抗体医薬基礎知識・培養

培養液の代謝物アナライザーをどう選ぶか

CHO細胞のフェドバッチ種培養で増やした細胞を大型の培養槽に移し、目的物質を本格的に産生させる最終段階の培養です。栄養を追加しながら育てるフェドバッチが広く使われます。詳しく →培養で、フィードの量をグルコース微生物発酵でエネルギー源となる糖類などの炭素源と、目的遺伝子の発現を促す誘導物質のことです。詳しく →値から決めています。オフラインの培養液アナライザーを選ぶとき、カタログでまず比べるのは測定項目の数です。Nova BiomedicalのBioProfile FLEX2は、グルコースから浸透圧溶液中の溶質濃度で決まる、水を引き込む圧。培養では上昇が細胞ストレスになる管理項目。詳しく →まで16項目を1台で返します。YSIの2900Dは、グルコースを0.05 g/Lから25 g/Lという広い範囲でカバーします。項目数と範囲の広さだけを見れば、いちばん多く測れる機種を選べば済みそうに見えます。

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培養液の代謝物アナライザーをどう選ぶか

ところが実際の運用を左右するのは、この項目数ではありません。効いてくるのは2つです。センサーをどう作り、どう保守するかという方式と、1時間にどれだけの検体をさばけるかというスループットの設計です。前者はメンテナンスフリーのカード式か、定期交換が要る膜電極式かで、日々のダウンタイム洗浄・滅菌や段取り替えのために設備を止めている稼働できない時間。が変わります。後者は同じメーカーの製品ラインの中でも機種によって設計が分かれ、プロセス開発向きかQC向きかを決めます。⁠項目数の多さは、この2つが自社の運用に合ったあとに効いてくる数字にすぎません。

本稿では、培養液アナライザーが担う仕事から、センサー方式の違い、なぜ膜電極には保守が要るのか、同じメーカーの中でも分かれるスループット一定時間に処理できる検体数。自動パッチクランプはマニュアル法より桁違いに多くの化合物を測れる。詳しく →の設計、そしてサンプル量まで、順に整理します。最後に、選ぶ順番を並べます。

この記事の要点
  • 測定項目数の多さより、センサーの保守方式とスループットの設計が実際の運用を左右します。
  • カード式はメンテナンスフリーですが使い切りで、膜電極式は実績が長い一方、定期的な保守が要ります。
  • 同じRoche Cedex Bioファミリーでも、標準機とHT機ではスループットが一桁近く違います。

培養液アナライザーが担う仕事 ― フィード制御の目と耳

培養液アナライザーは、グルコース・乳酸・グルタミン・アンモニアといった代謝物を、培養槽から抜いた少量の液で測ります。

この数値をもとに、フィードフェドバッチで追い足す濃縮した栄養液。いつ・どれだけ・どう入れるかが生産性と品質を左右する。詳しく →をいつ、どれだけ加えるかを決めます。オフラインで1日1回測る運用もあります。開発段階では、頻繁にサンプリングして条件を振ります。頻度が上がるほど、1回あたりの保守の手間とダウンタイムが積み重なります。⁠測定項目の多さより先に、どれだけの頻度で使うかを決めておく必要があります。

センサー方式を見る ― カード式と膜電極式

代謝物を検出する部分の作り方には、大きく2つの流儀があります。

Nova BiomedicalのBioProfile FLEX2は、化学センサーとガスセンサーをクレジットカード大のMicroSensorカードにまとめています。このカードはメンテナンスフリーです。最短14日の使用期間と、500検体以上の容量を持ちます。RFIDタグで個体を管理します。交換はカードを差し替えるだけで終わります。11種の化学・ガスセンサーに、保守作業そのものが要りません。

YSIの2900シリーズは違います。固定化酵素膜という技術を土台にしています。同社が1975年から使い続けてきた技術です。この膜電極は、6か月ごとの予防保守を推奨されています。⁠古くから実績のある方式ですが、保守の予定を運用に組み込む必要があります。

POINT
メンテナンスフリーをうたうカード式は、保守の手間を消したわけではありません。交換の単位をカードという消耗品に移しただけです。膜電極式は保守の頻度こそ低いものの、1回の保守にかかる作業時間はカード交換より長くなりがちです。どちらも手間の総量はゼロになりません。

なぜ膜には保守が要るのか

固定化酵素膜は、酵素をポリマー膜に閉じ込め、電極の表面に固定した構造です。

サンプルが膜を通過するたびに、酵素と基質が反応して電気信号を生みます。この反応は、使うたびにわずかずつ酵素の活性を落とします。感度が落ちれば、校正のずれとして現れます。膜を交換すれば感度は戻ります。ただし交換のたびに、再校正が要ります。カード式が保守を消せたのは、センサーそのものを使い切りの消耗品に変えたからです。⁠保守が要らないのではなく、保守の単位を機器から消耗品へ移した設計です。

スループットを分けるのは、同じメーカーの中の設計差

スループットは、メーカーではなく製品ラインの設計で決まります。

Roche CustomBiotechのCedex Bio Analyzerは、低から中程度のスループット向けです。1時間あたり、光度法のみなら65検体、電解質センサーのみなら180検体、混合したリクエストではおよそ100検体が目安です。同社のCedex Bio HT Analyzerは、これとは別の設計です。1時間あたり最大320検体をこなし、連続投入で最大90検体を保持できます。1日あたりの処理数も、96ウェルの拡張キットを使えば最大でおよそ250検体から326検体まで伸びます。

同じメーカー、同じ化学の原理でも、機種が変わればスループットは一桁近く違います。プロセス開発のように、少数の条件を丁寧に追う場面ではCedex Bioで足ります。QCの下流のように、多数のロットを流す場面ではHTの設計が要ります。⁠スループットの数字は、メーカーではなく製品ラインを見て比べる項目です。

サンプル量と測定時間

サンプル量は、培養槽からどれだけ抜き取れるかという制約に直結します。

BioProfile FLEX2は、フルメニューの16項目を測るのに275 µLまでサンプル量を減らしています。従来比で75%の削減です。測定時間はおよそ4.5分で、96ウェルプレートやシリンジ、24検体まで載る外部トレイからの自動サンプリングに対応します。YSIの2900Dは、1分未満という短い分析時間をうたい、グルコースとラクテートの変動係数(CV)を2%未満に抑えています。

小容量のミニバイオリアクター撹拌・通気・pHや溶存酸素の制御を備えた数十〜数百mL規模の小型培養容器で、実機に近い環境を並列で再現しプロセス開発に使います。詳しく →で並行して条件を振る開発では、1回あたりのサンプル量が少ないほど、培養そのものへの影響を抑えられます。⁠サンプル量の少なさは、測定の精度とは別に、培養に戻せる余白を残すための数字です。

オフラインとオンラインという、もう1つの分かれ道

ここまでの機種は、すべてオフラインかアットラインで使う装置でした。培養槽から少量を抜き取り、別の場所で測る運用です。

SartoriusのBioPAT Traceは違う立ち位置にあります。グルコースや乳酸をオンラインで、培養槽につないだまま連続的に監視します。1台で1槽から4槽までのデータを扱え、フィード制御へそのままつなげられます。手動でのサンプリングを減らせる一方、測れる項目はオフライン機のような16項目という広さではありません。

オフライン機は項目数と精度で選び、オンライン機は監視の連続性で選ぶという、そもそもの土俵が違います。フィード制御を自動化したい工程では、オフライン機の精度とオンライン機の連続性を組み合わせ、どちらを主に使うかを先に決めておく必要があります。

POINT
オンライン監視は便利ですが、オフライン機を置き換えるものではありません。校正の基準として定期的にオフライン機の値と突き合わせる運用が一般的です。連続監視の値だけを信じて校正を省くと、センサーのドリフトに気づけません。

メーカーに聞くべきこと

装置選びで聞くべきは、測定項目の数ではありません。

メーカーに聞くべきは「何項目測れるか」ではなく、「そのセンサーの交換頻度と、交換1回あたりのダウンタイムはどれだけか」です。血液ガス分析装置を培養液の測定に転用する場合は、とくに注意が要ります。SiemensのRAPIDPointやRadiometerのABLシリーズは、pHやpCO2培養液に溶けた二酸化炭素の分圧。大スケールで溜まりやすく、高すぎると増殖・生産性・品質を落とす。詳しく →、電解質の測定で培養液分析に応用される場合がありますが、いずれも用途適合性の確認が前提とされています。⁠臨床検体向けに設計された装置のカタログ値を、そのまま培養液に当てはめてはいけません。

カード式と膜電極式のどちらが正しいという話ではありません。頻繁に条件を振るプロセス開発では、ダウンタイムの少なさが効きます。決まった項目を大量に流すQCの下流では、スループットの絶対値のほうが効いてきます。どちらの失敗が自社の運用で重いかで、選ぶべき方式が変わります。

選ぶ順番

最後に、決める順序を整理します。

まず、自社で測りたい項目数と、1日あたりの検体数を数えます。次に、そのセンサー方式が交換式かカード式かを比較し、交換にかかるダウンタイムを見積もります。頻繁にサンプリングする開発段階なら、ダウンタイムの少なさを優先します。

そのうえで、必要な検体数に対してスループットが足りるかを、同じメーカーの中の製品ラインまで含めて照合します。最後に、サンプル量が自社のサンプリング計画に収まるかを確認します。⁠測定項目の数を最初に見ないことが、この順番のいちばんの要点です。

参考文献

  • Nova Biomedical, BioProfile FLEX2 製品情報(MicroSensorカードとサンプル量・測定時間)
  • Nova Biomedical, BioProfile FLEX2 Chemistry MicroSensor Card 製品情報(14日使用期限と500検体以上の容量)
  • YSI(Xylem), YSI 2900D Biochemistry Analyzer Specification Sheet(測定範囲とCV)
  • Roche CustomBiotech, Cedex Bio and Cedex Bio HT Analyzers Product Brochure(スループットの比較)
  • Roche CustomBiotech, Cedex Bio HT Analyzer 製品情報(最大320検体/時と連続投入容量)

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編集メモ:この記事はProglenth編集部が、抗体医薬に関する基礎的な情報を、はじめての方にも分かるように整理したものです。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なります。本記事は一般的な解説であり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断される際は、各極の薬局方・ガイドライン(ICH/GMP等)やメーカーの一次情報を必ずご確認ください。内容に誤りやご指摘があればお問い合わせからお知らせください。