて見ます。
- 期間と人数:ICH E9 は、初期の試験の評価は探索的で、はっきり現れる毒性しかとらえられないとしています。少人数で短い試験の「良好」は、長期の使用での忍容性までは示しません。
- 用量依存性:副作用が用量とともに増えているか(A型に近いか)を見ます。増えていれば、減量で続けられる可能性があります。
- 製剤と投与のしかた:注射では、投与した場所の痛みや腫れ(局所の忍容性)が、製剤の浸透圧溶液中の溶質濃度で決まる、水を引き込む圧。培養では上昇が細胞ストレスになる管理項目。詳しく →や添加剤、注入の量で変わります。製剤の側の話は等張化剤とは、非臨床での調べ方は局所刺激性・皮膚感作性試験とはで説明しています。
最初の一歩として、手元の試験結果から、副作用による中止と減量の割合を、比べた群と並べて書き出してみてください。最大耐量(MTD)や用量制限毒性(DLT)が出てくる資料では、その用量が上限として決めたものか、効き目と比べて選んだものかも確かめます。
参考文献
- ICH E9, Statistical Principles for Clinical Trials(1998年)。用語集の Safety & Tolerability(安全性と忍容性の定義)、6.1〜6.4(初期の試験の評価の性質、有害事象による投与中止の記録、比較の考え方と記述統計)。日本では「臨床試験のための統計的原則」(医薬審第1047号、平成10年11月30日)
- U.S. FDA, Optimizing the Dosage of Human Prescription Drugs and Biological Products for the Treatment of Oncologic Diseases, Guidance for Industry, 2024年8月(MTD を探す方法の成り立ちと限界、忍容性の物差し、患者報告アウトカム)
- Edwards IR, Aronson JK. Adverse drug reactions: definitions, diagnosis, and management. Lancet. 2000;356(9237):1255-1259.(用量に関係する副作用と関係しない副作用の分類)
- ICH M3(R2), Guidance on Nonclinical Safety Studies for the Conduct of Human Clinical Trials and Marketing Authorization for Pharmaceuticals(2009年)。1.5(毒性試験の高用量の選び方、MTD と上限の用量)
- National Cancer Institute, Common Terminology Criteria for Adverse Events (CTCAE) v5.0(2017年。有害事象のグレード1〜5)
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