アラートレベルとアクションレベルは、何が違うのか?傾向をつかむ線と、対処する線

環境モニタリング無菌製造区域の空気・表面・作業者を微粒子や微生物で継続監視し、汚染管理の状態を記録する活動。詳しく →や製薬用水、バイオバーデン(工程の液に含まれる菌の数)の結果を読むときや、超えたときに何をするかを手順書に書くときに要るのが、アラートレベルとアクションレベル超えたら是正措置が必要となる基準。グレードごとの上限を踏まえて設定する。詳しく →の区別です。アラートレベル規格内だが平常の変動を超えた兆候を示す内部基準。原因を注意して探る合図になる。詳しく →はいつもの状態からずれ始めた兆しを知らせる線、アクションレベルは超えたら原因を調べて措置をとる線です。
ただし、どちらも、水や製品の合否を決める規格とは別の線です。超えても直ちに不合格とは限らない一方で、規格の内側でも、線の超え方から管理が崩れ始めたことが分かります。
この記事では、2つの線を置く理由、規格との違い、それぞれを超えたときにすること、線の決め方、自分の工程で線を決める順番を説明します。
- アラートレベルとアクションレベルとは:合否を決める規格とは別に、悪くなる前に気づくための工程管理の線です。アラートは注意して経過を追う線、アクションは調査と是正措置を始める線です。
- 超えたら何をするのか:アラートでは単発か傾向かを確かめ、アクションでは原因を調べ、製品への影響を評価し、是正措置をとります。
- 線は何で決めるのか:アラートは自分の設備の過去のデータから引き、アクションは同じデータをもとに、規格や規制の上限より内側に置きます。
1. アラートレベルとアクションレベルは、何のために置くのか
規格を外れる前に、設備や環境の変化に気づいて手を打つためです。
微生物の試験は培養に数日かかるため、結果が出たときには、その水がすでに製造に使われていることが多くあります。米国薬局方米国で医薬品・原料・試験法の公式基準を定める公定書で、製薬用水に関する規格も収載されている。詳しく →の製薬用水の章 USP〈1231〉も、微生物のデータは得るまでに数日かかることが多く、すぐには管理に生かしにくいとしています(9.1)。
そこで、合否の線より手前に2本の線を引きます。EU GMP の Annex 1無菌医薬品の製造に関するEU GMPの付属書。汚染管理戦略などを求める無菌製造の基準。詳しく →(無菌医薬品の製造)は、2つを次のように定義しています(用語集)。
- アラートレベル:通常の運転状態や、バリデーションで確かめた状態からずれ始めた兆しを、早めに知らせる水準です。超えても是正措置が必須とは限りませんが、内容を確かめて経過を追うきっかけにします。
- アクションレベル:超えたら調査と、調査に基づく是正措置を始める水準です。Annex 1 はアクションリミット(action limit)と呼びます。
線は微生物の数だけでなく、空気中の粒子の数や、水の導電率・有機体炭素(TOC)にも置きます。日本薬局方の参考情報「製薬用水の品質管理原料・資材・中間体・製品を規格に照らして試験し、使ってよいか、出荷してよいかの合否を決める仕事です。GMPでは製造部門から独立させます。詳しく →」は、同じ2つを警報基準値と処置基準値と呼んでいます。

このように、2つの線は、結果が出るまでに時間がかかる項目でも、変化に早く気づけるように置きます。では、合否を決める規格とは、何が違うのでしょうか。
2. 規格とは、何が違うのか
規格は、その水や製品を使ってよいかを決める線で、2つのレベルは、設備や環境がいつもの状態にあるかを見る線です。
日本薬局方国または地域の公的機関が定める医薬品の規格・試験法・品質基準を収載した公定書。詳しく →の参考情報は、2つの線を水を作る工程の管理に使い、作った水の合否の判定には使わないとしています。そのため、線を超えても、その水が使えなくなったとは限らないとも書いています。
USP〈1231〉は、アラート、アクション、規格の3段で管理する形を示しています。アクションレベルは、アラートレベルより高く、規格より低く置くのがよいとしています(9.4.2)。2014年の版(USP 37)は、アクションレベルを規格と同じ値に置くと、規格を外れる前に手を打つ余地がなくなるとしていました。
規格を外れたときは、規格外試験結果が規格の範囲を外れること。原因調査の対象になる。詳しく →(OOS)として調査し、その水を使った製品をどう扱うかを決めます(USP〈1231〉9.4.4)。調査の進め方は、逸脱と規格外の調査の記事で扱っています。
同じ数値でも、文書によって線の種類が違います。注射用水の微生物の値、100 mLあたり10 CFU(コロニー形成単位、培養で数えた菌の数)は、日本薬局方の参考情報では処置基準値(アクションレベル)として示されています。2018年8月から公式の USP〈1231〉では、同じ値が、各社が決める微生物の規格の上限として示されています。
つまり、数値を引用するときは、それがどの文書の、どの線の値かまで確かめる必要があります。では、それぞれの線を超えたら、何をするのでしょうか。
3. それぞれの線を超えたら、何をするのか
アラートを超えたら単発か傾向かを確かめ、アクションを超えたら、原因の調査、製品への影響の評価、是正措置まで進めます。
- アラートレベルを超えたとき:記録して確かめ、単発の出来事か、悪い傾向や設備の劣化の兆しかを調べます(Annex 1 の6.14、清浄区域は9.13)。USP〈1231〉は、運転の担当者と品質保証の担当者に知らせることや、採取を増やしてまわりのデータを詳しく見ることを挙げています(9.4.1)。
- アクションレベルを超えたとき:Annex 1 は、原因の調査と製品への影響の評価を求めています(6.14)。清浄区域では、監視から結果が出るまでに作ったロットへの影響の評価と、是正措置と予防措置も、手順書作業の手順を定めた文書。品質システムの要素を具体化し、査察でも運用が確認される。詳しく →に定めるよう求めています(9.13)。
製薬用水については、日本薬局方の参考情報が、微生物の処置基準値を超えたら菌を分離・同定し、水のシステムを殺菌・消毒する必要があるとしています。
米国 FDA の無菌操作外部から微生物を入れずに工程を進める操作。最終滅菌できない細胞治療では全工程で無菌性を維持する。詳しく →のガイダンス(2004年)は、結果を平均すると局所の悪い状態が隠れるため、1つずつの結果を線と比べるよう勧めています(X.A.2)。
線を超えていなくても、対処が要るのはどんなときか
1回ずつの値は線の内側か単発の超過でも、並び方によっては傾向として扱います。 Annex 1 は、傾向として見るものに次の例を挙げています(9.11)。
- 超える回数が増える:アラートやアクションを超える回数が、それまでより増えています。
- 続けて超える:アラートを、続けて超えています。
- 同じ原因で単発に超える:保守点検のあとにだけアクションを超えるように、共通の原因がありそうな単発の超過が繰り返されます。
- 菌の種類が変わる:検出される菌の種類や数が変わり、芽胞(熱や薬剤に強い休眠の形)を作る菌やカビのように、管理しにくい菌が出てきます。
USP〈1231〉も、アラートを繰り返し超えることや、複数の場所で同時に超えることを、アクションに当たる出来事の例に挙げています(9.4.2)。点の並びから変化を見つける管理図測定値を時系列に並べ、中心線と管理限界を引いて工程が安定しているかを見る図。詳しく →の見方は、OOT(傾向外れ)とはで扱っています。
つまり、手順書には、線ごとの対応に加えて、どんな並び方を傾向として扱うかまで書いておく必要があります。では、線そのものは、何をもとに引くのでしょうか。
4. 線は、何をもとに決めるのか
アラートレベルは自分の設備の過去のデータから引き、アクションレベルは同じデータをもとに、規格や規制の上限を超えない位置に置きます。
Annex 1 は、製薬用水のアラートレベルを、最初の適格性評価(設備が求める性能を出すかを確かめる試験)のデータから決め、その後の再適格性評価稼働後の装置が適格な状態を保っているか、定期的に、または重要な変更時に改めて確認する活動。詳しく →や日常の監視のデータで定期的に見直すよう求めています(6.13)。清浄区域(空気の清浄度を管理した部屋や区域)では、粒子と微生物のアクションリミットの上限を表で示しています。そのうえで、アラートレベルを清浄区域の適格性評価製造装置やユーティリティが意図どおりに据え付けられ、動き、性能を出せることを文書で裏づける活動。詳しく →の結果から決め、傾向のデータで見直すよう求めています(9.9)。
清浄区域の監視では、この表の上限が最も外側の線になり、データの傾向や工程の性質によって、それより厳しいアクションリミットを置くこともできます(9.9)。グレードごとの上限と監視の組み方は、クリーンルームの清浄度と環境モニタリングで扱っています。
数値で引くときの例として、USP〈1231〉は、平均に標準偏差の2倍か3倍を足した値や、平均より一定の割合高く規格より低い値を挙げています(9.4.1)。日本薬局方の参考情報は、警報基準値を、過去の傾向から求めた平均+2標準偏差か、処置基準値の70%(生菌数では50%)の低いほうに置くのが一般的としています。
0が並ぶデータでは、どう引くのか
値の大きさではなく、0でない結果が出る頻度で線を引く方法があります。 高温で循環させる注射用水の系のように菌数のほとんどが0になる系では、平均と標準偏差で意味のある線を引けません。
USP〈1231〉は、このような系では、ときどき出る1回の検出をアラート、複数回や続けての検出をアクションとする方法を示しています(9.4.3)。無菌ろ過細菌を止めることを実証したフィルターに液を通し、無菌のろ液を得る工程です。除菌ろ過・ろ過滅菌とも呼び、菌の数を下げるだけのバイオバーデン低減ろ過とは区別します。0.22µm前後の膜が広く使われます。詳しく →の前の液のように0が並ぶ工程の試料で、検出された試料の割合から傾向を見る考え方は、バイオバーデンの記事で扱っています。
新しい設備では過去のデータが無いため、USP〈1231〉は、設備の設計上の能力から規格の内側に仮の線を置くのが一般的としています(9.4.3)。常温で運転する水のシステムは、使い始めの1年ほどで菌の構成が変わりやすいとも書いています。2014年の版は、線は水のシステムと試験法ごとのもので、別の試験法の結果や別のシステムに当てはめるのは妥当でないとしていました。
つまり、線は一度引いて終わりではなく、自分のデータとともに見直していくものです。では、自分の工程では、何から決めればよいのでしょうか。
5. 自分の工程では、何から決めるのか
合否の線を確かめ、その内側にアクション、さらに内側にアラートの線を置き、超えたときの手順と見直しの時期まで決めます。
- 合否の線を確かめる(規格):その水や製品に、薬局方の各条や自社の規格があるかを確かめます。清浄区域では、Annex 1 の表のアクションリミットの上限を確かめます。
- 措置の線を置く(アクションレベル):規格や上限より内側で、規格を外れる前に手を打てる位置に置きます。
- 注意の線を引く(アラートレベル):適格性評価と日常の監視のデータから引きます。0が並ぶデータでは、検出の頻度で決めます。
- 超えたときの手順を書く:アラートでは確認と採取の追加を、アクションでは原因の調査、前回の適合以降のロットへの影響の評価、菌の同定、是正措置を書きます。傾向として扱う並び方も決めておきます。
- 見直す時期を決める:データが積み上がったとき、設備や試験法を変えたとき、定期の見直しのときに引き直します。
上の3つは線を引く項目、下の2つは線を使い続けるための項目です。
線を引く対象のうち製薬用水では、規格の試験に合格した水なら、使ってよいと言えるのでしょうか。続きは注射用水(WFI)とはで説明します。
参考文献
- European Commission. EudraLex Volume 4, EU GMP Annex 1: Manufacture of Sterile Medicinal Products(2022年8月25日公表、2023年8月25日適用。用語集:Alert level と Action limit の定義、6.13 製薬用水のアラートレベルは最初の適格性評価のデータから決めて定期的に見直す、6.14 アラートとアクションを超えたときの記録と調査、9.9 清浄区域のアラートとアクションの設定とアクションリミットの上限(表5・表6)、より厳しいアクションリミット、9.11 傾向の例、9.13 超えたときに手順書に定めること、表6の注 グレードA充填点周辺など無菌操作の中心となる最高清浄度区域。作業中も連続監視される。詳しく →ではどの菌の発育も調査)
- USP General Chapter〈1231〉Water for Pharmaceutical Purposes(2018年8月1日公式の版。9.1 微生物のデータは得るまでに数日かかること、9.4 アラート・アクション・規格の3段、9.4.1 アラートは過去の運転データの大半のすぐ外に置き、平均+標準偏差の2倍か3倍などの例、超えたときの連絡と追加の監視、9.4.2 アクションはアラートより高く規格より低く、アクションに当たる出来事の例、9.4.3 新しい設備の仮の線と、0が多い系で検出の頻度を使う方法、9.4.4 微生物の規格は各社が決め、精製水経口剤など非注射用途に使う製薬用水で、導電率とTOCで管理されるが、日本薬局方・米国薬局方ではエンドトキシン規格は設けられていない(欧州薬局方では一部規定あり)。詳しく →100 cfu/mL・注射用水10 cfu/100 mLを超えないこと、規格を外れたときの OOS 調査。現行版は USP–NF で確認)。2014年の USP 37 の版(アクションレベルを規格と同じ値に置かないこと、線は水のシステムと試験法ごとであること、精製水100 cfu/mL・注射用水10 cfu/100 mLを最大のアクションレベルとしていたこと)
- 第十八改正日本薬局方 参考情報「製薬用水の品質管理」〈GZ-2-172〉(英語版 JP XVIII の一般情報。4.3 警報基準値と処置基準値は工程の管理に使い、作った水の合否の判定には使わないこと、警報基準値は平均+2s か処置基準値の70%(生菌数は50%)の低いほう、4.4.3 生菌数の処置基準値 精製水10² CFU培養した際に1つのコロニー(集落)を形成する微生物の単位で、生菌数を表す際に用いられる。詳しく →/mL・注射用水10¹ CFU/100 mL(R2A寒天培地細胞を体外で生存・増殖させるために必要な栄養・エネルギー源・成長因子などを含む液体または固体の環境基盤。詳しく →)、超えたときの菌の分離・同定と系の殺菌・消毒)
- FDA. Guidance for Industry: Sterile Drug Products Produced by Aseptic Processing — Current Good Manufacturing Practice(2004年9月。X.A.2 アラートとアクションの設定と傾向の監視、結果の平均で局所の状態が隠れること、用語集 Alert Level・Action Level)
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Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/alert-action-levels