溶解度とは?薬が溶けるかは何で決まり、どう測るのか

溶解度は、飲み薬の候補化合物が腸で吸収されるかを見積もるときや、塩や固体分散体難溶性薬物を高分子担体中に分子レベルで分散させ、溶解速度・溶解量を改善した製剤技術。詳しく →などの製剤の工夫が要るかを決めるときに測る値です。薬が決まった温度と液の中で、どれだけの濃度まで溶けるかの上限を表します。
ただし、同じ化合物でも、結晶の形や液のpH、測り方によって値は大きく変わります。どの条件で測った値かをそろえ、用量と比べて見ないと、足りるかどうかは判断できません。
この記事では、溶解度で何を決めるのか、何で決まるのか、どう測るのか、溶ける速さとの違いを順に説明します。最後に、自分の化合物で確かめる順番を示します。
- 溶解度とは:溶け残った固体と溶けた分子が釣り合ったときの濃度で、それ以上は溶けない上限です。足りるかどうかは、用量と比べて決まります。
- 何で決まるのか:分子が水になじむか(脂溶性)、結晶から分子が離れやすいか(結晶の形)、液のpHで電荷を持つか(pKa)の3つで決まります。
- どう測るのか:創薬の早い段階は、溶液から沈殿が出る濃度を見る速度論的溶解度で多くの化合物を比べ、候補が絞れたら、固体を液と釣り合わせる熱力学的溶解度を測ります。
1. 溶解度は、何を決めるために測るのか
溶解度は、飲み薬の候補が腸の中で吸収に足りる量まで溶けるかを見積もり、候補を残すか、構造を直すか、製剤の工夫が要るかを決めるために測ります。 飲み薬は、消化管の液に溶けた分子だけが、腸の壁を通って血液に入るためです。
総説は、多くの飲み薬で、吸収の中でもっとも遅く全体の速さを決める段(律速段階)は、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の固体が溶ける段だとしています(Bergström and Avdeef 2019)。溶解度の値は、主に次の3つの立場で使われます。
- 化合物を選ぶ研究者:候補を育てる段階で多くの化合物を測り、溶けにくい化合物を残すか、構造を直すかを決めます(DMPKとは)。
- 製剤を決める人:原薬の溶解度が用量に足りなければ、塩、微粒子化、固体分散体などの工夫が要るかを決めます。
- 申請を担当する人:生物薬剤学分類システム(BCS原薬を溶解性と透過性の高低で四つに分ける分類。経口吸収の律速要因を整理するのに使う。詳しく →)で高溶解度と言えるかを示し、人での同等性の試験を溶出試験で代えられるかを判断します。
溶解度とは、決まった温度と液の中で、溶け残った固体と溶けた分子が釣り合ったときの濃度(飽和濃度)のことです。溶ける速さと違い、時間をかけても、それ以上は溶けない上限を表します。

足りるかどうかは、用量で決まります。BCSでは、1回の最高用量がpH 1.2〜6.8の液250 mL以下に溶けきれば、高溶解度とします(ICH M9BCSに基づくバイオウェーバーの考え方を示すICHガイドライン。詳しく →)。説明用の例では、最高用量が100 mgなら0.4 mg/mL、10 mgなら0.04 mg/mLの溶解度で足ります。
日本薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →は、1 gを溶かすのに水が10,000 mL以上要るものを「ほとんど溶けない」と書くと決めています(通則30)。溶解度に直すと0.1 mg/mL未満で、測る条件は違いますが、用量が100 mgなら足りず、10 mgなら足りる場合があります。
このように、溶解度は、用量と比べて初めて足りるかが分かる値です。では、溶解度は何で決まるのでしょうか。
2. 溶解度は、何で決まるのか
分子が水になじむか、結晶から分子が離れやすいか、液のpHで電荷を持つかの3つで決まります。
溶けるとは、固体の中で引き合っている分子が離れ、水の分子に囲まれることです。そのため、次の3つが溶解度を左右します。
- 分子の性質(脂溶性分子が脂に溶けやすい性質。高いほど細胞膜を通り組織へ分配されやすく、分布容積が大きくなりやすい。詳しく →):油になじむ分子ほど水の分子と引き合いにくく、溶けにくくなります(脂溶性(logP・logD)とは)。
- 結晶の形:結晶の中で分子が強く引き合うほど、離れにくく溶けにくくなります。同じ分子でも、並び方の違う結晶(結晶多形同じ分子が複数の異なる結晶構造をとる現象。溶解度や安定性、吸収性が形ごとに変わりうる。詳しく →)や、規則正しく並んでいない非晶質結晶格子を持たないエネルギーの高い状態で、溶けやすいが結晶に戻りやすい。詳しく →では、溶解度が違います。
- pHとpKa:酸や塩基の分子は、電荷を持つ形が増えるpHで溶けやすくなります(pKaとは)。
中性の化合物では、結晶の強さの目安に融点を、水へのなじみにくさの目安にlogP油と水への分配のしやすさ(脂溶性)を対数で表した値。計算値のcLogPやclogDで代用することも多い。詳しく →を使って、溶解度を見積もる式があります。一般溶解度式は、溶解度(mol/L)の常用対数を 0.5 − 0.01 ×(融点 − 25)− logP で表します(Jain and Yalkowsky 2001)。この式では、融点が100 °C高いか、logPが1高いと、溶解度はおよそ10分の1に下がると見積もります。
先の総説は、溶けにくい化合物を、結晶が強く融点の高いもの(おおむね200 °C超)と、脂溶性の高いもの(logP 3超)に分け、近年の創薬で作られるのは後者が多いと述べています。どちらが原因かで、効く製剤の工夫も変わります(難溶性薬物の製剤化)。
結晶の形の違いは、製品の供給にまで響くことがあります。ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の治療薬リトナビルでは、1998年に、はるかに溶けにくい結晶形が現れました。そのため半固形のカプセルの供給が脅かされたと報告されています(Bauerら 2001)。
つまり、溶けにくさの原因は、分子・結晶・pHのどこにあるかで分けて考えます。では、その溶解度は、どう測るのでしょうか。
3. 溶解度は、どう測るのか
創薬の早い段階では、化合物を溶かした溶液から沈殿が出る濃度を見る速度論的溶解度で多くの化合物を比べ、候補が絞れたら、固体を液と釣り合わせる熱力学的溶解度を測ります。 溶液には、水に溶けにくい化合物もよく溶かす有機溶媒のDMSO(ジメチルスルホキシド)を使います。
| 速度論的溶解度 | 熱力学的溶解度 | |
|---|---|---|
| 始める形 | DMSOに溶かした溶液 | 化合物の固体 |
| 見ているもの | 緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →に加えて、沈殿が出始める濃度 | 固体と溶けた分子が釣り合ったときの濃度 |
| 主に使う段階 | 創薬の早い段階(多くの化合物を比べる) | 候補を絞ったあと(製剤の検討、申請) |
| 値の出方 | 沈殿が非晶質になりやすく、高めに出る | 固体の形(結晶形など)に応じた値が出る |
速度論的溶解度は少ない量で速く測れるため、製薬企業のデータベースの値の多くはこちらだとされています。ただし、沈殿の多くは非晶質で、熱力学的溶解度より最大100倍ほど高く出ることがあると報告されています(Bergström and Avdeef 2019)。
465の研究用化合物を両方の方法で測った報告でも、速度論的溶解度は、しばしばかなり高く出ました。この報告は、偏光顕微鏡で結晶か非晶質かを確かめた熱力学的溶解度が、構造を直す指針として役立つとしています(Saal and Petereit 2012)。
熱力学的溶解度は、固体を液に入れて振り混ぜ、釣り合ったあとの濃度を測る振とうフラスコ法が基本です。BCSの判定では、ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → M9が、37 °CでpH 1.2・4.5・6.8を含む3点以上を測り、薬を入れたあとと終わりにpHを確かめるよう求めています。
水の緩衝液で測った溶解度は、腸の液での溶けやすさと一致するとは限りません。溶けにくく脂溶性の高い薬では、水での値から吸収を見積もると、大きく低く見積もることがあると報告されています(Dressmanら 2007)。
このように、測り方によって値の意味が違うため、どの方法の値かを添えて比べます。では、溶解度が十分なら、薬はすぐに溶けると言えるのでしょうか。
4. 溶ける量と溶ける速さは、何が違うのか
溶解度は溶ける量の上限で、溶ける速さ(溶出の速さ)は、その上限に向かってどれだけ速く溶けていくかです。
溶解度が足りていても、溶けるのが遅ければ、腸を通り過ぎるまでに溶けきらないことがあります。
溶ける速さは、NoyesとWhitneyが示した関係をもとに、表面積と、溶解度とそのときの濃度の差に比例すると考えます(Dokoumetzidis and Macheras 2006)。この関係から、溶ける速さを変えるものは次の3つです。
- 表面積:粒子を細かくすると表面積が増え、溶ける速さが上がります。釣り合ったときの溶解度は、ほぼ変わりません。
- 溶解度との差:溶けている濃度が上限に近づくほど、溶ける速さは落ちます。腸の中では溶けた分が吸収されて減るため、差が保たれやすくなります。
- 固体の形:塩や非晶質のように溶解度の高い形は、同じ表面積でも速く溶けます。非晶質は、一時的に結晶の溶解度を超えて溶けることもあります(非晶質固体分散体)。
錠剤やカプセルから薬が溶け出す速さは、製剤ごとに溶出試験で確かめます(溶出試験・崩壊試験とは)。原薬の溶解度は製剤の工夫の前提で、溶出試験は、その工夫が製剤として働くかを見る試験です。
つまり、溶ける量は原薬と液で決まり、溶ける速さは粒子の大きさや固体の形、製剤によっても変わります。
5. 自分の化合物では、何から確かめるのか
用量から要る溶解度を出し、段階に合った方法で測って、足りなければ原因を分けてから製剤の工夫を選びます。
- 用量から、要る溶解度を出す:1回の最高用量を250 mLで割った値が、生物薬剤学分類システム(BCS)で高溶解度と言える目安です。用量が決まる前は、想定する用量の幅で計算します。
- 早い段階の値を、固体から測った値で確かめる:ジメチルスルホキシド(DMSO)の溶液から測った速度論的溶解度は高めに出るため、候補を決める前に、固体から測った熱力学的溶解度と、その固体が結晶か非晶質かを確かめます。
- イオン化薬分子が水溶液中で電荷を帯びたイオン型と電荷を持たない非イオン型に分かれる現象で、体内のpH環境によって割合が変化する。詳しく →する化合物は、pHを変えて測る:酸解離定数(pKa)を先に知り、pH 1.2〜6.8の複数の点で測ります。溶けにくい弱塩基では、胃のpHが上がったときに溶けきるかも見ます。
- 足りなければ、原因を分けて製剤の工夫を選ぶ:脂溶性が高いのか、結晶が強いのか、pHで溶けなくなるのかによって、塩、微粒子化、固体分散体などから選びます。
- 製剤にしたら、溶ける速さを溶出試験で確かめる:原薬の溶解度が足りていても、製剤から速く溶け出すかは別に確かめます。
溶けやすさが分かれば、次は、溶けた薬が腸の壁を通れるかと組み合わせて、吸収のどこで詰まりやすいかを考えます。溶解度と膜透過性化合物が細胞膜を透過する速さの指標。経口薬の吸収性の評価に使われる。詳しく →の2つで原薬をどう分けるのかは、BCS分類(生物薬剤学分類)とはで説明します。
参考文献
- Bergström CAS, Avdeef A. Perspectives in solubility measurement and interpretation. ADMET吸収・分布・代謝・排泄・毒性という、薬としての体内動態と安全性に関わる性質の総称。詳しく → DMPK薬物動態・代謝の研究領域。吸収・分布・代謝・排泄と体内濃度の動きを扱う。詳しく →. 2019;7(2):88-105. doi:10.5599/admet.686 PMC8957229(多くの飲み薬で吸収の律速は固体が溶ける段。速度論的溶解度はDMSOの溶液を緩衝液に加えて沈殿を検出し、沈殿の多くは非晶質で熱力学的溶解度の最大100倍ほど高い。製薬企業のデータベースの多くは速度論的な値。融点200 °C超の結晶が強い化合物と、logP 3超の脂溶性の高い化合物)
- ICH M9: Biopharmaceutics Classification System溶解性と腸管透過性で経口薬を4クラスに分ける枠組み。詳しく →-Based Biowaivers(Step 4、2019年11月). ICH(2.1:最高用量がpH 1.2〜6.8の液250 mL以下に37 ± 1 °Cで溶ければ高溶解度。pH 1.2・4.5・6.8を含む3点以上、各3回以上。薬を入れたあとと終わりにpHを測る。振とうフラスコ法などの平衡溶解度その物質が本来溶けきれる上限の濃度。詳しく →)
- 厚生労働省. 第十七改正日本薬局方 通則(通則30:溶解性を示す用語。1 gを溶かすのに要る溶媒量で、10,000 mL以上を「ほとんど溶けない」とする。20 ± 5 °Cで5分ごとに30秒間振り混ぜ、30分以内に溶ける度合。第十九改正の案でも同じ)
- Jain N, Yalkowsky SH. Estimation of the aqueous solubility I: application to organic nonelectrolytes. J Pharm Sci. 2001;90(2):234-252. PMID: 11169540(改訂した一般溶解度式。580の非電解質で検証)
- Ran Y, He Y, Yang G, Johnson JL, Yalkowsky SH. Estimation of aqueous solubility of organic compounds by using the general solubility equation. Chemosphere. 2002;48(5):487-509. doi:10.1016/s0045-6535(02)00118-2(融点とlogPだけを使う一般溶解度式を1,026の非電解質に当てはめ、平均絶対誤差0.38 log)
- Bauer J, Spanton S, Henry R, et al. Ritonavir: an extraordinary example of conformational polymorphism. Pharm Res. 2001;18(6):859-866. doi:10.1023/a:1011052932607(1998年、はるかに溶けにくい新しい結晶形のために半固形カプセルの供給が脅かされた)
- Saal C, Petereit AC. Optimizing solubility: kinetic versus thermodynamic solubility temptations and risks. Eur J Pharm Sci. 2012;47(3):589-595. doi:10.1016/j.ejps.2012.07.019(465の研究用化合物。速度論的溶解度はしばしばかなり高く、非晶質の値を反映。偏光顕微鏡で固体の形を確かめた熱力学的溶解度が最適化の指針に有用)
- Dressman JB, Vertzoni M, Goumas K, Reppas C. Estimating drug solubility in the gastrointestinal tract. Adv Drug Deliv Rev. 2007;59(7):591-602. doi:10.1016/j.addr.2007.05.009(水での溶解度は消化管内の溶解度を表すとは限らず、溶けにくく脂溶性の高い薬でバイオアベイラビリティ投与した薬のうち、未変化のまま全身循環に到達する割合。静脈内投与を100%として比較する。詳しく →を大きく低く見積もりうる)
- Dokoumetzidis A, Macheras P. A century of dissolution research: from Noyes and Whitney to the biopharmaceutics classification system. Int J Pharm. 2006;321(1-2):1-11. doi:10.1016/j.ijpharm.2006.07.011(Noyes と Whitney 以来の溶解速度の理論と、BCSまでの経緯の総説)
- Noyes AA, Whitney WR. The rate of solution of solid substances in their own solutions. J Am Chem Soc. 1897;19(12):930-934. doi:10.1021/ja02086a003
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/solubility-basics