Cyclic IMS P20 は、Waters が2026年のASMS(質量分析学会)で発表した質量分析計です。名前の「P」はPremium、最上位という意味で、「20」はSELECT SERIESから続く系列の世代を示す新しい命名です。グローバルでの提供は2026年9月から始まります。
この機種の核は、環状のセルの中でイオンを何周もさせる多重周回イオンモビリティにあります。周回数という、これまでの装置にはなかった調整つまみが1つ増えたと捉えると分かりやすいところです。
周回数という新しい調整つまみ
イオンモビリティ分光は、イオンをガス中で移動させ、形の違いによる移動速度の差で分子を分けます。従来の装置はセルの長さが決まっているので、分離の精度はその長さで頭打ちになります。
Cyclic IMSは、セルを輪の形にすることでこの制約を外しました。イオンを輪の中で何周も回せば、実質的な移動距離を装置を大きくせずに伸ばせます。周回数を増やすほど、構造のよく似た分子を分けやすくなります。異性体やコンフォーマー、糖鎖の違いだけの糖鎖異性体などが対象です。ただし周回を重ねれば、その分だけ1回の分析にかかる時間も延びます。分離能と分析時間のどちらを優先するかを、サンプルごとに周回数で調整できる点が、単一通過型の装置には無い自由度です。
感度10倍、質量範囲は100 kDa超へ
前世代機と比べて、MS/MSの感度が10倍を超え、扱える質量範囲は50%以上広がって100 kDaを超えるところまで伸びています。
感度が上がれば、存在量の少ない分子種でも検出できるようになります。タンパク質の折りたたみ異常や翻訳後修飾のような、量が少なくても意味のある変化を見つけたい場面で効いてきます。質量範囲が100 kDaを超えたことも見逃せません。抗体そのもの(約150 kDa)には届きませんが、ADCの構成要素や、AAVのカプシドタンパク質(VP1〜VP3、約60〜90 kDa)といった、大型・不均一なモダリティの解析に必要な範囲まで広がっています。感度と質量範囲の両方が伸びたことで、これまで検出限界の外にあった変化を、より大きな分子のまま捉えられるようになります。
MALDI XSとDESI XSを1台に統合したイメージング
Cyclic IMS P20 は、高分解能のイオンモビリティに加えて、MALDI XSとDESI XSという2種類のイメージング手法を統合しています。MALDIは試料にマトリクスを塗ってから真空中で測る方式、DESIはマトリクスを使わずに大気圧下で組織の表面をそのまま走査できる方式です。
同じ装置の中でこの2つを切り替えられるということは、前処理の手間を取るか、測定の速さを取るかを、サンプルごとに選べるということです。組織の中で薬物やその代謝物がどこに分布しているかを直接可視化する空間オミクスの用途では、前処理の種類によって見える分布が変わることがあります。2つのイメージング手法を同じ分離能・同じ質量分析部で使い分けられることは、別々の装置を用意して結果をつなぎ合わせる手間を省きます。
導入で確認したいこと
- 既存のSELECT SERIES Cyclic IMSからの更新か新規導入かで、ソフトウェアとメソッドの互換性がどこまで保たれるか
- 自社が解析したい分子(ADCの構成要素、AAVカプシドなど)が、拡張後の質量範囲に収まるか
- MALDI XSとDESI XSのどちらの前処理が、自社のサンプルと施設のワークフローに合うか
- 周回数を増やした分だけ分析時間が延びることが、想定するスループットと両立するか
- 2026年9月からのグローバル提供開始のうち、自地域での納期がどうなるか
※ 本ページは公開情報をもとにした紹介です。仕様・性能の詳細は公式情報をご確認ください。
