エンベロープとは?膜のあるウイルスとないウイルスで何が違うのか

ウイルスのエンベロープ一部のウイルスが持つ脂質の外膜。レンチウイルスではVSV-Gなどをまとうが、温度・剪断・凍結融解に弱い。詳しく →とは、ウイルス粒子のいちばん外側を包む脂質の膜です。宿主細胞の膜を材料にしてできており、細胞に取り付いて入り込むためのウイルスの糖タンパク質が刺さっています。
一方で、すべてのウイルスが膜を持つわけではありません。膜を持たないウイルスは、低pHや界面活性剤のように膜に働く処理では減りにくく、製造工程の組み方まで変わってきます。
膜が何でできているかから始め、膜の有無でウイルスの減らし方がどう変わるか、ウイルスクリアランス試験規制当局への申請を支えるために、製造工程の各工程でウイルス除去・不活化能力を定量的に評価・文書化する一連の試験。詳しく →でウイルスをどう選ぶか、ウイルスベクター治療用の遺伝子を細胞へ運ぶために改変したウイルス。AAVやレンチウイルスが代表で、遺伝子・細胞治療に使う。詳しく →の製造では何が違うかへ進みます。
- エンベロープとは何か:宿主細胞の膜にウイルスの糖タンパク質が刺さった、粒子の外側の脂質二重膜です。
- 膜の有無で何が変わるのか:低pHやS/D処理は膜を持つウイルスによく効き、膜のない小型のウイルスには効きにくくなります。
- ウイルスベクターでは何が違うのか:レンチウイルスは製品そのものが膜を持つため、膜に働く処理を工程に入れにくくなります。
1. エンベロープは、宿主細胞の膜とウイルスの糖タンパク質でできている
エンベロープは、ウイルスが細胞から出るときに宿主細胞の膜をまとってできる脂質二重膜で、表面にウイルス自身の糖タンパク質が刺さっています。
膜の内側には、タンパク質の殻であるカプシドと、その中のゲノム(DNA または RNA)があります。
膜は、細胞の中で組み上がった粒子が細胞膜を押し出すようにして外へ出る過程(出芽)で手に入れます。レトロウイルスやインフルエンザウイルスは細胞膜から出芽し、コロナウイルスは細胞内の膜で組み上がると報告されています。
膜に刺さった糖タンパク質は、標的の細胞に付着し、ウイルスの膜と細胞の膜を融合させて中身を送り込む役目を持ちます。そのため、膜が壊れるか、糖タンパク質の形が崩れると、膜を持つウイルスは細胞に感染できなくなります。

膜を持たないウイルスは、カプシドがそのまま外側になります。こちらは非エンベロープ型と呼ばれ、脂質の膜に頼らずにカプシドのタンパク質で細胞に取り付きます。
2. 膜があるウイルスは、なぜ製造工程で減らしやすいのか
膜とその上の糖タンパク質は、薬剤や酸で比較的壊れやすく、壊れればそのまま感染力が失われるからです。
バイオ医薬品のウイルス安全性の国際的な指針 ICH Q5A(R2)細胞株由来のバイオ医薬品について、ウイルス安全性評価の枠組みを示すICHガイドライン。詳しく → は、付録5で、膜に働く2つの不活化ウイルスの感染性を失わせること。低pH保持や溶媒/界面活性剤処理で、エンベロープウイルスに効きやすい。詳しく →の仕組みを説明しています。
- S/D処理・界面活性剤タンパク質の凝集や容器壁への吸着を防ぐため製剤へ少量加える添加剤で、細胞培養で細胞を保護する目的でも使われます。詳しく →:溶媒と界面活性剤(S/D処理)や界面活性剤だけの処理は、ウイルスの脂質の膜を溶かして感染力を失わせます。血漿分画製剤で長く使われ、抗体医薬の工程にも入っています。
- 低pH処理:酸性の液に一定時間置くと、膜の上のタンパク質が変性し、ウイルスは細胞に吸着して感染できなくなります。抗体医薬では、Protein A精製抗体に特異的に結合するProtein Aを担体に固定し、抗体だけを選択的に捕まえて精製する手法です。抗体医薬の最初の精製工程として定番になっています。詳しく →のあとの液に広く使われています。
同じ指針の 6.3 も、S/D処理、界面活性剤だけの処理、低pHでの保持が、幅広い膜を持つウイルスのクリアランスで成果を上げてきたとしています。いずれも働きかけている相手は、ウイルスの膜とその上のタンパク質です。
3. 膜のないウイルスには、何で対処するのか
膜のないウイルスには、膜に働く不活化があまり効かないため、大きさや表面の性質の違いを使って物理的に取り除きます。
外側のカプシドは脂質を含まないので、界面活性剤で溶かせる部分がありません。
ICH Q5A(R2) の表A-1は、過去のウイルスクリアランス製造工程がウイルスをどれだけ除去・不活化できるかを評価し、製品の安全性を確保する取り組みです。各工程の低減能力を対数の値で示します。詳しく →試験で使われたウイルスを並べ、物理化学的な処理への抵抗性も添えています。比べると、膜の有無で傾向がはっきり分かれます。
なかでもパルボウイルスは直径18〜24 nmと小さく、抵抗性は「非常に高い」とされています。こうした小型のウイルスには、小さなウイルス用に設計したウイルスろ過のフィルターが効果的な工程になると、指針は書いています。
そこで指針は、できる限り、仕組みが互いに補い合う2つの工程を持ち、そのうち1つは膜のないウイルスを効果的に減らせる工程にするよう勧めています(6.3)。低pH保持を何回重ねても、膜のないウイルスへの弱点は埋まりません。 工程の組み合わせ方はウイルスクリアランスとはで扱います。
4. ウイルスクリアランス試験で、膜の有無が違うウイルスを混ぜて使うのはなぜか
工程が「どんなウイルスでも」減らせるかを示すには、膜の有無や大きさ、抵抗性の違うウイルスで試す必要があるからです。 膜を持つウイルスだけで試すと、低pHやS/D処理の数字が大きく出て、膜のないウイルスへの力を見落とします。
ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → Q5A(R2) の 6.1.1 は、試験に使うウイルスを3つに分けています。
- 関連ウイルス:細胞や原料に実際に混入しうるウイルスと、同じ種のウイルスです。
- 特定モデルウイルス:関連ウイルスを試験に使いにくいとき、近縁で性質の似たウイルスを代わりに使います。げっ歯類の細胞は内在性のレトロウイルスを持つため、マウス白血病ウイルスを使うとしています。
- 非特定モデルウイルス:工程がウイルス一般をどれだけ減らせるかを見るために、性質の違うウイルスを使います。少なくとも3種類で評価するのが一般的とされています。
付録1は、非特定モデルウイルスの例として、膜のない小型で抵抗性の高いウイルス(パルボウイルスなど)、膜を持つ中〜大型の RNA ウイルス、中〜大型の DNA ウイルス(単純ヘルペスウイルス1型や仮性狂犬病ウイルス)を挙げています。膜のないウイルスの幅を広げたいときは、レオウイルスや SV40(サルのポリオーマウイルス)、ピコルナウイルスを使ってもよいとしています。
げっ歯類由来の細胞を使う抗体医薬では、特定モデルウイルスにマウス白血病ウイルスが当たり、そこに膜のない小型で抵抗性の高いウイルスを足して幅を広げる形になります。付録5は、異種指向性マウス白血病ウイルス(XMLV)の界面活性剤と低pHによる不活化を、他社・自社の知見(prior knowledge)を使える例として説明しています。
報告書で LRV(対数減少値)の大きい行を見つけたら、その工程に使ったウイルスが膜を持つ型かを確かめます。膜を持つウイルスで出した低pHの数字は、膜のないウイルスへの力を表していません。
5. レンチウイルスとアデノ随伴ウイルスで、工程の組み方が変わるのはなぜか
遺伝子治療のベクターでは、減らしたいウイルスだけでなく、製品であるベクター自身に膜があるかどうかの違いも出ます。
レンチウイルスベクター宿主ゲノムに組み込まれる遺伝子導入ウイルス。長期発現できるが挿入変異のリスクが伴う。詳しく →は膜を持ち、アデノ随伴ウイルス(AAV遺伝子治療で遺伝子を運ぶウイルスベクター。血清型によって集まりやすい組織が異なる。詳しく →)のベクターは膜を持たないため、膜に働く処理を工程に入れられるかが分かれます。
- レンチウイルスベクター:細胞から出芽するときに膜をまとい、そこに水疱性口内炎ウイルスの糖タンパク質(VSV-G水疱性口内炎ウイルス由来の外被糖タンパク質。多くの細胞に感染でき、レンチウイルスのシュードタイプに広く使われる。詳しく →)などを載せた粒子です。S/D処理や低pH保持を工程に入れると、製品そのものの感染力まで落ちます。
- AAVベクターアデノ随伴ウイルスを改変して治療用遺伝子を細胞へ運ぶために用いる、非病原性の遺伝子導入用ウイルス粒子。詳しく →:パルボウイルス科の膜を持たないウイルスで、カプシドは直径約26 nmです。膜がないぶん、膜に働く不活化を工程に入れても製品が耐えやすい側にあります。
ICH Q5A(R2) の付録6は、界面活性剤やS/D処理による不活化は、製品が耐えられるとき、たとえば膜を持たないウイルスベクターに適することがあるとしています。小さなウイルスベクターである AAV では、大きさで分けるウイルスろ過目の細かい膜で物理的にウイルスを除く精製工程。ウイルス安全性を担保する工程の一つ。詳しく →のほうが適する場合があるとも書いています。
同じ付録は、ウイルスベクターの製造では、クリアランス工程が組換えタンパク質と同じ水準の頑健さに届かないこともあり、安全性はリスク評価で支えるとしています。 膜を持つベクターで不活化の工程を削るときは、代わりに何で安全性を示すかを一緒に決めます。
膜は、製品を守る側の問題も生みます。レンチウイルスベクターは培養液の中に置くだけで感染力価ウイルスベクターが実際に細胞へ感染する能力を表す力価。TCID50などのアッセイで測る。詳しく →が下がり、VSV-G を載せた粒子を37℃の培養液に置いた試験では、半減期は約35時間と報告されています。温度と時間の管理が、工程の設計にそのまま効いてきます。ベクターの作り方はレンチウイルスの製造工程で扱います。
6. 自分の工程では、膜の有無から何を決めるのか
最初に決めるのは、減らしたいウイルスと、守りたい製品のそれぞれに膜があるかどうかです。
この2つが決まると、使える不活化の工程と、ろ過に頼る範囲が絞られます。
- 減らす相手に膜があるか:細胞基材と原料から想定されるウイルスを並べ、膜を持つ型と持たない型の両方に効く工程が入っているかを見ます。
- 製品が処理に耐えるか:低pHやS/D処理に製品が耐えるかを確かめます。膜を持つウイルスベクターでは、製品の感染力も落ちるため、不活化の工程として見込めません。
- ろ過で止まる大きさか:膜のない小型のウイルスを想定するなら、小さなウイルス用のフィルターで止まるか、製品がフィルターを通れるかを確かめます。
- 試験に使うウイルスの組み合わせ:膜の有無・大きさ・抵抗性の違うウイルスを含め、ウイルスクリアランス試験の計画を受託先と決めます。
膜があるかないかは、ウイルスの性質の一部に過ぎません。それでも、どの工程が効き、どの工程が効かないかを最初に分ける境目になります。工程を決めるときは、モデルウイルスの表を眺める前に、この境目から整理します。
参考文献
- ICH Q5A(R2). Viral Safety Evaluation of Biotechnology Products Derived from Cell Lines of Human or Animal Origin. 2023.(モデルウイルスの3分類(6.1.1)、互いに補い合う2工程と効果的な工程の目安(6.3)、表A-1のウイルスの膜の有無・大きさ・抵抗性、付録1のモデルウイルスの例、付録5のS/D処理(5.2)と低pH(5.3)の作用、付録6のウイルスベクターのクリアランス(6.3))
- 厚生労働省医薬局医薬品審査管理課長通知「ヒト又は動物細胞株を用いて製造されるバイオテクノロジー応用医薬品等のウイルス安全性評価に関するガイドラインの一部改正について」(医薬薬審発0109第3号、令和7年1月9日)
- Motsa BB, Stahelin RV. Lipid–protein interactions in virus assembly and budding from the host cell plasma membrane. Biochem Soc Trans. 2021;49(4):1633-1641.(宿主の脂質二重膜がウイルスの膜になること、膜貫通型の糖タンパク質、細胞膜からの出芽とコロナウイルスの組み上がる場所)
- Dautzenberg IJC, Rabelink MJWE, Hoeben RC. The stability of envelope-pseudotyped lentiviral vectors. Gene Ther. 2021;28(1):89-104.(VSV-Gを載せたレンチウイルスベクターの37℃での半減期)
- Naso MF, et al. Adeno-Associated Virus (AAV) as a Vector for Gene Therapy. BioDrugs. 2017;31(4):317-334.(AAVが膜を持たないウイルスで、パルボウイルス科に属すること)
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