ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体は何が違うのか?試薬のロットで結果が変わるのはなぜか

ELISA(抗体で分子を捕まえて量を測る方法)のキットを選ぶとき、抗体試薬のロットを替えるとき、測定値が急に変わった原因を探すときには、使っている抗体がポリクローナル抗体かモノクローナル抗体単一のクローンに由来し、同じ標的部位を認識する均一な抗体。詳しく →かを確かめる必要があります。ポリクローナル抗体多様なエピトープを認識する抗体の混合物。多種類のHCPをまとめて捕まえるため抗HCP抗体に用いる。詳しく →は動物の免疫で得た多くの抗体の混合物、モノクローナル抗体は1つの細胞のクローンから作る1種類の抗体です。
ただし、混合物は分子の多くの部分を認識できる代わりに、中身が動物や採血の時期で変わります。1種類の抗体は中身がそろう代わりに、認識する部分が1か所に限られ、作り方が変われば性質も変わります。
この記事では、2つの抗体の作り方と認識する範囲、宿主細胞由来タンパク質(HCP)生産に使う細胞に由来し製品に残るタンパク質不純物。精製で除去し、残存量を管理します。詳しく →の測定にポリクローナル抗体を使う理由、ロットで値が変わる理由、ロットを替えるときの確認の順番を説明します。
- 何が違うのか:ポリクローナル抗体は、1つの分子の別々の部分を認識する多くの抗体の混合物で、モノクローナル抗体は、決まった1か所だけを認識する1種類の抗体です。
- なぜHCPの測定にはポリクローナル抗体を使うのか:HCPは、抗体医薬を作らせた細胞が出す何千種類ものタンパク質の集まりで、できるだけ広く捕まえる必要があるためです。
- ロットで値が変わるのはなぜか:ポリクローナル抗体は動物や採血ごとに混ざる抗体の種類と割合が変わり、モノクローナル抗体もクローンや作り方が替われば性質が変わるためです。
1. ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体は、何が違うのか
違いは試薬に入っている抗体の種類の数で、ポリクローナル抗体は多くの抗体の混合物、モノクローナル抗体は1種類の抗体です。
抗体は、特定の分子(抗原)の決まった部分に結合するタンパク質です。抗体が結合する部分をエピトープと呼び、タンパク質のように大きな抗原の表面には、形の違うエピトープがいくつもあります。
体の中では、1つのB細胞(抗体を作る白血球の一種)が、1つのエピトープに結合する1種類の抗体だけを作ります。そのため、2つの抗体の違いは、いくつのB細胞に由来する抗体を集めるかの違いとして生まれます。
- ポリクローナル抗体:ウサギ・ヒツジ・ヤギなどの動物に抗原を繰り返し注射し、血液から抗体を集めます。別々のエピトープに反応した多くのB細胞の抗体が、混ざって入っています。
- モノクローナル抗体:免疫した動物のB細胞を、増え続ける腫瘍細胞(ミエローマ)と融合させ、抗体を作りながら増え続ける細胞(ハイブリドーマ免疫でできた抗体産生B細胞と骨髄腫細胞を融合し、単一の抗体を安定に作らせ続ける細胞。詳しく →)にします。1つの細胞から増やした集団(クローン)を選ぶと、そのクローンは同じ1種類の抗体を作り続けます。
ハイブリドーマを使う方法は、Köhler と Milstein が1975年に報告しました。現在は、抗体の遺伝子の配列を決めて培養細胞に作らせる組換え抗体も、試薬として使われています。

このように、試薬が混合物になるか1種類になるかは、作り方の段階で決まります。では、その違いは、測定で何を変えるのでしょうか。
2. 認識する範囲は、どう違うのか
ポリクローナル抗体は1つの分子の多くのエピトープに同時に結合でき、モノクローナル抗体は1つのエピトープにしか結合しません。
| ポリクローナル抗体 | モノクローナル抗体 | |
|---|---|---|
| 中身 | 多くの抗体の混合物 | 1種類の抗体 |
| 結合する場所 | 1つの分子の多くのエピトープ | 1つのエピトープ |
| 抗原の形が少し変わったとき | ほかのエピトープで結合が残りやすい | 結合が大きく変わることがある |
| 量とロット | 1匹から採れる量に限りがあり、動物や採血でロットが変わる | クローンを保てば、同じ抗体を作り続けられる |
まず、ポリクローナル抗体は、変性(熱や処理で立体構造が崩れること)や糖鎖の違いで一部のエピトープの形が変わっても、残りのエピトープで結合できます。Lipman らの総説(2005年)は、この点で、抗原の小さな変化の影響を受けにくいと整理しています。一方で、混ざった抗体の一部が、似た形を持つ別の分子に結合すること(交差反応ある抗原に対して生じた抗体が、構造の類似した別の抗原にも結合・反応する現象。詳しく →)があります。
モノクローナル抗体は、エピトープのわずかな構造の違いで、結合が大きく変わることがあります。その代わり、1か所だけを見るため、分子のどの部分を測っているかがはっきりしています。
ELISAのサンドイッチ法捕捉抗体と検出抗体で目的物を挟んで検出するELISAの方式。HCPの総量測定で標準的に使われる。詳しく →では、分子を捕まえる抗体(捕捉抗体)と、酵素を付けて検出する抗体(検出抗体)が、同じ分子の別々の部分に結合する必要があります(ELISAとは)。モノクローナル抗体で組むなら、別々のエピトープを認識する2種類を選ぶ必要があります。
つまり、ポリクローナル抗体は広い範囲を捕まえる試薬、モノクローナル抗体は決まった1か所を一定に認識する試薬として使われます。では、何千種類もの分子をまとめて測るHCP医薬品を作る宿主細胞に由来するタンパク質の不純物です。安全性に関わるため、精製後の残存量を測ります。詳しく →の測定では、どちらが使われるのでしょうか。
3. なぜHCPの測定には、ポリクローナル抗体が使われるのか
測る相手が何千種類ものタンパク質の集まりで、1種類の抗体では、原則として1つの分子の決まった1か所しか捕まえられないためです。
HCP(宿主細胞由来タンパク質)抗体を作らせた細胞が産生する目的以外のタンパク質。不純物として除き、残存量を管理する。は、抗体医薬を作らせた細胞が出すタンパク質の総称で、製品に残った量をELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →で測ります(HCP ELISAとは)。
米国薬局方米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →(USP)の〈1132〉は、HCPを測る抗体は、精製工程に入ってくるHCPの集団をできるだけ広く認識するものであるべきだとしています。そのうえで、ポリクローナル抗体で組んだサンドイッチ法を、HCPの監視と定量の中心的な方法に位置づけています(3節)。
この抗体は、製造に使う細胞と同じ種類で、目的の抗体の遺伝子を持たない細胞から得たHCPを、動物に免疫して作ります。〈1132〉は、ウサギなら10〜20匹、ヒツジやヤギなら3〜10匹に免疫し、1匹から4〜6回採血するのが通例としています(3.2.2.1)。採った血清は1回分ずつ調べ、抗体の量が少ないものや、一部のHCPにだけ強く反応するもの、製品の抗体に結合するものを除いてから、プールにまとめるよう求めています。
そのため、HCP ELISA製品に残る宿主細胞由来タンパク質(HCP)の量を抗体で測るELISAです。不純物の除去具合を確認する品質試験に使います。詳しく →の値は、プールの抗体がどのHCPをどれだけ強く認識するかで決まります。〈1132〉は、結合の強い抗体があるHCPほど値に大きく反映され、認識されないHCPはほとんど反映されないとしています(3節)。汎用キットの抗体と、自社の工程のHCPから作る抗体の使い分けは、HCP ELISAの選び方で扱っています。
このように、HCPの測定は、抗体が混合物であることを前提に組み立てられています。では、その混合物の中身は、ロットが替わっても同じなのでしょうか。
4. 試薬のロットで、なぜ結果が変わるのか
ポリクローナル抗体は、動物や採血の時期によって混ざる抗体の種類と割合が変わるため、ロットが替わると認識する範囲が変わることがあります。
Lipman らは、同じ抗原で免疫しても動物ごとに抗体が異なり、同じ動物でも採血を重ねるうちに結合の強さが変わりうるとしています。1匹から採れる血清の量も動物の大きさと寿命で限られ、プールを使い切れば、新しい動物で作り直す必要があります。
〈1132〉は、作り直したときの比較には多くの試料と手間がかかるため、最初に十分な量を作っておくことが大切だとしています(3.2.3)。
モノクローナル抗体なら、ロットの差はないのか
モノクローナル抗体でも、クローンや作り方、供給元が替われば、性質が変わることがあります。 ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → M10 は、血中の薬の濃度を測る方法の国際ガイドラインです。抗体のような重要試薬(測定結果に直接影響する試薬)について、新旧のロットの一貫性を保つ管理が必要としています(4.1.2)。
同じ項は、抗体の作り方の変更、ポリクローナル抗体での追加の採血、モノクローナル抗体での新しいクローンや供給元への変更を、大きな変更の例に挙げています。大きな変更では追加のバリデーションの試験が要り、小さな変更なら、新旧で正確さと精度を比べる評価を1回行えば足りるとしています。
HCPの測定はこのガイドラインの対象ではありませんが、変更の重さで確認の量を変える考え方は参考にできます。
HCPの値が急に下がったとき、工程が良くなったのか、抗体のロットが替わったのかは、値だけでは区別できません。切り替えの前後で同じ試料を並べて測ったデータがあれば、測定系の変化を切り分けられます。
つまり、ロットの差は、ポリクローナル抗体では避けられない性質で、モノクローナル抗体でもクローンや作り方が替われば起こります。では、ロットを替えるときは、何から確かめればよいのでしょうか。
5. ロットを替えるときは、何から確かめるのか
何が替わるのかを分けて確かめ、新旧のロットで同じ試料を並べて測り、差の大きさで追加の確認を決めます。
- 抗体の種類を確かめる:キットの抗体がポリクローナルか、モノクローナルか、組換えかを、製品の説明書で確かめます。
- 何が替わるかを分ける:捕捉抗体、酵素を付けた検出抗体、標準品のどれのロットが替わるのかを確かめます。ポリクローナル抗体なら、同じ動物からの追加の採血か、新しい動物かも確かめます。
- 古いロットを残しておく:並べて測るために、切り替えが済むまで古いロットを取っておきます。
- 新旧のロットで同じ試料を並べて測る:培養の回収液から原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →までの工程の試料を、新旧の両方で測ります。値と、工程ごとの減り方がそろうかを見ます(USP〈1132〉3.2.3)。
- 差の大きさで、追加の確認を決める:差が大きいときや、抗体の作り方が変わったときは、確認をやり直します。カバレッジ抗HCP抗体がどれだけ幅広い種類のHCPを認識できるか。ELISAが目的に適うかを示す中心的な指標。詳しく →(抗体が認識できるHCPの割合)の比較や、測定法の適格性の確認がこれに当たります。
上の2つは何が替わるかをつかむ項目、下の3つは新旧の値を比べられることを示す項目です。抗体試薬の特異性分析法において、共存する不純物・分解物・添加剤などが存在しても目的成分だけを正確に測定できる能力。詳しく →の確かめ方と、ロットの受け入れの運用は、抗体試薬のバリデーションで扱っています。
ポリクローナル抗体で、何千種類もの宿主細胞由来タンパク質(HCP)を1つの値にまとめて測るとき、値が低ければ、HCPは少ないと言えるのでしょうか。続きはHCP ELISAとはで説明します。
参考文献
- Lipman NS, Jackson LR, Trudel LJ, Weis-Garcia F. Monoclonal versus polyclonal antibodies: distinguishing characteristics, applications, and information resources. ILAR J. 2005;46(3):258-268. doi:10.1093/ilar.46.3.258(ポリクローナル抗体はウサギ・ヒツジ・ヤギなどで作り、多くのエピトープを認識するため抗原の小さな変化の影響を受けにくいこと、似たエピトープへの交差反応、動物ごとの違いと採血を重ねたときの結合の強さの変化、量が動物の大きさと寿命で限られること、モノクローナル抗体はハイブリドーマから1種類を作り続けられ、エピトープの小さな変化で働きが大きく変わりうること)
- Köhler G, Milstein C. Continuous cultures of fused cells secreting antibody of predefined specificity. Nature. 1975;256(5517):495-497. doi:10.1038/256495a0(ハイブリドーマ法の報告)
- USP General Chapter〈1132〉Residual Host Cell Protein Measurement in Biopharmaceuticals(USP 39 の掲載文。1節 ポリクローナル抗体を試薬に使うことがHCPの測定の難しさの1つであること、3節 HCPの集団をできるだけ広く認識する抗体を使い、ポリクローナル抗体のサンドイッチ法が監視と定量の中心であること、値は結合の強い抗体があるHCPに重みがかかること、3.2.2.1 免疫する動物の数と採血の回数、プール前の血清の選別、3.2.3 試薬を作り直すときに工程の試料で新旧を並べて比べること、最初に十分な量を作っておくこと。現行版は USP–NF で確認)
- ICH M10 Bioanalytical Method Validation and Study Sample Analysis(Step 4、2022年5月24日). ICH(4.1.2 重要試薬:新旧のロットの一貫性を保つ管理、小さな変更は正確さと精度の比較評価1回、大きな変更は追加のバリデーション、大きな変更の例として抗体の作り方の変更、ポリクローナル抗体の追加の採血、モノクローナル抗体の新しいクローンや供給元、新旧の試薬を直接比べることが望ましいこと。6.1 部分的バリデーションの例にリガンド結合法の重要試薬のロットの変更)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/polyclonal-vs-monoclonal-antibody