pKaとは?薬の分子は、なぜpHで電荷を持つのか

pKaは、飲み薬の候補化合物が胃や腸で溶けるか、腸の壁を通るかを見積もるときや、塩の形を選ぶときに使う値です。薬の分子の酸や塩基の部分は、周りのpHに応じて水素イオンを放したり受け取ったりして電荷を持ち、電荷を持つ形と持たない形が半分ずつになるpHをpKaと呼びます。
ただし、電荷を持つ形は水に溶けやすい一方で、膜を通りにくくなります。同じ分子でも、胃にいるか腸にいるかで、溶けやすさと膜の通りやすさの釣り合いが入れ替わります。
この記事では、pKaを何に使うのか、pHで電荷が変わる理由、電荷を持つと何が変わるのか、胃と腸で起きること、塩の選び方を順に説明します。最後に、自分の化合物で確かめる順番を示します。
- pKaとは:薬の分子で、電荷を持つ形(イオン形)と持たない形(中性形)が半分ずつになるpHです。pHがpKaから1離れると割合は10対1、2離れると100対1に開きます。
- 電荷を持つと何が変わるのか:イオン形は水に溶けやすく膜を通りにくい形で、中性形はその逆です。
- 何に使うのか:胃と腸での電荷の割合から、溶解度・膜透過・脂溶性(logD)の見当をつけ、塩の形や、飲み合わせを確かめるかを決めます。
1. pKaは、何を見積もるために使うのか
pKaは、薬の分子が胃や腸のpHでどれだけ電荷を持つかを知り、溶けるか、膜を通るか、脂溶性分子が脂に溶けやすい性質。高いほど細胞膜を通り組織へ分配されやすく、分布容積が大きくなりやすい。詳しく →がどう変わるかを見積もるために使います。 薬の多くが、カルボン酸のような酸の部分や、アミンのような塩基の部分を持つためです。
世界保健機関(WHO)の必須医薬品を調べた報告では、計算で求めたpKaが2〜12の部位を持つ薬が65.1%を占め、別に調べた582の薬では56.5%が塩基の性質を持つ薬でした(Manallack 2007)。
pKaは、主に次の3つの立場で使われます。
- 化合物を選ぶ研究者:構造を変えるとpKaも動くため、溶解度や膜の通りやすさが変わった理由をpKaから考えます。
- 薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。詳しく →を調べる研究者:脂溶性や細胞の層を通る速さは、測る液のpHで値が動くため、pKaと照らして読みます(DMPKとは)。
- 製剤を決める人:溶解度がpHでどう変わるかを見積もり、塩の形や添加剤を選びます。
酸とは水素イオンを放す分子で、塩基とは水素イオンを受け取る分子です。どちらも、電荷を持たない中性形と、電荷を持つイオン形の両方の形で水に溶けていて、2つの割合はpHで決まります。
pKaは、酸解離定数(酸が水素イオンを放す反応の平衡定数)の負の常用対数で、中性形とイオン形がちょうど半分ずつになるpHを表します。塩基のpKaは、水素イオンを受け取った形が、それを放すときの値で表します。

このように、pKaは、胃や腸のpHで分子がどちらの形をとるかを教える値です。では、なぜpHが変わると、この割合が変わるのでしょうか。
2. なぜpHが変わると、電荷を持つ割合が変わるのか
pHは液の中の水素イオンの多さを表す値で、水素イオンの多い酸性(低いpH)では、酸は水素イオンを放しにくく、塩基は水素イオンを受け取りやすいためです。
中性形とイオン形の比は、Henderson-Hasselbalchの式で表せます。形だけを示すと次のとおりです。
- 酸:log(イオン形 ÷ 中性形)= pH − pKa です。pHがpKaより高いほど、イオン形が増えます。
- 塩基:log(イオン形 ÷ 中性形)= pKa − pH です。pHがpKaより低いほど、イオン形が増えます。
pHがpKaから1離れると比は10対1(約91%と9%)、2離れると100対1(約99%と1%)に開きます。
次の表は、説明用の例として、脂溶性(logP・logD)の記事と同じ酸(pKa 4.5)と塩基(pKa 9.0)の中性形の割合を、上の式で計算した値です。
| pH(想定する部位) | 酸(pKa 4.5)の中性形 | 塩基(pKa 9.0)の中性形 |
|---|---|---|
| 1.5(胃内を想定) | 約99.9% | 0.001%未満 |
| 6.5(小腸上部を想定) | 約1% | 約0.3% |
| 7.4(血中を想定) | 約0.1% | 約2.5% |
胃では塩基のほぼすべてがイオン形で、小腸と血液の中では、どちらの中性形も数%以下にとどまります。
ただし、この式はイオン化薬分子が水溶液中で電荷を帯びたイオン型と電荷を持たない非イオン型に分かれる現象で、体内のpH環境によって割合が変化する。詳しく →する部位が1つの分子のものです。酸と塩基の両方を持つ分子(両性化合物)など、部位が2つ以上ある分子はpKaを複数持ちます。
つまり、pHがpKaから2離れれば、分子のほぼすべてが片方の形に偏ります。では、電荷を持つかどうかで、薬の振る舞いは何が変わるのでしょうか。
3. 電荷を持つと、溶けやすさと膜の通りやすさはどう変わるのか
イオン形は水に溶けやすく膜を通りにくい形で、中性形はその逆の形です。 そのため、溶けやすさと膜の通りやすさは、同じpHでは両立しにくい関係にあります。
- イオン形:電荷が水の分子と強く引き合うため、水に溶けやすくなります。一方で、細胞膜の内側にある油の層に入りにくく、濃い側から薄い側へ自然に通り抜ける受動拡散では、通りにくくなります。
- 中性形:油になじむため膜を通りやすい一方で、水には溶けにくくなります。中性形だけで溶けていられる量を固有溶解度と呼び、どのpHでも溶ける量はこれを下回りません。
中性形が膜を通るというこの考え方を、pH分配仮説と呼びます(Shoreら 1957、Hogbenら 1959)。細胞の層を通る速さを測るCaco-2透過性試験でも、イオン化する薬では、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →のpHで中性形の割合が変わり、値が動きます。
脂溶性も同じ割合で動きます。イオン形が油の層へ移らないとみなすと、中性形の割合が10分の1になるごとに、logD(指定したpHでの油と水への分かれ方)はlogP油と水への分配のしやすさ(脂溶性)を対数で表した値。計算値のcLogPやclogDで代用することも多い。詳しく →から1ずつ下がります。
溶ける量の側では、弱塩基の溶解度は、pHがpKaより十分に低い範囲で、pHが1下がるごとにおよそ10倍ずつ上がります。ただし上がり続けるのではなく、塩として溶けられる量(塩の溶解度)で止まります(Serajuddin 2007)。
このように、pKaは、溶ける量と膜を通る量の両方を、pHを通じて動かします。では、胃から腸へ進むあいだに、何が起きるのでしょうか。
4. 胃と腸では、何が起きるのか
酸性の胃では弱塩基がイオン形になって溶けやすく、中性付近の小腸へ進むと中性形が増えて、溶けきれなくなることがあります。 弱酸では逆に、胃で溶けにくく、小腸で溶けやすくなります。
消化管のpHは場所で大きく違います。pHを測るカプセルを66人が飲んだ報告では、胃のpHは1.0〜2.5、小腸の始めの平均は6.6、終わりの平均は7.5でした(Evansら 1988)。
弱塩基で溶けにくい薬では、この差が血中濃度に響くことがあります。米国食品医薬品局(FDA)のガイダンス(2023年3月)は、胃酸を抑える薬との飲み合わせで影響が出た薬の多くは、用量を溶かすのに要る溶解度(最高用量を250 mLで割った値)より固有溶解度の低い弱塩基だったとしています。
そのため同じガイダンスは、生理的なpHの範囲(例として1.0〜6.8)で、例えばおよそ1単位ごとに平衡溶解度その物質が本来溶けきれる上限の濃度。詳しく →を測り、pHによる変化をとらえることが重要だとしています。弱酸の薬では、この飲み合わせの影響は一般に小さいとしています。
溶けやすさで原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →を分ける生物薬剤学分類システム(BCS)でも、ICH M9BCSに基づくバイオウェーバーの考え方を示すICHガイドライン。詳しく →は、pH 1.2〜6.8で測ったうちもっとも低い溶解度で分類するとしています。
管腔のpHで計算した中性形の割合は、吸収の目安にとどまります。ラットの小腸の報告では、腸の表面のpHは管腔のpHと違い、吸収のpHによる変化は、pH分配仮説の予測よりなだらかでした(Högerle and Winne 1983)。
中性形とイオン形は液の中で速く入れ替わり、膜を通って減った中性形はイオン形から補われます。そのため、割合の小ささが、そのまま吸収の少なさを意味するとは限りません。
つまり、pKaが分かれば、胃と腸のどこで溶け、どこで溶けきれなくなるかの見当がつきます。では、溶けにくい酸や塩基の薬は、どうすれば溶けやすくできるのでしょうか。
5. 塩の形を選ぶとき、pKaは何を決めるのか
酸や塩基の薬は、反対の性質を持つ相手(対イオンある成分の電荷を打ち消すために存在する反対電荷のイオン。高濃度製剤では浸透圧を押し上げる要因になる。詳しく →)と組ませて塩にでき、塩になるかと、元の形に戻りやすいかをpKaが左右します。 イオン化する部位の無い中性の分子は、塩にできません。
Serajuddin(2007年)は、塩にすることを、酸や塩基の薬の溶解度と溶ける速さを上げる、もっとも一般的で効果的な方法としています。塩基の薬なら塩酸のような酸と、酸の薬なら水酸化ナトリウムのような塩基と組ませます。
塩になるかは、薬と対イオンのpKaの差でおおよそ決まります。結晶構造のデータベースの6,465の結晶を調べた報告では、pKaの差が−1から4のあいだで、差が大きいほど水素イオンが移って塩になる確率が直線的に上がりました(Cruz-Cabeza 2012)。
ただし、塩にしても、溶けた先のpHによっては元の遊離塩基や遊離酸に戻り、溶けにくい形で沈むことがあります。どのpHで戻るかは、固有溶解度、pKa、塩の溶解度の関係で決まると整理されています(Serajuddin 2007、溶解度とは)。
このように、pKaは、塩にできるかと、塩がどのpHで元に戻るかの両方に関わります。
6. 自分の化合物では、何から確かめるのか
まずイオン化する部位とそのpKaを知り、そこから胃と腸での割合、溶解度、脂溶性の順に見積もります。
- イオン化する部位を探し、計算でpKaの目安をつける:カルボン酸、アミン、窒素を含む環などを構造から拾います。合成する前でも、候補どうしを比べられます。
- 酸解離定数(pKa)を実測する:代表的な方法は、酸や塩基を少しずつ加えてpHの変化を追う電位差滴定と、pHによる紫外吸収の変化を見る分光法です。分光法は、イオン化する部位の近くに光を吸う構造がある分子で使えます(Reijengaら 2013)。
- 測った温度とイオン強度を添えて記録する:pKaはこの2つで動きます。同じ総説は、薬のpKaを集めた資料のうち、温度とイオン強度が書かれた値は半分だったとしています。
- 胃と腸のpHでの割合から、溶解度と脂溶性を見積もる:2節の式で中性形の割合を出し、溶解度と脂溶性(logD)の見当をつけます。溶けにくい弱塩基なら、pH 1.0〜6.8で平衡溶解度を測り、胃酸を抑える薬との飲み合わせを確かめるかを決めます。
- 塩の候補を、対イオンとのpKaの差で絞る:塩になりやすい組み合わせを選び、その塩がどのpHで元の形に戻るかを確かめます。
pKaで中性形の割合が分かれば、次は、その割合が油と水への分かれ方をどれだけ変えるかです。同じ分子でも、胃と小腸と血液の中で脂溶性がどれだけ違うのかは、脂溶性(logP・logD)とはで説明します。
参考文献
- Manallack DT. The pKa Distribution of Drugs: Application to Drug Discovery. Perspect Medicin Chem. 2007;1:25-38. PMC2754920(2005年のWHO必須医薬品リストで、計算したpKaが2〜12の部位を持つ薬が65.1%、たんぱく質や気体などを除くと77.5%。582の薬のうち塩基の性質を持つものが56.5%、両性化合物が14.8%)
- Evans DF, Pye G, Bramley R, et al. Measurement of gastrointestinal pH profiles in normal ambulant human subjects. Gut. 1988;29(8):1035-1041. doi:10.1136/gut.29.8.1035(66人。胃のpH 1.0〜2.5、小腸の始めの平均6.6、終わりの平均7.5)
- Shore PA, Brodie BB, Hogben CA. The gastric secretion of drugs: a pH partition hypothesis. J Pharmacol Exp Ther. 1957;119(3):361-369.(pH分配仮説)
- Hogben CA, Tocco DJ, Brodie BB, Schanker LS. On the mechanism of intestinal absorption of drugs. J Pharmacol Exp Ther. 1959;125(4):275-282.
- Högerle ML, Winne D. Drug absorption by the rat jejunum perfused in situ. Dissociation from the pH-partition theory and role of microclimate-pH and unstirred layer. Naunyn Schmiedebergs Arch Pharmacol. 1983;322(4):249-255. doi:10.1007/BF00508339(吸収のpHによる変化が、修正しないpH分配仮説の予測よりなだらか。管腔のpH 4.0〜8.0で、粘膜表面のpHは6.0〜6.6)
- FDA. Evaluation of Gastric pH-Dependent Drug Interactions With Acid-Reducing Agents: Study Design, Data Analysis, and Clinical Implications. Guidance for Industry(2023年3月。II.A:影響が出た薬の多くは、最高用量÷250 mLより固有溶解度の低い弱塩基。生理的なpHの範囲(例:1.0〜6.8)で、例えばおよそ1pH単位ごとに平衡溶解度のプロファイルをとることが重要。II.B:弱酸では影響が一般に小さい)
- ICH M9: Biopharmaceutics Classification System溶解性と腸管透過性で経口薬を4クラスに分ける枠組み。詳しく →-Based Biowaivers(Step 4、2019年11月). ICH(2.1:pH 1.2〜6.8で溶解度を測り、もっとも低い値で分類する)
- Serajuddin ATM. Salt formation to improve drug solubility. Adv Drug Deliv Rev. 2007;59(7):603-616. doi:10.1016/j.addr.2007.05.010(塩にすることは酸・塩基の薬の溶解度と溶ける速さを上げるもっとも一般的で効果的な方法。塩の形成と元の形への戻りやすさは、固有溶解度・pH・pKa・溶解度積・pHmaxの関係で決まる)
- Cruz-Cabeza AJ. Acid-base crystalline complexes and the pKa rule. CrystEngComm. 2012;14(20):6362-6365. doi:10.1039/c2ce26055g(6,465の結晶。pKaの差が−1〜4で、差と水素イオンが移る確率に直線の関係)
- Reijenga J, van Hoof A, van Loon A, Teunissen B. Development of Methods for the Determination of pKa Values. Anal Chem Insights. 2013;8:53-71. doi:10.4137/ACI.S12304(電位差滴定と紫外分光法の要件。生理的に意味のある条件は37°C・0.9%食塩水のイオン強度。薬のpKaの集成で温度とイオン強度の記載は半分)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/pka-ionization-basics