作用機序(MoA)は、力価試験・規格・バイオシミラーの比較をどう決めるのか

作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。詳しく →(Mechanism of Action:MoA)は、標的への結合から生物活性を経て臨床効果に至る因果の筋道です。この筋道から、力価試験(製品の生物活性の強さを測る品質試験)で何を測るか、規格にどの品質特性を載せるか、バイオシミラーで先行品と何を比べるかが決まります。3つの仕事は担当が分かれていても、答えは同じ筋道から出ます。
ところが現場では、同じ大きさの品質の差が、ある抗体では有効性を変え、別の抗体ではほとんど変えません。差の意味を決めているのは分析値そのものではなく、その抗体の MoA です。
この記事では2つの抗体を並べ、3つがそれぞれ MoA からどう決まるかを順に整理します。
- MoA から何が決まるのか:力価試験の測り方、規格に載せる品質特性、バイオシミラーで先行品と比べる項目。
- 力価試験は何を測るのか:MoA のうち、有効性を担う活性を変える変化を拾える試験にする。
- バイオシミラーでは何に効くのか:比べる機能試験の選び方と、臨床試験をしていない適応へ承認を広げる根拠の両方。
1. なぜ同じ糖鎖(フコース)の差が、ある抗体では問題になり、別の抗体ではならないのか
フコースが影響する段階を、その抗体の MoA が使っているかどうかが違うからです。
説明用の仮の例で考えます。2つの IgG1 抗体で、あるロットの「フコースの付いていない糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →」の割合が、これまでのロットより少し高く出たとします。
| 抗体A | 抗体B | |
|---|---|---|
| 標的 | 血中のサイトカイン細胞が放出する免疫の情報伝達物質。細胞治療では効果と安全性のリードアウトになる。詳しく →(細胞間のシグナルを運ぶタンパク質) | がん細胞の表面 |
| 有効性を担う活性 | 標的に結合し、その活性を中和する | 抗体依存性細胞傷害(ADCC)抗体のFc領域が免疫細胞を呼び寄せ、標的細胞を傷害させるエフェクター機能。でがん細胞を傷害する |
| フコースの差の影響 | 有効性に直接はつながらない | 有効性が変わりうる |
ADCC は、標的の細胞に結合した抗体の Fc 領域(抗体の根元の部分)を、ナチュラルキラー(NK)細胞などの免疫細胞が受容体 FcγRIIIaNK細胞などが持つ活性化型のFc受容体。抗体Fcとの結合でADCCの引き金になる。詳しく → を介して結合するところから始まります。この段階にフコースがどう効くかは、Shields らが2002年に報告しています。
フコースの差が大きく効くのは ADCC の段階です。抗体Aの MoA には、その段階がありません。この「どの段階を使って有効性を発揮するか」が、力価試験・規格・比べる項目の3つを決めます。

2. 力価試験は、MoA のどの活性を測ればよいのか
有効性を担う活性を変える変化が、いずれかの試験で検出できるように測定します。 有効性を担う活性が2つあれば、その両方をどう押さえるかを決めます。
欧州医薬品庁(EMA)のモノクローナル抗体単一のクローンに由来し、同じ標的部位を認識する均一な抗体。詳しく →ガイドライン 7.3 は、有効性の由来によって力価試験の考え方を分けています。
- 結合・中和の作用のみで有効性を発揮する抗体(抗体A):根拠を示せば、標的への結合試験を力価試験として認めうる。
- Fc エフェクター機能抗体が免疫系を動かして標的細胞を排除する働き。ADCCやCDCなどがある。詳しく →が有効性に関わる抗体(抗体B):細胞を用いた機能試験か、Fc エフェクター機能を考慮した別の試験を行うべき。細胞を用いた機能試験ができない場合などには、結合試験と、Fc エフェクター機能の指標(C1q への結合、Fcγ 受容体への結合など)を測る試験の組み合わせも認められうる。
結合試験と細胞を用いた機能試験は、結果がよく一致することもあります。それでも同じガイドラインは、2つを互換ではないとしています。糖鎖や断片化のように、標的への結合は変えずに、その下流の活性を変える品質特性があるからです(抗体医薬の力価試験、ADCC・CDCとは)。
力価試験は、生体内の機序を再現すべきか?
必ずしもその必要はありません。
- ICH Q6B生物薬品の規格・試験方法の設定の考え方を示すICHガイドライン。力価などの規格を扱う。詳しく → 2.1.2:臨床の状況を模すことは必ずしも必要ない。そのかわり、試験の活性と臨床反応の相関を示すべき。
- 米国食品医薬品局(FDA)の細胞・遺伝子治療製品の力価に関する指針案(2023年12月):試験が MoA をそのまま模すことは必須ではない。中心の目的は、力価に関わる品質特性のうち、損なわれるおそれのあるものを定量すること。
3. 規格に載せる重要品質特性(CQA)は、MoA からどう選ぶのか
MoA の各段階を変えうる品質特性を挙げ、そのうち有効性に影響するものを、力価に関わる重要品質特性(CQA)製品の品質・安全性・有効性を保証するため規格内に収めるべき重要な品質特性。として選びます。
CQA は、規格や工程管理で範囲を決めて守る特性を指します。ICH Q8(R2) は、目的とする製品品質を確保するために、適切な範囲に入っているべき物理的・化学的・生物学的・微生物学的な性質と定義しています。抗体Bでは、フコースの付いていない糖鎖の割合がこれにあたります。糖鎖プロファイル抗体などのタンパク質に結合した糖鎖の種類や割合を調べる分析です。効果や安定性、免疫原性に影響するため構造を確認します。詳しく →を、規格か工程管理で管理します(抗体の糖鎖)。
FDA の同じ指針案は、CQA製品の品質を保つために、適切な範囲に収まっている必要がある物理的・化学的・生物学的・微生物学的な性質です(ICH Q8)。規格試験だけでなく、工程の管理で保証するものも含みます。詳しく → の選び方について次のように書いています。
- MoA との関係:MoA の理解は、力価に関わる CQA を特定するうえで重要。その CQA は、理想的には MoA とはっきりした関係を持つべき。
- 相関と機序の区別:ある特性と臨床成績のあいだに統計的な相関が見えるだけでは、機序のつながりは示せない。
- 抗体Aでフコースが規格に不要かというと、そう単純ではありません。CQA は有効性だけでなく、安全性や体内動態からも選びます。MoA で決まるのは「有効性の面からどの特性が必要か」までです。
- 判定基準をどこに置くかは、別のデータで決めます。ICH Q6B 3 は、規格は非臨床・臨床試験に使ったロットのデータに基づくべきとしています(ICH Q6Bと規格の線の引き方)。
4. 重要:バイオシミラーでは、MoA が分かっていると何が変わるのか
先行品と比べる機能試験の選び方と、臨床試験をしていない適応にも承認を広げる根拠。この2つが MoA で決まります。
先行品と比べる機能試験
FDA の2015年の指針(Scientific Considerations in Demonstrating Biosimilarity to a Reference Product)は、機能試験を、先行品と後続品の MoA が同じであること(先行品で分かっている範囲で)を示す追加の証拠として使えるとしています。抗体Bの後続品なら、標的への結合に加えて、ADCC 活性を先行品の複数ロットと比べます。比べ方の全体は、バイオシミラーの記事で扱います。
適応の外挿:ほかの適応へ承認を広げる根拠
先行品が複数の適応で承認されているとき、後続品は1つの適応での臨床試験の結果を、ほかの適応に広げて承認を求めることがあります。同じ指針は、その根拠で扱う事項の例として、まず適応ごとの MoA を挙げています。
- 標的:有効性に関わる活性ごとの、標的や受容体。
- 結合とシグナル:結合の仕方、用量・濃度反応関係、結合後のシグナル伝達。
- 構造との関係:製品の構造と、標的との相互作用の関係。
- 標的の局在:標的や受容体の発現部位と発現量。
このほか、患者集団ごとの体内動態、免疫原性薬そのものが患者の免疫応答を誘発しやすい性質。凝集体や不純物、投与経路、患者背景などが要因になる。詳しく →、予想される毒性も挙げています。適応のあいだにこれらの違いがあっても、それだけで広げられなくなるとは限りません。違いを、証拠の全体の中で説明する必要があります。
製法を変えた自社品の前後を比べるときも、考え方は同じです。どの段階を使って有効性を発揮するかが分かっていれば、変更で動いた品質特性が有効性に関わるかを判断できます(同等性/同質性評価(ICH Q5E))。
5. 自社品目では、MoA を書き出したあと、何をどの順番で決めるのか
MoA を段階に分けて書き出し、各段階に「測る試験・それを変えうる品質特性・比べる項目」を並べた表を作成します。 3つを別々の担当が決めていても、この表があれば同じ筋道で説明できます。
- Step 1:段階を書き出す 標的、結合のあとに起きる活性、患者での臨床効果の順に並べ、有効性を担う活性に印を付ける。
- Step 2:力価試験を決める 印を付けた活性を変える変化が、どの試験で検出できるかを確かめる。結合試験だけで足りるなら、その根拠を書く。
- Step 3:重要品質特性(CQA)の候補を挙げる 各段階を変えうる品質特性を並べ、有効性に影響するものを、力価に関わる CQA の候補にする。
- Step 4:比べる項目を決める 先行品や変更前の製品と比べる機能試験を、印を付けた活性から選ぶ。
- Step 5:未解明の段階を残す 根拠の無い段階は、特性解析や非臨床試験のどこで確認するかを決めておく。
MoA は、研究の段階で書いて終わる説明ではありません。まず段階に分けて書き出す。そうすれば、力価試験で何を測るか、規格にどの特性を載せるか、先行品と何を比べるかが、同じ1本の筋道から決まります。
参考文献
- ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく →, Q6B Specifications: Test Procedures and Acceptance Criteria for Biotechnological/Biological Products(2.1.2 生物活性と力価、3 規格の根拠と臨床ロットの関係)
- ICH, Q8(R2) Pharmaceutical Development(用語集:重要品質特性)
- EMA, Guideline on development, production, characterisation and specification for monoclonal antibodies and related products (EMA/CHMP/BWP/532517/2008)(7.3 力価)
- FDA, Scientific Considerations in Demonstrating Biosimilarity to a Reference Product, Guidance for Industry(2015年4月。機能試験、適応の外挿)
- FDA, Potency Assurance for Cellular and Gene Therapy Products, Draft Guidance for Industry(2023年12月、指針案)
- Shields RL, et al. Lack of fucose on human IgG1 N-linked oligosaccharide improves binding to human FcγRIII and antibody-dependent cellular toxicity. J Biol Chem. 2002;277(30):26733-26740. doi:10.1074/jbc.M202069200
次に読む
この記事から広げる
この分野の新着を、メールで受け取る
こうした製造・分析・品質の解説記事と、装置・試薬の新製品ニュースを毎週水曜の朝にお届けします。登録は無料で、いつでも解除できます。
登録によりプライバシーポリシーに同意したものとみなします。閲覧の記録(どのページから、どの会社のサイトへ移ったか)を、ご案内のために使います。
目次・関連閉じる
Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/moa-potency-specification-biosimilar