抗体の純度試験 CE-SDS は、多くのラボでキャピラリーが1本の装置、SCIEX の PA 800 Plus で流されてきました。同じ SCIEX の BioPhase 8800 は、キャピラリーを8本に増やし、CE-SDS や 電荷異性体を見る cIEF(キャピラリー等電点電気泳動)を8検体ずつ同時に流す装置です。
一方で、試験法そのものは新しくなりません。この記事では、1本の装置で何に時間がかかっていたのかから始め、8本で速くなる仕組み、毎週の作業で変わること、PA 800 Plus の数字とどこまでそろうか、ほかの方式との比べ方、導入を決める前に確かめることを順に説明します。
新しい分離の原理を持ち込む装置ではありません。PA 800 Plus と同じ試薬とキャピラリーの化学で、同じ CE-SDS を8本で並べて流します。
1. 1本のキャピラリーでは、検体は1つずつ順番を待つ
キャピラリーが1本の装置では、1回の運転で1検体しか分けられないので、検体は前の運転が終わるのを待って1つずつ流れます。 CE-SDS では、SDS(陰イオン性の界面活性剤)を加えて加熱した抗体を、ふるいの役をするゲルで満たした細い管(キャピラリー)に入れ、電圧をかけて大きさの順に並べます。管が1本しかないと、分離のあとに管を洗ってゲルを入れ直すまで、次の検体を入れる場所がありません。
かかる時間は手順で変わります。SCIEX のテクニカルノートでは、PA 800 Plus で CE-SDS を24検体流すと、休まず動かして約18時間です。SCIEX が公開した Janssen の技術資料では、同じ24検体に、この部門の手順で約24時間かかっていました。
困るのは、検体が多い部門でこの順番待ちが積み上がることです。同じ資料によると、Janssen のプロセス分析の部門には工程開発や製剤開発から年に約4万検体が届き、そのうち1万1,000件超が CE-SDS で、装置の空き待ちが結果を返す日を遅らせていました。
2. 8本並列で縮むのは、分離の時間ではなく順番待ちの時間
1検体を分ける時間は縮みません。8本で同時に流すぶん、順番を待つ検体の列が短くなります。ただし、列が8分の1になるとは限りません。どれだけ縮むかは、洗浄やゲルの充填を含めた1回の運転の長さで変わるからです。

SCIEX のテクニカルノートでは、PA 800 Plus が24検体に使う約18時間と同じくらいの時間で、96ウェルプレート1枚を流せました。処理量にして約4倍です。Janssen の資料では、PA 800 Plus で24検体に約24時間だったのに対し、BioPhase 8800 は従来の方法でプレート1枚に12時間で、約8倍でした。
1回の運転の中身も、機種に合わせて変わります。SCIEX の移管の資料によると、PA 800 Plus と同じ水酸化ナトリウムの洗浄を続けると、8本では一連の運転の途中で液が足りなくなります。そこで洗浄を2段に分けています。
3. 毎週96検体の CE-SDS を流す部門で、人の作業はどこへ移るのか
運転の回数が減るぶん、人の仕事は、装置の空きに合わせた小分けと待ちから、まとめた前処理と8本分の結果の確認へ移ります。 工程開発のサンプルを毎週96検体、CE-SDS で測る部門で流れを比べます(96検体は仮の数字です)。
| 作業 | PA 800 Plus(1本) | BioPhase 8800(8本) |
|---|---|---|
| 前処理 | 1回の運転分(24検体前後)ずつ用意する | 96検体を1枚のプレートにまとめて用意する |
| 装置にかける | 24検体ずつ、週に4回セットする | プレート1枚を1回セットする |
| 待つ検体の保管 | 最後の検体は、前の検体がすべて終わるまで装置の中で待つ | 最後の列は、11回分の分離が終わるまでプレートで待つ |
| 結果を見る | 1本のキャピラリーの電気泳動図 | キャピラリーの番号がついた8本分の電気泳動図 |
| キャピラリーの交換 | 1本を替える | 8本まとめたカートリッジを替える |
結果の確認では、1本の装置には無かった、キャピラリーどうしの差が新しく入ってきます。SCIEX が公開した Teva の事例では、8本を1本ずつ別の装置とみなし、システム適合性をキャピラリーごとに設定しました。
プレートの最後の列が長く待つ点も変わります。SCIEX の cIEF の例では、10°C のサンプル室で27時間置いても電荷異性体の形は変わりませんでしたが、自社の抗体と緩衝液では別に確かめが要ります。
4. 機種を替えても純度の割合はそろうが、ピーク面積はそろわない
公開された比較でそろったのは純度の割合で、ピーク面積の絶対値と、還元条件での重鎖と軽鎖の比はそろいませんでした。
SCIEX が NIST の標準抗体(NISTmAb)を UV で測った比較では、純度は PA 800 Plus で97.57%、BioPhase 8800 で97.60%でした(各6回)。SCIEX が公開した Janssen の技術資料では、通常の抗体、二重特異性抗体、三重特異性抗体、ワクチンの純度が両機で近い値になりました。工程開発のサンプル21件でも、大半は2機種のあいだで決めた許容差に収まり、外れた2件は分解が進んだ検体として外れ値に分けられています。
そろわなかったのは信号の大きさです。同じ資料では、ピークの高さと面積が PA 800 Plus より大きく出ました。SCIEX は、迷光を抑える光学設計によるものと説明しています。還元条件で分けた重鎖と軽鎖の比も、2機種でずれました。
では、これは移行の妨げになるのか。Janssen は割合で同等と判断し、初期開発の CE-SDS 試験の代わりとして使えると結論づけました。自社でも、割合の許容差を先に決めて比べる形が取れます。ピーク面積や重鎖と軽鎖の比をシステム適合性や規格に使っているなら、その項目は別に橋渡しの試験で確かめます。
5. ほかの方式と比べる前に、電荷異性体をどの方式で測るかを決める
処理量の多い CE の装置はほかにもあり、とくに分かれるのが電荷異性体の測り方です。BioPhase 8800 の cIEF は、キャピラリーの中で等電点の順に並べたあと、検出器の前まで流し出して読みます。QC でも使われる画像式の cIEF(icIEF)は、流し出さずにキャピラリー全体を撮影して読む方式です。比べる最初の軸は、速さではなく、いまの規格値と同じ方式で測れるかどうかです。
| 方式(例) | CE-SDS | 電荷異性体 | 時間の例(各社公表) |
|---|---|---|---|
| キャピラリー1本(PA 800 Plus) | キャピラリー | 流し出す cIEF | CE-SDS 24検体で約18時間(SCIEX) |
| キャピラリー8本(BioPhase 8800) | キャピラリー | 流し出す cIEF | cIEF 1回60分を8本で同時 |
| 画像式 cIEF と CE-SDS を1台で(Bio-Techne の Maurice) | キャピラリー | icIEF | 1検体 icIEF 6〜10分。CE-SDS は PLUS カートリッジで還元25分・非還元35分、Turbo カートリッジで5.5〜8分 |
| マイクロチップの CE-SDS(Revvity の LabChip GXII Touch、研究用) | チップ上の流路 | チップ上の別の測定 | 1検体 最短42秒 |
表の読み方は2通りです。PA 800 Plus の CE-SDS と cIEF で規格を作ってきたなら、同じ化学と方式のまま本数を増やせる BioPhase 8800 は、橋渡しの範囲を小さくしやすい候補です。電荷異性体の規格を icIEF で作っているなら、画像式の装置が比べる相手です。マイクロチップは研究用として売られており、開発初期に多くの検体を短時間で見比べる用途で検討します。
検出器も同じ軸で見ます。BioPhase 8800 は UV、レーザー励起蛍光(LIF)、ネイティブ蛍光(NF)を切り替えられ、NF は SCIEX の CE 装置では BioPhase 8800 だけにあります。NF は芳香族アミノ酸がもともと出す蛍光を拾うので、ペプチド結合の吸収を見る UV とは数字の意味が変わり、NISTmAb の純度も UV の97.60%に対して96.70%でした。同社は非還元 CE-SDS の例で UV より最大10倍の感度としていますが、NF に切り替えるなら別の試験法として評価し直します。
6. 検体の多い開発の試験から移し、橋渡しで確かめる項目を先に決める
合うのは、工程開発、安定性試験、メソッド開発のように、検体が多く、結果を早く返すほど次の判断が早まる試験です。 公開されている同等性の評価は、Janssen の初期開発の CE-SDS と、Teva が開発の部門で PA 800 Plus から移した例で、商用品の出荷試験を置き換えた報告ではありません。
出荷試験の装置を替えるなら、分析法の変更として扱います。ICH Q14(分析法の開発)の7章は、変更の影響をリスク評価で見積もり、その結果に応じて、変更後の分析法が目的に合うことを示す橋渡しの方針を立てるとしています。装置を入れる前に、どの項目(純度の割合、面積、重鎖と軽鎖の比)を2機種でそろえ、洗浄の手順が変わる点も含めて何をもって同等とするかを決めておきます。どの程度の届出が要るかは、承認書の記載と地域の規制で変わります。
反対に、次の現場では効果が出にくくなります。
- 検体が少ない:毎回8本を埋められないと、1回の運転で流せる数が増えたぶんを使い切れません。
- 前処理が追いつかない:装置が96検体を一度に流せても、前処理を人の手で96検体分そろえるなら、その時間は残ります。
費用と効果は、空いた装置の時間を、結果を早く返すことに充てるのか、ほかの試験法を載せることに充てるのかを先に決め、カートリッジの費用、前処理の手間、橋渡しの試験の工数と並べます。
- データの扱い:ソフトウェアでアクセス制御、監査証跡、電子署名を設定でき、2023年5月には Waters の Empower CDS から装置を動かすドライバーも出ました。データインテグリティの手順に、どちらの経路で載せるかを決めておきます。
- カートリッジ:8本は1つのカートリッジにまとまっています。1本だけ調子を崩したときの扱いと寿命は、1検体あたりの費用に直結します。
価格とカートリッジの単価は公表されていないので、橋渡しの試験の支援範囲とあわせて、同社または販売店に確かめます。
- 移す試験(CE-SDS・cIEF など)と、開発の試験から先に移す順番を決めたか
- 電荷異性体の規格が、流し出す cIEF と画像式の icIEF のどちらの数字で作られているか
- 規格とシステム適合性に、純度の割合のほかに、面積や重鎖と軽鎖の比を使っていないか
- 検出を UV のまま移すか、NF を別の試験法として評価するかを決めたか
- キャピラリーのあいだの差の許容範囲と、プレートの最後の列まで検体が安定かを確かめたか
- データの経路(BioPhase のソフトウェアか Empower か)、カートリッジの単価と国内の保守体制を確かめたか
※ 本ページは公開情報(SCIEX の製品情報・プレスリリース・テクニカルノート、SCIEX が公開した Janssen・Teva の資料、Bio-Techne・Revvity の製品情報、ICH Q14)をもとにした Proglenth 編集部による整理です。仕様・数値の詳細は公式情報をご確認ください。
