DACのコンジュゲーションとDARとは?なぜ結合点を先に決めるのか

DACのコンジュゲーション抗体の官能基と薬物リンカーを化学結合させ、DARを狙いどおりに作り込むADC製造の中心工程。詳しく →とDAR(抗体1分子あたりの平均の薬物数)は、タンパク質を分解する薬を抗体のどこにつなぎ、何個つなぐかを決める項目です。DAC(degrader-antibody conjugate、分解誘導薬を載せた抗体)はADC(抗体薬物複合体標的を選ぶ抗体に、細胞傷害性の薬物(ペイロード)をリンカーでつないだ分子。詳しく →)の設備で作れるため、製法を組む人の問いは、この2つの決め方に集まります。
ただし、ADCで慣れた順番は通りません。載せる数の目標から入ると、放たれた薬物が働かない結合点を選んでいたことに、あとから気づく場合があります。
この記事では、結合点とDAR抗体薬物複合体(ADC)で、抗体1分子に結合した薬物の平均数です。効果と安全性を左右するため測定する指標です。詳しく →が何を決める項目なのか、なぜDARより結合点が先に来るのか、DARはどこまで上げられるのか、自分の案件では何から確かめるのかを順に説明します。
- DACのコンジュゲーションで決めること:抗体のどこにつなぐか(結合点)と、1分子あたり平均何個つなぐか(DAR)の2つです。
- なぜ結合点が先か:分解誘導薬は両端で2つの相手に結合して働くため、つなぐ位置によっては活性を失います。
- DARはどこまで上げるか:薬物が大きく水に溶けにくいほど抗体どうしが会合しやすく、凝集が立ち上がる手前に目標を置きます。
1. DACのコンジュゲーションとDARとは、何を決めることなのか
DACの結合工程で決めるのは、抗体のどこに薬物をつなぐか(結合点)と、抗体1分子あたり平均何個つなぐか(DAR、drug-to-antibody ratio)の2つです。
ADCと違うのは、載せる薬の働き方です。ADCに載せる薬は細胞の中で標的に結合し、その細胞を殺します。DACに載せる薬は標的のタンパク質に目印を付けさせ、細胞が持つ分解の仕組みにそれを壊させます。
この働き方を担うのがPROTAC(proteolysis targeting chimera)で、標的タンパク質に結合する部分と、分解の目印を付ける酵素に結合する部分を、リンカーADCで抗体とペイロードをつなぐ部分。両者の結合や体内での薬物放出の性質を左右する。詳しく →でつないだ分子です。2つの結合部分を1つの分子に収めるため、ADCに載せる薬より分子量が大きく、水にも溶けにくくなります。

つまり、ADCから入れ替わるのは設備ではなく、2つの項目のどちらを先に固定するかです。
2. なぜ、DARの目標から先に決められないのか
つないだ位置によっては、放たれた薬物が標的と酵素の両方をつかめず、分解が起きないからです。 ADCの薬は標的に結合すれば働くので、つなぐ位置は抗体の側の都合だけで選べました。
DACでは、見る項目が2つ増えます。
- つないだ位置:薬物の端のどちらかが抗体の側を向くと、その端が本来つかむ相手に届きません。
- 切れたあとに残る断片:リンカーが切れても薬物の側に断片が残り、それが結合を妨げれば、どれほど効率よくつないでも分解は起きません。
そのため、載せる前の薬物で測った分解活性が、載せて放たれたあとにも残っているかを、先に実験で確かめます。どの結合点なら活性が残るかを計算で当てる方法は、まだありません。
結合の化学そのものはADCのものが使えます。トラスツズマブにBRD4というタンパク質を分解するPROTACをつないだ2020年の報告では、抗体の鎖の間のジスルフィド結合を架け直す試薬と、薬物側のアジド基を使うクリック反応でつなぎ、抗体1分子あたり4個を質量分析(LC-MS)分子の質量を精密に測る分析。液体クロマトと組み合わせ、ポリAテール長などを詳しく解析します。で確かめています(部位特異的コンジュゲーション)。細胞内のリソソーム細胞内で不要なタンパク質などを分解する小器官。取り込まれた抗体の多くが最終的にここへ運ばれる。詳しく →で切れて活性のあるPROTACが放たれる設計で、BRD4の分解は、細胞の表面にHER2という受容体を出している細胞でだけ起きました。
薬物の側を作り直す動きもあります。Genentechの研究グループは、抗体・リンカー・搭載数・薬物の分子の性質を変数として振った報告を出し、続く報告では、標的に結合する部分をより強い断片に替えた薬物で、抗原に依存した分解とマウスでの抗腫瘍効果を示しました。載せることを前提に、薬物の設計から見直しています。
このように、結合点は抗体の都合ではなく、切れたあとの薬物が両端で結合できるかで決まります。工程開発の計画には、結合点を変えたときに何を測り直すかを先に書いておきます。
3. では、DARはどこまで上げられるのか
DARの上限は、カタログの値ではなく、自社の薬物で凝集が立ち上がる手前に置きます。 疎水性の高い薬物を多く載せるほど、抗体どうしが会合しやすくなり、血中からも速く消えるからです。
ADCでは2004年に、抗CD30抗体にMMAE(モノメチルアウリスタチンE)を載せた複合体で、DAR 8がDAR 4の3倍の速さで血中から消えたと実測されています(ADCのコンジュゲーションとDAR)。分解誘導薬は、ADCで広く使われるメルタンシン(DM1)の分子量が約738であるのに対し、BETという一群のタンパク質を分解するGNE-987は供給元の表示で約1,100あります。載せた段階で、凝集しやすい側へ寄っていると考えるのが安全です。
低いDARを積極的に選ぶ案も出ています。Prelude Therapeuticsの学会資料は、分解誘導薬を載せる利点として、高い力価と低いDARを挙げています。企業の資料なので割り引いて読む必要はありますが、標的を分解したあとに離れて次の標的へ働ける薬物なら、少ない数で足りる可能性があります。
ただし、低く置けば代償も出ます。同じモル数の薬物を届けるなら、DAR 2はDAR 4の2倍の抗体が要り、原薬原薬。精製を終えた有効成分そのもので、製剤化する前の段階を指す。詳しく →の量が倍になれば培養と精製の規模も原価も動きます。
公開されたDACのデータには、どちらがよいかを決められるだけの数が揃っていません。そこで実務では、低いDARから始め、載せる数を一段上げるごとに2つを取り直します。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で見る高分子量種(HMW、抗体どうしが会合した塊)と、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)高塩条件で疎水性の違いを利用して結合・分離する方式。凝集体や疎水性の高い変性体を分ける。詳しく →で見るDARの分布です。
どこで凝集が立ち上がるかは薬物ごとに違います。先に線を引くより、上げながら見ます。
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ほかの会員向けの記事を見る →参考文献
- Dragovich PS. Degrader-antibody conjugates, Chem Soc Rev. 2022;51:3886-3897. doi:10.1039/D2CS00141A
- Dragovich PS, et al. Antibody-Mediated Delivery of Chimeric BRD4 Degraders. Part 1: Exploration of Antibody Linker, Payload Loading, and Payload Molecular Properties, J Med Chem. 2021. doi:10.1021/acs.jmedchem.0c01845(第2報は J Med Chem. 2021;64:2576-2607。標的結合部分をより強い断片に替えた薬物での、抗原依存的な分解とマウスでの抗腫瘍効果)
- Maneiro et al. Antibody-PROTAC Conjugates Enable HER2-Dependent Targeted Protein Degradation of BRD4, ACS Chem Biol. 2020;15(6):1306-1312(ジスルフィドの再架橋とクリック反応、LC-MS液体クロマトグラフで成分を分離したうえで質量分析計にかけ、分子量を測って物質の同定や定量を行う手法です。詳しく →で確かめた抗体1分子あたり4個、HER2陽性の細胞でだけ起きた分解)
- Hamblett KJ, et al. Effects of Drug Loading on the Antitumor Activity of a Monoclonal Antibody Drug Conjugate, Clin Cancer Res. 2004;10(20):7063-7070(DAR 2/4/8 の比較、DAR 8 は DAR 4 の 3倍 の速さで消失)
- Pillow, Dragovich, et al. Antibody Conjugation of a Chimeric BET Degrader Enables in vivo Activity, ChemMedChem. 2020. doi:10.1002/cmdc.201900497(GNE-987 の抗体への結合)
- MedChemExpress, GNE-987(分子量の記載は供給元の資料)
- Prelude Therapeutics, AACR 2026 Education Session(企業資料)(高い力価と低いDARを利点に挙げている)
- ICH Q11原薬の開発・製造を扱い、原薬側の管理戦略の作り込みを示すICHのガイドライン。詳しく →, Development and Manufacture of Drug Substances
次に、何を調べますか?
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- 2DAC(分解誘導薬を載せた抗体)とは?ADCとの違いをやさしく
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