安全性・非臨床Research × Nonclinical / トピック 15 of 15

初回投与量設計

ヒト初回投与量臨床で最初にヒトへ投与する用量。非臨床データから安全な出発点として推定する。(FIH)をどの根拠から設計するか

初回投与量は、非臨床データから安全側に立ってヒトでの開始点を決める工程で、被験者の安全と用量漸増の起点を左右します。モダリティによって「何が用量制限になるか」が違うため、同じMRSDの枠組みをそのまま当てはめられるかが分かれます。

7モダリティを比較29装置・試薬の代表例

共通の考え方多くの場合、動物のNOAELからHED(体表面積換算等)を求め、安全係数を掛けてMRSD(最大推奨開始用量)を算出するのが基準です(FDA 2005ガイダンス)。一方で薬理作用が急峻・不可逆なモダリティでは、NOAEL基準では過大になり得るため、PAD(薬理活性量)やMABELなど薬理作用側からの下限も併せて検討し、より低い方を採用する考え方が共通します。なお抗がん剤ではNOAEL/HEDではなく、げっ歯類のSTD10の1/10または非げっ歯類のHNSTDの1/6を開始用量とする枠組み(ICH S9)が用いられます。

モダリティ別の進め方(7比較)

モダリティアプローチ(手法)読み出し・指標留意点
低分子動物NOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。からHED動物の用量を体表面積換算でヒトの用量に直した値(ヒト等価用量)のこと。を体表面積換算で求め、安全係数動物からヒトへの当てはめに残る不確かさを見込んで初回量を下げる除数で、標準は10とされる。(通常10、根拠に応じ調整)を掛けてMRSD感度の高い種のHEDを安全係数で割って求める、最初に投与してよい上限量。を算出(FDA 2005 MRSDガイダンス/ICH M3(R2)臨床試験を支える非臨床安全性試験の実施時期や内容の全体像を示すICHガイドライン。)。必要に応じPAD薬理作用が出始める用量(薬理活性量)で、開始用量が近すぎないか照らし合わせる。と比較。MRSD感度の高い種のHEDを安全係数で割って求める、最初に投与してよい上限量。(mg/kgまたはmg/m2)、NOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。/HED動物の用量を体表面積換算でヒトの用量に直した値(ヒト等価用量)のこと。安全係数動物からヒトへの当てはめに残る不確かさを見込んで初回量を下げる除数で、標準は10とされる。最も標準化された枠組み。急性・オフターゲット毒性が用量制限になることが多い。
抗体(mAb)免疫作動性・アゴニスト活性がある場合はNOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。基準ではなくMABEL薬の作用がごくわずかに出始めると見込む用量で、抗体など高リスク薬の初回量設計に使う。(最小予測薬理作用量)を採用。受容体占有率細胞表面などの受容体のうち、薬に結合されて埋まっている割合。標的結合の直接的な指標。in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。薬理・PK/PD薬が体内でどう動くか(薬物動態=PK)と、体にどう効くか(薬力学=PD)を合わせて見る考え方。から逆算し、複数手法の中で最も保守的な値を選ぶ(TGN1412初回ヒト投与でサイトカイン放出の重篤な反応を起こした抗CD28抗体で、MABEL普及の契機。の教訓、EMA 2007/改訂2017 FIHガイドライン)。標的作用が穏やかならMRSD感度の高い種のHEDを安全係数で割って求める、最初に投与してよい上限量。も可。MABEL薬の作用がごくわずかに出始めると見込む用量で、抗体など高リスク薬の初回量設計に使う。受容体占有率細胞表面などの受容体のうち、薬に結合されて埋まっている割合。標的結合の直接的な指標。(例10%等)、標的結合・in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。 EC値サイトカイン放出免疫が短時間で信号物質を大量に放出し、発熱・血圧低下・臓器障害へ進む激しい反応。等のオンターゲットガイドが指し示す、本来切ってほしい標的の場所。ここでも大欠失など意図しない結果が起きうる。毒性リスクが用量設計を規定。FcRnIgGを細胞内でリサイクルして血中半減期を延ばす受容体。サイレンシング設計でも結合を残すことが多い。再循環で半減期薬の血中濃度が半分に下がるまでの時間。抗体フラグメントでは短く、延長の工夫が要る。が長く、TMDD抗体が標的に結合し、その複合体ごと細胞に取り込まれて消失する現象。用量で薬物動態が変わる主因。も考慮。バイオ医薬品抗体・タンパク質・核酸など生体由来の分子を利用して製造された医薬品の総称。の非臨床はICH S6(R1)バイオ医薬品の非臨床安全性評価の考え方を示すICHガイドライン。種選択などの枠組みを定める。
ADC抗体部分の標的薬理と、切断されるペイロード抗体薬物複合体(ADC)で抗体に結合させる強力な細胞毒(薬物)です。抗体によって標的の細胞まで運ばれ、そこで細胞を殺す作用を担います。詳しく →(多くは細胞毒)の全身毒性を分けて評価。抗がん剤ではICH S9進行がん治療薬に特化した非臨床評価に関する国際ガイドラインで、対象患者の状況を踏まえた安全性試験の実施範囲・時期を規定している。に沿い、非げっ歯類HNSTDの1/6またはげっ歯類STD10の1/10を開始用量の主根拠とし、ペイロード毒性を規定要因とする。HNSTD/STD10、DAR抗体薬物複合体(ADC)で、抗体1分子に結合した薬物の平均数です。効果と安全性を左右するため測定する指標です。詳しく →、遊離ペイロード抗体薬物複合体(ADC)で抗体に結合させる強力な細胞毒(薬物)です。抗体によって標的の細胞まで運ばれ、そこで細胞を殺す作用を担います。詳しく →曝露多くが腫瘍領域でICH S9進行がん治療薬に特化した非臨床評価に関する国際ガイドラインで、対象患者の状況を踏まえた安全性試験の実施範囲・時期を規定している。適用。ペイロード抗体薬物複合体(ADC)で抗体に結合させる強力な細胞毒(薬物)です。抗体によって標的の細胞まで運ばれ、そこで細胞を殺す作用を担います。詳しく →由来の血液毒性等がDLTになりやすい。
mRNA-LNP発現目的タンパク質をコードする遺伝子を宿主細胞内で転写・翻訳させ、機能的なタンパク質として産生させる工程。産物の薬理とLNPmRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。由来の自然免疫病原体を素早く感知して働く生体防御の仕組み。dsRNAをウイルスの痕跡とみなし炎症反応を起こします。・炎症反応の両面を考慮。反復投与毒性のNOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。からHED動物の用量を体表面積換算でヒトの用量に直した値(ヒト等価用量)のこと。を求めつつ、過度の免疫活性化T細胞を抗原刺激や人工的な刺激試薬で活性化し、増殖・機能発揮できる状態に誘導する操作。を避ける観点で開始用量を保守的に設定。ワクチン用途では免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。・反応原性が主眼で、適用ガイダンスも異なる。NOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。/HED動物の用量を体表面積換算でヒトの用量に直した値(ヒト等価用量)のこと。発現量細胞が目的のタンパク質を作る量。低いと必要量の確保に手間がかかり、製造コストが上がる。・薬理、反応原性(サイトカイン・炎症)製品の目的(ワクチンか治療か)で基準が変わる。予防ワクチンや化学合成オリゴはICH S12遺伝子治療製品の非臨床の組織分布評価の考え方を示すICHガイドライン。の適用範囲外である点にも注意し、適用ガイダンスを個別に確認。
AAV(遺伝子治療)用量はvg/kg(ベクターゲノム数)で規定し、非臨床の生体内分布投与した薬が体内のどこにどれだけ届き、どれだけ留まるかを測る評価のこと。・毒性から設定。免疫反応(自然免疫病原体を素早く感知して働く生体防御の仕組み。dsRNAをウイルスの痕跡とみなし炎症反応を起こします。・抗capsid)と肝毒性が用量制限になりやすく、これらのNOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。や観察所見が主根拠(FDA遺伝子治療ガイダンス、ICH S12遺伝子治療製品の非臨床の組織分布評価の考え方を示すICHガイドライン。:遺伝子治療の非臨床バイオディストリビューション投与した薬が体内のどこにどれだけ届き、どれだけ留まるかを測る評価のこと。)。vg/kg、肝機能・免疫マーカー、生体内分布投与した薬が体内のどこにどれだけ届き、どれだけ留まるかを測る評価のこと。単回・長期持続的な曝露で、通常の反復投与NOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。/安全係数動物からヒトへの当てはめに残る不確かさを見込んで初回量を下げる除数で、標準は10とされる。の考え方がそのままは使えない。既存の抗capsid中和抗体ウイルスベクターのカプシドなどに結合し、細胞に届く前に働きを失わせる抗体。再投与の壁になる。で被験者が除外され、投与後は中和低pH条件で溶出されたサンプルに緩衝液を加えてpHを中性付近に戻し、製品へのダメージを防ぐ操作。抗体誘導で再投与が難しいことも設計上の前提。
siRNA・ASO(核酸)クラス共通の毒性(肝・腎蓄積、補体活性化T細胞を抗原刺激や人工的な刺激試薬で活性化し、増殖・機能発揮できる状態に誘導する操作。hybridization相補的な塩基配列を持つ核酸鎖同士が水素結合して二重鎖を形成する反応。非依存/依存毒性)を踏まえ、反復投与毒性のNOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。からHED動物の用量を体表面積換算でヒトの用量に直した値(ヒト等価用量)のこと。を算出。組織蓄積を考慮した曝露ベースの評価を併用(ICH S6(R1)バイオ医薬品の非臨床安全性評価の考え方を示すICHガイドライン。種選択などの枠組みを定める。を参照しつつオリゴ核酸DNAやRNAの短い鎖を化学合成でつないだ分子で、核酸医薬原薬の多くを占める。のクラス知見を適用)。NOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。/HED動物の用量を体表面積換算でヒトの用量に直した値(ヒト等価用量)のこと。、組織(肝腎)蓄積・曝露、補体・炎症マーカー化学修飾核酸の糖・骨格・末端に施し、安定性・結合力・免疫原性を整える改変。送達ゲノム編集ツールや核酸医薬などを標的細胞・組織まで安全かつ効率よく運ぶための技術・方法論の総称。GalNAc核酸医薬を肝臓の細胞へ届けるために結合させる糖のリガンドです。肝細胞表面の受容体に結びつき、薬物の取り込みを高めます。詳しく →結合による肝細胞取り込み等)でクラス毒性同じ作用機序や構造を持つ薬の一群に共通して見られる毒性。既知であれば試験の要否判断の材料になる。プロファイルが変わる。
細胞治療(CAR-T・iPS)用量は質量でなく細胞数(総細胞数またはkg当たり)で表し、体内での増殖・生着により曝露が非線形。動物モデルの予測性が限られるため、既存臨床知見・作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。活性からリスクベースリスクの大きさに応じて管理の濃淡や頻度を決める考え方。監査証跡レビューの頻度決定に用いる。で開始細胞数を設定(ICH S6(R1)バイオ医薬品の非臨床安全性評価の考え方を示すICHガイドライン。種選択などの枠組みを定める。、FDA細胞・遺伝子治療ガイダンス)。投与細胞数、生着・増殖、サイトカイン放出免疫が短時間で信号物質を大量に放出し、発熱・血圧低下・臓器障害へ進む激しい反応。CRS分析の基準となる、純度が保証された原薬や不純物の標準物質(CRS)です。測定値の正しさを確かめ、不純物の同定・定量に使います。詳しく →)関連指標通常のPK/曝露でなく細胞動態(増殖・生着)が曝露を規定。CRS分析の基準となる、純度が保証された原薬や不純物の標準物質(CRS)です。測定値の正しさを確かめ、不純物の同定・定量に使います。詳しく →等のオンターゲットガイドが指し示す、本来切ってほしい標的の場所。ここでも大欠失など意図しない結果が起きうる。毒性と長期持続を考慮し、NOAEL無毒性量。毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の用量。PDE算出の出発点になる。/安全係数動物からヒトへの当てはめに残る不確かさを見込んで初回量を下げる除数で、標準は10とされる。の枠組みは適用しにくい。

このトピックで使う装置・試薬29

装置・試薬の多くはモダリティを問わず共通に使われます。ここでは各モダリティの文脈での使い方として示しており、名称のリンク先(製品ガイド)は横断で参照できます。

低分子6
装置・機器4
試薬・キット2
  • LC-MS/MS用内標準・移動相・SPEプレート安定同位体標識内標準(Alsachim/Toronto Research Chemicals)、Waters Oasis HLB μElution Plate
  • 臨床化学・肝腎機能マーカー試薬Roche cobas AST/ALT/BUN試薬、Siemens ADVIA Chemistryクレアチニン試薬
抗体9
装置・機器5
試薬・キット4
  • 受容体占有率フロー用抗体・ビーズ・染色試薬BD蛍光標識抗ヒトIgG検出抗体、BD Quantibrite PE定量ビーズ、BioLegend蛍光標識抗体
  • SPR/BLIセンサーチップ・バイオセンサーCytiva Series S CM5/Protein Aチップ、Sartorius Octet AHC/SAバイオセンサー
  • レポーターアッセイ・機能アッセイキットPromega ADCC/T Cell Activation Bioassay、Promega CellTiter-Glo、Cisbio HTRF cAMPキット
  • 初代免疫細胞・全血・PBMCSTEMCELL Technologies ヒトPBMC、Lonza正常ヒト全血、Cytiva Ficoll-Paque PLUS
ADC7
装置・機器4
試薬・キット3
  • ペイロード標準品・安定同位体標識内標準(MMAE/DM1/DXd等)MedChemExpress MMAE/MMAF標準品、Toronto Research Chemicals DM1、Alsachim ¹³C/¹⁵N標識内標準
  • 細胞毒性・生存率アッセイキットPromega CellTiter-Glo 2.0、Promega CellTiter 96 (MTS)、Dojindo Cell Counting Kit-8
  • アフィニティ捕捉試薬・S9フラクション(in vitroペイロード放出)Thermo Fisher Streptavidin磁気ビーズ、Cytiva Protein A Sepharose、Corning/Gibco肝S9フラクション
mRNA-LNP7
装置・機器4
試薬・キット3
規制・注意開始用量の根拠と適用ガイダンスはモダリティと適応(特に抗がん剤か否か)で変わります。抗がん剤はICH S9の枠組み(患者対象・STD10の1/10またはHNSTDの1/6を開始用量とし、より高い開始点を許容)で設計されることが多く、健常人対象の試験とは前提が異なります。MABEL採用の要否や安全係数は、標的作用の急峻さ・不可逆性・種差の大きさに応じて個別に正当化する必要があります。

一次資料FDA Guidance for Industry (2005) "Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers"(MRSD算定)、ICH M3(R2)、ICH S6(R1)(バイオ医薬品の非臨床安全性)、ICH S9(抗悪性腫瘍薬の非臨床評価。開始用量はSTD10の1/10またはHNSTDの1/6)、ICH S12(遺伝子治療の非臨床バイオディストリビューション。予防ワクチン・化学合成オリゴは適用範囲外)、EMA Guideline on strategies to identify and mitigate risks for first-in-human and early clinical trials(初版2007/改訂2017、MABEL・TGN1412の教訓を反映)。

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