HPLCのピークが割れる・ずれるのはなぜ?原因を絞る順番と確かめ方
標準溶液を流したら、いつも1本で出るピークが2つに割れていた。あるいは保持時間が昨日と揃わず、手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →の基準から外れた。そういう朝に、カラムを新品に替える前に確かめられることが、いくつもあります。割れたピークは積分の仕方で面積が変わり、純度製品にどれだけ目的物質だけが含まれ、不純物や変性体が少ないかを示す指標です。抗体では単量体の割合やサイズの異なる成分の量などを見ます。詳しく →や含量製品にどれだけの目的物質が含まれるか(含量)や、その生物学的な効き目の強さ(活性)を示す指標です。培養液中の産生量を指す場合もあります。詳しく →がぶれます。

核心は、症状が「どのピークに出たか」で原因の場所が分かれることです。前のほうに出るピークだけが割れるなら、試料を溶かした溶媒が移動相クロマトグラフィーにおいて試料を運ぶ液体(または気体)で、組成や流量が分離性能に大きく影響する。詳しく →より強い場合が典型で、装置やカラムの不良ではなく、溶かし方の問題です。全部のピークが割れるなら、カラムの入口や接続を見ます。保持時間のずれも、全部が同じ割合で動いたのか、ピークごとに違うのかで、送液と化学に分かれます。
分析を担当する若手にも、結果を受け取る品質管理遺伝子治療製品の品質・安全性・有効性を保証するために製造・出荷の各段階で実施する試験・管理の総体。詳しく →にも、カラムを提案する営業にも、最初に見るところは同じです。割れたのかずれたのか、それがどのピークに出たのかを先に見てから手を動かせば、替えなくてよいカラムを替えずに済みます。
前のほうのピークの割れ ― 試料の溶媒が強いとき
前のほうのピークが割れる典型的な原因は、試料を溶かした溶媒です。Shimadzu の資料は、前に出るピークだけが割れるなら、まずこれを疑うとしています。

逆相HPLC疎水性の差でペプチドやオリゴを分離する液体クロマトグラフィーのこと。詳しく →では、水に有機溶媒を混ぜた移動相の中で、成分が充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。詳しく →剤に引き留められます。試料が移動相より有機溶媒の多い液に溶けていると、注入された液の塊の中心では、成分が強い溶媒に囲まれたまま速く進みます。縁の分子は移動相に薄められて普通に保持されるので、同じ成分が速い群れと遅い群れに分かれます。保持の弱い成分は、塊が薄まる前にカラムを出てしまうため、前のほうから割れます。
Waters の例では、内径2.1 mm、長さ50 mmのカラムに、アセトニトリル5%から95%へのグラジエントをかけ、0.2 µg/mLの6成分を測りました。2 µL(カラム容積の約1.1%)は問題なく、4 µLに増やすと、前の2本だけが高くならず、幅が広がって前に張り出しました。溶媒がアセトニトリル50%だったためです。10%に溶かし直した4 µLでは、全部のピークが2 µLの約2倍の高さで、形も整いました。崩れ方は割れではなく前への張り出し(フロンティングクロマトのピークが前に尾を引く歪み。非対称性係数が1より小さくなり、過充填や床の圧密が疑われる。)でしたが、差が大きければ同じ仕組みで割れます。
前のほうのピークだけが崩れたら、カラムや装置より先に、試料の溶媒と注入量を疑います。
溶媒と注入量の兼ね合い ― 15%の目安と薄め方
量が少なければ、強い溶媒でも崩れは小さくなります。
LCGC の解説が挙げる目安は、溶媒が移動相と同じとき、注入量を最初に見たいピークの体積の15%未満にすることです。ピーク体積は、底の幅に流量をかけて求めます。Waters の例の「カラム容積の1〜10%」という目安にも、試料の溶媒の強さを開始時の移動相と比べて考えるよう添えられています。目安の範囲内の4 µLでも、溶媒が強ければ崩れました。
直し方は、効き目の大きい順に3つです。最も確実なのは、開始条件の移動相で試料を溶かすことで、Shimadzu の資料も、希釈液を開始条件の移動相に合わせるよう勧めています。難しければ有機溶媒を減らして水を増やしますが、疎水性の高い成分は溶けにくくなります。注入量を減らすのは最後の手です。不純物のピークが小さくなり、定量限界十分な精度で定量できる最小量。分析法の性能を示すバリデーション項目の一つ。詳しく →に近づきます。
装置側にも手があり、Shimadzu の Nexera には、試料と一緒に水のような弱い溶媒を吸って混ぜる共注入(co-injection)の機能があります。同社のアプリケーションノートは、HPLC向けの条件をUHPLC(超高速液体クロマトグラフ)装置でそのまま使うと、試料の溶媒が強いときにピークが広がりやすいとし、共注入で理論段数クロマトカラムがどれだけ鋭いピークを保てるかを表す指標で、値Nが大きいほど分離能が高い床を意味する。詳しく →が高まった例を示しています。装置を更新した直後に割れが出たら、不具合の前に、試料の溶媒との相性を疑います。
試料の溶媒は開始条件の移動相に近いほど安全で、離れるほど、注入量を絞るか装置側で薄める必要があります。
ProgLoopで調べるこの製品・工程、ProgLoopで実務者に聞く関連製品や他社の使用経験とあわせて引けます。迷えば、そのまま質問も投げられます。ProgLoopで調べる全部のピークの割れ ― カラムの入口と接続
全部が割れるなら、原因は試料の手前にあります。Phenomenex の資料は、割れが1本か全部かを最初の手がかりとしています。
入口のフリット(カラムの端で充填剤を押さえる焼結フィルター)が部分的に詰まると、試料の一部が遅れて入ります。充填剤に空洞ができても、一部の試料が先に進みます。注入器からカラム、検出器までの接続のすき間も原因です。
切り分けは圧力から始めます。カラムを外した状態と付けた状態で圧力を比べ、詰まりがカラムの外にないかを見ます。カラムが疑わしければ、メーカーが許す場合に限り、逆向きにつなぎ、流量を下げて強い溶媒を流す逆流洗浄(reverse flush)を試します。圧力が戻らなければ交換です。
全部のピークが割れたら、溶媒の調整より先に、カラムの入口と接続を見ます。
保持時間のずれ ― 全部が同じ割合か、ピークごとか
ずれも、全部のピークが同じ割合で動いたのか、ピークごとに違うのかで、疑う場所が決まります。
全部が同じ割合で動いたなら、動いたのは液の流れる速さです。カラムに保持されずに素通りする成分の出る時間(t0)も、一緒に動きます。ポンプの気泡、チェックバルブやシールの傷み、接続のにじみを疑い、圧力の揺れを手がかりにします。
ピークごとに違うなら、動いたのは成分が引き留められる強さ、つまり化学の側です。いちばん効くのは有機溶媒の割合です。Dolan は、等組成の逆相で有機溶媒が1ポイント違うと、保持係数(retention factor、k)が、分子量500ほどの試料で10〜15%動くと整理しています。10ポイント違えば約3倍とする経験則もあり、分子量1,000未満の目安です。計量の誤りや、ボトルからの有機溶媒の蒸発でも、組成は動きます。
酸や塩基の性質を持つ成分は、pKa(半分がイオン化薬分子が水溶液中で電荷を帯びたイオン型と電荷を持たない非イオン型に分かれる現象で、体内のpH環境によって割合が変化する。詳しく →するpH)の近くで、pHが少し動くだけで保持が大きく動きます。温度も、逆相では上がるほど保持が短くなります。試料の溶媒が強いときも、ピークは広がり、保持時間は短くなります(LCGC の解説)。耐えるずれの幅は、開発で決めておく内容です(分析法の頑健性)。
全部が同じ割合なら流れ、ピークごとなら化学と分けるだけで、見る場所は半分に減ります。
広がりとテーリング ― 割れ・ずれとは別の原因
太るのは、カラム外の流路の容積が増えたときで、配管の内径と長さ、継手のすき間が主な場所です(デッドボリューム)。尾を引くのは、ペプチド複数のアミノ酸がペプチド結合でつながった中分子化合物で、タンパク質より鎖が短いものを指す。詳しく →やタンパク質がカラム表面のシラノール基に引っかかる例が多く、加える酸の種類で変わります(移動相に加える酸)。
システム適合性が拾える範囲 ― 標準溶液に映らない崩れ
システム適合性試験系がきちんと動いていることを確認するための基準や試験。判定の信頼性を支える。詳しく →(system suitability)は、標準溶液を流して、その日の装置とカラムで測れるかを確かめる試験です(システム適合性)。標準溶液に出ない崩れには気づけません。標準を移動相に近い液で作り、試料は抽出に使った有機溶媒の多い液のまま注入すれば、標準は鋭く出て合格し、試料のピークだけが割れます。
USP米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく → 〈621〉は、2022年12月1日に調和版が公式になりました。別の指定がなければ、システム適合性を満たすことを条件に、移動相のpHは±0.2、緩衝塩の濃度は±10%まで調整できます。幅の中でずれを戻すのは正当な手順ですが、原因が漏れや調製の誤りなら、直すべきは原因です。
確かめる順番 ― 費用の小さいものから
順番は、費用の小さい順です。カラムの交換は最も高く、原因の手がかりも消えます。だから最後に回します。

先に、記録と波形を見ます。割れたのは全部か前のほうだけか、ずれたのは同じ割合かピークごとか、t0と圧力は動いたか。合格した最後の日から、移動相のロット、試料の溶媒、配管、カラムのどれが変わったかも洗い出します。
次に、注入量を半分にして3〜5回流します(Shimadzu の資料)。形が良くなれば試料の溶媒が原因で、変わらなければ別の原因です。
そのうえで、移動相を作り直し、有機溶媒の計量、pH、使用期限を確かめます。接続のにじみ、圧力の揺れ、ポンプの気泡、カラムオーブンの温度も見ます。戻らなければ、ガードカラムを外し、カラムを外した圧力を測り、メーカーが許すなら逆流洗浄をします。形も圧力も戻らないときに、はじめてカラムを交換します。条件を動かすなら、〈621〉の許す幅か変更管理工程・設備・手順などの変更を評価・承認し、品質への影響とともに記録する仕組み。詳しく →かを先に決めます。
カラムが疑わしいときは、説明書で逆流洗浄の可否と使えるpHの範囲を確かめます。選び直しは逆相HPLCカラムで比べます。
カラムを替える前に、記録、注入量、移動相、カラムの手前の順で確かめます。
参考文献
- Waters, Peak Shape Changes with Increased Injection Volume
- Shimadzu, Nexera Virtual Advisor: Troubleshooting Split Peaks、Troubleshooting Fronting Peaks、Improving Peak Shapes Affected by Sample Solvents in UHPLC Systems(Application Note 01-00269-EN)
- Phenomenex, Peak Splitting in High-Performance Liquid Chromatography (HPLC): Causes and Solutions
- LCGC, The Role of the Injection Solvent
- Dolan JW. Count the Cost, Part II: Increasing Resolution by Increasing Retention. LCGC North America. 2017;35(4):240-245.
- USP General Chapter 〈621〉 Chromatography(調和版、2022年12月1日公式。本文は USP-NF に収載)
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