Sensible Biotechnologiesは10月6日、生きた細胞の中でmRNAをつくる製造基盤の拡大に向けて、総額4,700万ドルを調達したと発表しました。Oxford Science Enterprisesが主導したシリーズAに、スロバキア政府と欧州連合(EU)による最大2,000万ドルの返済不要の資金を加えた額です。資金は基盤技術「VECTOR」の拡張と、AIによる配列設計、臨床グレードの製造能力の整備に充てます。細胞あたりの生産量や製造の規模は公表していません。
試験管の転写から細胞の中の合成へ
いまのmRNA医薬は、in vitro転写(IVT)でつくるのが一般的です。鋳型のDNAからT7 RNAポリメラーゼで転写する、細胞を使わない合成です。免疫を刺激しにくくするため、N1-メチルシュードウリジンのような修飾ヌクレオチドに置き換え、キャップ構造も別に付けます。転写の副産物として二本鎖RNA(dsRNA)もできます。これを精製で取り除く工程も欠かせません。
Sensibleは、遺伝子を組み込んだ真核細胞にmRNAをつくらせます。修飾は、細胞がもともと備える仕組みに任せる考え方です。細胞の中でできたmRNAを、精製の前に捕らえて分解から守る「PromPT」という技術も開発しています。
同社によれば、外部での評価では、ヒトの免疫細胞を使った試験で合成mRNAより良い結果が出ました。dsRNAの混入は検出されず、サイトカインの活性化は低く、タンパク質の発現量は高かったといいます。評価した機関や数値は示していません。
共同創業者のミロスラフ・ガスパレクCEOは「この分野はいまも、40年以上前に開発された合成の製造技術に大きく頼っている」と述べています(発言は編集部訳)。細胞を使えば、費用と供給網の制約を減らせるという主張です。狙うのは、投与量が多い治療や繰り返し投与する治療です。これまで費用が壁になってきた用途だと同社はみています。
Sartoriusと進めるスケールアップ
同社はSartoriusと戦略的に提携し、細胞を使う方式を臨床グレードのmRNA製造までスケールアップする計画です。細胞でつくる環状RNAの製造技術では、Nature BiotechnologyとCell Chemical Biologyに論文を出しています。出資者には、BioNTech共同創業者クリストフ・フーバー氏のファミリーオフィスも入りました。
IVTは、酵素や修飾ヌクレオチド、キャップアナログといった専用の原料を買いそろえて組み立てる方式です。同社は、細胞に合成を任せればこうした原料への依存を減らせるとしています。課題も変わります。細胞からmRNAを取り出す以上、宿主細胞由来のタンパク質やDNAを除く精製が、品質管理の新たな論点になることがうかがえます。
mRNAの製造は、原料を買いそろえて試験管で組み立てる方式が標準です。今回の資金は、その組み立てを細胞に任せる方式を、臨床で使える品質と量まで引き上げられるかを試すためのものです。
※ 本ページは2026年10月6日のSensible Biotechnologiesの発表をもとにした紹介です。詳細・数値は一次情報もあわせてご確認ください。