バイオリアクター(培養槽)とは?何を測り、何を制御して細胞を育てるのか

バイオリアクター細胞や微生物を、温度・pH・溶存酸素などを制御しながら培養する槽です。数リットルの開発用から数千リットルの商業生産用まであり、ステンレス製と使い捨て(シングルユース)があります。詳しく →(培養槽)の仕組みは、抗体などのバイオ医薬品抗体や組換えタンパク質など、生きた細胞や微生物に作らせる医薬品の総称です。細胞治療・遺伝子治療の製品を含めて呼ぶこともあります。化学合成で作る核酸医薬やペプチドは、ふつう含めません。詳しく →を細胞で作る工程に関わる人が、培養の記録を読むときや、槽を選ぶ前に押さえる基本です。バイオリアクターとは、細胞が増えて薬を作れるように、温度・pH・溶存酸素培養液に溶けている酸素の濃度。細胞の呼吸を支えるため一定に保つ制御対象。詳しく →(液に溶けている酸素)・栄養を保つ容器のことです。
ただし、センサーが示すのは槽の中の1か所の値です。槽が大きくなるほど、酸素を溶かし込むことと液を混ぜきることが難しくなり、同じ設定値でも、槽の中の環境が小さな槽と同じになるとは限りません。
この記事では、バイオリアクターの部品、環境を保ち続ける理由、何を測り何で戻すのか、槽が大きくなると難しくなること、自分の工程で確かめる順番を順に説明します。
- バイオリアクターとは:細胞が増えて薬を作れるように、温度・pH・溶存酸素・栄養を保つ容器です。センサーで測り、制御装置が設定値と比べ、撹拌・ガス・塩基などを動かして戻します。
- 何を測り、何で戻すのか:温度・pH・溶存酸素は槽に付けたセンサーで続けて測り、細胞の数や栄養は液を抜いて測ります。温度はジャケット、pHはCO₂ガスと塩基、溶存酸素は撹拌と通気で戻します。
- 大きな槽で何が難しくなるのか:液の量に比べて酸素を溶かし込みにくくなり、混ざりきるまでの時間も延びるため、場所によってpHや溶存酸素に差が出ることがあります。
1. バイオリアクターとは何か
バイオリアクターとは、細胞が増えて薬を作れるように、温度・pH・溶存酸素・栄養を保ちながら細胞を育てる容器です。 振とうフラスコ振とう機の上で揺らして培養液を撹拌・通気し、細胞や微生物を小規模に培養するためのフラスコです。詳しく →(揺すって混ぜるフラスコ)での培養と違い、液の状態を測り続け、ずれたらその場で戻せる点が特徴です。
抗体の製造では、CHO細胞(チャイニーズハムスターの卵巣に由来する細胞)を液に浮かせて育て、その細胞に抗体を作らせます。この培養の工程は、製造全体の上流(アップストリーム抗体製造のうち、細胞を増やして抗体を作らせる培養までの上流工程。ハーベスト以降の下流と区別する。詳しく →)にあたります(アップストリームとダウンストリームの違い)。この記事では、羽根で液を混ぜる撹拌槽撹拌翼で機械的に混ぜ、スパージャーで通気する最も標準的なバイオリアクターの型式。詳しく →を例にします。
撹拌槽は、主に次の部品でできています。
- 槽と撹拌の羽根:培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →と細胞を入れる容器で、羽根を回して液を混ぜます。槽の壁を覆うジャケットに温水や冷水を流して、温度を保ちます。
- スパージャー培養槽の底などからガスを気泡として吹き込み、酸素供給やCO₂排出を行う散気装置。詳しく →(散気管):槽の底から気泡を吹き込み、酸素を液に溶かし込みます。細胞が出したCO₂も、この気泡が液の外へ運び出します。
- センサー:槽に取り付け、温度・pH・溶存酸素を続けて測ります。
- 制御装置とポンプ:制御装置が、センサーの値を設定値と比べ、羽根の回転、ガスの流量、塩基や栄養を送るポンプを動かします。

図の①〜③のように、どの部品も、測る・比べる・動かすの3つの段をくり返す中で働きます。では、細胞のために、なぜここまで環境を保ち続ける必要があるのでしょうか。
2. なぜ培養液の環境を、保ち続ける必要があるのか
細胞は増えながら酸素と栄養を使い、乳酸やCO₂を出し続けるため、何もしなければ培養液の状態は時間とともに変わっていくからです。 主に次の4つが動きます。
- 酸素:培地に溶ける酸素はわずかです。細胞が多い培養では、溶けている分を数分で使い切る計算になるため、使われるのと同じ速さで溶かし込み続けます(溶存酸素とkLa)。
- pH:細胞が出す乳酸やCO₂で、培養液は酸性に傾きやすくなります。
- 栄養:グルコースなどの栄養は使われて減り、足りなくなると細胞が増えなくなります。
- 温度:細胞を増やす段では37 ℃に保つのが基本で、抗体を作らせる段で温度を下げる運転もあります。抗体の培養の総説は、流加培養培養の途中で栄養(フィード)を追加しながら細胞を高密度まで育てる培養方式。詳しく →で、植えてから48時間ほどで37 ℃から30〜35 ℃へ下げる例が多いとまとめています(Li F, et al. 2010)。
培養の条件は、細胞の増え方と抗体の量だけでなく、抗体の品質にも関わります。同じ総説は、溶存酸素を下げると抗体の糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →の付き方が変わったという報告を紹介しています(Li F, et al. 2010)。そのため、設定値は細胞株と製品ごとに決めます。
つまり、培養槽の設定値は、細胞が環境を変え続けるのに対して、増え方と薬の品質を保つための目標です。では、その値は何で測り、ずれたら何で戻すのでしょうか。
3. 何を測り、ずれたら何で戻すのか
温度・pH・溶存酸素は槽に付けたセンサーで続けて測り、制御装置が設定値からのずれを、ジャケット・ガス・塩基・撹拌で戻します。 主な組み合わせは次のとおりです。
| 測るもの | 主な測り方 | ずれたら動かすもの |
|---|---|---|
| 温度 | 測温抵抗体(電気抵抗の変化で温度を読むセンサー) | ジャケットの温水・冷水 |
| pH | pH電極 | 下げるときはCO₂ガス、上げるときは塩基 |
| 溶存酸素(DO)培養液などに溶け込んでいる酸素の量。細胞培養では制御対象となる重要なパラメータ。 | DO電極(ポーラログラフ式・光学式) | 撹拌の速さ、通気の量、酸素の割合 |
| 細胞数・栄養・代謝物 | 液を抜いて分析計で測る | フィードフェドバッチで追い足す濃縮した栄養液。いつ・どれだけ・どう入れるかが生産性と品質を左右する。詳しく →(栄養の追加)の量 |
溶存酸素とpHは、どう戻すのか
溶存酸素は、空気で飽和させたときを100%とする割合で表し、設定値は20〜50%に置くことが多いと報告されています(Li F, et al. 2010)。下がったときは、撹拌、ガスの量、酸素の割合の順に上げるように組む例があり、順番と上限は工程ごとに決めます。
pHは、高すぎればCO₂ガスを吹き込んで下げ、低すぎれば塩基を足して上げます。CO₂は液に溶けると酸として働くため、pHを下げる手に使えます(CHO培養のpH制御)。
細胞と栄養は、どう測って足すのか
細胞の数と生存率細胞集団のうち生きている細胞の割合。凍結・培養の品質を示す基本指標。詳しく →、グルコースや乳酸の濃さは、液を抜いて分析計で測るのが一般的です(培養槽からの無菌サンプリング)。その結果をもとに、フィードの量を決めます。
抜いた液ではpHも測ります。pH電極は長い培養のあいだに読みがずれることがあるため、槽のセンサーの値を、抜いた液で測った値で確かめます(Li F, et al. 2010)。
栄養の足し方は、運転の仕方で3つに分かれます。
- 回分培養(バッチ):最初に入れた培地だけで育て、途中で栄養を足さずに、最後にまとめて回収します。
- 流加培養(フェドバッチ):途中で濃い栄養液(フィード)を足し、液量を増やしながら育てて、最後にまとめて回収します(フェドバッチのフィード)。
- 灌流培養(パーフュージョン培養液を連続的に入れ替えながら細胞を高密度に保ち、長期間生産を続ける培養方式です。細胞を装置で保持し、老廃物を除きつつ栄養を補給します。詳しく →):新しい培地を入れながら、細胞を槽に残して同じ量の液を抜き続けます(灌流培養とは)。
このように、培養の記録に残る値の多くは、センサーで続けて測った値か、液を抜いて測った値のどちらかです。では、同じ設定値で運転すれば、槽が大きくなっても同じ培養になるのでしょうか。
4. 槽を大きくすると、何が難しくなるのか
槽を大きくすると、液の量に比べて酸素を溶かし込みにくくなり、液が混ざりきるまでの時間も延びます。そのため、同じ設定値でも、槽の中のpHや溶存酸素が場所によって違うことがあります。
形をそろえて槽を大きくすると、液の体積は径の3乗で増えるのに、液面の面積は2乗でしか増えません。大きな槽ほど気泡で酸素を送ることに頼る割合が増え、細胞が出したCO₂も液から抜けにくくなります(溶存酸素とkLa)。細胞の密度が上がり、酸素を混ぜたガスで補う運転では、増えたCO₂がpHの制御、溶けたCO₂の濃さ、浸透圧溶液中の溶質濃度で決まる、水を引き込む圧。培養では上昇が細胞ストレスになる管理項目。詳しく →に響くと整理されています(Nienow AW 2006)。
Xing らは、5,000 Lの槽で細胞を入れずに混ざり方を調べ、5〜20 Lの槽より、酸素を溶かし込む速さを決める係数(kLa)が低く、混ざるまでの時間が長く、CO₂を抜く速さも小さかったと報告しています。2本のプローブを使った測定から、その槽の中にpHと溶存酸素の差が生じうることも示しました(Xing Z, et al. 2009)。
pHの差は、塩基を足す所で生じやすくなります。大きな槽の運転条件に合わせた実験では、塩基を足した所の近くでpHが一時的に高くなることが測定で確かめられ、足す位置を変えると小さくなったと報告されています(Langheinrich C, et al. 1999)。
センサーの値が設定値どおりでも、それは取り付けた1か所の値です。大きな槽では、塩基やフィードを足す位置と、センサーの位置の関係も確かめます。
つまり、規模を上げるときは、設定値をそろえるだけでは足りず、酸素の溶け込み方と混ざり方を槽ごとに確かめ直します(バイオリアクターのスケールアップ)。
5. 自分の工程では、何から確かめるのか
培養の記録を読むときや、槽を選ぶ前は、次の順に確かめます。
- 作る細胞と運転の仕方を確かめる(回分・流加・灌流):どの細胞を、どの方式で何日育てるかで、槽に要る機能が決まります。灌流培養なら、細胞を槽に残す装置をつなげるかも見ます。
- 設定値と許容範囲を確かめる(温度・pH・溶存酸素):それぞれの設定値と、どこまでのずれを許すかが、記録や手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →のどこに書かれているかを確かめます。
- 何で戻しているかを確かめる(制御の割り振り):溶存酸素を撹拌・通気・酸素のどの順で戻すか、pHをCO₂ガスと塩基でどう戻すかを確かめます。塩基を多く足した培養では浸透圧が上がっていることがあるため、塩基を足した量の記録も見ます。
- センサーの値を何で確かめているかを見る(液を抜いて測る値):pH電極の値を、抜いた液で測った値と比べているか、細胞数・グルコース・乳酸をどの間隔で測っているかを確かめます。
- 規模を変えたときの違いを確かめる(酸素と混ざり方):小さな槽と大きな槽で、酸素の溶け込みやすさ(kLa)と混ざるまでの時間を比べたデータがあるかを確かめます。
1と2が変われば、3から5の答えも変わります。凍結した細胞を本培養種培養で増やした細胞を大型の培養槽に移し、目的物質を本格的に産生させる最終段階の培養です。栄養を追加しながら育てるフェドバッチが広く使われます。詳しく →の槽まで増やす流れはシードトレインとは、抗体を作らせる期間の見方は本培養とはで説明しています。
装置はシングルユースバイオリアクター、ステンレス培養槽、培養制御システム、インラインのpH・溶存酸素センサー、バイオプロセス分析計で比べられます。
槽を選ぶ前なら、次は種類の比べ方です。混ぜ方も材質も容量も違う槽を、最大容量だけで比べると、何を見落とすのでしょうか。続きはバイオリアクターの選び方で説明します。
参考文献
- Li F, Vijayasankaran N, Shen AY, Kiss R, Amanullah A. Cell culture processes for monoclonal antibody production. mAbs. 2010;2(5):466-479. doi:10.4161/mabs.2.5.12720(溶存酸素の設定値の範囲、pHはCO₂の吹き込みで下げ塩基の添加で上げること、流加培養で温度を下げる時期と幅、温度は測温抵抗体で測ること、長い培養でpH電極の読みがずれることがあり液を抜いて測るpHで確かめること、グルコース・乳酸などは液を抜いて測ること、溶存酸素を下げると抗体の糖鎖が付きにくくなった報告の紹介)
- Xing Z, Kenty BM, Li ZJ, Lee SS. Scale-up analysis for a CHO cell culture process in large-scale bioreactors. Biotechnol Bioeng. 2009;103(4):733-746. doi:10.1002/bit.22287(細胞を入れない5,000 Lの槽で、ベンチの槽より kLa が低く、混合時間添加した成分が槽内で均一になるまでの時間。大スケールほど延び、濃度勾配を生む。詳しく →が長く、CO₂の除去速度が小さかった。2本のプローブによる測定で、pHと溶存酸素の差が生じうることを示した)
- Langheinrich C, Nienow AW. Control of pH in large-scale, free suspension animal cell bioreactors: alkali addition and pH excursions. Biotechnol Bioeng. 1999;66(3):171-179.(大きな槽で塩基を足した所のpHの上振れを測定で確かめ、足す位置を変えると小さくなった)
- Nienow AW. Reactor engineering in large scale animal cell culture. Cytotechnology. 2006;50(1-3):9-33. doi:10.1007/s10616-006-9005-8(10,000 Lを超える撹拌槽では、pHと栄養の均一さが大きな課題になる。酸素を補うと増えるCO₂が、pHの制御、溶けたCO₂の濃さ、浸透圧に響く)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/bioreactor-basics