mRNA医薬品とは? 完成したタンパク質を投与する抗体医薬品と何が違うのか

mRNA医薬品とは、タンパク質の設計図である mRNA を投与し、患者の細胞にそのタンパク質を作らせる薬です。完成したタンパク質を投与する抗体医薬品とはここが違います。そのため、送達(LNPmRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。)、効果の持続期間、製造と品質で確かめるものが大きく変わります。
もっとも、最後にタンパク質が作用するという点は、どちらも同じです。違うのは、そのタンパク質を製造工程の生産細胞が作るのか、患者の細胞が作るのか。この違いが、品質試験の中身まで変えます。
mRNA医薬品が体内で何をするか、なぜ LNP に包むのか、効果がどれくらい続くのか、製造と品質試験で何が変わるのか、自社のテーマで何から確かめるのか。抗体医薬品と比べながら、順に整理します。
- mRNA医薬品は何をする薬か:タンパク質の設計図を投与して、患者の細胞に作らせる薬。完成品を投与する抗体医薬品とは、送達・効果の持続期間・品質で確かめるものが違う。
- なぜ LNP に包むのか:mRNA は体内で分解されやすく、作用する場所である細胞の中まで自力では入れないため。
- 品質では何が変わるのか:タンパク質そのものではなく、設計図である mRNA と、それを包んだ粒子の品質を確かめる。
1. mRNA医薬品は、体内で何をしているのか
投与した mRNA が細胞の中に入り、細胞質細胞膜の内側のうち、核を除いた部分です。タンパク質の合成や多くの代謝反応がここで進みます。詳しく →でタンパク質に翻訳され、そのタンパク質が作用します。 薬として投与するのは設計図。作用するタンパク質は、患者の細胞が作ります。
米国で承認されている mRNA ワクチンの添付文書は、次のように書いています。
| 製品 | 添付文書に書かれた中身 |
|---|---|
| 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の mRNA ワクチン | 作用機序薬が効果を発揮する仕組み。抗体医薬ではADCCやCDCなどが該当し、アッセイで裏づける。詳しく →の項:塩基を修飾した mRNA を脂質の粒子に入れて細胞に届け、ウイルスのスパイク(S)タンパク質を作らせる。このタンパク質に対して免疫が働くことで、発症を防ぐ |
| RSウイルス(呼吸器合胞体ウイルス)感染症の mRNA ワクチン | ウイルスの F タンパク質の設計図となる塩基修飾 mRNA を、4種類の脂質と一緒に製剤化したもの |
このように mRNA を包んだ脂質の粒子を、脂質ナノ粒子(LNP)mRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。と呼びます。
抗体医薬品は、流れが逆です。製造工程で CHO抗体など組換えタンパク質の生産に広く使われる、チャイニーズハムスター卵巣由来の培養細胞です。詳しく → 細胞(チャイニーズハムスター卵巣由来の細胞)などの生産細胞に抗体を産生させ、精製した完成品を投与します。投与した抗体は、主に血中や細胞表面の標的に、細胞の外から結合して作用します(抗体医薬の製造工程)。

mRNA は、患者のゲノムに入り込むのか?
設計図を投与すると聞くと、患者のゲノムに組み込まれるのではと考える人もいます。世界保健機関(WHO)の2021年の mRNA ワクチンの文書は、次のように整理しています。
- ゲノムへの組み込みに要るもの:RNA がゲノムに入るには、逆転写酵素RNAを鋳型にして相補的なDNA(cDNA)を作る酵素です。RNAの検出や定量、cDNA作製の最初の工程で使います。詳しく →とインテグラーゼの複合体が要り、さらに核内へ移行する必要がある。
- ワクチンの mRNA の行き先:細胞質にとどまって翻訳され、細胞自身の mRNA と同じように分解される。
2. なぜ mRNA は、そのまま注射せずに LNP に包むのか
mRNA は体液中の RNA 分解酵素で分解されやすく、しかも作用する場所が細胞の中なので、細胞膜を越えて届けるキャリアが要るからです。
WHO の文書は、mRNA を含む RNA がヌクレアーゼ核酸を分解する酵素です。製造では培養由来の残存DNA/RNAを分解・除去して製品の純度を高める目的で使い、ベンゾナーゼが代表例です。詳しく →(核酸を切る酵素)で分解されやすいことを挙げています。そのうえで、承認済みのワクチンは、体内での安定性と送達ゲノム編集ツールや核酸医薬などを標的細胞・組織まで安全かつ効率よく運ぶための技術・方法論の総称。詳しく →を助けるために LNP に入れていると書いています。Pardi らの総説(2018年)も、外から入れた mRNA が細胞質に届くには、脂質の膜を越えなければならないと述べています。
抗体医薬品には、このキャリアが要りません。細胞の外で標的に結合すれば作用するため、緩衝液溶液のpHを一定範囲に保つために使用される弱酸と共役塩基の混合溶液。詳しく →に溶かした抗体をそのまま投与できます。
- どの臓器に届きやすいか、粒子径はそろっているか、mRNA がきちんと中に封入されているか。どれも有効性に関わります(LNP(脂質ナノ粒子)とは、イオン化脂質のpKa)。
- mRNA の側でも、細胞が異物の RNA として認識する反応を抑えるために、塩基を修飾したものが使われています(N1-メチルシュードウリジン)。
3. 効果の持続期間は、抗体医薬品と比べてどれくらい違うのか
抗体医薬品は投与した抗体が血中に長くとどまります。一方、mRNA医薬品では mRNA が比較的短い時間で分解されるため、タンパク質が作られるのは一時的です。
効果の持続期間は、作用するタンパク質がどれだけ体内に残るかで決まります。
| 抗体医薬品 | mRNA医薬品 | |
|---|---|---|
| 体内に残るもの | 投与した抗体が、血中に長くとどまる | 細胞に取り込まれたワクチンの mRNA は、細胞自身の mRNA と同じく比較的短い時間で分解される(WHO の文書) |
| 例 | トラスツズマブの米国添付文書:3週間ごとの投与を想定した体内動態で、投与中止から約7か月で、血中濃度が投与中の最低値(定常状態のトラフ値)の約3%まで下がると見積もる | ワクチン:この一時的なタンパク質で免疫を起こせば役目を果たす |
抗体が血中に長く残る仕組みは、抗体の半減期の記事で扱います。
タンパク質を補い続けたい病気には、向かないのか?
そうとは限りません。その場合は、繰り返し投与して補う設計を取ります。
プロピオン酸血症は、酵素の欠損で毒性のある代謝物が蓄積する病気です。欠けている酵素の2つのサブユニットの設計図を入れた mRNA を、16人に計346回静脈内投与した第1/2相試験の中間解析が、2024年に報告されています。細胞の中で働く酵素を、患者の細胞自身に作らせる使い方です。
持続期間を延ばす工夫には、細胞内で mRNA を複製する自己増幅型もあります(自己増幅型mRNA、発現持続と用量反応)。
4. 重要:製造と品質試験では、抗体医薬品と何が変わるのか
抗体医薬品は細胞に産生させたタンパク質そのものの品質を確かめ、mRNA医薬品は酵素の反応で作った設計図と、それを包んだ粒子の品質を確かめます。
抗体は生きた細胞が作るため、糖鎖の付き方や電荷バリアントの割合が、培養条件で動きます。mRNA は違います。Pardi らの総説が書くように、組換えの酵素を使った試験管内の反応(in vitro生きた動物の体外で、試験管やシャーレなどを用いて細胞・組織・分子レベルで行う実験を指す用語。詳しく → 転写、IVTDNA鋳型から試験管内でRNAを合成する反応。mRNA医薬の製造に用いる。詳しく →)で作り、細胞培養を使いません(mRNA-LNPの製造工程)。
| 比べる点 | 抗体医薬品 | mRNA医薬品 |
|---|---|---|
| 投与するもの | 完成したタンパク質 | タンパク質の設計図(mRNA)をLNPに包んだもの |
| 作り方 | 細胞を培養して産生させ、精製する | 鋳型のDNAから酵素の反応で作り、精製してLNPに包む |
| 作用する場所 | 主に細胞の外(血中や細胞表面の標的) | 細胞の中で翻訳され、できたタンパク質が作用する |
| 品質で主に見るもの | 糖鎖タンパク質に付加される糖の鎖状構造で、抗体の有効性・免疫原性などに影響する重要な品質特性。詳しく →、電荷、凝集体などタンパク質の性質 | mRNAの完全性・キャップ・ポリAmRNAの3'末端に付くアデニン連続配列。分解からの保護と翻訳の支持を担う。詳しく →・dsRNA、LNPの粒子径と封入率 |
| 力価試験で確かめること | 標的への結合や、細胞での活性 | 細胞に導入する(または無細胞翻訳系で翻訳させる)と、正しいタンパク質ができるか |
mRNA だけの品質項目:dsRNA・キャップ・ポリAテール
mRNA の品質で特に見るのが、二本鎖RNA(dsRNA)IVTで副生する二本鎖のRNA。ウイルスの目印として自然免疫を刺激し、mRNAの翻訳を下げる不純物です。です。WHO の文書は、IVT の副産物として生じうる dsRNA は細胞内のセンサーに感知されて自然免疫病原体を素早く感知して働く生体防御の仕組み。dsRNAをウイルスの痕跡とみなし炎症反応を起こします。詳しく →を起こしうるため、製造の中で除くべき不純物としています(mRNAのdsRNA)。翻訳に要る5′末端のキャップと、3′末端のポリAテール。これらが設計どおりに付いているかも、mRNA だけの試験項目です。
力価試験は、何を確かめるのか
力価試験の考え方も、抗体とは変わります。作用するタンパク質を、製造工程では作らないからです。WHO の文書は、次のように書いています。
- 試験の例:細胞に mRNA を導入する系か無細胞翻訳系で、正しい大きさと種類のタンパク質ができることを示す試験。
- 試験の選び方:どの試験を選ぶかは、製品の種類だけでなく、防ぎたい病気によっても変わる。
同じ製法のまま、mRNA の配列を変えるだけで別の製品を作れる場合があることも、mRNA の特徴です。 WHO の文書は、製法・試験法・規格が変わらなければ、配列に固有の確認試験・力価・安定性を除いて、先行する製品のデータを裏付けに使えるとしています。
5. 自社のテーマで、mRNA と抗体のどちらで考えるかは何から確かめるのか
最初に確かめるのは、作用させたいタンパク質が細胞の外と中のどちらで働くかと、そのタンパク質がどれくらいの期間要るかです。
- 作用する場所:細胞の外の標的に結合して作用するなら、完成した抗体を投与する道から考える。細胞の中で働くタンパク質なら、mRNA で細胞に作らせる道が候補に入る。
- 必要な期間:一度免疫を起こせばよいのか、タンパク質を補い続けるのか。これで投与回数と、持続期間を延ばす設計が変わる。
- 届けたい臓器:LNP の組成によって届きやすい臓器が変わる。標的臓器にどれだけ届くかを、早めに測る(LNPと肝臓)。
- 品質で確かめるもの:mRNA を選ぶなら、タンパク質の性質より先に、mRNA の完全性・キャップ・dsRNA と、LNP の粒子径・封入率をどう測るかを決める(核酸医薬の品質管理)。
米国でこれまでに承認された mRNA医薬品には、新型コロナウイルス感染症と RSウイルス感染症のワクチンがあります。タンパク質を補う治療では、先に挙げたプロピオン酸血症のように、臨床試験の結果が報告されています。
抗体医薬品は完成したタンパク質を投与し、mRNA医薬品はその設計図を投与して患者の細胞に作らせます。自社のテーマで mRNA を考えるなら、まずタンパク質がどこで、どれだけの期間働けばよいかを書き出す。そのうえで、送達(LNP)と、設計図と粒子の品質を何で確かめるかを決めます。
参考文献
- Pfizer, COMIRNATY (COVID-19 Vaccine, mRNA) Prescribing Information: 12 Clinical Pharmacology(12.1 作用機序)
- ModernaTX, MRESVIA (Respiratory Syncytial Virus Vaccine, mRNA) Prescribing Information(11 組成:塩基修飾mRNAと脂質、12.1 作用機序)
- WHO, Evaluation of the quality, safety and efficacy of messenger RNA vaccines for the prevention of infectious diseases: regulatory considerations(2021年12月。dsRNA、LNP、表1 特性解析の方法、6.8.4.6 力価、ゲノムへの組み込み、プラットフォームの考え方)
- Pardi N, Hogan MJ, Porter FW, Weissman D. mRNA vaccines: a new era in vaccinology. Nat Rev Drug Discov. 2018;17(4):261-279. PMC5906799
- Koeberl D, et al. Interim analyses of a first-in-human phase 1/2 mRNA trial for propionic acidaemia. Nature. 2024;628(8009):872-877. doi:10.1038/s41586-024-07266-7
- Pfizer, TRAZIMERA (trastuzumab-qyyp) Prescribing Information: 12 Clinical Pharmacology(12.3 体内動態:3週間ごとの投与、投与中止後の濃度の低下)
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