無菌性保証水準(SAL)とは?10⁻⁶が意味することと、無菌操作法との違い
無菌性保証水準(SAL滅菌品で、製品1個あたりに微生物が生き残る確率を表す指標。最終滅菌品は10⁻⁶を目安とする。:Sterility Assurance Level)とは、滅菌工程を経たあとに微生物が生き残っている単位の確率を表す指標です。最終滅菌容器に充填・密封した後に製品ごと滅菌する方法。熱に弱い抗体では行えず無菌操作が必要になる。製品では 10⁻⁶ という値が目標として広く使われます。
100万本に1本以下——という言い方をされますが、これは「100万本作って1本の不良を許す」という意味ではありません。数字の意味を正確に押さえておくと、なぜ無菌試験製品や細胞に細菌・真菌の汚染がないかを確認する試験。薬局方に準拠して行う。だけでは無菌性を保証できないのかも同時に理解できます。

- SAL 10⁻⁶ は、1単位あたりに微生物が生存する確率が100万分の1以下であることを指します。
- この値は試験で測るものではなく、滅菌工程の速度論から計算で導くものです。
- 無菌操作法では同じ形でSALを計算できないため、培地充填などの別の枠組みで検証します。
10⁻⁶ は測る値ではない
まず押さえるべきは、SALは試験で確かめられないという点です。
100万分の1の確率を試験で検証しようとすれば、途方もない数の検体が必要になります。実際の無菌試験は少数の検体しか扱えないため、汚染を見つける力は非常に限られています。無菌試験に合格したことは、そのロットが無菌であることの証明にはなりません。
ではSALはどこから来るのか。滅菌の速度論からです。
微生物の死滅は対数的に進みます。一定の条件で一定時間かければ、生存数は一定の割合で減っていきます。この関係を使えば、初期の菌数と処理条件から、処理後の生存確率を外挿できます。
- D値:ある条件で生存数を1/10にするのに要する時間
- z値:D値を1/10にするのに要する温度上昇(湿熱滅菌では通常10℃として扱われる)
- F₀:121℃で処理したのと等価な積算時間
蒸気滅菌のF₀とサイクル設計では、この計算がそのまま条件設定の根拠になります。
つまり SALは、工程を管理すれば結果として保証される値であり、製品を試験して得る値ではありません。この考え方は「品質は工程で作り込む」という原則の、最も明快な実例といえます。
オーバーキル法とバイオバーデン法
最終滅菌のバリデーション試験法が目的に合う性能を持つことを立証する妥当性確認。正確さ・精度などを評価する。には、大きく2つの考え方があります。
| オーバーキル法 | バイオバーデン工程中に存在する微生物の量。長時間の連続運転では管理の時間軸がバッチより長くなる。法 | |
|---|---|---|
| 前提 | 初期菌数を厳しく見積もる | 実際のバイオバーデンを測る |
| 指標 | 耐熱性の高い指標菌(BI)を12対数減少させる条件 | 実測した菌数と耐熱性からSAL 10⁻⁶ を導く |
| 長所 | 初期菌数の管理に依存しにくい。設計が単純 | 製品への熱負荷を抑えられる |
| 短所 | 熱に弱い製品には使えない | バイオバーデンの継続的な監視が必須になる |
オーバーキル法は、中身が何であれ十分に殺すという発想です。バリデーションが簡潔になる代わりに、製品が受ける熱が大きくなります。
バイオバーデン法は熱を抑えられますが、前提が崩れると保証も崩れます。初期菌数が想定より多ければ、同じ条件でもSALは達成されません。このため、日常的なバイオバーデンの測定と傾向監視が工程の一部として組み込まれます。
熱に弱いタンパク質医薬品では、そもそも最終滅菌ができません。ここから次の話につながります。
無菌操作法ではSALを同じ形で示せない
抗体医薬をはじめとする多くのバイオ医薬品抗体・タンパク質・核酸など生体由来の分子を利用して製造された医薬品の総称。は、熱にも放射線にも耐えません。そのため、滅菌済みの構成要素を、無菌の環境で組み立てるという方法を取ります。これが無菌操作法(aseptic processing外部から微生物を入れずに工程を進める操作。最終滅菌できない細胞治療では全工程で無菌性を維持する。)です。
この方式では、SALを速度論から計算することができません。「殺す工程」が製品に対して存在しないためです。無菌性は次の積み重ねで保証されます。
- 除菌ろ過:0.22µmのフィルターで微生物を除く。完全性試験で膜が健全であることを確認する
- 構成要素の滅菌:容器、栓、接液部をあらかじめ滅菌する
- 環境の管理:アイソレータやRABSで作業空間を隔離する
- 人の介入の最小化:無菌区域における人の動きが最大の汚染源になる
検証は培地充填(メディアフィル無菌操作の妥当性を、製品の代わりに培地を流して微生物混入がないか確認するシミュレーション。)で行います。製品の代わりに培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。を充填処方済みの溶液をバイアルやシリンジなどの容器へ無菌的に充填し、封止する製造工程。し、実際の工程を模して、汚染した単位が出ないことを確認する方法です。環境モニタリングと培地充填は、無菌操作法最終容器に詰めた後に加熱滅菌しない無菌製造の方式。工程で汚染を持ち込まない設計に依存する。における「バリデーション」の中心にあたります。
EU GMP Annex 1無菌医薬品の製造に関するEU GMPの付属書。汚染管理戦略などを求める無菌製造の基準。 は、汚染管理戦略(CCS)人・設備・環境・工程の汚染経路を一望し、管理策全体でリスクを許容水準まで下げていることを示す枠組み。という枠組みでこれらを統合して設計することを求めています。Annex 1の考え方は、個別の対策を並べるのではなく、全体としてどう無菌性を確保するかを書き切ることを要求している点に特徴があります。
滅菌法の選択には順序がある
規制の側は、滅菌方法の選択に明確な優先順位を示しています。おおむね次の順で検討します。
- 最終滅菌(湿熱):可能なら最優先
- 最終滅菌(その他の方法):放射線、ガスなど
- 除菌ろ過孔径・材質・膜面積などを目的(除菌・清澄化・濃縮など)に合わせて選ぶ、フィルター選定の考え方をまとめたものです。詳しく →+無菌充填除菌ろ過した薬液を無菌の環境で容器に充填し、無菌のまま封をする工程。最終滅菌できない製品で用いる。:最終滅菌ができない場合
- 無菌操作外部から微生物を入れずに工程を進める操作。最終滅菌できない細胞治療では全工程で無菌性を維持する。法のみ:ろ過もできない場合(懸濁液、細胞など)
この順序には理由があります。下に行くほど、無菌性が人と環境の管理に依存するためです。最終滅菌は容器に封入したあとで処理するため、その後の汚染経路がありません。無菌操作法は、多数の要素が正しく機能し続けることを前提にします。
熱に弱いという理由だけで安易に無菌操作法を選ぶのではなく、製剤設計有効成分を安定に保ち投与しやすくするため、pH・緩衝剤・添加剤などの処方を検討して決める工程です。詳しく →の段階で最終滅菌の可能性を検討したかが問われる場面があります。
実務で崩れやすい点
SALの考え方が現場で崩れるのは、たいてい前提の側です。
- 滅菌前の菌数が想定を超える:バイオバーデンの監視が形骸化していると気づけない
- 熱の届かない箇所がある:積載パターンが変わった、器具の向きが変わった。熱分布の再確認が要る
- CIP/SIPの条件が実機で再現していない:ドレンが不十分で空気だまりが残る
- エンドトキシングラム陰性菌の外膜由来の発熱性物質(LPS)で、注射剤では厳しく管理し、LAL試験などで測定します。詳しく →は残る:菌を殺してもエンドトキシンは分解されません。SALを満たしても、エンドトキシンの規格は別に管理する必要があります
最後の点は見落とされやすい論点です。滅菌は無菌性の問題を解きますが、発熱性物質体内に入ると発熱反応を起こす物質。パイロジェンとも呼び、エンドトキシンが代表格。の問題は解きません。 上流でのバイオバーデン管理が結局は効いてくる、という構造になります。
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