ELISAとは?抗体で捕まえて、色の濃さで量を測れるのはなぜか

製品に残った不純物の量からロットを出してよいかを判断するときや、血中の薬の濃度から投与量を考えるときに、よく使われる測定法がELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →です。ELISA(酵素結合免疫吸着法)とは、抗体が目的の分子に結合する反応で分子を捕まえ、酵素が起こす発色の濃さから量を求める方法です。
ただし、色の濃さが表すのは、使った抗体が捕まえられた分子の量です。値は標準品と比べて決める相対的なもので、抗体や試料の液が変われば、同じ試料でも値が変わります。
この記事では、ELISAで何を決めるのか、抗体と酵素で量が分かる仕組み、測り方の形の違い、色の濃さから濃度を読む方法、値が実際とずれる場合を順に説明します。
- ELISAとは:抗体と目的の分子の結合で分子を捕まえ、酵素の発色の濃さを、標準品で作った曲線と比べて量に換える測定法です。
- 色の濃さで量が分かるのはなぜか:洗ったあとにプレートに残る酵素の量が、捕まえた分子の量に応じて決まり、その酵素が基質を色の付いた物質に変えるためです。
- 値はいつも実際の量を表すのか:表しません。測れる範囲の外の濃度、試料の液の妨害物質、抗体が認識しない形の分子は、値をずらします。
1. ELISAは、何を決めるために測るのか
ELISAは、液の中の特定の分子の量を多くの試料で測り、ロットを出してよいか、工程で十分に減ったか、薬が体にどれだけあるかを決めるために使います。 医薬品の開発と製造では、主に次の3つの場面で使われます。
- 製品に残った不純物を測る:抗体医薬を作らせた細胞のタンパク質(HCP、宿主細胞由来タンパク質医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →)や、工程で加えた核酸の分解酵素(ヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →)の残りを測ります(HCP ELISA、残存ヌクレアーゼのELISA測定)。
- 血中の薬の濃度を測る:動物や人に投与した抗体医薬などの血中濃度を測り、薬が体の中でどう動くかを調べます(リガンド結合法のバリデーション)。
- 薬に対する抗体を調べる:投与を受けた人の体が、薬に対する抗体(ADA、抗薬物抗体投与した抗体医薬を異物とみなして患者の免疫系が作る抗体。薬の効果低下や安全性の問題を招く。詳しく →)をつくったかを調べます(抗体医薬の免疫原性)。
ELISAでは、抗体(特定の分子の決まった部分にだけ結合するタンパク質)を、小さな穴の並んだ樹脂の板(マイクロプレート)に固定して使います。医薬品の分析でよく使われるサンドイッチ法捕捉抗体と検出抗体で目的物を挟んで検出するELISAの方式。HCPの総量測定で標準的に使われる。詳しく →では、次の4つの段で測ります。
- 捕まえる:プレートに固定した抗体(捕捉抗体)に試料を加え、目的の分子を結合させます。
- 洗う:結合しなかった成分を洗い流します。
- 挟む:酵素を付けた別の抗体(検出抗体)を加えて、捕まえた分子の別の部分に結合させ、余った検出抗体を洗い流します。
- 発色させる:基質(酵素が反応する物質)を加えると、酵素が基質を色の付いた物質に変えます。その色の濃さを、プレートリーダー多数の穴が並ぶプレートの各ウェルの吸光度や蛍光、発光をまとめて測る装置です。多数の検体や条件を一度に測定できます。詳しく →で吸光度(液が光を吸収する度合い)として測ります。
最後に、濃度の分かった標準品を同じプレートで測った結果と比べて、試料の濃度を読みます。

このように、ELISAは、抗体で捕まえた分子の量を色の濃さに置き換えて測ります。では、なぜ目的の分子だけを、色の濃さで数えられるのでしょうか。
2. 抗体と酵素で、なぜ目的の分子の量が分かるのか
抗体が目的の分子の決まった形を選んで強く結合し、それ以外を洗い流せるため、プレートに残る酵素の量が、捕まえた分子の量に応じて決まるからです。 抗体が結合する分子の部分を、エピトープと呼びます。
まず、抗体はエピトープの形に合う分子にだけ強く結合します。洗う段で、結合しなかったほかのタンパク質や試料の液の成分が流れ出るため、精製していない血清や培養液でも、目的の分子を選んで測れます。
プレートの表面は、あらかじめアルブミンなどのタンパク質で覆っておきます。ほかのタンパク質が直接付いて色を出すのを防ぐためで、これをブロッキングと呼びます(Sakamoto ら, 2018年)。
次に、酵素が信号を大きくします。酵素は反応のあとも働き続け、基質を次々と色の付いた物質に変えるため、捕まえた分子がわずかでも、吸光度で読める濃さの色が出ます。
ただし、抗体が見ているのはエピトープの形だけです。形の似た別の分子にも結合することがあり(交差反応ある抗原に対して生じた抗体が、構造の類似した別の抗原にも結合・反応する現象。詳しく →)、反対に、エピトープが壊れたり隠れたりした分子は捕まえられません。
つまり、ELISAの値は「抗体が認識できた分子の量」であって、分子を1つずつ見分けた結果ではありません。では、どんな分子でも、同じ4つの段で測れるのでしょうか。
3. サンドイッチ法と競合法は、何が違うのか
目的の分子に2つの抗体が同時に結合できる大きさならサンドイッチ法が、小さくて2つの抗体が同時には結合できないなら競合法が、主に使われます。
| 形 | 仕組み | 目的の分子が多いほど | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| サンドイッチ法 | 2つの抗体が、分子の別々の部分を挟む | 色が濃くなる | タンパク質(HCP、ヌクレアーゼ、抗体医薬の血中濃度) |
| 競合法 | 試料の分子と、酵素を付けた分子が、限られた抗体に競って結合する | 色が薄くなる | 2つの抗体が同時に結合できない小さな分子 |
| ブリッジング法 | 試料の抗体の2本の腕が、固定した薬と、酵素などを付けた薬に結合する | 色が濃くなる | 薬に対する抗体(ADA) |
サンドイッチ法は、2つの抗体を使うため選び分ける力が高い一方で、分子の別々の部分を認識する2つの抗体が要ります。分子量の小さな化合物ではそれが難しいことが多く、競合法が使われます(Sakamoto ら, 2018年)。
競合法では、試料に目的の分子が多いほど、酵素を付けた分子が抗体に結合できなくなります。そのため、色が薄いほど濃度が高いと、サンドイッチ法とは逆の向きで読みます。
このように、形は分子の大きさと、何を測りたいかで決まります。では、どの形でも最後に行う、色の濃さから濃度への換算はどうするのでしょうか。
4. 色の濃さから、濃度をどう読むのか
濃度の分かった標準品を同じプレートで段階的に測って曲線(検量線既知濃度の標準から作る定量の基準線。qPCRでサンプル中のDNA量を読み取るのに使う。詳しく →)を作り、試料の色の濃さをその曲線に当てて濃度を読みます。 色の濃さと濃度の関係は、まっすぐな線ではありません。
濃度が低いうちは色がほとんど付かず、濃くなると捕捉抗体の結合する場所が埋まって、色はそれ以上濃くなりません。そのため、濃度の対数を横軸にとると、曲線はS字を描きます。
当てはめには、4つのパラメータでS字を表す4PLS字型の用量反応曲線を下限・上限・傾き・中間用量の四つで表すモデル。相対力価の算出に使う。(4パラメータロジスティック)がよく使われます(Findlay と Dillard, 2007年)。4PLの値の読み方は、IC50とはで扱います。
測れる範囲は、どこからどこまでか
濃度を読めるのは、曲線のうち傾きのある中ほどの区間だけです。 平坦部では、濃度が変わっても色がほとんど変わらないためです。この区間の下の端を定量下限(LLOQ)、上の端を定量上限(ULOQ)と呼びます。
血液などの試料で薬の濃度を測る方法の国際ガイドライン ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → M10 は、検量線の最も低い標準品と最も高い標準品でこの範囲を決めるとしています(4.2.3)。また、ELISAのように結合の反応で量を測る方法(リガンド結合法)の多くは測れる範囲が狭いため、試料を薄めて範囲に入れる必要があるとしています。そのうえで、薄めても換算した値が変わらないこと(希釈直線性)を確かめるよう求めています(4.2.6)。
試料の液による妨害を下げるため、標準品を含むすべての試料を同じ倍率で薄めてから測ることもあります。この倍率を最小必要希釈(MRD)と呼びます(ICH M10 の7.4)。
抗体を測るときは、濃度で読まない
薬に対する抗体(ADA)を測るELISAは、多くの場合、濃度ではなく、陽性か陰性かと力価(陽性と判定される最も高い希釈倍率の逆数)で報告します。 米国FDAのガイダンス(2019年)は、抗体の量を質量の単位で報告することは一般に受け入れられないとしています(IV.K)。標準に使う抗体と、患者の体にできた抗体は同じものではないためです。
つまり、濃度は標準品との比較で決まり、測れる範囲の中で読んだ値だけが使えます。では、範囲の中で読んだ値なら、実際の量を表していると言えるのでしょうか。
5. ELISAの値は、どんなときに実際とずれるのか
試料の液に反応を妨げる成分があるとき、目的の分子が濃すぎるとき、抗体が認識しない形で分子があるときに、値は実際とずれます。
- 試料の液による妨害:血清に含まれる、動物の抗体に反応するヒトの抗体(異好性抗体)やリウマチ因子は、試薬の抗体と目的の分子の反応を妨げ、値を高くも低くもします(Tate と Ward, 2004年)。血中濃度の測定では、ICH M10 が、この影響を少なくとも10の個体から得た試料で確かめるよう求めています(4.2.2)。
- 濃すぎる試料:目的の分子が多すぎると、かえって色が薄く出ることがあり、これをフック効果と呼びます。ICH M10 は、定量上限を超える濃度の試料で、この現象が起きないかを確かめるよう求めています(4.2.6)。
- 抗体が認識しない形の分子:HCPを抗体の混合物でまとめて測るHCP ELISA製品に残る宿主細胞由来タンパク質(HCP)の量を抗体で測るELISAです。不純物の除去具合を確認する品質試験に使います。詳しく →では、総量の値が低くても、認識されにくい1種類が製品に残っていた例が報告されています(HCP ELISAとは)。
同じ理由で、ELISAに向かない問いもあります。分子が働くか(活性)は別の試験で測り、どの分子が何種類あるかは、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)分子の質量を精密に測る分析。液体クロマトと組み合わせ、ポリAテール長などを詳しく解析します。で調べます。
6. 自分の測定では、何から確かめるのか
ELISA(酵素結合免疫吸着法)の結果を使う前に、何を測る形か、読んだ値が範囲の中か、自分の試料で正しく測れているかの順に確かめます。
- 何を測る形かを確かめる:サンドイッチ法か、競合法か、薬に対する抗体(ADA)を測るブリッジング法かを確かめます。
- 標準品と曲線を確かめる:標準品が何で、どのロットかと、検量線の当てはめ方(4PLなど)を確かめます。
- 値が定量範囲の中かを確かめる:試料の値が、定量下限(LLOQ)と定量上限(ULOQ)のあいだにあるかを見ます。範囲の外なら、薄めて測り直した記録があるかを見ます。
- 自分の試料で正しく測れているかを確かめる:希釈直線性と、既知量の標準品を加えてその分が値に戻るか(添加回収既知量を添加して回収できるかで分析法の妥当性を確認する試験。添加回収ともいう。詳しく →)を確かめた記録を見ます。
- 切り替えの前に並べて測る:キットや抗体のロット、標準品を替える前後で同じ試料を測り、値がそろうかを確かめます(ICH M10 の4.1)。
上の2つは結果の読み方を、下の3つは値を信じてよいかを決める項目です。キットや読み取りの装置は、ELISAの製品ガイドで比べられます。
まずは、何千種類もの不純物を1つの値にまとめて測る、宿主細胞由来タンパク質(HCP)生産に使う細胞に由来し製品に残るタンパク質不純物。精製で除去し、残存量を管理します。詳しく →のELISAから見ていきます。ELISAの値が低ければ、HCPは少ないと言えるのでしょうか。続きはHCP ELISAとはで説明します。
参考文献
- ICH M10 Bioanalytical Method Validation and Study Sample Analysis(Step 4、2022年5月24日). ICH(1.3 免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →の評価法とバイオマーカーは対象外、4.1.1・4.1.2 標準品のロットや抗体などの重要試薬を替えるときに新旧を比べること、4.2.2 選択性:異好性抗体・リウマチ因子などの妨害と少なくとも10の個体、4.2.3 検量線:少なくとも6濃度、定量範囲は最も低い標準品と最も高い標準品で決まり、上下の平坦部の近くにデータがあれば多くは4PLか5PLで当てはめる、4.2.6 多くのLBAは範囲が狭いため希釈が要ること、希釈直線性とフック効果、7.4 最小必要希釈)。国内は厚生労働省 医薬薬審発1204第1号(2024年12月4日)
- FDA. Immunogenicity Testing of Therapeutic Protein Products — Developing and Validating Assays for Anti-Drug Antibody Detection. Guidance for Industry(2019年1月). FDA(IV.A.1 スクリーニング・確認・力価などを段に分ける方法、IV.I ブリッジング法などの形、IV.K 陽性・陰性と力価での報告、質量の単位での報告は一般に受け入れられないこと)
- Sakamoto S, Putalun W, Vimolmangkang S, et al. Enzyme-linked immunosorbent assay for the quantitative/qualitative analysis of plant secondary metabolites. J Nat Med. 2018;72(1):32-42. doi:10.1007/s11418-017-1144-z(直接法・競合法・間接法・サンドイッチ法の仕組み、ブロッキング、競合法では目的の分子が多いほど信号が下がること、小さな分子では2つの抗体によるサンドイッチ法がまれにしか作れないこと、酵素と基質)
- Findlay JW, Dillard RF. Appropriate calibration curve fitting in ligand binding assays. AAPS J. 2007;9(2):E260-E267. doi:10.1208/aapsj0902029(リガンド結合法の検量線はS字の関係を示し、4PLが基準のモデルで、非対称なら5PLが当てはまりを改善しうること)
- Tate J, Ward G. Interferences in immunoassay. Clin Biochem Rev. 2004;25(2):105-120.(異好性抗体やヒト抗動物抗体などが試薬の抗体と目的の分子の反応を妨げ、値を高くも低くもすること、別の測定法や希釈での確認)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/elisa-basics