ADCのリンカーとは?切れやすいほど、よいのか

ADCのリンカーとは、抗体と、細胞を傷害する薬物をつなぐ分子のことです。ADC(抗体薬物複合体標的を選ぶ抗体に、細胞傷害性の薬物(ペイロード)をリンカーでつないだ分子。詳しく →)では、このリンカーADCで抗体とペイロードをつなぐ部分。両者の結合や体内での薬物放出の性質を左右する。詳しく →が血中では外れず、細胞の中に入ってから薬物を放すように設計します。
ただし、切れやすいほど薬物は放しやすい一方で、血中で切れた分は、腫瘍に届く前に全身をめぐります。
この記事では、2つの型の違い、血中で外れないための仕組み、放される分子の形、隣の細胞まで効くかどうかを順に説明します。
- リンカーとは:抗体と薬物をつなぎ、薬物をどこで放すかを決める分子です。
- 切れやすいほうがよいのか:血中で切れれば届く前に全身をめぐるため、血中では外れず、細胞の中で放す性質が要ります。
- どちらの型を選ぶのか:放される分子が細胞膜を通るかどうかで、隣の細胞まで効くか(バイスタンダー効果)が変わります。
1. ADCのリンカーとは何か
リンカーは、抗体と薬物をつなぐと同時に、薬物をどこで放すかを決める分子です。 放す仕組みによって、切断型と非切断型の2つに分かれます。
| 切断型リンカー | 非切断型リンカー | |
|---|---|---|
| 放す仕組み | 酸性、還元、タンパク質分解酵素で切れる | 抗体がリソソーム細胞内で不要なタンパク質などを分解する小器官。取り込まれた抗体の多くが最終的にここへ運ばれる。詳しく →で分解されて放される |
| 代表的な化学 | ヒドラゾン、ジスルフィド、バリン-シトルリン | チオエーテル、マレイミドカプロイル |
| 放される分子 | 薬物そのもの、またはそれが修飾された分子 | 薬物に抗体由来のアミノ酸が付いた形 |
| 隣の細胞への作用 | 膜を通る分子なら、働きうる | 電荷を持つ分子では、働きにくい |

2024年の総説は、承認されたADCでは切断型のリンカーが多数を占めており、そのうち9品が酵素で切れるリンカーを使っているとしています(Metrangolo V, Engelholm LH. 2024)。では、切れやすいリンカーの何が問題なのでしょうか。
2. 切れやすいリンカーは、何が問題なのか
血中で切れた薬物は、腫瘍に届く前に全身をめぐり、抗原を持たない細胞にも働きます。 静脈内に投与したADCのうち腫瘍に届くのは約2%と見積もられており(Metrangolo V, Engelholm LH. 2024)、途中で失われる分は、効き目と全身の毒性の両方に関わります。
酸で切れるヒドラゾンのリンカーは、この問題がはっきり出た例です。2018年の総説は、ヒドラゾンを使ったADCが生理的な条件(pH 7.4、37℃)でもゆっくり加水分解されるとしたうえで、初期のADCで見られた毒性と忍容性の低さは、循環している間のヒドラゾンの不安定さによると見られると述べています(Tsuchikama K, An Z. 2018)。
血中で薬物が失われる経路は、リンカーが切れることだけではありません。システインにつなぐときに使うマレイミドの結合は、血中のアルブミンなどのチオール基システイン残基が持つ-SH基。ジスルフィド結合の還元で生じ、マレイミドなどと結合する反応点になる。詳しく →と入れ替わり、薬物リンカーごと抗体から外れることがあると報告されています(Shen BQ, et al. 2012)。この外れ方はつなぐ位置によって変わるため、部位特異的コンジュゲーションで扱っています。
では、血中では外れず、細胞の中でだけ切るには、何を利用するのでしょうか。
3. 細胞の中でだけ切るには、何を利用するのか
切断型のリンカーは、細胞の中と外で違う3つの条件を利用します。 酸性の環境、還元する分子の濃さ、リソソームに集まるタンパク質分解酵素の3つです。
- 酸性:エンドソーム細胞が外部から取り込んだ物質を包む小胞。内部が酸性化し、抗体はここでFcRnに結合する。詳しく →やリソソームの中は血中より酸性で、ヒドラゾンはこの条件で加水分解されます。
- 還元:ジスルフィド結合を切るグルタチオンは、細胞質細胞膜の内側のうち、核を除いた部分です。タンパク質の合成や多くの代謝反応がここで進みます。詳しく →に1〜10 mmol/Lあるのに対して、血中は約5 µmol/Lと桁違いに薄いと報告されています(Tsuchikama K, An Z. 2018)。
- 酵素:バリン-シトルリンのペプチドは、リソソームのタンパク質分解酵素であるカテプシンBに切られる設計です。
ただし、切る相手を1つの酵素に決め切れるとは限りません。2017年の報告では、カテプシンBの遺伝子を欠失させた細胞でも、MMAE(微小管の形成を妨げる薬物)を載せたADCの効き目は落ちず、質量分析分子をイオンにして、質量と電荷の比で分け、分子の質量を精密に測る手法です。タンパク質の同定、修飾の位置の特定、不純物の確認などに使い、液体クロマトグラフと組み合わせることが多くあります。詳しく →から、ほかのシステインカテプシンでもこのリンカーが切れると示唆されました(Caculitan NG, et al. 2017)。
動物を使った試験には、もう1つ落とし穴があります。同じバリン-シトルリンのリンカーは、マウスの血漿では酵素に切られると報告されており、ヒトより不安定に見えます(ADCの体内動態)。
切る条件をこまかく設計しても、切らない型という選択肢は残ります。では、切らない型では何が放されるのでしょうか。
4. 非切断型では、何が放されるのか
非切断型ではリンカーは切れず、抗体そのものがリソソームで分解されて薬物が放されます。 放されるのは薬物単体ではなく、抗体由来のアミノ酸が付いた形の分子です(Tsuchikama K, An Z. 2018)。
メイタンシノイド(微小管の形成を妨げる薬物の一群)を載せたADCを調べた2006年の報告では、チオエーテルのリンカーを使った複合体から放されたのは、リジンの付いた形の薬物だけでした。ジスルフィドのリンカーを使った複合体では、これがさらに還元とメチル化を受け、脂溶性分子が脂に溶けやすい性質。高いほど細胞膜を通り組織へ分配されやすく、分布容積が大きくなりやすい。詳しく →の高い分子になりました(Erickson HK, et al. 2006)。
非切断型の代表が、HER2(乳がんや胃がんの一部で多く出る抗原)に対する抗体にDM1(メイタンシンの誘導体)をつないだトラスツズマブ エムタンシンです。放されるリジンの付いたDM1は、生理的なpHで電荷を持つため、細胞の外へは出にくいとされます(Fu Z, et al. 2022)。
放される分子の形が違えば、働く範囲も違います。では、隣の細胞にも効かせたいなら、どちらを選ぶのでしょうか。
5. 隣の細胞まで効かせたいなら、どちらを選ぶのか
放された薬物が細胞膜を通るなら、抗原を出していない隣の細胞にも働きます。これをバイスタンダー効果と呼びます。 腫瘍の中で抗原の出方がばらつくときに、この効果が意味を持ちます。
HER2を標的にする2つのADCを比べた2016年の研究では、水と油への分かれやすさを表す分配係数が、切断型のペプチドのリンカーから放されるDXd(トポイソメラーゼI阻害薬の一種)で2.3、トラスツズマブ エムタンシンから放されるリジン-SMCC-DM1で0.2でした。人工の膜を使った透過性の試験でも、同じ向きの差が出ています。抗原の陽性と陰性の細胞を混ぜた培養では、DXdを放すADCが両方を殺し、トラスツズマブ エムタンシンが殺したのは陽性の細胞だけでした(Ogitani Y, et al. 2016)。
働く範囲には限りがあります。同じ研究では、体の反対側に植えた陰性の腫瘍には効かず、働くのは近くの細胞までだと報告されています。
放される分子の性質で決まることは、別の組み合わせでも確かめられています。CD30(ホジキンリンパ腫などの細胞に出る抗原)を標的にした2016年の報告では、膜を通るMMAEやPBD二量体(DNAに架橋を作る薬物)はバイスタンダー効果を示し、膜を通りにくいMMAF(MMAEと同じアウリスタチン系の薬物)では、動物の試験で示されませんでした(Li F, et al. 2016)。
隣の細胞に届く性質は、腫瘍の外でも同じように働きます。全身への遊離薬物を抑えたいなら、非切断型と、膜を通りにくい薬物の組み合わせを候補に入れます。
6. リンカーを決めるとき、何から確かめるのか
ADC(抗体薬物複合体)のリンカーは、腫瘍での抗原の出方、放したい分子の形、血中での安定性、つなぐ位置の順に決めます。 前の選択が、次に選べるものを狭めるためです。
- 抗原の出方を確かめる:同じ腫瘍の中で出方がばらつくなら、膜を通る薬物を放す切断型が候補です。出方がそろっていて全身の毒性を抑えたいなら、非切断型も含めて比べます(ADCの標的抗原とは)。
- 放したい分子の形を決める:切断型なら薬物そのもの、非切断型ならアミノ酸が付いた形で放されます。その形のままで細胞を殺す力が残るかを、細胞を使う試験で確かめます(バイオアッセイ(力価試験))。
- 血中での安定性を比べる:ヒトと動物の血漿に浸し、外れた薬物の出方を時間を追って測ります。動物種による違いはADCの体内動態、測定を頼める先は血中濃度を測る受託サービスで確かめられます。
- つなぐ位置と数を決める:どのアミノ酸につなぐかで、血中での外れやすさと、DAR抗体薬物複合体(ADC)で、抗体1分子に結合した薬物の平均数です。効果と安全性を左右するため測定する指標です。詳しく →(抗体1分子あたりの平均薬物結合数)の分布が変わります(コンジュゲーションとDARの決め方、部位特異的コンジュゲーション)。
- 測る項目と時点を決める:抗体に結合していない薬物の量は、反応の直後、精製のあと、保管後で動きます。測り方はDARと遊離薬物の分析にあります。
リンカーの製品はADCリンカーとペイロード・リンカーで比べられます。工程の全体はADCの工程マップ、製造を頼める先はADC・バイオコンジュゲートの受託企業にまとめています。
放す仕組みが決まれば、放される分子の形と、血中で失われる量の見当がつきます。では、薬物は抗体にたくさん載せたほうがよいのでしょうか。次の記事で、薬物は、抗体にたくさん載せたほうがいいのかを扱います。
参考文献
- Tsuchikama K, An Z. Antibody-drug conjugates: recent advances in conjugation and linker chemistries. Protein Cell. 2018;9(1):33-46. doi:10.1007/s13238-016-0323-0(ヒドラゾンが生理的な条件(pH 7.4、37℃)でゆっくり加水分解されること、初期のADCの毒性と忍容性の低さが循環中のヒドラゾンの不安定さによると見られること、細胞質のグルタチオンが1〜10 mmol/Lで血中が約5 µmol/Lであること、バリン-シトルリンがカテプシンBに切られる設計であること、非切断型では抗体の分解によって薬物にアミノ酸が付いた形が放されること)
- Metrangolo V, Engelholm LH. Antibody-Drug Conjugates: The Dynamic Evolution from Conventional to Next-Generation Constructs. Cancers. 2024;16(2):447. doi:10.3390/cancers16020447(承認されたADCで切断型のリンカーが多数を占め、うち9品が酵素で切れるリンカーであること、静脈内投与したADCのうち腫瘍に届くのは約2%とされること、抗原の出方がばらつく腫瘍では膜を通る薬物を放す切断型が選ばれやすいこと)
- Caculitan NG, Chuh JDC, Ma Y, et al. Cathepsin B Is Dispensable for Cellular Processing of Cathepsin B-Cleavable Antibody-Drug Conjugates. Cancer Res. 2017;77(24):7027-7037. doi:10.1158/0008-5472.CAN-17-2391(カテプシンBを欠失させてもMMAEを載せたADCの効き目が落ちず、質量分析からほかのシステインカテプシンでもバリン-シトルリンのリンカーが切れると示唆されたこと)
- Erickson HK, Park PU, Widdison WC, et al. Antibody-maytansinoid conjugates are activated in targeted cancer cells by lysosomal degradation and linker-dependent intracellular processing. Cancer Res. 2006;66(8):4426-4433. doi:10.1158/0008-5472.CAN-05-4489(チオエーテルのリンカーから放されるのがリジンの付いた形の薬物だけであること、ジスルフィドのリンカーではさらに還元とメチル化を受けて脂溶性の高い分子になること、どちらの型でもリソソームでの分解が要ること)
- Ogitani Y, Hagihara K, Oitate M, Naito H, Agatsuma T. Bystander killing effect of DS-8201a, a novel anti-HER2 antibody-drug conjugate, in tumors with HER2 heterogeneity. Cancer Sci. 2016;107(7):1039-1046. doi:10.1111/cas.12966(DXdの分配係数(LogD、pH 7.4)が2.3、リジン-SMCC-DM1が0.2で、人工膜の透過性にも差があること。陽性と陰性の細胞を混ぜた培養での比較、反対側に植えた陰性の腫瘍には効かず働くのは近くの細胞までであること)
- Li F, Emmerton KK, Jonas M, et al. Intracellular Released Payload Influences Potency and Bystander-Killing Effects of Antibody-Drug Conjugates in Preclinical Models. Cancer Res. 2016;76(9):2710-2719. doi:10.1158/0008-5472.CAN-15-1795(CD30を標的とするADCで、膜を通るMMAEやPBD二量体がバイスタンダー効果を示し、膜を通りにくいMMAFでは生体内で示されなかったこと)
- Fu Z, Li S, Han S, Shi C, Zhang Y. Antibody drug conjugate: the "biological missile" for targeted cancer therapy. Signal Transduct Target Ther. 2022;7(1):93. doi:10.1038/s41392-022-00947-7(非切断型が化学的・酵素的な環境に安定で、抗体の分解によって薬物にアミノ酸が付いた形が放されること、リジン-MCC-DM1が生理的なpHで電荷を持つためバイスタンダー効果を示さないこと)
- Shen BQ, Xu K, Liu L, et al. Conjugation site modulates the in vivo stability and therapeutic activity of antibody-drug conjugates. Nat Biotechnol. 2012;30(2):184-189. doi:10.1038/nbt.2108(溶媒に触れやすい位置では、アルブミンや遊離のシステインとのマレイミドチオール基と選択的に結合する反応基。システイン結合型ADCで薬物リンカー側に用いられる。詳しく →交換で薬物リンカーが抗体から失われること)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/adc-linker-cleavable-noncleavable