in vitroとin vivoとは?細胞で効けば体でも効くのか

in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。詳しく →とin vivoin vivo(インビボ)とは、ラテン語で「生体内で」という意味で、生きた動物やヒトの体の中で調べたり作用させたりすることです。試験では、物質が吸収・代謝を受けた実際の状態での影響を見られます。詳しく →は、試験をどこで行うかを表す言葉で、in vitro は試験管や培養細胞のように生きた体の外で、in vivo は動物やヒトのように生きた体の中で行う試験を指します。医薬品の開発では、まず in vitro で薬と標的の関係を調べ、そのうえで in vivo で体全体での効き目と安全性を確かめます。
しかし、細胞で強く効いた化合物が、動物に投与すると効かないことがあります。体の中では、薬は吸収され、血中のタンパク質に結合し、代謝されて減るため、細胞に加えたのと同じ濃度が標的に届くとは限らないからです。
ex vivo と in silico も含めた4つの言葉の違いから始め、結果が食い違う理由と、2つの結果をつなぐ考え方へ進みます。
- in vitroとin vivoは何が違うのか:生きた体の外で試すか、中で試すかの違いです。
- 細胞で効けば、体でも効くのか:効くとは限りません。体の中で標的に届く濃度が、細胞に加えた濃度と違うためです。
- in vitroの結果は当てにならないのか:体の中の濃度と比べて読めば、ヒトでの試験が要るかどうかの判断にも使われています。
1. in vitro・in vivo・ex vivo・in silicoは、何で分かれるのか
4つの言葉は、生きた体の外で試すか、中で試すか、体から取り出して試すか、計算で予測するかで分かれます。
米国国立がん研究所(NCI)の用語集は、in vitro を「実験室の中で(体の外で)」、in vivo を「体の中で」と定義し、互いに反対の語としています。医薬品の開発では、次の4つを使い分けます。
- in vitro(体の外):試験管や培養細胞、肝臓から取り出した酵素の画分などで試します。培養細胞での活性の測定や、肝ミクロソーム肝細胞をすりつぶして得た小胞体由来の画分。CYPなどの代謝酵素が濃縮され、代謝安定性の評価に使う。詳しく →の代謝安定性試験出荷時から有効期限まで品質特性が規格内にとどまることを確認する試験。詳しく →がこれにあたります。
- ex vivo(取り出して試す):NCI は、臓器・細胞・組織を生きた体から取り出し、処理を加えてから体に戻すことを指すとしています。患者の細胞に体の外で遺伝子を導入して戻す遺伝子治療が代表です。
- in vivo(生きた体の中):動物での薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。詳しく →試験や毒性試験、ヒトでの臨床試験が入ります。
- in silico(計算で予測):コンピュータで予測することを指します。医薬品の不純物の指針 ICH M7(R2) は、化合物の構造から変異原性を予測する構造活性相関(SAR)分子の化学構造を少しずつ変えたときに活性がどう変わるかの対応関係。や定量的構造活性相関分子の構造をどう変えると効き目や毒性がどう変わるかの関係。化合物最適化の指針になる。詳しく →(QSAR)を、専門家のルールにもとづく方法と統計的な方法の2つで行うべきとしています。

in vitro の強みは、条件をそろえられることです。濃度も時間も細胞の種類も決めたとおりに保てるので、薬が標的にどれだけ効くかを、ほかの要因から切り離して比べられます。
一方の in vivo は、条件をそろえにくい代わりに、薬が体に入ってから出ていくまでのすべてを通った結果が見えます。2つは優劣ではなく、答えられる問いが違います。
2. 細胞で効いた濃度は、体の中でも標的に届くのか
説明用の仮の数字で考えます。ある化合物が、血清を含まない培養液の中で、10 nM で標的の働きを半分に抑えたとします。この化合物は、血液の中では 99% が血漿タンパク質に結合するとします。
体の中で働くのは、タンパク質に結合していない非結合形の薬で、その濃度が 10 nM に届かなければ、細胞で見た効き目は期待しにくくなります。 非結合形が 1% なら、非結合形を 10 nM にするには、血中の総濃度で 1 µM が要ります。
Smith らは、in vivo の効き目を決めるのは標的の周りの非結合形の濃度で、結合する割合そのものではないと指摘しています。結合の割合が低い化合物を選んでも、非結合形の濃度が上がるとは限らないため、比べるのは割合ではなく濃度です。

濃度の差を生むのは、結合だけではありません。体の中の薬は、吸収・分布・代謝・排泄薬物の吸収・分布・代謝・排泄という体内動態の4要素。脂溶性の設計とも深く関わる。詳しく →(ADME)を通るため、届く量も、届いている時間も変わります。
培養液の中では濃度が一定のまま何時間も続きますが、体の中では投与のあと濃度が上がって下がります。たとえば in vitro で長い時間さらして効いた化合物でも、体の中で濃度が短い時間しか保たれなければ、同じ効き目は期待できません。
3. in vitroとin vivoの結果は、どんなときに食い違うのか
in vitro の系に、体の中で起きていることの一部が欠けているときや、体の中の濃度と比べずに読んだときに食い違います。
代謝の予測が分かりやすい例です。肝ミクロソームや肝細胞で測った代謝の速さから、ヒトの肝臓での薬の消失の速さ(クリアランス)を予測する方法は、in vitro から in vivo への外挿(IVIVEin vitroで得た代謝などのデータを、ヒトの体内での挙動へ外挿すること。)と呼ばれます。Hallifax と Houston は公表された研究をまとめ、この予測は実測と相関すると報告しています。ただし値は系統的に低く(実測の10〜20%)、ばらつきも大きいとしています。
遺伝毒性でも、in vitro の陽性がそのまま体の中の結論になるとは限りません。ICH S2(R1)医薬品の遺伝毒性試験の標準的な組み合わせと、そのデータ解釈を定めたガイドライン。詳しく → は、in vitro の哺乳類細胞の試験で陽性が出ても、適切な組織で十分な曝露を示した2つの in vivo 試験で明らかな陰性なら、体の中での遺伝毒性化合物が遺伝子や染色体を傷つける性質。点突然変異や染色体損傷を含み、複数の試験で分担して調べる。詳しく →が無いとする十分な根拠になるとしています。
では、in vitro の結果は当てにならないのでしょうか。そうではありません。薬物相互作用の指針 ICH M12薬物相互作用試験の判断基準を日米欧で揃えた国際整合ガイドライン。in vitroから臨床試験の要否を判断する。詳しく → は、薬が代謝酵素を可逆的に阻害する強さ(阻害定数 Ki,u)を in vitro で測り、ヒトに最高用量を投与したときの定常状態での非結合形の最高血中濃度(Cmax投与後に達する最も高い血中濃度。薬がどれくらいの速さで届くかの指標。詳しく →,u)と比べます。Ki,u が Cmax,u の50倍より大きければ、in vitro のデータだけで臨床での阻害のリスクを除外できるとしています。
つまり、in vitro の結果は、体の中の濃度と同じ物差しで比べたときに、in vivo の試験が要るかどうかを決める根拠として使えます。食い違いが起きやすいのは、加えた濃度や結合の割合だけを見て、体の中の非結合形の濃度と照らさずに読んだときです。
4. 製剤では、in vitroの結果からin vivoをどう予測するのか
製剤の分野では、溶出試験の結果と体内での吸収を数式で結ぶ in vitro/in vivo 相関(IVIVC)が使われています。
米国食品医薬品局(FDA)の1997年のガイダンスは、IVIVC を、放出制御型の製剤の in vitro の性質と in vivo の応答との関係を表す、予測のための数理モデルと定義しています。in vitro の性質は多くが溶出や放出の速さと量で、in vivo の応答は血中濃度や吸収された量です。
- レベルA:溶出の時間経過と、体の中での吸収の時間経過を点ごとに対応させる相関です。ガイダンスは、FDA に提出される申請で最も多い型としています。
- レベルB:平均の溶出時間と平均の滞留時間のように、統計的なモーメントどうしを比べます。血中濃度の曲線そのものは表しません。
- レベルC:決めた時間での溶出率のような1つの値と、血中濃度曲線下面積(AUC)や最高血中濃度(Cmax)のような1つの薬物動態の値を対応させます。
予測の精度が確かめられた IVIVC は、溶出試験の規格を決めるのに使え、ガイダンスによると、製法や製造所の一部の変更では、ヒトでの生物学的同等性二つの製剤が同程度に全身へ届くことを示すこと。後発品の評価などで用いる。詳しく →試験の代わりにもなります。溶出試験の結果でヒトでの試験を代える条件は、生物学的同等性とバイオウェーバーの記事で説明しています。
IVIVC が結ぶのは製剤からの溶出と吸収で、3節の IVIVE が扱う代謝のような体の側の性質とは違います。体の側も含めて、in vitro の値から血中濃度の時間経過を計算する方法には、生理学的薬物動態(PBPK)モデルの記事で説明しているモデルがあります。
5. 自分のin vitroの結果は、何と照らして確かめるのか
最初に、in vitro で効いた濃度を、体の中で届くと見込まれる非結合形の濃度と、同じ単位で並べてみます。
細胞で効いた濃度だけを見ても、体で効くかは判断できません。in vivo の試験を計画する前に、次の3つを確かめておきます。
- 濃度を同じ物差しにしたか:培養液に血清を含むかどうかも含めて、in vitro の非結合形の濃度を求め、体の中で見込まれる非結合形の濃度と比べます。
- 系に欠けているものは何か:使った細胞や酵素の画分に、体の中で効く代謝酵素・輸送体・細胞の種類がそろっているかを書き出します。
- 予測と実測を比べる計画があるか:in vivo の試験では、効き目だけでなく血中濃度も測り、in vitro からの予測とどれだけずれたかを残します。
in vitro の結果は、体の中の非結合形の濃度と比べてはじめて、in vivo の結果を予測する材料として使えます。 体の中での動きの全体像は薬物動態(DMPK)の記事、代謝の予測の詳しい読み方は肝ミクロソームの代謝安定性試験の記事で説明しています。
参考文献
- National Cancer Institute, NCI Dictionary of Cancer Terms: in vitro・in vivo・ex vivo(3つの語の定義)
- Smith DA, Di L, Kerns EH. The effect of plasma protein binding on in vivo efficacy: misconceptions in drug discovery. Nat Rev Drug Discov. 2010;9(12):929-939. PubMed 21119731(in vivo の効き目は標的の周りの非結合形の濃度で決まる)
- Hallifax D, Houston JB. Methodological uncertainty in quantitative prediction of human hepatic clearance from in vitro experimental systems. Curr Drug Metab. 2009;10(3):307-321. PubMed 19442091(ミクロソームと肝細胞からのクリアランスの予測は実測の10〜20%で、ばらつきが大きい)
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく →, M12 Drug Interaction Studies(2024年5月採択。2.1.2.1 可逆的な阻害は Ki,u が Cmax,u の50倍を超えれば in vitro のデータで除外できる)
- ICH, S2(R1) Guidance on Genotoxicity Testing and Data Interpretation for Pharmaceuticals Intended for Human Use(in vitro の陽性と、2つの in vivo 試験の陰性の扱い)
- ICH, M7(R2) Assessment and Control of DNA Reactive (Mutagenic) Impurities in Pharmaceuticals to Limit Potential Carcinogenic Risk(互いに補う2つの (Q)SAR化学構造から毒性などの性質を予測する手法。構造アラートによる変異原性の評価に使う。詳しく → による予測)
- FDA, Extended Release Oral Dosage Forms: Development, Evaluation, and Application of In Vitro/In Vivo Correlations(1997年9月。IVIVC の定義、レベルA・B・C、溶出規格と生物学的同等性試験の代わりとしての使い方)
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