混合時間とは?培養槽の混ざり方は何で測り、なぜ規模で変わるのか

培養槽をスケールアップするときや、大きな槽でpHや溶存酸素(液に溶けている酸素)のむらが疑われるとき、槽を選んで比べるときに見るのが混合時間添加した成分が槽内で均一になるまでの時間。大スケールほど延び、濃度勾配を生む。詳しく →です。混合時間とは、培養槽に加えた液が槽全体に行き渡り、濃さがそろうまでの時間のことです。
ただし、混合時間は、同じ形の槽でも大きくなるほど長くなります。撹拌を強めても短くなる割合は小さく、大きな槽では、加えた塩基やフィードの近くに濃い所が残ることがあります。
この記事では、混合時間を何のために測るのか、どう測るのか、なぜ規模で長くなるのか、混ざりが遅いと何が起きるのか、撹拌を強めれば済むのか、自分の槽で確かめる順番を説明します。
- 混合時間とは:加えた液の濃さが、測ったすべての位置で最終の値の±5%以内にそろうまでの時間で、多くは塩の液などのトレーサーと複数のセンサーで測ります。
- なぜ大きな槽ほど長いのか:液が槽を回るのにかかる時間が延びるためで、形と液1 Lあたりの撹拌動力をそろえても、混合時間は槽の直径の2/3乗に比例して長くなります。
- 撹拌を強めれば済むのか:済みません。混合時間は撹拌動力の1/3乗に反比例するため、半分にするには動力が約8倍要り、塩基やフィードの加え方の見直しと組み合わせます。
1. 混合時間は、何を決めるために測るのか
混合時間は、加えた液が槽全体に行き渡るまでの時間で、槽の混ざり方を比べ、規模を変えるときの判断に使います。
培養中の槽には、pHを戻す塩基、栄養を足すフィードフェドバッチで追い足す濃縮した栄養液。いつ・どれだけ・どう入れるかが生産性と品質を左右する。詳しく →、泡を抑える消泡剤培養や撹拌で生じる泡を抑えるために加える添加剤で、泡による酸素供給の低下やあふれを防ぎます。詳しく →などを、決まった口から加えます(バイオリアクターとは)。加えた直後は入れた所の近くだけが濃く、撹拌翼が作る液の流れに乗って、槽全体に広がっていきます。
混合時間を測ると、主に次の3つの判断に使えます。
- 槽を選ぶ・比べる:同じ液量と撹拌の強さで、どれだけ速く混ざるかを比べます(バイオリアクターの選び方)。
- 規模を変える:小さな槽と大きな槽で、混ざる速さがどれだけ違うかを見積もります。
- 加え方を決める:塩基やフィードを入れる位置と速さが、槽の混ざる速さに合っているかを確かめます。
下の図は、混合時間の測り方と、大きな槽ほど長くなる理由をまとめたものです。測り方は2節、規模による違いは3節で説明します。

このように、混合時間は、槽の中の濃さの差がどれだけ早く消えるかを表す数字です。では、その数字は、どうやって測るのでしょうか。
2. 混合時間は、どうやって測るのか
少量のトレーサーを一度に加え、槽の複数の位置で濃さを追い、すべての位置で濃さがそろうまでの時間を読みます。 トレーサーとは、濃さの変化を追える物質のことです。
DECHEMA(ドイツの化学工学とバイオテクノロジーの学会)の推奨(2020年)は、使い捨ての培養槽と混合装置について、次の2つの測り方を示しています。
- センサー法:塩の液を加え、槽に入れた導電率液のイオン強度の目安となる電気の通りやすさ。バッファ調製やクロマト制御で監視する。詳しく →のセンサーで濃さの変化を追います。中が見えない槽でも測れますが、得られるのはセンサーを置いた位置での混合時間です。
- 脱色法:ヨウ素とでんぷんで青く色を付けた液に、色を消すチオ硫酸ナトリウムを加え、槽全体の色が消えるまでの時間を測ります。中が見える槽に限られますが、混ざりの悪い所を目で見つけられます。
どこまでそろえば混ざったとみなすかは、決めてから測ります。多くの場合、最終の濃さとの差が5%以内に入って留まる時点を使い、これを95%の均一さの混合時間と呼びます。
センサー法の値は、センサーの位置と数、トレーサーを入れる位置と量、センサーの応答の速さで変わります。同じ推奨は、センサーの応答を混合時間のおよそ5分の1より速くし、1秒に1回以上記録すること、最大の作動容量で測ることを勧めています。
このように、混合時間は測った条件ごとの値で、別の槽と比べるときは条件をそろえる必要があります。では、なぜ大きな槽ほど長くなるのでしょうか。
3. なぜ大きな槽ほど、混合時間が長くなるのか
液1 Lあたりの撹拌動力(撹拌の強さの目安)をそろえて槽を大きくすると、翼の回転数が下がり、液が槽を回るのにかかる時間が延びるためです。
撹拌翼が乱流(渦を巻いて不規則に動く流れ)を作っている槽では、混ざるまでに翼が回る回数がほぼ一定で、混合時間は回転数に反比例します。ところが、形をそろえて槽を大きくすると、液1 Lあたりで同じ撹拌動力を与えるのに大きな翼をゆっくり回せば足りるため、回転数が下がって混合時間が延びます。
同じ推奨が示す相関式(2,000 Lまでの使い捨て培養槽のデータに基づく)では、混合時間は、液1 Lあたりの撹拌動力の1/3乗に反比例し、槽の直径の2/3乗に比例します。この式で計算すると、形と撹拌動力をそろえたまま直径を10倍(液量はおよそ1,000倍)にすると、混合時間は約4.6倍に延びます。
同じ式では、液の高さが槽の直径に比べて高いほど、混合時間は大きく延びます。Xing らは、5,000 Lの槽を細胞なしで調べ、5 Lと20 Lの槽より混合時間が長く、2本のプローブで測ると槽の中にpHと溶存酸素培養液に溶けている酸素の濃度。細胞の呼吸を支えるため一定に保つ制御対象。詳しく →の差が生じうることを報告しています(2009年)。流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →で液量が増えるほど槽全体を混ぜにくくなることも、同じ報告は指摘しています。
つまり、大きな槽では、混ざるのに時間がかかることを前提に、塩基やフィードの加え方を考える必要があります。では、混ざるのが遅いと、培養に何が起きるのでしょうか。
4. 混ざるのが遅いと、何が起きるのか
加えた塩基やフィードが行き渡る前に、入れた所の近くに濃い所ができ、細胞は槽を回りながら、そこを繰り返し通ります。
動物細胞の培養では、細胞が出す二酸化炭素や乳酸でpHが下がるため、炭酸ナトリウムなどの塩基を加えて戻します(培養のpHの制御)。Langheinrich と Nienow は、塩基を加える所の近くでpHを測り、局所的にpHが上がることを確かめたと報告しています(1999年)。同じ報告は、混ざりの悪い所に塩基がたまることをスケールアップの重大な問題とし、加える位置を変えると大きく減ったとしています。
微生物の流加培養でも、同じことが報告されています。Enfors らは、22 m³の槽での大腸菌の培養で、酸素が足りない区画があることを示すギ酸がたまったと報告しています(2001年)。フィードを入れる所から最も遠い採取口では、ストレスに応じる遺伝子の働きが最も低かったとしています。
Nienow の総説(2006年)は、規模が大きいほどpHと栄養の均一さが重要になるとし、フィードを液面の下から入れることを勧めています。大きな槽のこうした環境を小さな槽で再現して影響を確かめる方法は、スケールダウンモデルで扱っています。
このように、混ざりの遅さは、センサーが示す1か所の値には表れない環境の差として、細胞に影響します。では、撹拌を強めれば、この差は消せるのでしょうか。
5. 撹拌を強めれば、混ざり方の問題は解決するのか
解決するとは限りません。混合時間は、撹拌動力を上げてもその1/3乗でしか短くならないためです。
乱流の槽では、撹拌動力が翼の回転数の3乗に比例します。混合時間を半分にするには回転数を2倍にする必要があり、そのときの動力は2の3乗で約8倍です。
回転数を上げると、翼の先の速さが増し、翼のまわりで細胞にかかる力(せん断)も強くなります。Nienow の総説(2006年)は、撹拌や気泡による細胞の損傷は、もはや大きな問題とは考えられていないとしています。それでも、どこまで回転数を上げてよいかは、細胞と槽ごとに確かめる必要があります(せん断と細胞損傷)。
そのため大きな槽では、撹拌の強さだけでなく、加え方の側でも対処します。先の報告のように、塩基やフィードを入れる位置を見直し、液面の下から入れる方法が勧められています。
つまり、混ざり方の問題は、撹拌の強さと加え方を合わせて扱います。では、自分の槽では、何から確かめればよいのでしょうか。
6. 自分の槽では、何から確かめるのか
使う液量と撹拌の条件で混合時間を測り、大きな槽との差を見積もってから、加え方と局所の濃さを確かめます。
- 測り方の条件を確かめる:混合時間の値が、センサー法か脱色法か、どの液量と撹拌の強さで、何%の均一さで測ったものかを確かめます。
- 最大の液量と、使う範囲の撹拌で測る:流加で液量が増える工程では、最大の作動容量で測ります。撹拌は、工程で使う最小と最大の強さで測ります。
- 大きな槽との差を見積もる:小さな槽と大きな槽の混合時間を比べ、大きな槽でどれだけ長くなるかを見積もります。
- 加える位置と局所の濃さを確かめる:塩基とフィードを入れる位置を確かめ、可能なら離れた2か所でpHや溶存酸素を比べます。
- 小さな槽で影響を試す:大きな槽で起こりうる濃さの差を小さな槽で再現し、細胞の増え方や品質への影響を確かめます。
上の2つは混合時間の値を読む項目、下の3つは大きな槽での影響を確かめる項目です。
混合時間のほかに、酸素の溶け込み方や翼の先の速さも、規模によって別々に変わります。小さな槽と大きな槽で、何をそろえ、何を諦めるのでしょうか。続きはバイオリアクターのスケールアップとはで説明します。
参考文献
- Bauer I, Dreher T, Eibl D, et al. Recommendations for process engineering characterisation of single-use bioreactors and mixing systems by using experimental methods (2nd Edition). DECHEMA, 2020(1.3.2 混合時間の定義と、脱色法・センサー法・光学的方法、95%の均一さ、センサー法の値がセンサーの位置と数・トレーサーの位置と量・応答時間・記録の間隔で変わること、応答時間を混合時間の約5分の1に、1秒に1回以上の記録、1.5 乱流域で混合数(回転数×混合時間)は一定で、撹拌翼のある使い捨て培養槽で20〜50、Löffelholz の学位論文(2013年)による相関式 θ = 3.5 (P/V体積あたりの撹拌動力。平均的な乱流強度やせん断の目安に使われるスケール指標。詳しく →)^-1/3 (d/D)^-1/3 (H/D)^2.43 D^2/3(2,000 Lまでのデータ)、3.4 最大の作動容量と工程で使う最小・最大の撹拌動力で測ること、ヨウ素法の手順)
- Xing Z, Kenty BM, Li ZJ, Lee SS. Scale-up analysis for a CHO抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく → cell culture process in large-scale bioreactors. Biotechnol Bioeng. 2009;103(4):733-746. doi:10.1002/bit.22287(細胞を入れない5,000 Lの槽で、5 Lと20 Lの槽より混合時間が長かったこと、2本のプローブでpHと溶存酸素の差が生じうること、流加培養で液量が増えると槽全体の混合が難しくなること)
- Langheinrich C, Nienow AW. Control of pH in large-scale, free suspension animal cell bioreactors: alkali addition and pH excursions. Biotechnol Bioeng. 1999;66(3):171-179. PubMed(塩基を加える所の近くでのpHの局所的な上昇を測定で確認、混ざりの悪い所への塩基の蓄積をスケールアップの重大な問題とし、加える位置の変更で大きく減ったこと)
- Enfors SO, Jahic M, Rozkov A, et al. Physiological responses to mixing in large scale bioreactors. J Biotechnol. 2001;85(2):175-185. doi:10.1016/s0168-1656(00)00365-5(22 m³の大腸菌の流加培養で、酸素不足の区画を示すギ酸の蓄積と、フィードの位置から最も遠い採取口でストレス応答の遺伝子の mRNA が最も低かったこと)
- Nienow AW. Reactor engineering in large scale animal cell culture. Cytotechnology. 2006;50(1-3):9-33(1万 Lを超える撹拌槽撹拌翼で機械的に混ぜ、スパージャーで通気する最も標準的なバイオリアクターの型式。詳しく →の総説。規模が大きいほどpHと栄養の均一さが重要になり、液面の下からのフィードが勧められること、撹拌と気泡による細胞の損傷の捉え方)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/mixing-time-bioreactor