酵素阻害とは?競合阻害・Km・Kiで、阻害の強さをどう比べるのか

酵素阻害とは、化合物が酵素に結合して、酵素が基質を反応させる速さを下げることです。創薬の探索研究で次に進める化合物を選ぶときや、開発中の薬が代謝酵素(CYP肝臓に多く存在する代表的な薬物代謝酵素群。多くの低分子医薬の代謝を担う。詳しく →)を阻害して飲み合わせの問題を起こすかを判断するときに、この阻害の強さを比べます。
ただし、阻害の強さとしてよく使う IC50(反応を半分まで抑える阻害剤トランスポーターの働きをふさぐ薬。他の基質薬の輸送を妨げ、短期間で濃度を変える。詳しく →の濃度)は、試験の条件で動く値です。阻害剤が基質と同じ場所を取り合う競合阻害では、基質の濃度を上げるほど IC50 が大きく出ます。
この記事では、酵素の反応の速さを表す Km、阻害の型の違い、阻害剤の結合の強さを表す Ki と IC50 の違い、値を比べる前に確かめることを順に説明します。
- 阻害の強さは、何で表すのか:阻害剤が酵素に結合する強さを Ki(阻害定数)で表します。Ki が小さいほど、低い濃度で酵素に結合する阻害剤です。
- IC50 と Ki は同じ値か:同じとは限りません。IC50 はその試験の条件で反応を半分まで抑える濃度で、競合阻害では、基質が多いほど Ki より大きく出ます。
- 基質を減らせば、どの阻害剤も強く見えるのか:そうとは限りません。競合阻害剤は強く見えますが、基質が結合した酵素にだけ結合する不競合阻害剤は、逆に弱く見えます。
1. 酵素阻害の強さは、何を決めるために比べるのか
阻害の強さは、次に進める化合物を選ぶときと、飲み合わせの臨床試験が要るかを決めるときに比べます。 使う場面は、主に次の3つです。
- 標的の酵素に効く化合物を比べる:創薬の探索研究では、病気に関わる酵素の働きを抑える化合物を探し、阻害の強さを並べて次に進める化合物を選びます(IC50とは)。
- 別の試験や論文の値と比べる:自社の値を論文の値と並べるときは、同じ条件の値か、条件に左右されない値かを確かめます。
- 代謝酵素を阻害するかを読む:薬を分解する肝臓の酵素 CYP(シトクロムP450)を開発中の薬が阻害すると、一緒に飲んだ別の薬の分解が遅れ、その血中濃度が上がります(CYP阻害・誘導による薬物相互作用)。
酵素は、反応させる分子(基質)を活性部位と呼ばれるくぼみに結合し、別の分子(生成物)に変えて離します。離れた酵素は次の基質を結合するため、1つの酵素が同じ反応をくり返します。
阻害剤は、この流れのどこかで酵素に結合して、反応を遅らせます。どこに結合するかで阻害の型が分かれ、型によって強さの読み方も変わります。

CYP の飲み合わせの判断で基準に使うのは、IC50 ではなく Ki(阻害定数、阻害剤が酵素に結合する強さ)です。薬物相互作用の試験の国際ガイドライン ICH M12薬物相互作用試験の判断基準を日米欧で揃えた国際整合ガイドライン。in vitroから臨床試験の要否を判断する。詳しく → は、主な7つの CYP について阻害を評価するよう求めています(2.1.2)。
そのうえで、遊離型(血漿タンパク質に結合していない分)の Ki が、血中の遊離型の最高濃度の50倍より大きければ、試験管のデータで臨床での阻害のおそれを除外できるとしています(2.1.2.1)。最高濃度には、最高用量をくり返し投与したときの定常状態での値を使います。
このように、阻害の強さは、化合物を選ぶ判断にも、臨床試験が要るかの判断にも使います。では、その前提になる酵素の反応の速さは、基質の濃度でどう変わるのでしょうか。
2. Kmは、酵素の反応について何を表しているのか
Km(ミカエリス定数)は、反応の速さが最大の速さ(Vmax)の半分になる基質の濃度で、その酵素がどのくらいの濃度の基質で働くかを表します。
基質が少ないうちは、基質を増やすほど反応は速くなります。基質が十分に多くなると、ほとんどの酵素が基質を結合した状態になり、それ以上基質を増やしても、速さは Vmax より上がりません。
この関係は、反応の速さ=Vmax×基質の濃度÷(Km+基質の濃度)というミカエリス・メンテンの式で表されます。基質の濃度が Km と同じとき、速さはちょうど Vmax の半分です。薬の濃度と、標的が薬で埋まる割合(占有率)の関係と同じ形の曲線で、濃度の対数で描けば S 字に見えます(用量反応曲線とは)。
Km は、基質が酵素に結合する強さの目安として扱われることがあります。ただし、Km は結合のしやすさだけでなく、結合した基質が生成物に変わる速さも含んだ値で、結合の強さそのものとは限りません(Srinivasan, 2022年)。
Km は、同じ酵素でも基質が変われば変わります。CYP の阻害の試験では、CYP ごとに決まった反応を起こす基質(プローブ基質)を使い、ICH医薬品規制の国際調和を目的として、日米欧の規制当局と製薬業界が参加する国際的なガイドライン策定機関。詳しく → M12 は、その濃度を反応の Km 以下にするよう求めています(7.6.1.1)。
つまり、基質の濃度が Km より多いか少ないかで、酵素がどれだけ基質で埋まっているかが変わります。では、阻害剤は、この反応のどこに結合して速さを下げるのでしょうか。
3. 阻害剤は、酵素のどこに結合して反応を遅らせるのか
阻害剤が基質と同じ活性部位を取り合うのが競合阻害で、活性部位とは別の場所に結合する非競合阻害や、基質が結合した酵素にだけ結合する不競合阻害もあります。
型によって、基質を増やしたときの阻害の効き方と、阻害剤がある条件で測った Km(見かけの Km)の動き方が変わります。
| 型 | 阻害剤が結合する相手 | 最大の速さ(Vmax) | 見かけの Km | 基質を増やすと IC50 は |
|---|---|---|---|---|
| 競合阻害 | 基質が結合していない酵素の活性部位 | 変わらない | 大きくなる | 大きくなる |
| 非競合阻害 | 活性部位とは別の場所 | 下がる | 変わらない | 変わらない |
| 不競合阻害 | 基質が結合した酵素 | 下がる | 小さくなる | 小さくなる |
競合阻害では、阻害剤と基質が同じ場所を取り合うため、基質を十分に増やせば阻害剤を押しのけられます。そのため最大の速さは変わらず、半分の速さに届くまでに多くの基質が要るようになり、見かけの Km が大きくなります。
たとえば、スタチン系の薬は、コレステロールを作る経路の酵素(HMG-CoA 還元酵素)を阻害します。基質の HMG-CoA が結合する場所の一部をふさぎ、基質が活性部位に入るのを妨げると報告されています。阻害定数阻害剤が標的へ結合する親和性を表す阻害定数。IC50より実験条件に左右されにくく、系をまたいだ比較に向く。詳しく →はナノモル濃度の範囲です(Istvan と Deisenhofer, 2001年)。
非競合阻害では、阻害剤が基質とは別の場所に結合するため、基質を増やしても押しのけられず、働ける酵素の数そのものが減ります。不競合阻害では、阻害剤は基質が結合したあとの酵素にだけ結合するため、基質が多いほど結合できる相手が増えます。
実際の阻害剤には、基質が結合していない酵素と結合した酵素の両方に、違う強さで結合する混合型もあります(Balestri ら, 2022年)。どれも阻害剤が離れれば働きが戻る可逆的な阻害で、酵素を壊して戻らなくする時間依存性の阻害は、CYP阻害・誘導による薬物相互作用で扱います。
このように、同じ阻害でも、基質を増やしたときに IC50 が動く向きは型によって逆にもなります。では、阻害の強さを表す Ki と IC50 は、何が違うのでしょうか。
4. KiとIC50は、何が違うのか
Ki(阻害定数)は阻害剤と酵素の結合そのものの強さで、IC50 はその試験の条件で反応を半分まで抑える阻害剤の濃度です。
Ki は、酵素と阻害剤の複合体が離れる起こりやすさを表す解離定数で、阻害剤が酵素の半分に結合する濃度にあたります。基質の濃度に左右されないため、試験をまたいで阻害剤どうしを比べる値として使います。
一方、競合阻害の IC50 は、基質が多いほど阻害剤が押しのけられるため、Ki より大きく出ます。2つの値は「IC50=Ki×(1+基質の濃度÷Km)」の関係にあります(Cheng と Prusoff の式)。基質の濃度が Km と同じなら IC50 は Ki の2倍、Km の10倍なら11倍に出て、Km よりずっと低ければ Ki に近づきます。

ICH M12 も、CYP の阻害について同じ関係を示しています。競合阻害と不競合阻害では、基質の濃度が Km と同じなら、IC50 の半分を Ki の見積もりに使えるとしています。非競合阻害では、基質の濃度に関わらず Ki は IC50 と等しいとしています(7.3.3)。
不競合阻害では向きが逆になり、基質が Km より少ないほど IC50 は大きく出ます。阻害剤の結合する相手である、基質が結合した酵素が減るためです。型によって IC50 の動く向きが違うため、どの型の阻害剤も同じくらいの強さで拾える基質の濃度を選ぶ考え方も報告されています(Yang ら, 2009年)。
Cheng と Prusoff の式で IC50 を Ki に換算できるのは、阻害の型が分かっていて、酵素の濃度が Ki より十分に低いときです。結合が強く、加えた阻害剤の多くが酵素に結合する条件(強結合阻害)では、別の式が要ります(Cer ら, 2009年)。
つまり、IC50 は、阻害剤の強さに、基質の濃度と阻害の型が重なって決まる値です。式の前提や、4PLS字型の用量反応曲線を下限・上限・傾き・中間用量の四つで表すモデル。相対力価の算出に使う。 での IC50 の求め方は、IC50とはで扱います。
5. 自分のデータでは、何から確かめるのか
阻害の値を比べる前に、何をどんな条件で阻害した値かを、次の順に確かめます。
- どの酵素と基質で測ったかを確かめる:酵素の種類と基質(CYP なら反応ごとのプローブ基質)を見ます。基質が違えば Km も違うため、同じ酵素の値どうしでも条件をそろえて比べます。
- 基質の濃度と Km の比を確かめる:基質の濃度が Km(反応が最大の速さの半分になる基質の濃度)の何倍かを見ます。競合阻害なら、この比で IC50 と Ki の開きが決まります。
- 阻害の型を確かめる:基質の濃度を変えて阻害を測ったかを見ます。ICH M12 は、CYP の Ki(阻害定数)を求めるときは、阻害剤と基質の両方の濃度を、Km の上と下にまたがって変えて測るよう求めています(7.3.3)。
- IC50 か Ki かを確かめる:報告された値が IC50 なら試験の条件を、Ki なら実測か IC50 からの換算かを確かめます。
- 時間で強まる阻害でないかを確かめる:CYP では、NADPH(CYP の反応に要る補酵素)を加えて前もって温めた条件で、加えない条件より IC50 が低く出るかを見ます。ICH M12 は、この左へのずれ(IC50 シフト)を、酵素を壊す時間依存性の阻害の手がかりとしています(7.3.3)。
上の2つは値の意味を、下の3つは、その値を飲み合わせの判断や化合物の比較に使えるかを決める項目です。
条件がそろった IC50 でも、曲線の当てはめ方によって値は動きます。では、4PL で求めた IC50 は、どこまで信じてよいのでしょうか。続きはIC50とはで説明します。
参考文献
- ICH M12 Drug Interaction Studies(Step 4、2024年5月21日). ICH(2.1.2:主な7つのCYPの可逆的阻害と時間依存性阻害を評価する。2.1.2.1:遊離型のKiが最高用量での遊離型Cmax投与後に達する最も高い血中濃度。薬がどれくらいの速さで届くかの指標。詳しく →の50倍より大きければ、試験管のデータで臨床での阻害のおそれを除外できる。7.3.3:Kiを求めるときは阻害剤と基質の濃度をKmの上下にまたがって変える、競合・不競合阻害では基質がKmと同じならIC50の半分をKiの見積もりに使える、非競合阻害ではKiはIC50と等しい、NADPHの有無で前処理したIC50の左へのずれで時間依存性阻害を見る。7.6.1.1:プローブ基質の濃度は反応のKm以下)
- Cheng Y, Prusoff WH. Relationship between the inhibition constant (K1) and the concentration of inhibitor which causes 50 per cent inhibition (I50) of an enzymatic reaction. Biochem Pharmacol. 1973;22(23):3099-3108. doi:10.1016/0006-2952(73)90196-2
- Srinivasan B. A guide to the Michaelis-Menten equation: steady state and beyond. FEBS J. 2022;289(20):6086-6098. doi:10.1111/febs.16124(ミカエリス・メンテンの式の前提と、迅速平衡と定常状態の仮定)
- Istvan ES, Deisenhofer J. Structural mechanism for statin inhibition of HMG-CoA reductase. Science. 2001;292(5519):1160-1164. doi:10.1126/science.1059344(スタチンの阻害定数はナノモル濃度の範囲、HMG-CoAの結合部位の一部を占めて基質が活性部位に入るのを妨げる)
- Balestri F, Cappiello M, Moschini R, Mura U, Del-Corso A. Models of enzyme inhibition and apparent dissociation constants from kinetic analysis to study the differential inhibition of aldose reductase. J Enzyme Inhib Med Chem. 2022;37(1):1426-1436.(競合・混合型・不競合の阻害での見かけのKmとVmaxの変わり方)
- Yang J, Copeland RA, Lai Z. Defining balanced conditions for inhibitor screening assays that target bisubstrate enzymes. J Biomol Screen. 2009;14(2):111-120. doi:10.1177/1087057108328763(型の違う阻害剤の見かけの強さが同じくらいの範囲に入るよう、スクリーニングの条件を選ぶ考え方)
- Cer RZ, Mudunuri U, Stephens R, Lebeda FJ. IC50-to-Ki: a web-based tool for converting IC50 to Ki values for inhibitors of enzyme activity and ligand binding. Nucleic Acids Res. 2009;37(Web Server issue):W441-W445.(競合・不競合・非競合の阻害ごとの換算式と、強結合阻害の場合の式)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/enzyme-inhibition-km-ki