ADCの品質試験とは?DARと純度が規格内なら、安全でよく効くのか

ADCの品質試験とは、抗体薬物複合体(ADC)抗体に細胞傷害性の薬物(ペイロード)を結合させた医薬。標的へ薬物を運んで作用させる。が、薬物の載り方から細胞を殺す力まで、開発で確かめたとおりの物かを調べる試験のことです。DAR抗体薬物複合体(ADC)で、抗体1分子に結合した薬物の平均数です。効果と安全性を左右するため測定する指標です。詳しく →(抗体1分子あたりの平均薬物結合数)と純度は分子の形がそろっているかを示す値で、薬物が細胞の中で働くかまでは示しません。
ただし、細胞で働きを測る試験を足しても、規格に入っただけで安全でよく効くとは言えません。規格は、非臨床・臨床試験で安全性と効き目を確かめたロットと、同じ品質かを判定する基準です。
この記事では、ADC で測る項目、平均の DAR で見えないこと、力価試験細胞や生体分子に実際に作用させ、医薬品の生物活性(どれだけ効くか)を数値化する試験。詳しく →が要る理由、規格と臨床のロットの関係を順に説明します。最後に、測る項目と時点を決める順番を示します。
- DAR と純度が規格内なら、よく効くのか:それだけでは言えません。薬物が細胞の中で働くかは、がん細胞を使う力価試験で別に確かめます。
- 規格に入れば、安全と言えるのか:規格は、確かめたロットと同じ品質かを判定する基準です。安全性と効き目そのものは、非臨床・臨床試験で確かめます。
- 何から決めるのか:確かめたい設計の選択から測る項目を決め、次に反応の直後・精製のあと・保管後のどこで測るかを決めます。
1. ADC の品質では、何を測るのか
ADC標的を選ぶ抗体に、細胞傷害性の薬物(ペイロード)をリンカーでつないだ分子。詳しく → の品質では、分子の形を測る理化学的な分析と、生きた細胞で働きを測る生物活性の評価を組み合わせます。 抗体だけの医薬品と同じ項目に加えて、薬物をつないだことで生じる性質を測る必要があるためです。
EMA(欧州医薬品庁)の審査報告は、承認された ADC のブレンツキシマブ ベドチンを、もとの抗体と比べています。一次構造タンパク質のアミノ酸の並び順のことで、設計配列との一致が同一性の基本的な保証になる。詳しく →(アミノ酸の並び)や糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →、抗原への結合は大きく変わらず、大きく変わったのは力価、薬物の量、凝集の3つでした。
理化学的な分析で加わる主な項目は、次の4つです。
- DAR と分布:薬物が何個付いた分子がどれだけ混ざっているかを、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)高塩条件で疎水性の違いを利用して結合・分離する方式。凝集体や疎水性の高い変性体を分ける。詳しく →や質量分析分子をイオンにして、質量と電荷の比で分け、分子の質量を精密に測る手法です。タンパク質の同定、修飾の位置の特定、不純物の確認などに使い、液体クロマトグラフと組み合わせることが多くあります。詳しく →で測ります。載せる数を確かめる項目です。
- 結合位置:薬物が抗体のどこに付いたかを、酵素で切った断片を読むペプチドマッピングタンパク質を断片に切り分け、どこがどれだけ化学変化したかを調べる分析。詳しく →で確かめます(ペプチドマッピング)。つなぐ位置を見ています。
- 遊離薬物:抗体に結合していない薬物を、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)分子の質量を精密に測る分析。液体クロマトと組み合わせ、ポリAテール長などを詳しく解析します。などで定量します。リンカーの安定性と、精製で取り除けたかを見る項目です。
- 凝集体タンパク質分子どうしが結合してできた高分子量の集合体です。有効性や免疫原性に影響するため、その含量を測ります。詳しく →:分子どうしが集まった塊を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →で測ります。疎水性の薬物をつなぐと、凝集が起きやすくなるためです。
このほか、抗体のアミノ酸が化学変化して電荷の変わった分子(電荷の違い)と、反応で薬物を溶かすのに使った有機溶媒の残り(残留溶媒)も測ります。残留溶媒は、ガスクロマトグラフィーで定量した報告があります(Zuniga RV, et al. 2021)。
働きの側は、抗原への結合と、がん細胞を殺す力(力価)を試験で確かめます。

このように、ADC で加わる項目の多くは、載せる数・位置・リンカー・疎水性という設計の選択を1つずつ確かめるものです。では、平均の DAR が規格に入っていれば、中身もそろっているのでしょうか。
2. 平均の DAR が規格内なら、中身はそろっているのか
そろっているとは限りません。薬物の付いていない分子と多く付いた分子が混ざっていても、平均の DAR は同じ値になりうるためです。
例えばゲムツズマブ オゾガマイシンの米国の添付文書は、この薬を、薬物の付いた抗体と付いていない抗体の混合物としています。1分子に付いた薬物の数は主に0から6で、平均は2から3です。
Wakankar らの総説(2011年)は特許の記載を引き、この ADC では薬物がほとんど付いていない抗体が製品の45〜65%を占めていたと紹介しています。結合の条件を変えると、その割合は約10%まで下がったとされます。
分布の両端には、別々の問題があります。
- 薬物の付いていない抗体:薬物を運ばない分子です。エンホルツマブ ベドチンの EMA の審査報告は、未結合の抗体を製品関連不純物(目的の分子と性質の違う、製造や保管の間にできる分子)に分類しています。
- 薬物が多く付いた分子:疎水性が高く、反応の途中や液の保管中に凝集や沈殿を起こしやすいと報告されています(Wakankar A, et al. 2011)。血中から速く消えることも報告されています(コンジュゲーションと DAR の決め方)。
分布を読む方法は、つなぐアミノ酸で変わります。抗体の鎖どうしをつなぐシステイン(鎖間システイン)につないだ ADC は、薬物の数ごとに疎水性が変わるため、HIC で分けて読めます(HIC)。
一方、リジンにつないだ ADC は不均一さが大きくクロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →では分けにくいため、質量分析で分布を読んだ報告が複数あります(インタクト質量分析)。
紫外可視の吸光度から求める平均の DAR は、分布の端にある分子の割合を示しません。付いた位置までそろっているかも分布からは分からないため、位置異性体と精製の限界で扱う別の分析で確かめます。
つまり、DAR の規格は、平均と分布を組にして読むものです。では、分子の形がそろっていれば、効き目もそろうのでしょうか。
3. 形がそろっていれば、効き目もそろうのか
形の分析だけでは、効き目がそろうかまでは分かりません。抗原に結合し、細胞に取り込まれ、薬物が放されて働くまでの段は、生きた細胞を使う試験で確かめるためです。
ブレンツキシマブ ベドチンの審査報告では、薬物の数が違う分子どうしで、抗原への結合はほぼ同じでした。一方で、細胞を殺す力は、薬物の数が多い分子ほど強くなっています。
この結果は、結合を測る試験だけでは、載せた薬物の違いが見えにくいことを示しています。そのため承認品では、次の2種類の試験を組み合わせた例があります。
- 抗原への結合:抗体の側が働くかを、酵素免疫測定法抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →(ELISA)などで測ります。
- 細胞を殺す力:抗原を持つがん細胞に ADC を加え、細胞を殺す力を標準品と比べた相対力価検体の力価を標準品と比べて表す値。生物系の日間変動を比で打ち消せる。詳しく →で読みます(バイオアッセイ)。
例えばエンホルツマブ ベドチンの審査報告は、原薬の力価の試験に、結合の ELISA と細胞傷害試験を挙げています。ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく → も、妥当性を確かめた力価試験を、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →か製剤の規格に入れるよう求めています(4.1.4)。
ただし、細胞の試験で強いことと、体の中で効くことは同じではありません。載せる数を比べた研究では、培養した細胞では8個が最も強く効きましたが、同じ抗体量で比べたマウスでの抗腫瘍効果は4個と8個で同程度でした(Hamblett KJ, et al. 2004)。
つまり、力価試験は「細胞の中で働くか」を確かめる項目で、体の中での効き目までは示しません。では、形と働きの両方が規格に入っていれば、安全と言えるのでしょうか。
4. 規格に入っていれば、安全と言えるのか
それだけでは言えません。規格は、非臨床・臨床試験で安全性と効き目を確かめたロットと、同じ品質の物かを判定する基準です。 安全性と効き目そのものは、動物での試験(非臨床試験)と人での試験(臨床試験)で確かめます。
ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q6B は、非臨床・臨床試験に使ったロットのデータにもとづいて規格を決めるよう求めており(3)、適用範囲には ADC のようなコンジュゲートも含まれます(1.3)。
承認の審査でも、この関係が確かめられています。例えばトラスツズマブ デルクステカンの EMA の審査報告は、工程の比較の結果から、開発初期の非臨床・臨床試験から市販品まで品質が同等だったと評価しています。
規格の中には、安全に直結する項目もあります。遊離薬物は抗体につながっていない強い薬物そのもので、Wakankar らは毒性と安全性の懸念になると述べています。エンホルツマブ ベドチンの審査報告は、遊離薬物に関連する不純物を、低分子の不純物の指針 ICH Q3A新有効成分を含む原薬中の不純物管理に関する国際的な規制ガイドラインで、報告・同定(構造決定)・資格付与(安全性確認)の各閾値を規定する。詳しく →(R2) にもとづいて原薬の規格で管理しているとしています。
ICH Q6B は、製造や保管の間に生じる不均一さも特性を調べ、ロットごとにそろっているかを示すよう求めています(2.1.1)。ADC では薬物の数の分布もその1つにあたり、平均だけでなく分布も、非臨床・臨床試験に使ったロットと比べる対象です。
つまり、規格の数字は、どのロットで安全性と効き目を確かめたかと組にして読むものです(ICH Q6B)。では、自分の ADC では、何をどの順番で決めればよいのでしょうか。
5. 自分の ADC では、何をどの順番で決めるのか
確かめたい設計の選択から測る項目を決め、次にどの工程の時点で測るかを決めます。 抗体薬物複合体(ADC)の値は、反応の直後、精製のあと、保管後で動くためです。
- 確かめたい選択を書き出す:載せる数、つなぐ位置、リンカーADCで抗体とペイロードをつなぐ部分。両者の結合や体内での薬物放出の性質を左右する。詳しく →、薬物の疎水性のうち、どれを品質で確かめるかを先に書き出します。つなぎ方と目標の数はコンジュゲーションと DAR の決め方、位置で分けられるかは位置異性体と精製の限界で確かめられます。
- 形を測る方法を決める:薬物抗体比(DAR)と分布を、疎水性相互作用クロマトグラフィー分子表面の疎水性の強さで分離するクロマトグラフィー。疎水性の評価や精製に使う。(HIC)と質量分析のどちらで読むかを、つなぐアミノ酸に合わせて決めます。測り方はDAR と遊離薬物の分析に、凝集は凝集体の分析法にまとめています。
- 働きを測る試験を決める:抗原への結合を測る試験と、がん細胞を殺す力を測る細胞の試験を、どう組み合わせて規格に置くかを決めます(バイオアッセイ)。
- 反応と精製で測る時点を決める:承認品の工程の例では薬物リンカー(リンカーを付けた薬物)を過剰に加えるため、反応の直後に残る遊離薬物と有機溶媒を、精製で除けたかを確かめます。つなぐ前の薬物リンカーも、承認品の例では純度や残留溶媒を規格で管理しています。
- 保管後に見る項目を決める:保管の間にも、薬物が外れたり凝集が増えたりすることがあります。出荷時と有効期間医薬品が規定の品質を保てると保証される期間。安定性データの経時変化から設定する。詳しく →の終わりで基準を分けるかを含め、どの時点の値を規格に置くかを、分析法を組む前に決めます。
ここまでで、ADC のシリーズの7つの問いをたどりました。抗原から測る項目までをどの順番で考えるかは、入口の記事ADCとはの最後の節に戻って確かめられます。体の中での動きはADC の体内動態、毒性はADC の非臨床安全性、薬物とリンカーの手配はペイロード・リンカーの供給で深掘りでき、製造と試験を頼める先はADC・バイオコンジュゲートの受託企業で探せます。
参考文献
- Wakankar A, Chen Y, Gokarn Y, Jacobson FS. Analytical methods for physicochemical characterization of antibody drug conjugates. MAbs. 2011;3(2):161-172. doi:10.4161/mabs.3.2.14960(DAR・分布・未結合の抗体・遊離薬物・結合位置・凝集体・電荷の違いを測る方法。紫外可視の吸光度は平均のDARを求める方法であること、リジン結合抗体表面に多数あるリジン残基のアミノ基を反応点に薬物を結合させる方式。DAR分布が広くなりやすい。詳しく →のADCは不均一さが大きくクロマトグラフィーで分けにくく質量分析で分布を読んだ報告があること、遊離薬物が毒性と安全性の懸念になり精製後に残るほか保管中にも放されうること、DARの高い分子が反応中に凝集・沈殿しやすいこと、特許の記載を引いてゲムツズマブ オゾガマイシンの低結合画分が45〜65%で、結合の条件を変えると約10%まで下がったと紹介していること)
- Li W. Analytical Development and Testing Strategy of Antibody-Drug Conjugates. AAPS PharmSciTech. 2026;27(3):150. doi:10.1208/s12249-026-03402-w(抗体中間体・薬物リンカー中間体・原薬・製剤の工程の段ごとに分析と管理を組むこと、ADCに固有の分析法としてDAR、残存遊離薬物の定量、細胞傷害性試験(力価試験)を挙げていること)
- Zuniga RV, Kay J, Gruenhagen J, Medley CD. Quantitation of Conjugation-related Residual Solvents in Antibody Drug Conjugates using Headspace Gas Chromatography. Curr Pharm Anal. 2021;17(7):829-837. doi:10.2174/1573412916999200519140817(反応で薬物を水と混ざる有機溶媒に溶かすこと、溶媒と結合しなかった低分子は下流の工程で除くこと、N,N-ジメチルアセトアミド・N,N-ジメチルホルムアミド・ジメチルスルホキシド・エチレングリコール・プロピレングリコールをADCの製剤でヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測ったこと)
- Hamblett KJ, et al. Effects of drug loading on the antitumor activity of a monoclonal antibody drug conjugate. Clin Cancer Res. 2004;10(20):7063-7070. doi:10.1158/1078-0432.CCR-04-0789(MMAEを2・4・8個つないだ抗CD30抗体のADCで、培養細胞での強さは8個が最も強く、同じ抗体量でのマウスでの抗腫瘍効果は4個と8個で同等だったこと)
- ICH, Q6B Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products(1.3 の適用範囲にコンジュゲートを含むこと、2.1.1 の製造や保管の間に生じる不均一さの特性解析規格試験より高い分解能で製品の品質特性を詳しく調べること。比較可能性の評価などで用いる。詳しく →とロット間の一貫性、3 の規格を非臨床・臨床試験に使ったロットのデータにもとづいて決めること、4.1.4 の力価試験を規格に入れること)
- European Medicines Agency, Adcetris: EPAR - Public assessment report(ブレンツキシマブ ベドチンで、結合によって一次構造・高次構造・電荷の不均一さ・糖鎖・エピトープへの結合は大きく変わらず、力価・薬物の量・凝集が変わったこと、薬物の数が違う分子で結合はほぼ同じで細胞傷害性は薬物の数とともに強まったこと、反応で薬物リンカーを過剰に加えたあと接線流ろ過(TFF)膜面に液を平行に流し、小さな成分を透過させ、目的物を膜で保持して濃縮・バッファ交換する方式。で工程由来の不純物を除くこと、製剤の規格にHIC・SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。詳しく →・遊離薬物関連の不純物・細胞傷害性が入り、細胞の試験を補う別の方法を製剤の試験に加えたこと、薬物リンカー中間体の規格に残留溶媒が入ること)
- European Medicines Agency, Padcev: EPAR - Public assessment report(エンホルツマブ ベドチンで、大きさの違う分子・未結合の抗体・酸性の電荷の違いなどを製品関連不純物に分類したこと、遊離薬物に関連する不純物をICH Q3A(R2)にもとづいて原薬の規格で管理すること、原薬の力価の試験として結合のELISAと細胞傷害試験を挙げたこと、薬物リンカー中間体の残留溶媒の判定基準がICH Q3C国際調和会議(ICH)が策定した医薬品中の残留溶媒に関するガイドラインで、溶媒を毒性に応じてクラス分けし限度値を規定する。詳しく →に沿うこと)
- European Medicines Agency, Enhertu: EPAR - Public assessment report(トラスツズマブ デルクステカンの品質が、開発初期の非臨床・臨床試験から承認の根拠になった試験、市販品まで同等だったと評価されたこと、薬物の分布を逆相HPLC・HIC・非還元CE-SDSSDSで処理したタンパク質をキャピラリー電気泳動で分離し、抗体などの純度や分子サイズ分布(断片・凝集)を評価する手法です。詳しく →で調べたこと、薬物リンカーの規格にガスクロマトグラフィーによる残留溶媒が入ること)
- DailyMed, MYLOTARG (gemtuzumab ozogamicin) 添付文書(結合した抗体と結合していない抗体の混合物であること、1分子あたりのカリケアマイシン誘導体の数が主に0から6で平均2から3であること)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/adc-quality-attributes-testing