神戸大学と島津製作所は10月20日、微生物の培養から試料の採取、細胞内の代謝反応の停止、遠心分離、代謝物の抽出、分析用プレートへの分注までを一体にした「自動メタボローム解析システム」を開発したと発表しました。メタボローム解析は、細胞の中の糖やアミノ酸、エネルギーに関わる物質をまとめて測り、細胞がどのような状態にあるかを調べる方法です。神戸大学の発表によれば、培養液は培養槽から約13秒で代謝反応を止めるためのチューブに届き、夜間や早朝を含めて、設定した時刻の採取と前処理を装置が続けます。用途として挙げているのは、医薬品原料や食品素材、バイオ燃料、化学品の生産に適した菌株の選定で、GMPの製造工程や品質試験への適用は示していません。1回の運転で扱える試料の数、1試料あたりにかかる時間、製品化の予定と価格も公表していません。装置はNEDOの事業で神戸大学に設けた「DBTL型スマートセル開発拠点」に置かれ、企業が利用できるとしています。
採ってから止めるまでの時間差が、測った値を決めていた
培養中の細胞の代謝を測るとき、結果を左右するのは試料を採ってから代謝反応を止めるまでの時間です。細胞内の代謝物には、環境が変わると数秒で量が変わるものがあるため、採ったあとも反応が続けば、槽の中にあったときとは違う値が出ます。そこで採取の直後に冷却した溶液と混ぜて反応を止めます(クエンチング)。細胞を除いた上澄みで糖や酢酸を測るのとは違い、細胞の内側では、採ってから止めるまでの扱い自体が測定条件です。
これまでは、採取・冷却・遠心分離・上澄みの除去・抽出液の添加を人が行うことが多く、作業者や試料の数によって時間差が避けられませんでした。培養中の変化を何度も追う時系列の解析では、多数の試料を短い時間で同じように処理することが課題だった、と両者は説明しています。夜間や早朝の採取時刻には、熟練者が待機する必要もありました。培養から試料調製までを統合して自動化した解析システムは世界初だとしています(2026年10月時点、神戸大学調べ)。
自動処理に替えても、測定値のばらつきは大きく増えませんでした。同じ抽出液を分析装置で8回測ったときの変動係数(ばらつきを平均値に対する割合で示した数値)の平均が6.9%、同じ培養液から採った8本の試料をクエンチング後にそれぞれ自動処理したときが8.8%で、増加は1.9ポイントにとどまったと論文で報告されています(いずれも全ての繰り返しで検出された76物質の平均)。各試料にはバーコードが付き、培養槽・採取時刻・処理工程・プレート上の位置がひも付けられます。カメラ画像による工程の監視と、光学センサーによる細胞の沈殿が再び混ざったかの確認も記録されるため、どの試料がどう処理されたかを後から確認できます。
自動化の先で問われる点
この装置が変えるのは、増殖の速さが似て見える株のうち、どれを生産に使うかを決めるときの材料です。研究と物質生産で広く使われる4種類の大腸菌を培養開始から19時間まで続けて測ったところ、細胞の増え方が似ている時点でも、糖・アミノ酸・エネルギー関連物質の量と変化の仕方は株ごとに違っていました。W株では分岐鎖アミノ酸の細胞内の量が比較的多く、C株では糖リン酸やテルペン類の合成につながる経路(MEP経路)の中間物質がそろって増える動きが見られたと報告されています。培養のどこで代謝が変わるかを株ごとに並べて見られるため、増殖の曲線だけでは分からない差を宿主の選定の材料にできます。
研究成果は、米国化学会の『Analytical Chemistry』に2026年10月19日付でオンライン掲載され、同誌の表紙に選ばれました。両者は、記録した処理時間・温度・試料IDを使えば、研究者や研究機関が違っても比べられるメタボロームのデータが取れるとして、標準化の技術としての展開も見込んでいます。開発はNEDOの事業「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発」(2016〜2021年度)で始まり、事業の終了後も続けられました。島津製作所は、同社の既報によれば細胞培養の工程の最適化を支えるソフトウェア「CellTune」も展開しています。
クエンチングまでの時間と前処理の手順を装置に固定したことで、株や培養条件の違いを、細胞内の代謝物の動きとして同じ条件で比べられるようになりました。自社の工程に採り入れるかを決める前に確かめるのは、1回の運転で扱える試料数と1試料あたりの時間、そして自社の菌株と培地でも同じばらつきに収まるかです。
※ 本ページは2026年10月20日の神戸大学と島津製作所の発表をもとにした紹介です。詳細・数値は一次情報もあわせてご確認ください。