遺伝子治療基礎知識・精製

エンドヌクレアーゼ処理とは?核酸を切っても除けない理由と選び方

核酸を分解する酵素を加えたのに、最終製品の残存DNA製造に使った宿主細胞に由来するDNAの不純物です。安全性の観点から、精製後にどれだけ残っているかを測る試験です。詳しく →が思うように下がらない。AAVの製造では、こうしたことが起こりえます。酵素が切れるのは、ウイルス粒子の外にある核酸だけで、カプシドウイルスの遺伝物質を包むタンパク質の殻。AAVでは直径数十ナノメートルの正二十面体の構造をとる。詳しく →(ウイルス粒子の殻)の中に入ったDNAには届かないからです。

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エンドヌクレアーゼ処理とは?核酸を切っても除けない理由と選び方

エンドヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →処理は、ベンゾナーゼ(商品名)に代表される、DNAとRNAを区別せずに切る酵素を工程液に加える操作です。粘度液体の流れにくさを表す物理的性質で、タンパク質濃度の上昇に伴い非線形に増大する。詳しく →を下げて後ろの工程を回しやすくし、残るDNAを短くする役目があります。ただし、切ることと除くことは別の操作で、酵素そのものも新しい不純物として扱われます。

工程設計の人は条件の決め方を、購買は酵素の選び方を、品質保証は加えた酵素の残存管理を、ここで押さえられます。

何のために切るのか ― 粘度と残存DNA

細胞を壊した液や、細胞が死んで中身が漏れ出た培養液には、宿主由来の核酸が大量に含まれます。これが2つの形で工程の邪魔をします。

1つめは粘度です。長いDNAは、わずかな量でも液をどろどろにします。ハーベストと清澄化でフィルターがすぐ詰まり、深層ろ過の処理量が落ち、遠心でも分離が悪くなります。酵素で短く切ると、液はさらさらに戻ります。

2つめは、最終製品に残る宿主細胞DNAです。量だけでなく、断片の長さも管理の対象で、長い断片ほどリスクが高いと考えられています。ワクチンの残存DNAについては、WHOとFDAが、1回分あたり10 ng以下、断片の長さは約200塩基対DNA二本鎖において互いに水素結合で対をなすヌクレオチドの単位で、DNA断片の長さを表す基本単位として使われる。詳しく →以下を目安として示してきました。切って短くすること自体に意味があります。

AAVの製造では、この負荷が特に大きくなります。トランスフェクション培養細胞に外来の核酸を導入する操作。ウイルスベクターの一過性の産生などに用いられる。詳しく →に使ったプラスミド大腸菌の中で複製・増幅させる環状DNA。核酸医薬やベクター製造の伝統的な出発材料。詳しく →、宿主細胞のゲノムDNA、ヘルパー由来の核酸が、同じ液に混ざるためです。

切る目的は2つあります。液をさらさらにすることと、残るDNAを短くすることです。

切っても除けない ― 後ろの工程と、カプシドの中

よくある誤解は、酵素を加えれば核酸が消えるというものです。酵素は核酸を短い断片まで切りますが、断片は液の中に残ります。除くのは後ろの工程の役目です。

工程核酸に対する働き
清澄化培養液から細胞や破片を取り除いて目的物質を含む上清を回収し、後工程に渡せる清澄な液にする工程です。詳しく →・深層ろ過粘度が下がるので、処理量が増える
アフィニティ捕捉目的物を保持し、断片は素通りさせる
陰イオン交換負に帯電した核酸断片を吸着させる
限外ろ過小さな断片を透過側へ抜く

つまりエンドヌクレアーゼ処理DNAを分解する酵素で残存DNAを短く切る処理。断片サイズを下げて理論的リスクを減らす。詳しく →は、後ろの工程が効くようにするための前処理細胞移植の前に患者へ行う処置。生着の場を空けるために既存の骨髄細胞を減らす目的で実施される。詳しく →です。

もう一つの限界が、カプシドの中です。AAVのカプシドは核酸を包む殻で、目的の遺伝子のほかに、宿主細胞のDNAの断片やプラスミドの骨格が間違って詰め込まれることがあります。殻の中の核酸は酵素の相手になりません。粒子の外にある残存DNAは精製で除けますが、中に入ったものは除きにくく、目的のAAVと一緒に精製されてきます。Sf9ヨトウガ由来の昆虫細胞。バキュロウイルスと組み合わせ、懸濁培養でAAVを大容量に産生する系に使われる。詳しく →細胞を使う系では、BioMarin のポスターのように、残存DNAを粒子の外と中に分けて評価した報告もあります。詳しくはAAV製造における残留DNAの管理で解説しています。

エンドヌクレアーゼ処理の前、後、後ろの工程を左から右へ並べた概念図。左は酵素を加える前で、長いDNAがうねって液がどろどろの状態にあり、DNAを殻の中に持つAAV粒子が2つある。中央は酵素を加えたあとで、粒子の外の長いDNAは短い断片に切れて液はさらさらになるが、断片は液に残る。粒子の殻の中のDNAは切れない。右は後ろの工程で、アフィニティ捕捉は目的物を保持して断片を素通りさせ、陰イオン交換は負に帯電した断片を吸着し、限外ろ過は小さな断片を透過側へ抜く。殻の中のDNAは除かれず、目的のAAVと一緒に出てくる。
酵素が切るもの、切れないもの、後ろの工程で除くものの概念図
POINT
酵素を増やしても残存DNAが下がり止まるなら、残りは粒子の中にある可能性を疑います。対策は酵素の量ではなく、プラスミドや産生細胞の設計など、上流で入りにくくする側にあります。

酵素が切れるのは粒子の外の核酸です。粒子の中の核酸は、酵素の量を増やしても減りません。

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酵素が働かない失敗 ― 塩、EDTA、温度

酵素反応である以上、液の条件が結果を決めます。同じ酵素を同じ量だけ加えても、働かない工程があります。

まず、マグネシウムイオン(Mg2+)です。多くの非特異的ヌクレアーゼは、Mg2+がないと働きません。上流の緩衝液にキレート剤金属イオンをつかまえるキレート剤。グラム陰性菌の外膜を不安定化させ溶解を助ける。詳しく →のEDTAが入っていると、EDTAがMg2+を奪うので、酵素を加えても反応が進みません。緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →の組成は、酵素の要求に合わせて調整します。

次に塩です。多くのヌクレアーゼは、塩化ナトリウムが150 mM前後までの条件で働きます。AAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく →の製造では、カプシドの凝集を防ぎ、酵素を効かせやすくするために、400〜600 mMの高い塩濃度で処理することがあります。この条件では、標準的な酵素は十分に働かないとArcticZymesは説明しています。同社の塩に強いヌクレアーゼ(SAN)は、製品によって400〜700 mM前後で最もよく働くとされます。自社の液の塩濃度が、使う酵素の働く範囲に入っているかを、メーカーの資料と自社の試験で確かめます。

温度、時間、酵素の量も振る条件です。酵素が多いほど速く進みますが、コストと酵素の残存量が増えます。温度を上げれば速くなりますが、目的物の安定性に響きます。時間は、工程時間に収まる範囲で決めます。

効果の確認は、粘度の低下を目で見るだけでは足りません。残存DNAの量をqPCRやddPCRで、断片の長さの分布を電気泳動で測ります。「切れてはいるが、短くなりきっていない」状態を拾える設計にしておきます。

同じ酵素でも、液の塩とEDTAしだいで、働かない工程が出ます。条件は自社の液で試して決めます。

酵素の選び方と残存管理 ― 比べる軸と供給

エンドヌクレアーゼは、工程に加える原材料製造の起点となる原料で、その品質や持ち込む不純物が最終製品の品質に影響しうるため、規格管理が重視される物質。詳しく →です。選ぶときは、価格と活性の単位だけで比べず、次の4点を聞きます。

自社の液で働くか。塩濃度とMg2+の条件がそろうかを、自社の液で確かめます。

グレードと書類。研究用かGMPグレードか、動物由来成分を使っていないか、エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →の規格があるか。由来と製法が申請書類に書けるか。供給者管理と受入試験で、CoAに頼ってよい根拠を先に作ります。

ロット間の差。活性が同じ単位で規定されていても、測定条件が供給者ごとに違えば、実際の分解の程度は変わりえます。自社の液での分解速度を、ロットごとに確かめておく運用が現実的です。

残存量を測れるか。加えた酵素は、最終製品に残れば工程由来不純物として扱われます。後ろの工程で除かれることを示し、最終製品での残存量を残存ヌクレアーゼのELISAで測り、規格か工程内管理工程の途中で中間体の力価や純度などを確認する管理。最終規格の前に品質を作り込む要素。詳しく →の項目にします。宿主細胞タンパク質の管理と似た枠組みですが、意図して加えたものである点が違います。ELISA抗原と抗体の結合を酵素反応による発色などで検出し、目的の物質の有無や量を測る手法です。不純物や力価の測定に広く使われます。詳しく →は酵素のタンパク質を測るので、酵素を替えると、測る抗体が反応するかを確かめ直します。

供給にも気を配ります。この酵素は、供給者が限られること、単価が高いことが課題に挙げられてきました。大腸菌で作ること自体も難しい酵素です。自分の核酸を切る酵素を菌の中で作ると、菌が傷むためです。菌体の外へ出す系などの研究も報告されていますが、研究の段階です(ニュース)。別の酵素への切り替えは、原材料の変更として同等性の確認が要ります。

酵素に頼らない手立てもあります。陽イオン性のポリマーで核酸を沈殿させる方法は酵素より安価ですが、目的物が一緒に沈むことがあります。陰イオン交換正に帯電した担体に負電荷の物質を吸着させて分離する手法。フロースルーでDNAやウイルスを除くのに使う。詳しく →で核酸を吸着させ、目的物を素通りさせる方法は、目的物も負に帯電していると使えません。もっと根本にあるのは、上流で細胞の生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →を保ち、核酸が漏れ出る量を減らすことです。⁠下流で苦労する量は、上流で決まっています。

明日から確かめられること

酵素を入れる前に、あるいは残存DNAが下がらないときに、次の点を見てみてください。

  • 酵素を加える液に、EDTAは入っていないか。Mg2+は足りているか
  • 液の塩濃度は、使う酵素の働く範囲に入っているか。高塩濃度の溶解液を使っていないか
  • 残存DNAの量と、断片の長さの両方を測っているか
  • 酵素を増やしても残存DNAが下がり止まるとき、粒子の中の核酸を疑ったか
  • 酵素のグレード、由来、ロット間の差について、供給者から書類をもらっているか
  • 加えた酵素が後ろの工程で除かれることを示し、最終製品での残存量を測っているか
  • 酵素を替える場合の、同等性変更前後が完全に同一でなくても、品質・安全性・有効性で高い類似性を保ち差異が悪影響しないと言える状態。詳しく →の確認と、残存を測る抗体の反応性の確認が計画されているか

酵素の候補はヌクレアーゼ(ベンゾナーゼ等)、残存酵素を測る手段は残存ヌクレアーゼELISA、残存DNAの定量は残存DNA定量(qPCR)の製品ページで比べられます。分解した断片を除く工程は、AEXレジンやTFFシステム、清澄化はデプスフィルターが関係します。

参考文献

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、遺伝子治療に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。