ADCのペイロードとは?薬物が強いほど、よく効くのか

ADCのペイロードとは、ADC(抗体薬物複合体標的を選ぶ抗体に、細胞傷害性の薬物(ペイロード)をリンカーでつないだ分子。詳しく →)の抗体に運ばれて、がん細胞を傷害する薬物のことです。投与した ADC のうち腫瘍に届くのはわずかなため、単独では使いにくいほど強い薬物が選ばれてきました。
ただし、薬物が強いほど ADC がよく効くとは限りません。抗体につないでも、腫瘍以外の細胞に入った薬物や血中で外れた薬物は、正常な細胞を傷つけるためです。
この記事では、ペイロードの種類、強い薬物が要る理由、抗体につないでも残る毒性、弱い薬物を多く載せる設計を順に説明します。最後に、ペイロードを選ぶときに何から確かめるかを示します。
- ペイロードとは:ADC の抗体が運ぶ、がん細胞を傷害する薬物です。細胞分裂を止める系統、DNA を傷つける系統、DNA のねじれを解く酵素を止める系統に分かれます。
- なぜ強い薬物が要るのか:投与した ADC のうち腫瘍に届くのはわずかで、届いた少量でがん細胞を殺す必要があるためです。
- 強いほどよく効くのか:限りません。抗体につないでも毒性は残るため、承認された ADC には、とても強い薬物を少なく、弱い薬物を多く載せた例があります。
1. ADCのペイロードとは何か
ペイロード抗体薬物複合体(ADC)で抗体に結合させる強力な細胞毒(薬物)です。抗体によって標的の細胞まで運ばれ、そこで細胞を殺す作用を担います。詳しく →は、ADC の抗体が運び、がん細胞の中で放されて細胞を傷害する薬物です。 承認された ADC のペイロードは、細胞の中で何に働くかで、主に次の3つの系統に分かれます(Metrangolo V, Engelholm LH. 2024)。
- 細胞分裂を止める系統:分裂のときに染色体を引き分ける微小管の形成を妨げます。微小管阻害薬と呼ばれ、MMAE(モノメチルアウリスタチンE)や DM1(メイタンシンの誘導体)が入ります。
- DNA を傷つける系統:DNA の二重鎖を切るカリケアマイシンや、DNA の2本の鎖を架橋するピロロベンゾジアゼピン(PBD)二量体が入ります。
- DNA のねじれを解く酵素を止める系統:DNA に一時的な切れ目を入れてねじれを解く酵素に結合し、切れ目をつなぎ直せなくして DNA を傷つけます。この酵素をトポイソメラーゼIと呼び、DXd(エキサテカンの誘導体)や SN-38(抗がん剤イリノテカンの活性代謝物)が入ります。
系統が違えば、細胞を殺す強さも、出やすい毒性も違います。下の図は、この記事で見る強さ・届く量・載せる数の関係をまとめたものです。

では、なぜ ADC には、単独では使いにくいほど強い薬物が選ばれてきたのでしょうか。
2. なぜ、強い薬物が要るのか
投与した ADC のうち腫瘍に届くのはわずかで、届いた少量でがん細胞を殺す必要があるためです。 総説では、静脈内に投与した ADC のうち腫瘍に届くのは約2%と見積もられています。
そのため、細胞の生存を半分に抑える濃度(IC50)がナノモル濃度(10億分の1 mol/L)を下回り、ピコモル濃度(1兆分の1 mol/L)に届くほど強い薬物が使われます(Metrangolo V, Engelholm LH. 2024)。
こうした強い薬物は、単独では使いにくいことがあります。例えばメイタンシンは、1970年代に東アフリカの低木から単離された、微小管の形成を妨げる薬物です。初期の臨床試験では神経毒性や肝毒性が重く、単独の薬としては開発が進みませんでした(Perra M, et al. 2025)。
その誘導体の DM1 を、HER2(乳がんや胃がんの一部で多く出る抗原)に対する抗体で運ぶトラスツズマブ エムタンシンは、2013年に承認されています。単独では開発が進まなかった系統の薬物が、抗体で運ぶ形で薬になった例です。
つまり、強い薬物を選ぶのは、腫瘍に届く量の少なさを、1分子あたりの強さで補うためです。では、抗体につなげば、その強さは腫瘍の中だけで働くのでしょうか。
3. 抗体につなげば、毒性は消えるのか
消えません。腫瘍以外の細胞に取り込まれたり、血中で外れたりした薬物は、正常な細胞も傷つけます。 総説は、その理由として次の3つを挙げています(Metrangolo V, Engelholm LH. 2024)。
- 抗原が正常な組織にも出ているため:ADC の標的の多くは、腫瘍だけにある抗原ではなく、腫瘍に多く出ている抗原です。正常な組織に出ている分にも、ADC は結合します。
- 抗原によらず取り込まれるため:抗体の Fc 部分(Y字の幹にあたる部分)に結合する受容体を持つ細胞や、周りの液ごと分子を取り込む働き(ピノサイトーシス細胞が周囲の液体を少しずつ飲み込んで取り込む働き。血中タンパク質が細胞内に入る経路の一つ。詳しく →)によって、抗原を持たない細胞にも入ります。
- 血中で薬物が外れるため:リンカーが血中で切れると、外れた薬物は全身をめぐります。
最初に承認された ADC であるゲムツズマブ オゾガマイシンは、この毒性が投与の量と方法で変わることを示した例です。CD33(急性骨髄性白血病の細胞に多く出る抗原)に対する抗体に、DNA を切るカリケアマイシンの誘導体をつないでいます。
2000年に米国で迅速承認(先に出た結果で認め、あとで確認の試験を求める仕組み)されましたが、確認の試験で利益が示されず、化学療法だけの群より治療初期の死亡が多かったため、2010年に市場から引き上げられました。
2017年の再承認では、1回の量を減らし、数回に分けて投与する形に変わっています。FDA の承認の要約によれば、CD33 への結合は、体表面積あたり 2 mg/m² を超える量で飽和していました。薬物動態投与した薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されていく挙動。ADCではDARが大きく影響する。詳しく →の解析からは、最高血中濃度を下げれば、標的への結合と効き目を保ったまま、肝中心静脈閉塞症(肝臓の細い血管が詰まる病気)を減らせると見込まれていました(Norsworthy KJ, et al. 2018)。
つまり、ペイロードの毒性は、薬物の強さに加えて、どれだけの量をどう投与するかでも変わります。系統ごとに出やすい毒性と、非臨床試験でまず見る臓器はADC の非臨床安全性で扱っています。では、強さが毒性として返ってくるなら、弱い薬物ではよく効く ADC は作れないのでしょうか。
4. 弱い薬物でも、よく効く ADC は作れるのか
作れます。弱い薬物を抗体1分子に多く載せる設計で、承認された ADC があります。
トポイソメラーゼI阻害薬の強さは、メイタンシンやカリケアマイシンの100〜1000分の1です。総説によれば、この弱さのために、初期の ADC の設計ではあまり関心を持たれていませんでした(Conilh L, et al. 2023)。
同じ総説は、流れを変えたのはリンカーを水になじみやすくする技術だとしています。多く載せても抗体に近い血中の動きを保てるようになり、強さの劣る薬物を使えるようになったという説明です。DXd を8個前後載せたトラスツズマブ デルクステカンは2019年に、SN-38 を載せたサシツズマブ ゴビテカンは2020年に、米国で承認されています。
反対に、とても強い薬物を使う ADC では、載せる数が抑えられてきました。同じ総説は、強いペイロードではこれまで低い DAR抗体薬物複合体(ADC)で、抗体1分子に結合した薬物の平均数です。効果と安全性を左右するため測定する指標です。詳しく →(drug-to-antibody ratio、抗体1分子あたりの平均薬物結合数)が好まれてきたとして、PBD 二量体を DAR 2 前後で載せたロンカスツキシマブ テシリンを挙げています。
つまり、ペイロードの強さは、載せる数と、腫瘍に届く量と合わせて選ぶものです。ただし、載せる数を増やすほどよく効くとは限らず、この点はシリーズの5本目で扱います(薬物は、抗体にたくさん載せたほうがいいのか)。
薬物そのものを、標的のタンパク質を分解させる分解誘導薬や、2種類の薬物、核酸に替える試みもあります(DACとは、デュアルペイロードADC、AOCとは)。
5. ペイロードを選ぶときは、何から確かめるのか
抗体薬物複合体(ADC)抗体に細胞傷害性の薬物(ペイロード)を結合させた医薬。標的へ薬物を運んで作用させる。のペイロードは、作用の系統、強さに合う載せる数、測り方、製造と調達の順に確かめます。 前の項目の答えが、次の項目で選べる範囲を狭めるためです。
- 作用の系統を決める:細胞分裂を止めるか、DNA を傷つけるか、トポイソメラーゼIを止めるかを決めます。系統ごとに出やすい毒性と、非臨床試験でまず見る臓器はADC の非臨床安全性で確かめられます。
- 強さに合わせて、載せる数の目安を考える:とても強い薬物は少なく、弱い薬物は多く載せる設計がとられてきました。載せる数(DAR)と血中からの消え方はコンジュゲーションと DAR の決め方で、体の中での動きはADC の体内動態で扱っています。
- 抗体から外れた薬物の測り方を決める:製品の中や血中にある、抗体から外れた薬物(遊離薬物)は毒性の原因になりうるため、測り方を早めに決めます。方法はDAR と遊離薬物の分析にあります。
- 封じ込めの設備を確かめる:ペイロードは、ごく少量でも強い作用を示す高薬理活性原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →(HPAPI)として、封じ込めの設備で扱われます(Dunny E, et al. 2017、封じ込めの考え方)。製造を頼める先はADC・バイオコンジュゲートの受託企業で探せます。
- 手配の先を比べる:ペイロードと薬物リンカーADCで抗体とペイロードをつなぐ部分。両者の結合や体内での薬物放出の性質を左右する。詳しく →の調達で詰まりやすい所はペイロード・リンカーの供給にまとめています。製品はADC細胞毒性ペイロードとペイロード・リンカーで比べられます。
ここまでは、腫瘍に届いた薬物が細胞の中で働く前提で考えてきました。では、抗体ががん細胞に結合しさえすれば、薬物はその細胞の中まで届くのでしょうか。続きは抗体ががん細胞に結合すれば、薬物は届くのかで説明します。
参考文献
- Metrangolo V, Engelholm LH. Antibody-Drug Conjugates: The Dynamic Evolution from Conventional to Next-Generation Constructs. Cancers. 2024;16(2):447. doi:10.3390/cancers16020447(静脈内に投与したADCのうち腫瘍に届くのは約2%とされ、IC50が低いサブナノモルからピコモルの範囲のペイロードが使われること、市販のADCのペイロードは微小管阻害薬とDNAを傷つける薬物が主で、カリケアマイシンは二重鎖抗体を構成する2種類のポリペプチド鎖のうち分子量が大きい方で、抗体の基本骨格と主要な機能領域を担う。詳しく →切断、PBDは架橋、トポイソメラーゼI阻害薬にSN-38とDXd(エキサテカン誘導体)があること、標的の多くが腫瘍に選択的ではなく腫瘍に多く出る抗原であること、Fc受容体を持つ細胞による取り込み、ピノサイトーシス、不安定なリンカーからの血中での早い放出による抗原によらない毒性、承認品と承認年)
- Perra M, et al. Maytansinoids in cancer therapy: advancements in antibody-drug conjugates and nanotechnology-enhanced drug delivery systems. Discov Oncol. 2025;16(1):73. doi:10.1007/s12672-025-01820-z(メイタンシンが1970年代に東アフリカの低木 Maytenus 属から単離されたこと、微小管の重合を妨げること、初期の臨床試験で神経毒性・肝毒性などの重い副作用が開発の妨げになったこと、DM1がチオール基を持つメイタンシンの誘導体であること)
- Norsworthy KJ, Ko CW, Lee JE, et al. FDA Approval Summary: Mylotarg for Treatment of Patients with Relapsed or Refractory CD33-Positive Acute Myeloid Leukemia. Oncologist. 2018;23(9):1103-1108. doi:10.1634/theoncologist.2017-0604(FDA の審査担当者による承認の要約。2000年の迅速承認、確認の試験(S0106)で臨床上の利益が示されず寛解導入期の死亡が多かったことと2010年の自主的な引き上げ、2017年の承認で1回の量を減らして分けて投与する方法(3 mg/m² を1・4・7日目)にしたこと、CD33への結合が 2 mg/m² を超える量で飽和していたこと、薬物動態の解析から、標的の飽和と効き目を損なわずに最高血中濃度を下げれば肝中心静脈閉塞症が減ると示唆されたこと)
- Conilh L, Sadilkova L, Viricel W, Dumontet C. Payload diversification: a key step in the development of antibody-drug conjugates. J Hematol Oncol. 2023;16(1):3. doi:10.1186/s13045-022-01397-y(トポイソメラーゼI阻害薬がメイタンシンやカリケアマイシンの100〜1000分の1の強さで、当初は関心を持たれなかったこと。リンカーを親水性にする技術で高いDARでも抗体に近い薬物動態を保てるようになり、強さの劣るペイロードを使えるようになったこと、DAR 8 のトラスツズマブ デルクステカン(2019年)とサシツズマブ ゴビテカン(2020年)の承認、強いペイロードではこれまで低いDARが好まれ、PBDを載せたロンカスツキシマブ テシリンがDAR 2であること)
- Dunny E, O'Connor I, Bones J. Containment challenges in HPAPI manufacture for ADC generation. Drug Discov Today. 2017;22(6):947-951. doi:10.1016/j.drudis.2017.02.003(ペイロードの封じ込めに要る設備と、高薬理活性の区分の考え方が会社によって違うこと)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/adc-payload-potency