ときわバイオは、iPS細胞をつくるための「ステルス型RNAベクター(SRV)」を、臨床グレードで2027年第1四半期から供給する計画です。日経バイオテクが10月14日に報じました。供給に必要なウイルス検査は、バイオセーフティ試験を手がける台湾のTFBS Bioscienceに委託します。両社は10月8日、横浜で開かれたBioJapan 2026の会場で、細胞治療・再生医療分野の戦略的業務提携を結びました。契約金額などの条件は公表していません。
細胞質で働き、あとで消せるベクター
iPS細胞は、血液や皮膚の細胞に複数の初期化因子を入れてつくります。因子を運ぶ手段には、センダイウイルスベクターやmRNA、エピソーマルベクターなどがあり、初期化の効率と、作業のあとに因子が細胞に残らないかどうかで選ばれてきました。
SRVは、マイナス一本鎖のRNAをゲノムに持ち、細胞質で長く安定して遺伝子を発現させるベクターです。同社によれば、1つのベクターに10個以上の遺伝子を同時に載せられ、役目を終えたら短時間で細胞から除去できます。染色体に入り込まない点も同社が挙げる特徴で、挿入変異の心配を減らしたい臨床用の株づくりと相性のよい性質です。同社は10月7日にも、iPS細胞作製用の新製品「SRV iPSC-5」の発売を告知しています。
あとから替えられない初期化の原料
臨床で使う生物由来の原料には、製造の途中でほかのウイルスが混入していないことを示す試験が求められます。初期化ベクターは、iPS細胞株にとって最初に触れる原料です。研究用のベクターでつくった株を臨床に持ち込もうとすると、その原料の素性と試験記録をさかのぼって説明しなければなりません。説明しきれなければ、株を樹立し直すしかありません。
こうした事情は、研究用試薬からGMPグレードへの切り替えの中でも、とくに後戻りのきかない部分です。樹立し直した株では、核型やゲノムの安定性の確認もやり直しです。
提携の中身について、台湾の出展団は10月6日の発表で、TFBSのバイオセーフティ試験と、ときわバイオのSRV技術やヒト初代細胞のバンクを組み合わせると説明しています。ねらいは、新しい治療法の品質と安全性の土台づくりです。ベクターを供給する側が試験の受け皿まで先に決めておけば、使う側は受け入れの根拠をそろえやすくなります。
iPS細胞を使う治療では、株をつくる最初の一手で使った原料まで、品質の説明が問われます。臨床グレードの初期化ベクターの供給時期が示されたことで、研究段階から臨床を見すえて株をつくる計画を立てやすくなりました。
※ 本ページは2026年10月14日の日経バイオテクの報道と、ときわバイオおよび台湾出展団の公開情報をもとにした紹介です。詳細・数値は一次情報もあわせてご確認ください。