標的化LNPの抗体は1粒子に何本載せればよいのか

核酸を包んだ脂質ナノ粒子(LNP)mRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。の表面に抗体を結合させた標的化LNPmRNAなどを包んで細胞へ届ける脂質の微粒子。全身投与では肝細胞に取り込まれやすい。では、粒子1個あたりに何本の抗体が載るかを、処方を決めた時点では決められません。抗体と脂質を反応させ、結合しなかった抗体を除いたあとに測って、初めて分かる値です。
ただし、測って出た本数は、多ければよいものではありません。多すぎると肝臓に捕まり、少なすぎると標的に効かないため、上限と下限の両方で挟んで規格にします。
この記事では、なぜ本数が先に決まらないのか、多すぎ・少なすぎで何が起きるのか、規格をどう置き、何から決めるのかを順に説明します。
- なぜ本数を先に決められないのか:抗体と結びつく反応基のうち、生きて残っている割合が工程で変わるためです。
- 何本載せればよいのか:多すぎると肝臓に捕まり、少なすぎると標的に効きません。
- 規格はどう置くのか:本数を上限と下限で挟み、遊離抗体の割合と結合活性を添えます。
1. なぜ、1粒子あたりの本数は作る前に決まらないのか
処方に入れた反応基の数ではなく、反応のときに生きて残っていた反応基の数で、載る本数が決まるからです。
粒子の表面には、抗体と結びつく反応基を付けたPEG脂質LNP表面を覆い、安定性や体内動態を調整する脂質。詳しく →(粒子の表面を覆うポリエチレングリコールの脂質)を混ぜておきます。入れた脂質の量は分かっていても、そのうち何本が抗体とつながるかは、反応が終わるまで分かりません。
たとえば、粒子1個あたり6本を狙って抗体を仕込み、精製後に測ると4本だった、という形で出ます(数字は説明用の仮の値です)。仕込んだ抗体のうち何割が結合したかは抗体結合率と呼び、結合工程の出来ばえを見る値として使います。製品の規格に置くのは、精製後に測った本数です。
歩留まりが読めない理由は、反応基の側にあります。よく使うマレイミドチオール基と選択的に結合する反応基。システイン結合型ADCで薬物リンカー側に用いられる。詳しく →(抗体のイオウを含む基と結びつく反応基)は、水の中で分解し、抗体と反応できない形に変わります。
リポソームで測った2016年の研究では、膜を作る前から入れたマレイミド脂質の活性は、表面で63%、精製を経ると32%まで下がりました。膜を作った後に差し込んだ場合は、76%が活性を保っています。ここから持ち帰るのは個々の値ではなく、反応基をいつ入れるかで生き残る割合が変わるという形です。
結合法を選べば本数も決まるのかというと、そうではありません。結合法で決まるのは、いつ、どこに抗体を結ぶかまでです。 粒子を作った後に抗体付きの脂質を差し込むのか、反応基付きの脂質を混ぜて作った粒子に結合させるのか、抗体のどこをつかまえるのか、までが決まります。
臨床に入った標的化LNPの特許明細書でも、抗体にイオウを含む基を導入する経路、鎖のつなぎ目を還元して抗体の一部をほどく経路、決まった位置だけに基を入れる経路の3つが比べられています(US 12311033 の例20)。どれを選んでも、載った本数は精製後に測るまで分かりません。
抗体薬物複合体(ADC)抗体に細胞傷害性の薬物(ペイロード)を結合させた医薬。標的へ薬物を運んで作用させる。とは順番が逆です。ADC標的を選ぶ抗体に、細胞傷害性の薬物(ペイロード)をリンカーでつないだ分子。詳しく →では抗体1分子あたりの薬物の平均数を先に設計しますが、標的化LNPでは、抗体の形と結合法を決めたあとに本数を測ります(ADCのコンジュゲーションと薬物抗体比)。
2. 本数が多いと肝臓に捕まり、少ないと標的に効かない
下限の根拠は標的への結合、上限の根拠は標的以外の細胞に捕まる量です。上限の側から見ます。2021年の研究は、ポリサルコシン系のナノ粒子に抗体を平均で2本、6本、12本結合させて比べました。本数が増えるほど、肝臓への集積が増えています。経路は、肝臓の血管の内側にある細胞(肝類洞内皮細胞)が持つFc受容体です。
同じ研究では、Fc領域抗体の定常部にあたる「足」の部分。FcγRや補体、FcRnと相互作用し、機能や血中半減期を担う。詳しく →を持たないF(ab')2断片に替えるか本数を減らすと、細胞への結合を保ったまま肝臓への集積が抑えられました。読み取るのは、本数を増やすほど標的以外に捕まる経路が強くなる、という向きです。
では、本数を減らせばよいのか。リポソームで1粒子あたり330本、480本、690本の3ロットを比べた報告では、いちばん少ない330本のロットで、細胞の塊を使った試験の効きが下がる傾向が見られました(3ロットのあいだに統計的な差はありません)。最も密度が高いロットが最良だったのではなく、中間の480本が最もよく効いています。
どちらの報告もLNPではない粒子の結果で、粒子の大きさや表面の覆い方が違えば、ちょうどよい本数の桁も変わります。文献から持ち帰るのは上限と下限の両方に根拠があるという形で、LNPでの値は、標的細胞への結合と標的以外への集積を自社の粒子で測って決めます。

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- 3. 本数の規格は上限と下限で挟み、遊離抗体は割合で置く
- 4. 抗体を載せると決めたら、上から順に決める
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- Oswald M, Geissler S, Goepferich A. Determination of the activity of maleimide-functionalized phospholipids during preparation of liposomes. Int J Pharm. 2016;514(1):93-102.(マレイミド活性の63%、32%、76%。リポソーム)
- Chen, et al. A versatile antibody capture system drives specific in vivo delivery of mRNA-loaded lipid nanoparticles. Nat Nanotechnol. 2025;20(9):1273-1284.(抗体のFc領域に結合する断片による抗体の捕捉。培養T細胞株での発現は無作為結合の従来法より8倍以上)
- Rodallec A, et al. Prototyping trastuzumab docetaxel immunoliposomes with a new FCM-based method to quantify optimal antibody density on nanoparticles. Sci Rep. 2020;10:4147.(1粒子あたり330±30、480±110、690±80本。細胞の塊での効きは3ロットのあいだで統計的な差なし。リポソーム)
- Kappel C, et al. Density of conjugated antibody determines the extent of Fc receptor-dependent capture of nanoparticles by liver sinusoidal endothelial cells. ACS Nano. 2021;15(9):15191-15209. doi:10.1021/acsnano.1c05713(平均2本、6本、12本の比較。肝類洞内皮細胞のFc受容体)
- Waters, Multimodal Characterization of Targeted Lipid Nanoparticles Using Charge Detection MS and Orthogonal Separation Techniques(2026年のポスター。装置メーカー発表。反応基付き脂質0〜5%でのCDMSの分布)
- US 12311033「Lipid nanoparticle formulations and compositions」(例20。イオウを含む基の導入・部分還元・部位選択的な導入の3経路の比較、ゲルろ過とTFFによる精製の記述)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/tlnp-antibody-conjugation-quality