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ホーム/解説記事/抗体医薬
抗体医薬応用・製造工程シリーズ抗体で薬を届ける新しい形6/6実務

DACのコンジュゲーションとDARとは?なぜ結合点を先に決めるのか

Proglenth 編集部公開 2026-10-24更新 2026-10-23約5分で読めます
DACのコンジュゲーションとDARとは?なぜ結合点を先に決めるのか

DACのコンジュゲーション抗体の官能基と薬物リンカーを化学結合させ、DARを狙いどおりに作り込むADC製造の中心工程。詳しく →とDAR(抗体1分子あたりの平均の薬物数)は、タンパク質を分解する薬を抗体のどこにつなぎ、何個つなぐかを決める項目です。DAC(degrader-antibody conjugate、分解誘導薬を載せた抗体)はADC(抗体薬物複合体標的を選ぶ抗体に、細胞傷害性の薬物(ペイロード)をリンカーでつないだ分子。詳しく →)の設備で作れるため、製法を組む人の問いは、この2つの決め方に集まります。

ただし、ADCで慣れた順番は通りません。載せる数の目標から入ると、放たれた薬物が働かない結合点を選んでいたことに、あとから気づく場合があります。

この記事では、結合点とDAR抗体薬物複合体(ADC)で、抗体1分子に結合した薬物の平均数です。効果と安全性を左右するため測定する指標です。詳しく →が何を決める項目なのか、なぜDARより結合点が先に来るのか、DARはどこまで上げられるのか、自分の案件では何から確かめるのかを順に説明します。

この記事の要点
  • DACのコンジュゲーションで決めること⁠:抗体のどこにつなぐか(結合点)と、1分子あたり平均何個つなぐか(DAR)の2つです。
  • なぜ結合点が先か⁠:分解誘導薬は両端で2つの相手に結合して働くため、つなぐ位置によっては活性を失います。
  • DARはどこまで上げるか⁠:薬物が大きく水に溶けにくいほど抗体どうしが会合しやすく、凝集が立ち上がる手前に目標を置きます。

この記事の前提

初めての方は、先にこちらを読むと、この記事に出てくる言葉の意味が分かります。

  • DAC(分解誘導薬を載せた抗体)とは?ADCとの違いをやさしくDAC・分解誘導薬・ADCとの違い約5分
  • ADCのDARとは?薬物を多く載せても効き目が上がらないのはなぜかDAR・コンジュゲーションの方式約5分

1. DACのコンジュゲーションとDARとは、何を決めることなのか

DACの結合工程で決めるのは、抗体のどこに薬物をつなぐか(結合点)と、抗体1分子あたり平均何個つなぐか(DAR、drug-to-antibody ratio)の2つです。

ADCと違うのは、載せる薬の働き方です。ADCに載せる薬は細胞の中で標的に結合し、その細胞を殺します。DACに載せる薬は標的のタンパク質に目印を付けさせ、細胞が持つ分解の仕組みにそれを壊させます。

この働き方を担うのがPROTAC(proteolysis targeting chimera)で、標的タンパク質に結合する部分と、分解の目印を付ける酵素に結合する部分を、リンカーADCで抗体とペイロードをつなぐ部分。両者の結合や体内での薬物放出の性質を左右する。詳しく →でつないだ分子です。2つの結合部分を1つの分子に収めるため、ADCに載せる薬より分子量が大きく、水にも溶けにくくなります。

上段はADC。薬物は標的に結合すれば働くため、決める順番は1がDARの目標、2が結合点。下段はDAC。薬物は標的と、分解の目印を付ける酵素の両方に結合して働くため、つなぐ位置が悪いとどちらかの結合が塞がる。決める順番は1が結合点、2がDARの目標で、結合点を変えたら分解活性を測り直す。
DACでは、載せる数より先に結合点を決める(概念図)
図をダウンロード(会員・無料)

つまり、ADCから入れ替わるのは設備ではなく、2つの項目のどちらを先に固定するかです。

2. なぜ、DARの目標から先に決められないのか

つないだ位置によっては、放たれた薬物が標的と酵素の両方をつかめず、分解が起きないからです。 ADCの薬は標的に結合すれば働くので、つなぐ位置は抗体の側の都合だけで選べました。

DACでは、見る項目が2つ増えます。

  • つないだ位置⁠:薬物の端のどちらかが抗体の側を向くと、その端が本来つかむ相手に届きません。
  • 切れたあとに残る断片⁠:リンカーが切れても薬物の側に断片が残り、それが結合を妨げれば、どれほど効率よくつないでも分解は起きません。

そのため、載せる前の薬物で測った分解活性が、載せて放たれたあとにも残っているかを、先に実験で確かめます。どの結合点なら活性が残るかを計算で当てる方法は、まだありません。

結合の化学そのものはADCのものが使えます。トラスツズマブにBRD4というタンパク質を分解するPROTACをつないだ2020年の報告では、抗体の鎖の間のジスルフィド結合を架け直す試薬と、薬物側のアジド基を使うクリック反応でつなぎ、抗体1分子あたり4個を質量分析(LC-MS)分子の質量を精密に測る分析。液体クロマトと組み合わせ、ポリAテール長などを詳しく解析します。で確かめています(部位特異的コンジュゲーション)。細胞内のリソソーム細胞内で不要なタンパク質などを分解する小器官。取り込まれた抗体の多くが最終的にここへ運ばれる。詳しく →で切れて活性のあるPROTACが放たれる設計で、BRD4の分解は、細胞の表面にHER2という受容体を出している細胞でだけ起きました。

薬物の側を作り直す動きもあります。Genentechの研究グループは、抗体・リンカー・搭載数・薬物の分子の性質を変数として振った報告を出し、続く報告では、標的に結合する部分をより強い断片に替えた薬物で、抗原に依存した分解とマウスでの抗腫瘍効果を示しました。載せることを前提に、薬物の設計から見直しています。

このように、結合点は抗体の都合ではなく、切れたあとの薬物が両端で結合できるかで決まります。工程開発の計画には、結合点を変えたときに何を測り直すかを先に書いておきます。

3. では、DARはどこまで上げられるのか

DARの上限は、カタログの値ではなく、自社の薬物で凝集が立ち上がる手前に置きます。 疎水性の高い薬物を多く載せるほど、抗体どうしが会合しやすくなり、血中からも速く消えるからです。

ADCでは2004年に、抗CD30抗体にMMAE(モノメチルアウリスタチンE)を載せた複合体で、DAR 8がDAR 4の3倍の速さで血中から消えたと実測されています(ADCのコンジュゲーションとDAR)。分解誘導薬は、ADCで広く使われるメルタンシン(DM1)の分子量が約738であるのに対し、BETという一群のタンパク質を分解するGNE-987は供給元の表示で約1,100あります。載せた段階で、凝集しやすい側へ寄っていると考えるのが安全です。

低いDARを積極的に選ぶ案も出ています。Prelude Therapeuticsの学会資料は、分解誘導薬を載せる利点として、高い力価と低いDARを挙げています。企業の資料なので割り引いて読む必要はありますが、標的を分解したあとに離れて次の標的へ働ける薬物なら、少ない数で足りる可能性があります。

ただし、低く置けば代償も出ます。同じモル数の薬物を届けるなら、DAR 2はDAR 4の2倍の抗体が要り、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の量が倍になれば培養と精製の規模も原価も動きます。

公開されたDACのデータには、どちらがよいかを決められるだけの数が揃っていません。そこで実務では、低いDARから始め、載せる数を一段上げるごとに2つを取り直します。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で見る高分子量種(HMW、抗体どうしが会合した塊)と、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)高塩条件で疎水性の違いを利用して結合・分離する方式。凝集体や疎水性の高い変性体を分ける。詳しく →で見るDARの分布です。

どこで凝集が立ち上がるかは薬物ごとに違います。先に線を引くより、上げながら見ます。

4. 精製と保管では、何を確かめるのか

反応後に残る疎水性の強いDAR種と凝集体は、HIC(疎水性相互作用クロマトグラフィー分子表面の疎水性の強さで分離するクロマトグラフィー。疎水性の評価や精製に使う。)の担体カラムに充填する多孔質ビーズ。表面のリガンドと成分の相互作用差で目的物と不純物を分離する。詳しく →で取り分けます。 分取用の担体には、疎水性の強い種をおだやかな条件で分けられるとされるものがありますが、いずれもADCでの用途で、DACでの使用実績は確認できませんでした。

条件は組み直す前提で見積もります。保持の強い薬物では、ADCで使ってきた塩と有機溶媒の勾配がそのまま通るとは限りません。有機溶媒の比率は、水に溶けにくい薬物ほど上げたくなりますが、上げるほど抗体は変性しやすく、取り分けた画分で凝集が増えることもあります。

そのため、回収率と凝集は同じ実験で見ます。別々に測ると、収率が合わない理由を後から説明できません。

POINT

委託先には、ADCを何本回したかより、分子量が大きく疎水的な薬物で勾配を組み直した経験があるかを聞きます。条件を外したときに何を見て戻したかを答えられるかが、担体の在庫や装置の台数より効きます。

結合とDARが決まったら、その状態が保たれるかを見ます。保管の温度と期間を振って、次の3つのどれが先に動くかを押さえます。

  • 遊離薬物⁠:抗体に結合していない薬物が増えていないかを測ります。
  • DARの分布⁠:HICで見る分布が、保管の前後で動いていないかを比べます。
  • 凝集⁠:SEC分子を天然に近い条件でサイズにより分ける液体クロマトグラフィー。凝集体の主要な定量法。詳しく →で見る高分子量種が増えていないかを追います。

強制分解あえて過酷な条件をかけて分解を前倒しで進め、弱点や変化しやすい箇所を調べる試験。詳しく →(苛酷)試験では、薬物の側の分解が抗体より先に出るかも確かめます(強制分解(苛酷)試験とは?)。薬物側が先に崩れるなら、規格は遊離薬物の側で決まります。

つまり、精製と保管で見る項目はADCと同じで、通る条件の幅だけが狭くなります。

5. 自分の案件では、何から確かめるのか

案件を受けるときも、委託先を選ぶときも、薬物の正体から順に埋めます。 次の5つを、この順で確かめます。

  1. 載せる薬物の正体を聞く⁠:標的と酵素の両方に結合する分解誘導薬(PROTAC)か分子糊か、分子量と水への溶解度、リンカーが切れたあとに薬物へ残る断片、取り扱いの封じ込めの区分を押さえます(ADCのペイロード・リンカー供給)。ここが埋まらないと、反応の溶媒も担体の候補も決まりません。
  2. 結合の方式と結合点を決める⁠:切れたあとの薬物で分解活性が戻るかを、載せる前の活性と比べて実験で押さえます。
  3. DAR(抗体1分子あたりの平均の薬物数)の目標を置く⁠:低い値から始め、一段上げるごとに、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)多孔性樹脂の孔に小分子ほど入り込む時間差を利用し、分子をサイズで分けるクロマトグラフィー。詳しく →で凝集体を、疎水性相互作用クロマトグラフィー固定相と移動相の間での物質の相互作用(分配・吸着・イオン交換など)の差を利用して、混合物中の成分を分離・精製する操作の総称。詳しく →(HIC)で分布を取り直します。
  4. 精製の条件を組み直す⁠:疎水性の強い種と凝集体をどこで落とすか、塩と有機溶媒の比率を自社の薬物で決め、回収率と凝集を同じ実験で見ます。
  5. 保管中の変化を追う⁠:遊離薬物、DARの分布、凝集の3つを、温度と期間を振って測ります。測り方そのものはDACの分析にまとめました。

どれも、薬物が働ける状態で抗体に載っているかを確かめるための項目です。第1相向けの原薬なら、分解誘導薬を載せた抗体(DAC)の専用ラインを新たに組むより、既存の抗体薬物複合体(ADC)抗体に細胞傷害性の薬物(ペイロード)を結合させた医薬。標的へ薬物を運んで作用させる。のラインと分析で適格性確認(qualification)の水準まで押さえ、DARの目標と規格が固まってからバリデーションへ進む組み立てが取りやすくなります。

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  • 5. 自分の案件では、何から確かめるのか

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参考文献

  • Dragovich PS. Degrader-antibody conjugates, Chem Soc Rev. 2022;51:3886-3897. doi:10.1039/D2CS00141A
  • Dragovich PS, et al. Antibody-Mediated Delivery of Chimeric BRD4 Degraders. Part 1: Exploration of Antibody Linker, Payload Loading, and Payload Molecular Properties, J Med Chem. 2021. doi:10.1021/acs.jmedchem.0c01845(第2報は J Med Chem. 2021;64:2576-2607。標的結合部分をより強い断片に替えた薬物での、抗原依存的な分解とマウスでの抗腫瘍効果)
  • Maneiro et al. Antibody-PROTAC Conjugates Enable HER2-Dependent Targeted Protein Degradation of BRD4, ACS Chem Biol. 2020;15(6):1306-1312(ジスルフィドの再架橋とクリック反応、LC-MS液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく →で確かめた抗体1分子あたり4個、HER2陽性の細胞でだけ起きた分解)
  • Hamblett KJ, et al. Effects of Drug Loading on the Antitumor Activity of a Monoclonal Antibody Drug Conjugate, Clin Cancer Res. 2004;10(20):7063-7070(DAR 2/4/8 の比較、DAR 8 は DAR 4 の 3倍 の速さで消失)
  • Pillow, Dragovich, et al. Antibody Conjugation of a Chimeric BET Degrader Enables in vivo Activity, ChemMedChem. 2020. doi:10.1002/cmdc.201900497(GNE-987 の抗体への結合)
  • MedChemExpress, GNE-987(分子量の記載は供給元の資料)
  • Prelude Therapeutics, AACR 2026 Education Session(企業資料)(高い力価と低いDARを利点に挙げている)
  • ICH Q11原薬の開発・製造を扱い、原薬側の管理戦略の作り込みを示すICHのガイドライン。詳しく →, Development and Manufacture of Drug Substances

次に、何を調べますか?

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このシリーズの最後の記事です。ほかの主題のシリーズも、入門の記事から順に読めます。シリーズの一覧へ →
  1. 1ADC(抗体薬物複合体)とは?なぜ抗体に薬物をつなぐのか
  2. 2DAC(分解誘導薬を載せた抗体)とは?ADCとの違いをやさしく
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  4. 4標的化LNPとは?なぜ抗体を付けると届け先が変わるのか
  5. 5AOC(抗体-オリゴ核酸複合体)とは?ADCと同じ形なのに、同じようにいかないのはなぜか
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この記事の目次
  1. 1. DACのコンジュゲーションとDARとは、何を決めることなのか→
  2. 2. なぜ、DARの目標から先に決められないのか→
  3. 3. では、DARはどこまで上げられるのか→
  4. 4. 精製と保管では、何を確かめるのか→
  5. 5. 自分の案件では、何から確かめるのか→
  6. 参考文献→
シリーズ6 / 6
抗体で薬を届ける新しい形
  1. 1ADC(抗体薬物複合体)とは?なぜ抗体に薬物をつなぐのか
  2. 2DAC(分解誘導薬を載せた抗体)とは?ADCとの違いをやさしく
  3. 3デュアルペイロードADCとは?2種類の薬を載せる理由
  4. 4標的化LNPとは?なぜ抗体を付けると届け先が変わるのか
  5. 5AOC(抗体-オリゴ核酸複合体)とは?ADCと同じ形なのに、同じようにいかないのはなぜか
  6. 6DACのコンジュゲーションとDARとは?なぜ結合点を先に決めるのか
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この記事の目次
  1. 1. DACのコンジュゲーションとDARとは、何を決めることなのか→
  2. 2. なぜ、DARの目標から先に決められないのか→
  3. 3. では、DARはどこまで上げられるのか→
  4. 4. 精製と保管では、何を確かめるのか→
  5. 5. 自分の案件では、何から確かめるのか→
  6. 参考文献→
シリーズ6 / 6
抗体で薬を届ける新しい形
  1. 1ADC(抗体薬物複合体)とは?なぜ抗体に薬物をつなぐのか
  2. 2DAC(分解誘導薬を載せた抗体)とは?ADCとの違いをやさしく
  3. 3デュアルペイロードADCとは?2種類の薬を載せる理由
  4. 4標的化LNPとは?なぜ抗体を付けると届け先が変わるのか
  5. 5AOC(抗体-オリゴ核酸複合体)とは?ADCと同じ形なのに、同じようにいかないのはなぜか
  6. 6DACのコンジュゲーションとDARとは?なぜ結合点を先に決めるのか
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編集メモ:この記事は Proglenth 編集部が、規制文書・論文・メーカーの公開資料をもとに整理した一般的な解説です。実際の製造方法・管理戦略・品質基準は、製品や企業、各国の規制によって異なり、特定製品の推奨や規制・医療上の助言ではありません。実務で判断するときは、薬局方・ガイドライン(ICH・GMP など)やメーカーの一次情報を確かめてください。誤りやご指摘はお問い合わせからお知らせください。

Proglenth(proglenth.com) https://www.proglenth.com/article/dac-conjugation-dar

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